我が名はティア・ブランドー   作:腐った蜜柑

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END後の少し綺麗なティアのままでいたい場合は読むのを控えてください。
感動ぶち壊すな! あの良い台詞は何だったんだ! と、言われても本人(ティア)に文句を言ってください。

……いや、だってキャラの性格を重視して、この人ならこう動くだろうなーと動かしてるもので、予想以上に今回は外道というか、ここから先は更に非道になるというか。。。


それでも良いのであれば、ぜひ読んでくださいなー。

追記:予約投稿なるものを試す意味でも、翌日の6時に設定しました。


IF:炎の中で  【閲覧注意】

 屋敷の中で燃え盛る炎と黒煙に視界を遮られながらも、私は細く燃えていない道を駆けて行く。

 すぐに目の前にディオが現れた。 全身を炎で焼かれ、女神像に腹部を大きく貫かれた姿で。

 

「ぬ……抜いているひまがッ! 炎がァ炎が俺を焼いていくゥ!!」

 

「ディオッ! 今、水をかけるわ!」

 

 木桶に入った水を迷わずディオにかける。 私に気づいたディオが驚きに目を見開きつつも、体に纏わりついた炎が鎮火し、激しく焼かれた後の無残な黒い肌を晒した。

 続いてディオが大きく自分を貫いた女神像を引き抜こうと、力を込めるのだがボロボロに焼けた全身では力が入らないのか悶えるだけだ。

 ディオが私の方へ必死な思いで目を向けてくる。

 

「ね、姉さんッ! 助けてくれ、抜けないんだ! 力を貸してくれ!」

 

 涙ながらに訴えてくる我が弟。

 私は薄くほほ笑んだ。

 この弟と十数年過ごしてきた。 だからこそ、その言葉の意味が理解できるからだ。

 

「貴方でも抜けないの? それじゃあ、私でも無理ね。 血を吸われたくないもの」

 

「ッ!? ま、まさか。 実の弟を見捨てるつもりじゃないよな?」

 

 化物は人の血を糧とし、力とする。 私達はそれを知っている、故にディオの行動も容易く読める。

 もはや情に訴えるしかないのかと、無様な姿のディオを冷やかに見つめる。

 そして、最大限の慈愛の笑みをディオへと向けた。

 

「ごめんなさい。 私、自分を愛してるの。 犠牲にはできないわ!」

 

 そう答えると身を翻し、元来た道を急いで帰る。

 

「ティィィアアァァァ! 貴様ァァァァ!」

 

 後ろから聞こえる怨嗟の声に思うこともないことはないが、私を犠牲にしてまで助ける気などない。

 ディオだってそうだろう。 つまり、お互い様というやつだ!

 

(ふふふ、私は生き延びて幸福になってみせる! こんな逆境が何よ、たやすく超えてみせるわ!)

 

 どこかで綺麗な光景になるはずだったものをブチ壊される音が聞こえる気がするが、気のせいだろう。

 私は崩れ落ちる館を尻目に窓から抜け出ると、急いで身を隠すためにも林の中へ逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの屋敷の事件から3日が経った夕方、私は優雅に紅茶を楽しんでいた。

 今、この場所はとある女性の家であり、私は匿われている状態だ。

 そう、林の中に逃げ込む私を見つけ、追いかけてきたメアリーの家だ。

 

「ねえ、メアリー。 私、貴方のような素敵な友人を持てて幸せだわ!」

 

「唐突に何でしょうか、白々しい」

 

「あ、あら……何ていうか、初日から私に対する言葉に棘があるような気がするのだけれど」

 

「ええ、左耳を撃たれましたからね。 恨まない訳がないでしょう。 それに、私がティア様と従者ではなく、人として接していればあのようなことは起きなかったかもしれません。 ですので、この態度で応対させてもらいます!」

 

 メアリーは私がやむを得ず置いてきた、大切な物を詰め込んだ鞄を持っていたのだ。

 私の姿を見た目撃者はメアリーだけらしく、私はあの屋敷の炎で焼け死んだと思われているらしい。

 それは好都合だ、つまり私を知っているのはメアリーのみ。 彼女には初日から屋敷の近くにある、彼女の小さな自宅にて一緒に過ごしてもらっている。

 この3日間、家にあるものだけで過ごしてきたのだ。 彼女を監視する為とほとぼりが冷めるまで隠れるためだ。

 

(……心酔しているという訳でもない、私を匿うのは義理? それともくだらない人情という奴?)

 

 ジッと不満気に見つめていると思えば、私が紅茶を淹れてと頼むと素直に淹れてくれる。

 左耳に包帯を巻いた彼女の意図が読み取れないが、今の所は不穏な動きもなく、私に対して不利益がないので捨て置いていいだろう。

 

 そして今、3日という時間が経った今ならば、そろそろ向かってもいいだろう。

 

「メアリー。 私、少し出かけてくるわ。 私が帰ってくるまでの間、外には一歩も出ないこと、いいわね?」

 

「あ、ティア様。 その、今日は大事な用事がありまして、今回だけ少しの間、外出をさせて頂ければと」

 

「駄目、約束よ? 私の可愛いメアリー。 それじゃあ、急ぐから出るわね」

 

 一方的に話を打ち切り、何か言いたげなメアリーを余所に玄関の扉を開けて外へと出る。

 閉める間際、玄関の仕掛けを確認すると私は一目散にある物を取りに屋敷へと向かった。

 そう、人に超人的な力を与える仮面。 血を吸う化物、吸血鬼に変える石仮面だ。

 

 

 

 

 

 

 私が夜も更けた頃にジョースター邸の跡地へと到着するとすでに先客がおり、何かを探していた。

 瓦礫の中に隠れつつ暗闇の中、目を凝らして見ると私達に毒の秘薬を売り、ジョジョに掴まっていたあのアジア人だ。

 騒ぎのどさくさに紛れて逃げ出したのだろうが都合が良い。 瓦礫の中、土塗れになりながら探すなど私の性に合わない。

 

「ウウウヘェッヘェッ! あったあるね。 3日前のジョースター邸での惨事にはほんと驚いたね」

 

 瓦礫を退かした時、見つかったのだろう。 あの仮面が。

 私は口元を歪め、胸元から取り出した拳銃を静かに構える。 警官から奪った後に2発使ったが、後4発残っている。

 私の役に立ったが、捕まったのは痛手だ。 貴様のせいで追い詰められたのだから、しっかりと責任を取ってもらおう。

 

 私は男が仮面を手に取った瞬間に狙いをつけ、引金を引こうとしたその時……瓦礫の中から現れた腕が男の手を掴み、指を突き刺した。

 

「ぎゃあああス!!」

 

 

 悲鳴を上げる男がどんどん干からびたミイラのようになっていく。

 その光景に私は見覚えがある、そして実行した人物に心当たりがあるために急いで身を隠した。

 

「う、う……ジョジョ……よくも、よくもあんなカスがこのディオに」

 

(まずいわね。 まさか、あの猛火の中を生き延びるなんて)

 

 瓦礫の中から現れたのは全身を無残にも黒く焼かれたディオだった。 仮面の力は屋敷を燃やし尽くす程の猛火すら耐え切れるというのか。

 私が急ぎ瓦礫に身を隠し、このまま息を潜めるべきか、逃げるべきかと思案する。

 まず間違いなくディオは見捨てた私を恨んでいる。 故に確実に殺しに来るだろう。

 ならば、ここにいてもまずい。 私が足音を立てずに慎重に足を運び、逃げ出そうとしたその時。

 

「ほほぅ、呼吸音が聞こえるので来てみれば愛しの姉、ティアではないか、えぇ?」

 

「あ、あら。 ディオも生きてたのね、嬉しいわ。 私もッ!?」

 

 気がつけばいつのまに移動したのか、黒焦げになり異臭を漂わせるディオが私の隠れる瓦礫の上に立っていた。

 焦りつつも言い訳を述べ、その手に持つ銃を構えようとした瞬間、ディオが目にも止まらぬ速さで銃を叩き落とし、私の首を左手で掴むと宙釣りにした。

 

「憎たらしいジョジョにも会いたかったが……それと同様に貴様にも会いたかったぞティアッ!」

 

「かふっ、や、止めて。 殺さない、で。 ディオ。 貴方だって私の立場なら……」

 

 ポロポロと涙を流し、必死に命乞いをする。

 こんな所で、こんな何も無い所で死にたくなどない。

 しかし、獰猛な紅い瞳が私を映す。 タダでは帰さないと。

 

「俺は一刻も早く体の治療をしなければならない。 血が必要だ、特に若い女の血がなぁ!」

 

 ズブリと私の首筋に指が突き立てられる。

 その時、私が脅えながらディオの顔を見つめているのとは別に、手は全く逆の動きをしていた。

 袖に隠し持っていた大型ナイフで服を切り裂きながら出すと、そのままの勢いでディオの顎目掛けて降り上げる。

 

(馬鹿め! 貴様の頭部が弱点なのは知っている。 顎ごと貫かれ、脳髄をぶちまけるがいい!)

 

 だが、絶対的優位を確信したディオの笑みが崩れることはなかった。

 私が振り上げた刃を右手で掴んだのだ。 アッサリと根元からへし折れたナイフに、私は全ての望みを失った。

 

「ほほぅ、さすがは俺の姉だ。 なかなかの名演技じゃぁないか。 ……それでこそ、俺の手足となるにふさわしい!」

 

 私が絶望に心が満たされ、全身から全ての力を抜いていると唐突に何かを被せられ、視界が遮られた。

 この無骨で硬い感触。 まさか!?

 

「橋での借りもあることだしなぁ~。 それに、俺が姉さんの立場なら俺も見捨てただろう……それでも許せんものは許せんものだ、なぁ? ティア・ブランドー!」

 

「や、止めなさい! 私は化物になる気なんてないわ!!」

 

「そうだろう。 姉さんは強大な力を得るより、太陽の元を歩けない事の方が重要だもんなぁ。 日陰で暮らすことを何より嫌う姉さんならなぁ!!」

 

 一生、太陽の元を歩けない生活。

 そんなこと、想像したくもない。 私は栄光を掴む者、いついかなる時でも光で照らされ、周囲の羨望と欲望を支配する女だ! だというのに、蝙蝠のような生活を私にしろというのか!

 私が必死に力を込め、逃げ出そうとするもまるで万力のような力で締め付けられる。

 

「これで少しはスッとする。 人間を超越する力を手に入れるがいいッ! この俺の血でなぁ―――ッ!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

 私が悲鳴をあげると同時に頭に鋭い痛みが幾つも走る。

 ゴリゴリと不快な音が耳に鳴り響き、私を造りかえる音と衝撃が全身を駆け廻る。

 

 数秒か、数分か、数時間か。 まるで長い時間、仮面を被っているようだ。

 被された時と同様に唐突に仮面が外される。

 気分としては最高の一言。 体の内から止め処なく溢れる力強さに歓喜の声さえ上げてしまいそうだ。

 

「ふっふっふ。 最高の気分だろう? 力を与えたのだ、このディオに力を貸すのが道理ッ」

 

 そんな最高の気分も黒焦げになりながらも笑う男によって一気に冷めた。 故にその頬を思いっきり叩くと、男がまるで紙切れのように宙を飛んでいく。

 

「うげぁぁぁぁぁ―――ッ! な、何をするッ!」

 

「お前、私に何をした? えぇ? このビチグソがぁ――――ッ! タダで済むと思うなよッ!」

 

 瓦礫の山にぶつかり、悲鳴をあげるディオへと私は大股で近づく。

 レディーの作法? 女性としての嗜みぃ? そんなものは今はどうでもいい! 誰も見ていない、ならば感情のまま動いてもよかろう。

 

「力を与えれば調子に乗りおって! 舐めるなよ、KUA!」

 

 こめかみがピクピクと痙攣する。 舐めているのはどちらだ。

 大振りに左足を私の顔面目掛けて降り降ろす、こんな攻撃で私を仕留められるとでも思うのか!

 合わせるように私は左拳を握りしめ、全体重をかけて振り上られた足の膝へとブチ当てる。 ミシミシと不快な音と共にディオの膝が砕け、崩れ落ちるように体勢を崩した。

 猛火で体が弱っていたか? 骨にヒビでも入っていたのか? それにしても軟弱すぎる。

 

 苦悶の表情を浮かべるディオの首を左手で掴むと持ち上げる。

 さっきとは逆の光景だが、私は容赦しない。 全力でディオの頬へと右手でビンタを繰り出す。

 

「このド畜生が……思い知れ! どうだ! 思い知れッ! どうだァ―――ッ!! 」

 

 パンパン、などと生易しい音ではない。 バンバンとまるで鉄板で人間の顔を全力で叩いているかのような音だ。

 

「き、ぐっ、や、めっ!」

 

 奇妙な声をあげるディオの顔が変形し、首から骨がミシミシと悲鳴をあげる音もする。

 だが私は攻撃など止めない、貴様が! 死ぬまでッ! 攻撃を止めないッ!。

 

 

 

 

 

 

 

 やはり、私は大切な弟を殺めることなどできない。

 決して叩いている内に頬が抉れ、全ての歯がへし折れて首も変な方向に曲がっているディオを哀れに思ってではないのだ。

 

「こ、殺してやる。 か、体を癒せば必ず」

 

「……あぁ? 今、何か言いましてェ?」

 

「な、何でもないよ、姉さん。 ほら、ひとまずこのワンチェンに俺を運ばせて移動しようじゃないか」

 

「URRY…」

 

 歯が再び生え揃った物騒なことを言う弟に対して、優しく睨みつけてやると脅えたように人に媚びるような笑顔を浮かべた。

 そのことに満足し、隣で顔を異常に青ざめさせたワンチェンの方へと目を向けた。

 ワンチェンというのは先程、ディオに血を吸われて死亡したアジア人のことだ。

 死亡したと思われたが、ディオが言うには我々吸血鬼の体液(エキス)を血を吸った者、及び死者に注入すると蘇らせる力を持つとのことだ。

 この者達を便宜上、屍生人(ゾンビ)と呼ぶことにする。

 屍生人(ゾンビ)は自身を蘇らせた者に従う性質があるのか、ディオの言うことをよく聞いている。

 まだまだこの体は未知の能力を秘めている、そう感じる程に私は全身から漲る力強さに歓喜していた。

 

 太陽の元を歩けないことは残念だ。

 だが、嬉しいこともある。 私はその嬉しさの元へ近寄ると、そっと頭を膝に乗せて見据える。

 

「……本当に、貴方が生きていてくれて嬉しいわ。 見捨てたけど、これは本当よ?」

 

「ふんッ! 口ではどうとでも言える! それならば態度で、行動で示せッ」

 

 偉そうに口を尖らせ、ふてくされる弟の頭を撫でる。

 あぁ、本当に生きててくれて良かった。 私は自分自身が大事、それは本当だ。 ……次いで、私の弟と宝石と美女と美食が大事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は夜が明ける前、ロンドンへとディオと共にやってきたが途中で別れた。

 メアリーに礼と別れの言葉を述べる為だ。

 

(あの娘も役に立ってくれたことだし、後で何か褒美でも持っていこうかしら)

 

 最後まで目的が分からなかった。

 もしかしたら本当に、私を想って匿ってくれたのかもしれない。 そう考えると少し嬉しく思う。

 

 

 

 

 だが、私の上機嫌はメアリーの家の前に来ると失われた。

 続いて、怒りに身を震わせると強引にその扉を開ける。

 中からパジャマ姿のメアリーが驚いた様子で現れ、次いで私の姿を見て驚いた。

 

「ティ、ティア様! まさか、そんな。 その目は!」

 

 何を驚いているのかと近くにあった鏡へと顔を映す。

 目は血に塗れたような深紅の瞳。 あぁ、そういえばディオも金の瞳が紅くなっていた。 吸血鬼になれば目の色が変わるのか。

 私がそう感じつつも静かにメアリーを冷たい感情で捉えた。

 メアリーも何かを感じ取ったのだろう。 私が化物に変わり、私が貴方に対して怒りを覚えていることを。

 

「……私、言ったわよね? 外に出るなと。 私を裏切った代償は払って貰うわよ」

 

 警察にでも通報したか、どこかへ逃げようとしたか、そんなことはどうでもいい。

 私はこの家の窓、扉と外へ繋がる道に小さな紙を挟んでいたのだ。 それを私が玄関へ来てみればすでに小さな白い紙は落ちていた。

 メアリーにはきつく誰かが来ても応対せず、外にも出るなと言いつけたのにだ。

 

 顔を青ざめさせるメアリーの元へ一気に詰め寄る。

 両肩を砕けんばかりに掴み、その首筋へと牙を突き立てた。

 

「あっ、ぐっ! 私は、常にティア様を想って……」

 

 戯言を言うメアリーの声が小さくなっていく。

 

(満たされる……熱いものが私の体を満たす。 これが人の命の味か!)

 

 この世のモノとは思えない程に血は熱く、その濃い味が私の全てを魅了する。

 指で吸血も行えると聞いたが、そんな勿体ないことができるものか。

 私は段々と干からびていくメアリーなど気にせず、若い女の命の味を貪り尽くした。

 全ては己の欲望を満たす為に。

 




サブタイトルに【私は人間を止めさせられたぞ、ジョジョ――ッ!】と悩んだけど、モロバレになるから没。


1部のラストまでの話は大体思いつけたし、見せ場も一応思いついたので続きを書き始めました。

今までのは大本を書いてて、少し追加や修正を加える程度だったけど、ここからは一から書くのか……変にならないか不安だ。

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