我が名はティア・ブランドー   作:腐った蜜柑

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ここら辺は流れで書いたけども、何じゃこりゃと書いてて思う所が幾つか。。。



あ、地味にというか一応GL表現が1文? だけ入っているのでご注意ください。


ディオの屈辱

 この屋敷に済みついてから1ヵ月程が経った頃、ジョジョの顔からは今まで笑顔が消えていた。

 ディオが上手くやっていたのだろう、それはもう愉快なくらいに顔を暗くして落ち込んでいたものだ。 今までは。

 

(何を食事中にニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべているのかしら? 食欲が失せるわ)

 

 私が音も立てずに目の前の鴨肉のソテーを口に運びながら、どこか上の空で腑抜けた笑顔を浮かべるジョジョに嫌悪感を覚えた。

 追い込まれすぎて可笑しくなったのか? いや、違う。

 あれは何か楽しみを見つけた時の幸福の笑顔だ。 それが意味する所はディオが全てを奪ったなどと豪語しているが、自身の幸福を探す気概まで奪っていなかったということになる。

 静かに私が弟を見つめると、視線に気がついたディオが悔しそうに顔を伏せた。

 聡いディオのことだ。 ジョジョの不自然な態度の答えをすでに見つけているだろう、もしも分かっていないのなら弟の評価を改めなければならない。

 

(さて、どうするべきか……中立の立場を保ってきたけれど、ジョジョよりもディオの方が優秀なのは明らか。 故に手を貸しても良い頃合かしら)

 

 操りやすいのはジョナサンの為そこはプラスになる、というのは心の中に収めておこう。

 

 

 

 

 食事の後、私の自室へとやって来たディオが何を言うでもなく腕を組んだ状態で無言のまま壁に寄り掛かっている。

 全く、素直に手を貸してください。 何か知っていることを教えてくださいとは言えないのだろうか?

 

「仕方がないわね。 最近、ジョジョに可愛らしい女の子が傍にいるみたいよ。 ……貴方、何をしているの?」

 

「っ、うるさいな。 姉さんは別に何も行動していないだろ。 すぐにまた奪ってやるさ」

 

 冷やかな視線を向けると眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに答えるディオ。

 なかなか可愛らしい所があるじゃないか、そう私が内心で微笑んでいると櫛を手に持ち、ディオを目の前の椅子へ招待する。

 不機嫌そうにしながらも、私の行動を察したのか素直に座る我が弟。

 

「希望というものはね、強ければ強い程に人間に力を与える。 ……それがたった一つでも、いえ、一つだからこそ非常に強く輝くのでしょうね。 故に失った際の絶望もまた強い、それこそドン底の暗闇へ落とす程にね」

 

 いつものように櫛で髪を整え、優しく頭を撫でる。

 遠回しにこれはチャンスでもあると言うと鼻を小さく鳴らし、すぐさま立ち上がると部屋を出て行く。

 弟がこれからどう行動するのか、少し興味が出た私はクスクスと笑い声を洩らしながらも弟の後を追った。

 

 

 

 

 さて、何と言えばいいのか。

 私の先程まで見ていた光景、それはジョジョと私の目から見ても美しいと感じる少女が川で戯れる姿だ。

 遠目に木の影から様子を覗き見るのは私とディオとその友人2人という男共。 何でしょう、楽しいことが起きると期待してきたというのにこれでは私が惨めな女のように感じるではありませんか。

 

「姉さん、狩人というのは獲物を追い詰める過程を楽しむもの。 今は狩り時ではないということさ」

 

「あら、私の考え事を読むほどに弟が成長したなんて感動しますわ。 それではしばしの間、待ちましょうか」

 

「へぇー、ディオに姉さんなんていたのか。 けっこう可愛い」

 

「そこの貴方、私が『けっこう』なんですの? 聞き間違いだと信じたいのですが……ねぇ?」

 

 私が目を細めると、無礼な言葉を発した男が震え上がり即座に『お美しい、お姉さまです!』と野太い返事が返ってきた。 顔だけでなく声まで醜いとは救い難い、故に私は即座に興味を失い視線を外した。

 

 

 

 

 空に夕焼けが差し掛かった頃、ようやくジョジョと戯れていたエリナという名前の少女が離れた。

 木に自分達の名前を彫るなどど気味の悪い……いえ、私も昔に近所の女の子と書いたのを思い出すと思考を止めた。

 一人帰路につく少女の前に木の影からゆっくりと姿を現し、立ち塞がるディオ。

 

「やぁ! 君……エリナって名なのかい? ジョジョと泳ぎに行ったろう、あいつ最近うかれていると思ったら、こういうわけだったのか」

 

(それはそうでしょう、昼からずっと見ていたんですから)

 

 私も人のことを言えないが、どうにも空しく感じてしまう。

 そんな折、不意にエリナに近づいたディオがその唇を強引に奪った。

 

「や、やった!! さすがディオ! おれたちにできない事を平然とやってのける。 そこにシビれる憧れるゥ!」

 

 それはただ度胸がないだけはないのか。 と、妙に煩い外野に眉を顰めつつもディオを見つめる。

 なぜ私にその役目を譲らないのでしょうか、確かに初心な少女のように見える為にキスという行為は2人の仲を裂くのに効果的でしょうが、なぜ私に役目を譲らないのですか。

 2度も同じことを思わざるを得ないが、キスをされた少女は泥水に投げ出され、ポロポロと涙をこぼしていた。

 

「ジョジョとキスはしたのかい? まだだよなァ。 初めての相手はジョジョではないッ! このディオだッ!」

 

「あらあら、そんな風に乱暴にするものではないわ。 貴方、大丈夫?」

 

 高らかに自分を指差して宣言をする弟を余所に、私は温和な笑みを浮かべながら泥に塗れた少女へと近づく。

 なかなか容姿の整った可愛らしい少女だ。 泥に塗れた少女、だがその美しさは損なわれるばかりか際立たせているようにすら感じる。

 その姿は私の悪戯心を擽るには十分すぎる程だったわ。

 

「清めてあげるわ」

 

 私は言葉を投げかけ、涙に濡れた彼女の頬にそっと手を添え、唇を優しく奪う。

 

「意外ッ! それは女同士! 俺達にできないことを平然とやってのけるぅ!」

 

 またも外野が非常に煩い。

 今はこの柔らかで甘酸っぱい感触を楽しみたいとッ。

 

(ぐっ、こ、この女! 私の唇を噛んだ!?)

 

 突然、鋭い痛みが私の唇に走り思わず顔を手で覆って離してしまう。

 気丈にこちらを睨む少女の瞳にはどこか強い意思を感じる、そして次の瞬間に彼女は足元にある泥水で口を洗っていた。

 

(このクソアマァ! 私のキスが泥水よりも価値が無いとでも言うのか! このティアが慰めてやろうとしているというのに無礼な!)

 

「「わざとドロで洗って自分の意思を示すかッ! そんなのはつまらんプライドだァ!」」

 

 声が誰かと重なっているなど気づきはしない程に私は激昂していた。

 スカートの中に隠してある仕込み棒を取り出そうとしたその時、横合いからディオの張り手が少女を吹き飛ばした。

 何が起こったのかと私が動けずにいたが、状況を把握すると途端に己の未熟さに腹が立つ。

 

(落ち付け、たかが小娘。 私は何を本気になって相手をしようとしているのだ。 落ち付け、落ち着くのだ私よ)

 

 怒りに染まった醜い顔をしているであろう私の表情を平常時に戻し、つい乱暴な性格が出始めた私を抑え、同じく反省をしているのか表情が暗いディオが去っていくのを後からついていく。

 だが、これでは足りない。 私は先にディオを帰すと用がある男2人を木陰へ連れ込み、服の袖に隠してあったナイフを首元に突き付けた。

 

「ディオのことは話してもいいとして、私の今日の出来事を他人に話したら……次の朝日は拝めないものと思え、いいな?」

 

「「は、はい!」」

 

 日常では絶対に他人に見せない私の本性を曝け出し、脅すとあっさりと頷く男達。

 これでいい、私の失態は私だけが知っていればよい。 

 

 

 

 

 数日後、あの日のことは私達の間では禁句となっていた。

 というよりも、話せば互いの浅はかさを曝け出すこと以外なにもないからだ。

 今は自室にて書庫にあった小説を読みふけっていた。

 

(なかなか惹き込まれる内容ね。 今日はこれで十分に暇が潰せそ)

 

「ディィィオオオオオオ!」

 

 ピシリッ、と私の額に青筋が走った。

 不作法にも程がある、恐らくエントランス辺りからだろうが聞き覚えのある声が屋敷中に響き渡った。

 

(今から良い所だというのに! 何なの一体!)

 

 誰も見ていないことを良いことに乱暴に扉を開け、ズカズカと二階からエントランスを見渡せる場所まで移動する。

 すると、ディオとジョナサンが互いに拳を構え、対峙しているではないか。

 

「ジョジョッ! 見苦しいぞ嫉妬に狂った姿はッ!?」

 

「彼女に対する侮辱が許せないッ!」

 

 恐らくは先日のエリナに対することを言っているのだろうか。

 となれば先に仕掛けたのは恐らくジョジョの方だろう。

 

(それはもの凄く好都合ね。 これでディオが打ち勝てば、彼はもう2度とディオに逆らわない)

 

 先に手を出したのはジョジョ、正当防衛という名目も立つ。

 拳を繰り出すジョジョの攻撃を華麗に避けるとカウンターの肘鉄を顔面に打ち込むディオ。

 これでもはや決まったも同然だろう、ジョジョはこの敗北によってあらゆる面でディオに勝てないと思い知る、そして恐怖する。 そうなれば、この屋敷はディオのものとなる。

 

 私がほくそ笑んでいると、たまらず壁に寄り掛かったジョジョが再び闘志を燃やしてディオに殴りかかる。

 しかし、そこは百戦錬磨の我が弟、拳を両手で受け止めると膝をジョジョの顔面にぶち当てた。

 

 だがそこで私とて予想できなかったことが起こった。

 何と、ジョジョが蹴りを喰らいながらも相手の服を掴んでディオの顔に減り込む程の強烈な頭突きを当てたのだ。

 

(あれはまずい、脳が揺れて意識が朦朧とする威力だわ)

 

「ディオオオオオ―――ッ! 君がッ! 泣くまで、殴るのを止めないッ!」

 

 一転して防御の姿勢をとるディオに対して構わず攻撃を続けるジョジョ。

 何度も打ちのめした後に渾身の右ストレートがディオの顔を貫き、吹き飛んだ。

 その際に血飛沫が飛び散り、壁に掛けられてある石仮面にかかり何かが飛び出ると床に音を立てて落ちた。

 

(……針? 変な仮面だとは思っていたけれど、何か仕掛けがありそうね。 それよりも、私はどう動くべきか)

 

 ここで私が加勢すれば確実にジョジョは打ち倒せるだろう。

 私は腕力が無いが代わりに武器を使うことで力を得た。

 大人ですら打ち倒せる程に武器の扱いを磨いたのだ、早々負けるはずがない。

 

(けれど、問題はそこじゃないのよね。 この場合は一人で打ち勝たなければ意味がない)

 

 2人がかりで打ちのめしてもジョジョは完全な敗北とは思わず、むしろ反骨心を剥き出しにするかもしれない。

 それに、先程向かいの通路で召し使いが2人の喧嘩を見て走り去った。 まず十中八九ジョースター卿を呼びに行ったに違いない。

 

 となれば私がとるべき方法は1つ、最初から私はここにいなかった。 故に無関係、それでいい。

 私はその場を後にして自室へと静かに戻った。 内心で肝心な所でしくじる弟に舌打ちをしながら。

 

 その後は私の予想通り、ジョースター卿がその場に現れると2人に罰を言い渡されたと召し使い達から話を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後にとある事件が起きた。

 屋敷で飼われていた犬のダニーが焼却炉で焼かれて死亡した事件だ。

 犯人は屋敷に入った盗人が番犬が邪魔でやったことだと推測されているが、私には犯人の心当たりがある。

 それは目の前で優雅に紅茶を飲んでいるディオだ。 多少は腫れが治まったがまだ幾らか顔に赤い部分が残っている。

 

「姉さん、あいつは叩けば叩く程に成長するタイプだ。 あいつの爆発力は侮れん」

 

「……そうね、私もまさか蹴りを喰らいながら攻撃してくるだなんて思わなかったわ、はぁ」

 

「その悩ましげな溜息を吐きながら僕を見るな。 腹が立つ」

 

「そうね、誰かさんが一気にトドメを刺さないで喧嘩を楽しんで負けちゃったせいじゃないわよ」

 

 私が呆れた様子でディオを見つめていると、屈辱とでも感じたのか怒りに満ちた瞳で睨んでくる。

 まだ弟の反骨心は些かも失われていない、気概はある。 ならば安心だと私は相手を安心させる慈愛の笑みを浮かべた。

 

「失敗したのならば次に対策を練り同じ失敗をしない者を賢者、失敗を繰り返す者はただの愚者よ。 ディオ、貴方はどう対処するのかしら?」

 

「時だ、時を待つ! 今は年齢も力も足りん! 機が熟す時まで力を蓄えておくのだ、文句はないな」

 

 上出来だ。

 焦って行動を起こしても碌なことにはならない。 近寄り、頭を撫でてあげるとその手を弾かれる。

 だが、それでも何度も頭を撫でようとすると4度目にして顰めっ面のまま受け入れた。

 

 私の可愛いディオ。 私のために力をつけ、誰よりも偉くなりなさい。

 そうすれば永遠に愛してあげよう、私の役に立つ間は、ね。

 

 

 

 

 

 




『セカンドキスはこのティアだぁ!』 とかいう台詞を入れたかったけど、性格的にというか状況が思いつかなかったので没に。

 次からは7年後の青年編になるから多少は楽に書ける……はず。

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