我が名はティア・ブランドー   作:腐った蜜柑

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ありゃ、パパッと進めるつもりが突発的に浮かんだ話をそのまま書いてたという。。。

ぇー、今回はGL表現が入っている為に苦手な方はご注意ください。
余り詳細なことは書いてないので、大丈夫……なはず。


ジョースター家の日常

 日が経つにつれ、ディオの苛烈な仕置きは日に日に酷くなっていく。

 だがそれはジョジョに対してのみ、私としてはこのままディオが当主の座に君臨するのであれば何の問題もない。

 ディオは1位、頂点、トップ。 どんなことでも自分が偉く、勝者でないと気がすまない性質だが私は違う。 何を好き好んで矢面に立つ頂点を望むのか、私は2位、3位で構わない。 厄介事は全て他の者に押し付け、ただ幸福を甘受できれば私は満足だ。

 優雅に屋敷の庭園にて紅茶を楽しみながら輝かしい私の未来を描いていると、機嫌が良いのか鼻歌を歌いながらディオが対面の席へと乱暴に座った。

 

「ははは、今回はボクシングであいつの今月の小遣いと友人を全て奪ってやった! あいつのマヌケ面を姉さんにも見せたかったよ」

 

「あら、下品ね。 私にはとてもそんな恐ろしいことは出来ないわ」

 

「そうかい? 姉さんの武器の扱いは僕も舌を巻く所だけどね。 ふふっ、そんなことよりも少し気になるものがあるんだ、一緒に来ないか?」

 

 弟が気になるモノ。 ……宝石だろうか? もしや、何かしら有益の情報か何かか。

 ムクムクと内で沸き上がった好奇心に素直に従い、紅茶を呑み終えると我ながら優雅な動作でディオの後をついていく。

 案内された場所は屋敷のエントランスだった。 毎日1度は訪れるこの場所に面白いものなどあっただろうか?

 私が首を傾げていると、壁に掛けてある怪しげな石で出来た仮面を手に取った。

 

「まさか、その気持ち悪い仮面がそうじゃないでしょうね、ディオ?」

 

「すごく不気味な仮面だろう? 最初に来た頃から気になっていたんだ、持ってみると妙に重い」

 

「……あ、そうだわ。 私、メイドの娘達とお茶会の予定があったわ。 それじゃあね、趣味が悪いわよディオ」

 

「少し気になっただけだと言っただけだ。 別に気に入ったなどと……これはジョースター卿」

 

 目と鼻の部分に穴を空け、口元には鋭く伸びる2本の牙、そして仮面全体がひび割れている不気味な仮面。

 余りに私の趣味とかけ離れている為に早々に切り上げ、時間を取らせた我が愚弟に嫌味を一つ残して颯爽と去る。

 背後で喚くディオへちらりと視線を向けると、偶然通りかかったジョースター卿に仮面を持っている所を見られ、何やら仮面に関するウンチクを聞かされているようだ。

 

(馬鹿め、そんな気持ちの悪いものを持ってるからだ。 ……あ、持ってるから、よ)

 

 少々怒りっぽい私だが、最近は沸点が低いのかもしれない。

 貧民街の頃は近所の女の子達を虜にして楽しんだものだ、この家へ来てからというもの淑女を演じる為にも控えていたが、そろそろ始めてもいいかもしれない。

 

「ふふふ、そういえばメアリーだったかしら? 食器を落として慌てふためいた姿が可愛かったわね」

 

 私は以前、粗相をしでかしたおさげのメイドの姿を思い浮かべ、小さく渇いた唇を舌で潤した。

 そばかすが鼻辺りに浮き出ていたが、それが良い意味で味がある。 一度考え出すともう止まらない。

 

(余り無茶な手は使えないけど、ゆっくり関係を築くというのも良いわね)

 

 お茶会などただの抜け出す口実だったが、嘘を本当にするのであれば問題はあるまい。

 私はゆっくりと屋敷を巡り、メアリーを見つけるとお茶会へ誘い、彼女はそれを快諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の朝、私はふかふかのベッドから清々しい目覚めを久々に体感した。

 今まで呼吸が出来ずに苦しんでいた人間が大きく呼吸をし、肺の中へ新鮮な空気を送り込んで全身を巡らせるように清々しい。

 朝日が差し込む窓を開けると少し肌寒い風が入ってくる。

 それもそのはずだ、私は何の服も着ておらずに生まれたままの姿を晒しているからだ。

 とは言っても、それは私だけではない。 ベッドの横に置かれた机に無造作に置かれたメイド服が散乱し、布団が大きく盛り上がった先に茶髪のおさげが見える。

 そっとベッドへと腰掛けると振動を敏感に感じ取ったのか、盛り上がった体が揺れ動く。

 その姿が脅える小動物のように見え、私の嗜虐心をくすぐる。 ゆっくりと背中へもたれかかるように両腕を伸ばすと掌に柔らかな感触が2つ感じられ、それを満足するまで弄び続けた。

 

 

 

 

 

 

「さて、と。 どこか可笑しな所は無いかしら、メアリー?」

 

「は、はい。 その、普段通りにお美しいです、ティア様」

 

 乱れた服装を整え、今日の気分にあった深紅のドレスを身に纏う。

 隣で顔を真っ赤にして縮こまっているメアリー以外、普段と変わった様子などないだろう。

 そんなメアリーの様子にまたも悪戯心が芽生え始めたティアが、そっと背中から優しく抱き付くとその手に金貨を何枚か持たせた。

 

「!? あ、あの。 これは」

 

「あぁ、勘違いしないで。 別に体の代金だとか口止め料だとかつまらないことは言わないわ。 ……風の噂によれば貴方、何かお金に困っているんでしょう? 私の役に立った、だからこそ褒美を与えただけ、受け取りなさい」

 

 屋敷内及び外の噂をよく集めるのが私の役割の一つだ。

 故にメアリーが何かしらお金に困っていると耳に入り、その弱みにつけこむという手もあったのだが拍子抜けするほどにあっさりと私の元へ手に入った。

 何も人助けという訳ではない、ただ私の為にその身で奉仕した。 故に褒美を与える、それだけのこと。

 

「う、受け取れません。 こんな大金、私には」

 

「このティアが受け取れ。 そう言ってるのよ? 黙って受け取りなさい」

 

 目を細めて有無を言わさぬ威圧を放つと、その小柄な体を更に縮こまらせてコクコクと頷くメアリー。

 だが、私の目には金額を確認した時に落胆した表情を見逃さなかった。 ……案外、見所があるのかもしれない。

 

「もっと欲しいのかしら? その強欲は嫌いじゃないわ、いくら欲しいの?」

 

「うぇ!? 私は別に、その」

 

 煮え切らない態度に再び強く迫るとあっさりと落ちたが、予想していた私の考えとは違った。

 メアリーの母が難病を患ったらしく、手術での治療が望ましいとのことなのだがそれには多大な費用が必要な為に金銭を求めているということだった。

 自身の生活費すら削り、給料をほぼ全額に近い状態で仕送りをしているものの目標とする金額は今だに遠いという。

 その間にも母親の病状は悪化し、このまま現状が続けばどうなるかは火を見るよりも明らかなのだが、メアリー自身はどうすればいいのかと途方に暮れているようだ。

 

「なるほど、ならばジョースター卿に申し出てお金を借りればいいではありませんか」

 

「そ、そんな。 私のようなものを雇ってくださるジョースター卿に言える訳ありません!」

 

「……貴方、何を言っているの? 目的を達成する為の手段が目の前に転がっているというのに実行しないなど、愚かとしかいいようがない。 母を見殺しにするか、助けるか、どちらか選びなさい」

 

 魅力的に見えた目の前のメアリーの輝きが瞬く間に消えていくのを感じる。

 これで断るならば、道端の石程度にしか私は気にかけないだろう、それほどにつまらなく愚かな人間だ。

 私の冷めた瞳に見つめられながら、メアリーは手が震える程に服の裾を握りしめると小さく、床に涙を零しながら『助けたい』と答えた。

 

 その後の私の行動は早かった。

 メアリーの価値以上に働いている気もするが、私自身の株も上がるとの打算を含めての行動だ。

 メアリーを引き摺るようにしてジョースター卿の執務室へ入り、私が簡単な説明をすると後はメアリーに任せた。

 こういうものは本人の思いの強さが成功を左右する。 それに甘い性格のジョースター卿のことだ、高確率で頷くだろう。

 

「……分かった、メアリー。 君の思いは痛い程に私に響いたよ。 喜んで資金を貸そう、少しづつ返してくれる程度でいいからね」

 

「あ、ありがとうございます! ジョースター卿!」

 

 涙ながら必死の思いで話すメアリーの姿に心を打たれでもしたのか、深く頷くジョースター卿の姿に内心でほくそ笑んだ。

 これで私は悲劇の少女の助け船を出した心やさしい淑女とでも映るだろう。

 目の前で繰り広げられる三文芝居を見なければいけないのが苦痛だが致し方あるまい。

 

 一連の出来事を見終えると、後は本人達で話した方が良いともっともらしいことを言って部屋を出る。

 すると、待ち構えていたかのようにディオがこちらへ不敵な笑みを浮かべながら佇んでいた。

 

「ほほぅ、姉さんの悪い癖が出たと思えばなかなか善良な立役者じゃぁないか」

 

「あら、私は元々善良な人間よ? 私がそう決めたもの。 あぁ、それと私のモノに手を出したら……殺すわよ?」

 

「おやおや、善良な人間から出た言葉とは思えないな。 姉さんまでも、この腑抜けた場所に感化されたのかとヒヤヒヤしたものさ」

 

 そんなことは微塵も思っていないとばかりに両手を上げておどけて見せる弟に、思わず笑いが込み出る。

 

「「ふはっ、はっはっは!」」

 

 自分達が言ってることの可笑しさに耐えきれなかったのはお互い様なのだろうか。

 互いに示し合わせたかのように屋敷中に笑い声を響かせる。

 

 

 まるで、この屋敷がもうすぐ崩壊するかのような甲高い笑い声を響かせながら――。


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