我が名はティア・ブランドー   作:腐った蜜柑

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 エシディシ短いだろうなと書いてたら地味に長くなるので分割。 
 ……正直、柱の男達の中でも特に相性が悪いエシディシ戦とかどう戦えば良いのやらと頭抱えている状態です。


ジョージ・ジョースターという男

 

 

少し、昔の事を思い出そう。 そう、一点の曇りなき男と悲劇の中から生まれた女の事を。

 

 

 

 50年も昔のことだ。 ジョナサンとディオを乗せた船が炎上し、爆発する間際エリナによって救出された赤ん坊。

 

 後にこの赤ん坊はエリナによってエリザベス・ジョースターと名づけられた。 そう、今においてリサリサと名乗っている女そのものだ。

 

 だが、エリナはその赤子を手放すこととなった。 その身にもう一人、赤ん坊を宿していた為だ。

 私とスピードワゴンが石油を発掘し、戻ってきた時には驚いたものだ。 すでにジョナサンの子供が生まれる間際まで大きくなっていたのだから。

 

 新たに生まれた息子の名は祖父の名を受け継ぎ、ジョージ・ジョースターと名付けられる。 ここまではいい、問題は出産を控えたためか赤ん坊であるエリザベスの引き受け人を探す時のこと。

 

 スピードワゴンは石油会社を設立、運営に忙しいのかアメリカの地へ再び戻り、残った私が渋々ながらも引き受けようとした時、横から声を掛ける者達がいた。

 

 その声を掛けた者達がよりにもよって『波紋勢』共だとは誰が予想しただろうか。

 

 ダイアーとストレイツォ。 両人が責任を持って育てることを約束すると、夫と共に戦ったこともあったのだろう。 エリナは2人を信用してエリザベスを預けたのだ。

 

 奴等の魂胆は分かる、吸血鬼である私などに育てさせたくはなかったのだろう。 目に私に対する敵意がありありと見て取れていたからだ。

 

 

 

 そうして長い時をエリナと共に友情を少しずつ育んでいく。 子供が生まれた後も彼女は私と接する態度を変えなかった。

 いつしか私にとっても彼女への認識が、存在が変化して大きくなっていくのを感じたのは20年の歳月が過ぎた後だった。

 

 その時にはエリナに対して友人として接し、心を許せる関係になれたがそうではない者もいた。

 

 ジョージ・ジョースター。 赤子から大人へ成長する彼と共に過ごしてきた私だが奴とは相容れぬ存在だと薄々気づいていた。

 

 彼はそう、余りにも良すぎるのだ。 青年へと成長した際に私の悪行、そして彼の父親を殺害したと誰かから聞いた時のことだ。

 

『生ある者、生きる為には命を食します。 ですから、ティアさんの行いを僕は悪と断じることはできません』

 

『父の件は残念に思います。 しかし、昔のティアさんと今のティアさんは違うと誰もが感じているはずです。 僕は貴方を許しますよ』

 

 まるで慈愛の天使のように微笑み、手を差し伸べるジョージの姿に私は薄ら寒いものを感じた。

 いや、成長過程においても感じていたことだが彼には欠点(・・)と呼ばれるものがない。

 模範的な優等生な性格、その高い知性と運動能力、そして他者の悪意を許し受け入れる程の寛容さ。

 

 人格、能力、交友関係に至るまで何も欠点となるべきものが見つからないのだ。

 

 一言とて他人の悪口を言ったり、悪戯といったことはしない。 自分の境遇に対しても不満を出さず、むしろ改善への道を最短で見つけ、努力する。

 誰もが彼に理想的な友人として、理想的な息子として、理想的な男性として良き感情を抱き、必ず誰かが傍にいた。

 

 ただ一人、例外である私を除いて――。

 

 彼には穢れというものがない。 人が持つべき悪意を持たず、欠点が無い人間ははたして『強い人間』といえるのだろうか?

 光があれば陰があり、影があるからこそ光を得る。 私には実体のない、それこそおとぎ話の住人のように得体の知れない存在としか感じられなかった。

 

 そうして、同時に私はこの理想の中を生きる男を見ていると妙な不安感を覚える。

 

 いつしか、この理想しか知らぬ人間は現実という非情な獣に食い千切られるのではないかと――。

 

 

 

 

 しかし、私の予想とは裏腹に彼の前には良き恋人が現れた。

 奇妙な運命とは誰が言ったものか。 恋人というのは20年前に船から救出された赤子、エリザベス本人だ。

 波紋勢達によって育てられたエリザベスが一人立ちし、エリナの元を訪れた際にジョージと出会った時のこと。 2人は一目で互いに恋に落ち、瞬く間に結婚を経て子供を宿すのにはそう時間はかからなかった。

 

 私はというと波紋勢達によって育てられた為に刺客ではないかと疑い、距離をとっていた。 

 大方の予想通り、彼女の身には波紋を宿しており、私のことを聞いていたのか警戒した様子だったが互いに余り接点を作らず、不干渉を貫いていると無害と判断したのか時間が過ぎるにつれて態度が柔らかくなり、他愛無い会話を続ける関係となった。

 

 

 私はエリナと共に過ごす時間を、ジョージはエリザベスと共に過ごす時間が増え、互いに満たされた時間だけが続くものだと思っていた。

 

 

 だが、災いとは唐突に起こるものだ。

 スピードワゴンが財団を設立し、石仮面に纏わる情報を集めている最中の出来事。 一人のゾンビが生き残っているという情報が入った。 

 

 それもよりにもよって以前、私達姉弟が作った吸血ゾンビの内の一匹が今だに生き残っていたのだ。

 

 そのゾンビは非情に狡賢かった。

 人間を喰らう際には骨の一片も喰らい尽くし証拠を残さず、足を負傷したといって車イスに乗り昼間は決して外に出ず、それでいて人間の社会にとけこんでいるのだ。

 

 イギリス空軍、その司令官という地位にまで登り詰めて――。

 

 

 

 

 その報せを聞いた時、波紋勢達に連絡しようとしていたスピードワゴンよりも先に私はゾンビを始末するために準備を整えていた。

 

 理由は単純だ。 間接的にとはいえ原因であるこの私の居心地が妙に悪いからだ。 エリナも昔の悪夢を思い出してか、部屋に閉じこもる始末。

 

 故に早々に問題を解決し、平穏な生活をと部屋を出た瞬間に凶報が届いた。

 

 『ジョージ・ジョースターが単独で軍内部に侵入し、司令官を探っていたことに気づいたゾンビによって殺害された』

 

 遠巻きに空軍施設を見張っていたSPW財団の人間からの情報。 それを聞いた時、一様に皆信じられないといった表情をしていた。

 

 皆がなぜ、どうして、といった困惑する最中、私だけは理由が分かった。

 

『あの理想の中を生きてきた男はよりにもよって司令官を説得しにでもいったのだろう。 どれだけ悪意を秘めた人物かも知らずに』

 

 母であるエリナは嘆き、成長過程を見守ってきたSPWは怒り、妻であるエリザベスは姿が消えていた。

 

 そう、この場にて話を聞いていたはずのエリザベスがいないのだ。 慌ててジョージとエリザベスの子供がいる部屋へと出向くと、赤子であるジョセフだけが残されていた。

 

 嫌な予感とは大抵当たるもの、子供を残してまで出向く用など一つしかない。

 

 急ぎ、その司令官がいるという軍施設まで出向く際には騒ぎが起こった後だった。

 

『ブロンドの髪を持つ女が司令官を蒸発させるように燃やし、殺害した』

 

 彼女は夫を殺害したゾンビに対し、復讐という手段をとった。 それは良い、問題なのは彼女が冷静ではなく、激昂してその場で司令官を始末する際に目撃者を作ってしまったことだ。

 

 たちまち彼女は英空軍司令官殺しの汚名と国家反逆罪により全世界へ指名手配されることとなった。

 SPW財団の力を持ってしても、その罪を消すことは敵わず出来ることは彼女の身元を隠すことのみ。

 

 彼女は赤子であるジョセフを手放すことになり、そうして出て行くまでの僅かな時間の間、屋敷にいた時のことだ。

 

『私は、決して貴方を許さない』

 

 何が起こったのか、唐突に私の部屋へとエリザベスが乱入し、襲い掛かってきたのだ。 当然、私も抵抗しながら逃げ続け、人が集まる頃には激昂した彼女は普段どおりの冷静な表情をし、一言だけ呟くと姿を消した。

 

 当時はイカれた女だと結論付けていたが、今思えば見境なく襲い掛かるほどに感情的なる女ではない。

 だが、そう仮定したとしても真実は彼女の胸に秘められたまま。 私に教えてくれるはずもなく分かるはずもない。

 

 2人の子供であるジョセフには両親は交通事故で亡くなったと偽り、平穏な日々を過ごして貰うつもりがどうしてこうなったのか。

 

 今再びリサリサと偽名を名乗り、息子であるジョセフの前に現れる心境とは一体どのようなものなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~でよぉ、今日は綱渡りやらされたんだぜ? 俺は芸をする猿かっつーの! けど、効果あるのは確かだからやるしかねえんだけどよー」

 

 あれから3週間程過ぎる頃、ジョセフの体には修行のせいか生傷が絶えないようになっていた。

 それは良い、別に構わないのだがことあるごとに私の元へ来るのはなぜなのだろうか。

 いや、話自体は別につまらなくはない。 最初は油を塗りたくった柱を登っただの、海底に素潜りを続けただの、指一本で棒を掴み逆立ちするだのと滑稽な話ばかりだからだ。

 

 一見馬鹿げた行為に見えるがジョセフが続けているということは効果があるのだろう。

 私はというと正直、手詰まりな気がしてならない。 吸血鬼のトレーニングなど全く思いつかず、リサリサに対して軽い感じで尋ねた時には。

 

『は? 吸血鬼の訓練の仕方なんて分かるはずないじゃない。 腕立てでもしていれば?』

 

 あの心底馬鹿にしたような表情と視線。

 こちらに負い目があり、下手に出ていれば調子に乗るとはなんて女だ。

 

 なまじ私好みの若い美女のように見えるから余計に腹が立つ。 

 30年前とさほど変わらぬ若い姿は波紋によって老化を妨げただけの若作りだとばらしてやろうか。

 ……そう、私に命を賭けるだけの勇気があれば言いふらしている所だ。

 

 嫌なことを思い出し、不機嫌になりつつある私はストレスを解消するためにも懐に隠していたものを取り出し、目の前のグラスに静かに注いだ。

 

「お、それワイン? まーた地下の酒蔵から盗ってきたのかよ。 しょーがねーなー、口止め料として瓶貰うぜ」

 

 注いだ直後のワイン瓶を奪い取り、直接口をつけて飲む様は余りにも品位がなさすぎる。

 

 そんな粗暴な輩とは違い、私は今の環境……そう、優雅にバルコニーの真下に広がる月明かりの海を眺め、風に乗ってくる塩の香りと共にワインの香りを楽しむ。

 

「けっこう良い代物なんじゃねーの? これなら俺も飲みやす……」

 

 グビグビと喉を鳴らし、下品に飲んでいたジョセフの動きが止まった。 視線は私の後ろの方を向いており、妙な姿勢で固まっている。

 

 そんな様子など気にせず、私は優雅にグラスの中のワインを一息に口の中へと運ぶ。 鼻腔を海風とワインの豊かな風味が駆け抜け、豊かな味わいを舌に伝える。

 

 至福の一時。 この優雅さこそ、私にふさわしい。

 

 そして、先程から私の背後の一点を見つめるジョセフの姿にさすがの私も怪訝に思い、ゆっくりと優雅に振り向くと音も無く現れた青い眼の女が間近で見下ろしている。

 

 驚きの余り盛大に口の中のワインを噴出してしまい、目の前の女へと雫が雨のように降り注ぐ。

 当然、酒臭くびしょぬれになった彼女の服は良く見れば、なかなか値段が張りそうな品の良い服だ。 そういえば昔、ファッションが趣味だと話していたような……。

 

 そこまで考えた時、私の体は即座にテーブルの向かい側、ジョセフの背後へと回りこんだ。

 

「最近、ワインが減っているかと思えばやはり貴方なの。 しかも、相手にここまで正面から宣戦布告をされたのは初めてだわ。 そこへ直れ吸血鬼、今すぐ殺してやる!」

 

「げほっごほ。 ち、違う。 わざとじゃない、ジョセフに唆されたのよ! 裁くならこいつを先に!」

 

「はぁッ!? 何てめぇ罪を全部なすりつけようとしてんだ! い、いやいや、まぁ落ち着いてよ先生。 美人が台無しになっちまうぜ? ほらスマイル、スマーイル!」

 

 咽ながらも弁解し、目の前の波紋付きマフラーを振り回す女から逃れる為にその息子を盾にする。

 青筋を浮かべ、本気で切れていた女は見る見る内に冷静さを取り戻し、タバコを吸って神経を落ち着かせている。

 

 この館で過ごした経験は無駄ではない。

 沸点が低すぎるリサリサだが、どうにも息子であるジョセフの前では知的で冷静な女性を演じたいらしい。

 今もタバコを持つ手が微かに震え、私を穴が空くほどに睨みつけながら怒りを抑えるほどにだ。

 

 そうしてタバコを吸い終える頃には冷静になったのか、濡れた上着を脱ぎ終えた時に胸元に光る大きな赤い石(・・・)が目に入った。

 

 思わず見惚れてしまう程に美しい。 血より濃い深紅の色は見た事が無いほどに鮮やかだ。

 

 宝石に詳しい私だが、ここまで赤く美しく染まる石など聞いたことがない。 しかし、どこかでこの赤い石を聞いたことがある気がする。

 

『女……いや、吸血鬼か。 貴様は『エイジャの赤石』というものを知っているか?』

 

 そうだ、確か柱の男の一人カーズという男が話す言葉に赤石という言葉があった。 まさかこれがそうだというのだろうか?

 

 私の嫌な予感を見透かすように、リサリサは胸元の赤石に視線が注がれていることに気がつき、それを手に取る。

 

「ふぅん、気がついたようね。 そう、これこそが奴等が求める『エイジャの赤石』。 なぜ、奴等がこれを求めるのか説明しましょう」

 

 エイジャの赤石。 その特徴たるや光を内部にて反射を繰り返し、増幅した後に一点より放射する特異な性質を持つ自然が生んだ奇跡の結晶。

 それがエイジャの赤石と呼ばれる深紅の宝石であり、リサリサが所有するものだそうだ。

 

 奴等が石を求めるのはそのパワーを利用し、太陽を克服した究極の生物へ至るために求めているのだという。

 

 しかし、それが事実ならば答えは簡単なことだ。 そんな石など壊してしまえばいい。

 

「石を壊せばやつら3人をなお倒せなくなるとの言い伝えがあります。 ……詳細までは分かりません、ですが守り通すという使命を私は守らねばなりません」

 

「それが本当かどうかも分からない言い伝え……厄介ね。 本当なら本当で尚壊せないことだろうし、それよりもそれ、私が少し預かっても良いかしら?」

 

 美しく輝く『エイジャの赤石』。 本当は手にとって観賞したい所だが、どうにもその持ち主は盗まれるとでも思っているのかマフラーを揺らしている。

 

 信用は無いのは分かるが、不老不死など万が一にもなって貰っては困るというもの。 だからこそ、予防策が欲しいのだ。

 奴等が求めている(・・・・・)石、それこそが重要なのだから。

 

 隠す必要もなく、私が考えている事を話すと納得できる部分もあるのか一応の同意は示してくれた。

 

「良いでしょう。 それならば写真だけで十分ね、SPW財団の者に任せれば望みのものを用意してくれるでしょう。 ついでに服の請求も貴方宛で伝えておくわ」

 

 手札は多ければ多いほど良い。 問題は奴等と対峙するまで用意できるかどうかだ。

 用件は終わったとばかりにリサリサがジョセフを連れて部屋の奥へと消えていく。

 そんな時、屋敷内での日々を過ごす私はいつも思うことがある。 今日も生き延びられて良かったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 これなら面倒がらずにジョージ・ジョースターの話を作っておけば、こんな回想シーンやら出さなくてすんで楽だったかな。。。

 この小説でのジョージさんは基本的に性善説を疑うことなく信じる人物です。 争いごとを避けるため、共存の道を探ろうと説得に向かい死亡という形になったものの、もう少し掘り下げる話があっても良かったかも。

 リサリサ先生にはもっとティアをイジめて欲しいけど、それするとリサリサ先生の印象が悪くなるから没。

 2部の話は最後まで一通り書いてあるので、修正しつつ出していけば今のペースを最後まで維持できてゆっくり休める! ……はず。

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