我が名はティア・ブランドー   作:腐った蜜柑

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  PCの故障が直って続きを書こうかなーと始めたものの石油の話をすっかり忘れてまして、更に再び考えようにも全く思いつかない……。
 波紋勢との出来るだけ違和感のない和解の流れはおおまかに思いついたものの、SPWさんの見せ場、ティアの違和感のない心境もろもろ考えていると頭がこんがらがって結果、更新が停滞していました。

 それなら、気分転換も兼ねて前々から考えていた2部の話の流れだけパーッとやって思いついて書き終えたら間に入れるということにしました。 変な話の流れで申し訳ない。


第2部:天敵
プロローグ


 夜空に輝く金色の月が柔らかく地表を照らす中、闇夜の静寂を打ち消すかのようにけたたましい船の汽笛が辺りに鳴り響き、目的地への到着が間近であることを知らせる。

 私はこのとても快適な旅客船での船旅が終わるのかと、船のデッキから暗い海を見下ろし、溜息を吐いた。

 

 

 切欠となるジョナサン・ジョースターの死から49年の歳月が流れた。

 50年近い月日は時の移り変わりを如実に表す。 幼い子供は既に次の子供を生み、その生まれた赤子も逞しい大人へと成長し、そして麗しい美貌を持つ淑女は皺のある老人へと姿を変える程の年月だ。

 

 

 そう。 50年近い月日は人も、町並みも、環境すら変える。

 

 だが、吸血鬼である私は何も変わらない。 少女のように瑞々しい肌も、幼い頃からの端正な顔も、その姿形を一切変えることのない人形のように私の時は止まっている。

 以前の私ならば、その事に素直に喜びを見出していただろう。 永遠の若さ、吸血鬼としての圧倒的な力、何を不満に思うことがあるのだろうかと。

 

 しかし、50年の月日は私にある事実を認識させるのに十分だった。 それこそが私の一番の心残りであり、迷いでもある。

 

「……結局、ディオは私の目の前に現われてくれないのね」

 

 我が弟、ディオ・ブランドー。

 ディオがもし生きているのならば、今頃世界のどこかで異変が起きるか私に接触を図るはずだ。 それがここ50年の間、いや10年も過ぎた頃になっても現れないことから既に分かっていたことだ。

 

 第一次世界大戦。

 そう呼ばれる世界に戦争の嵐が吹き荒れた時代を私は過ごした。

 何も戦争に駆り出されただとかそんな訳ではないが、私はこれをディオが起こしたものかもしれないと期待していた。 

 だが、時を置いて我が祖国イギリスも戦争に参加することとなり、ディオを探しに各地へ出向こうとした私は足止めを喰らうこととなった。

 

 いや、こんな言い方では失礼だろう。 私が心を許し、今では長い時を経て信頼出来ると言葉にする事ができる友人を守る為にも私は残る必要があったからだ。

 

「ふー、貴方って一人になるといつも妙に思慮深くなるというか、寂しげな表情をするものね。 憂鬱な気分になるのなら、一人で行動しなければいいのに」

 

 いつのまに客室から船のデッキに上がってきたのだろうか。

 周りに注意がいかないほど、少し考え込んでいたようだ。  口元に薄く笑みを浮かべ、母と弟に次いで最愛とも呼べる女性の声の元へと振り返った。

 

「そうね。 貴方が、エリナが傍にいてくれれば私も寂しい思いをしなくて済むわ」

 

「普通は私のような皺くちゃの老人が言う言葉なのだけれど……まぁ、貴方も良い年だものね。 ふふふ」

 

 当初は仇ともいえる私に対して冷たい態度を貫いていたエリナ。

 だが波長が合うとでも言うべきだろうか。 しつこく追ってきた波紋勢とも交渉の末に和解を得て悠々とイギリスへ帰国した私は自然にエリナと共に過ごす時間が増えた。 ……いや、今思えば私が積極的に、犬が尻尾を振って誰かれ構わず懐くようにエリナに接触していたような気がする。

 

 元々、面倒見の良い性格をしていたのだろう。 構え構えと積極的にアピールする私に対して溜息を吐きながらも渋々応対していたような……。

 

 そこで私は思考を打ち切った。 今が良好なのだから別に構わないだろう。 思い出は美化されるものだと聞いたことがある気がするが、私のはそんなことは無いはずだ。

 そう誤魔化すように、年を経たというのに少女のように無邪気さを醸し出すエリナの頬へ手を添える。

 年を刻む、皺を私は心の底から愛おしいと思う。 この女性は外見上は衰えたように見えるが中身は年を経る事に輝きを増すかのように、私の心を掴んで止まない。 まるで時を経ても尚、人を魅了する輝きを放つ至極の宝石を目の前にしたかのように。

 

「何を言うのかしら、貴方は老いて益々美しくなったわ。 そう、人として私が尊敬し、人としてかくも美しい生き方をする人物を私は他には知らない」

 

「はぁ、貴方って歯の浮くようなことをいつも言うようだけれど、そんな真剣な瞳で言うものだから対応に困るわ。 悪い気はしないけれど」

 

 クスクスと笑うエリナと談笑していると、遮るかのように汽笛が再び鳴らされる。

 楽しい時間を邪魔された私が思わず眉を顰めていると、ふてくされた子供を宥めるかのように私の手を引いて荷物を纏める為にも客室へと連れていかれる。

 

「さ、力持ちさんには引っ越し用の荷物が大量にあるから頑張って貰わないと。 ジョセフも先に待っていることですしね」

 

「良い倹約家なのは分かるのだけれど、仮にも良家の娘なのだから使用人の一人ぐらい雇いなさいよ。 ……別に貴方の頼みなら断らないけれど、あのガキも一緒に来るのは気に喰わないわね」

 

 イギリスから出発した船の終着点。

 それは48年前にスピードワゴンと共に砂漠の石油発掘に乗り出し、童話のように見事石油を掘り当てて大金を得た大陸。

 アメリカへ今度はエリナ達の引っ越し先となった為に訪れたのだ。

 

 石油の話は今でも思い出すと腹が立つことに変わりはないが、引っ越しは別に構わない。

 エリナと2人っきりなら何の問題もない。 むしろ歓迎する所だ、あの糞ガキがいなければの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

「エリナばあちゃん! やっとこっちに来てくれたのねん……って、一人面倒なのがついてきてるけどなぁー、髪にくっついたしつこいガムみてぇによぉー」

 

 私が大量の荷物をあらかたホテルの一室に運び込み、新しく自宅となる広々とした室内を満足気に見ていると唐突に室内の扉が開かれ、バカ面丸出しの笑顔を浮かべた男が入ってきた。

 

 名をジョセフ・ジョースター。

 

 エリナとジョナサンの孫である。

 驚いたのは石油を発掘した後に帰国した後のことだ。 何と、エリナがジョナサンの子供を身篭っていたのだ。

 私としては複雑な気分だったが、無事に出産した後にその子供が成長して大人になり結婚して生まれたのがジョセフだ。

 エリナの子供、ジョセフの両親に関してだが唐突な事故でこの世を去った。 ……表向きはそう周りに伝えられ、ジョセフにもそう伝えられている。 この件に関しては私としては触れたくない事案の為に早々に頭から考えを消した。

 

 

 そして、だ。 肝心なのはジョナサンの紳士としての素質を全く受け継いでいないかのような軽薄そうな男ジョセフ。 この男に対してだが、私は嫌いだ。 もう赤ん坊の頃から大嫌いだ。 それこそ男ということも相まって目の前から消し去ってやりたい程にだ。 相手も同じ考えだろう。

 

 と、いうわけでだ。 エリナに窓の外へと視線を誘導させ、おもむろに指から血管針を伸ばすと体内の筋肉を振動させて沸騰血を作りだし、手についた水を払うようにジョセフへと向けて弾いた。

 

「ギャ―――ッあっちぃ!? てめぇティア、頭パープリンなのかぁ? 室内でそれ使うの反則だろうが!」

 

「反則ぅ? はっ、ルールなんて決めた覚えはないし、無礼な口を叩く小僧の躾けの為に行ったのよ。 ありがたく受け取りなさい、このマヌケが」

 

「はっはーん、何かプツーンときちゃったもんねぇー。 子供の頃から俺をいじめやがってとことん性根の腐った野郎だ! お仕置きに軽く波紋を流してやるぜ!」

 

「それは貴方が子供の頃にこの私を何度も殺しかけたからでしょうが! 波紋なぞ、この私に効かないことは猿でも理解できるというのに、哀れというほかないわね」

 

 軽く鼻で嘲笑うと激昂しているのか、ジョセフが両手で握り拳を作るとポキポキと骨を鳴らして構えをとる。

 

 私も大人気ないと思ったこともなくはないが、それを差し引いてもこの糞ガキには腸が煮え繰り返る。

 まだ幼少期の頃はこんな乱暴な言葉は使わず、素直で良い子……だったかもしれない。

 

 険悪な関係になる切欠となったのはそう、最初は赤ん坊の頃だ。 首がすわり、キョロキョロと辺りを見渡す可愛らしい仕草に男といえど私は非常に好感が持てた。 微笑ましそうに見つめていると、エリナに抱いてみるように促され、素直に応じて優しく抱き上げてあやしていたものだ。

 

 ここまではいい、エリナが言うには抱いているとぽかぽかと手が温まる不思議な子だと良く聞かされたものだ。 私の手からもそう、酷い熱と痛みを感じたと思えば抱えている腕から煙が噴き出たのだ。

 思わず無様な悲鳴をあげながら赤ん坊を放り投げ、急いで腕を凍らせて難を逃れた。

 

 私はこの煙と火傷を知っている。 憎たらしい波紋以外の何者でもない。

 そう、ジョセフ・ジョースターは生まれつき波紋の呼吸を会得している波紋使いだとこの時皆が理解した。

 私にとって天敵この上ないことだ。 無意識の内とはいえ、たまに波紋の呼吸をするのだから抱けるはずもない、更に追い打ちをかけるかのように私に対する心配の声よりも、放り投げた赤ん坊をキャッチしたスピードワゴンとエリナからこっぴどく怒られたのは今でも覚えている。

 

 まだ赤ん坊ということもあり、微弱な波紋のお陰で助かったがこれが強力な波紋なら凍らせることが出来ず、私が死んでいたというのにあんまりだ。

 

 

 その1度だけなら私も寛容であれた。 そう、1度だけならな。

 

『ねえ、僕の波紋っていう不思議な力なんだけどね。 体だけじゃなく地面も伝わることが出来るんだ、ほら!』

 

『へ、へぇ、そうなの。 でも危ないから……足がッ!? 私の足が溶けるぅッ!』

 

 成長し、少年となってからも子供特有の好奇心から波紋に興味を一段と持つようになった。 ついでに威力も一段と……。

 成果を見て欲しかったのだろう、地面に手を当てて波紋を流しこんだ先が私の足にダイレクトに当たり、大火傷を負ったのにはさすがに怒り、沸騰血を軽くばらまいてお仕置きしたのも覚えている。 そしてその後の私に対するエリナのお叱りも。

 

 

 もはや子供のする悪戯というレベルではなく私も厳しく対処するべきだと考えていた。 決して、エリナに理不尽に怒られたことを根に持っている訳ではない。

 そして、私との関係を決定的にする事件が起きた。

 

『ティア。 そんな引き籠りの生活じゃ体に悪いよ、ちゃんと日光を浴びた生活をしなきゃ! ほら、窓の板を外して、カーテンを開けないと』

 

『窓を開けるな小僧ォォォォォッ! 太陽が、太陽がぁぁぁぁッ!?』

 

 いつのまにか私の真っ暗な寝室へと昼間に侵入し、窓に打ちつけていたはずの日光を遮る板を外して室内へ太陽の光を招き入れたのだ。

 これにはさすがの私も思わず汚い言葉と共に慌ててシーツで体を包みこみ、全身を焼かれ死にそうになりながらも影になっている廊下へと逃げ延びた。

 

 その後はさすがの私でも冷静でいられず、心配そうに近寄ってきた糞ガキに猿轡を噛ませ、両手両足をシーツで縛ると日干しになれと窓の外へと放り投げた。

 真夏の暑い日差しの中、多少気分が晴れた私が放置して別の日光が差し込まない寝室にて休んでいると脱水症状になった瀕死のジョセフが見つかったと騒ぎになった。 そしてまたエリナに叱られた、自分の子供が可愛いのは分かるが少しは私の味方をしてくれてもいいだろうに。

 

 そんな事が何度も起こり、私の仕置きも容赦のないものになっていくとジョセフの言葉遣いも態度もどんどん悪くなっていった。 今思えばほんの少し、そう少しだけ私が原因で今のジョセフが出来たのかもしれないが私は悪くない、むしろ被害者だ。

 

 

 

 

 

「何度も殺しかけたって、それは吸血鬼って説明されてなかったからだろうが! 子供心から出た純粋な行為を大人気なく反撃したせいで、僕ちゃんの心にひどーいトラウマが残っちゃったんだぜ、コノヤロウ!」

 

「はっ! 私、吸血鬼なのとか言って信じる程にマヌケだったの? お笑い草としか言いようがないわね。 それにオツムの足りない糞ガキが周りに言いふらす危険もあったのに言える訳ないでしょうが!」

 

「良い加減にしなさい二人とも、みっともないにも程がある!」

 

 唐突に私の後頭部に衝撃が走り、次いで老人とは思えない身のこなしで目の前のジョセフの頭を杖で殴りつけるエリナ。

 少しムッとする所もあるが、私もジョセフも唯一共通する所はエリナに対してだけは弱いということだ。

 

「互いに良い歳になったのだから、喧嘩をいつまでもせずに仲良くしなさい! 返事は?」

 

「あー、エリナおばあちゃん。 俺、エリナばあちゃんの言うことなら何でも聞くつもりだけどさぁ――――」

 

「愛しいエリナの頼みなら、基本的には受け入れるつもりだけれど、何事にも例外はあるものよ――――」

 

 仁王立ちするエリナを余所に、再びこちらを不快な目で睨んでくるジョセフを冷やかに見つめる。

 

「「この糞ガキ(アマ)と仲良くすることなんて、未来永劫ありえないわ(ありえないもんねー)!!」」

 

「はぁ……こんな時にスピードワゴンさんがいてくれれば上手く間に入ってくれるのだけれどね。 お願いだから近所迷惑になる騒音だけは止めて頂戴」

 

 項垂れるエリナの姿に私が少し慌てながらも慰めに入り、横にいたジョセフもふざけた態度で和ませようとし、同じ行動同じ思考だと感じた際に舌打ちをすると目の前の相手もそうなのか舌打ちが聞こえる。

 

 再び、対峙するのも時間の問題だろう。 これだから糞ガキと一緒にいるのは嫌なのだ。 もう独り立ちでも何でもさせればいいものを。

 

 

 

 そうして、新しい生活を始めるアメリカでの初日は散々なものとなった。 これから先、こいつのせいでもっと酷いことになりそうだと私の勘が囁いている。 その時はこいつだけ地獄の穴へ突き落とし、私は高見から見物して嘲笑ってやろう。 全く、その時が楽しみだ。

 





 とりあえず、ジョセフは赤ん坊の頃から波紋使える+ティアに対して実験台的な感じで微強化的な感じのスタートになりました。

 赤ん坊でも波紋使えるのか? って疑問は内心残っているものの、せめて10歳辺りからの方が良かったかもしれない。(飛行機内で初めて使った的な感じだし)




 プロローグは楽に書けたのに、なぜ石油は……。

※:石油関連の話や波紋勢との和解案については次話のSPW財団関連の話で簡潔に書きますねー(話の流れとして)。

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