我が名はティア・ブランドー   作:腐った蜜柑

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どう終わらせようか悩んだ末に決まったので、ひとまず投稿と……。

うーん、本音を言えばこんな終わらせ方で良いのかどうかと思ってたりします。


まぁ、今は実はそんなことよりも今週の3部アニメ:ハンサム回の方が気になって仕方がないんですけどね!


正しき道は

 ジョジョがジャックを倒した。

 

 偵察に向かわせた女屍生人(ゾンビ)の口からはそう語られた。

 ジャックが倒されたということは既にトンネルを突破したということ、この町への侵入を果たしたということになる。

 

「やはり来たか、ジョジョめ。 ……だが、少し遅かったな」

 

 あれから数日が経った。 その間に私達は吸血鬼が持つ能力の実験及び下僕を増やす為に手を尽くした。

 小さいながらも歴史あるこの町は中世の頃には屈強な騎士達が集まったものだ。 それこそ、歴史に名を連ねる者もいる。

 さて、ではその騎士達の墓場はどこにあるのか? 死した騎士達はそう、この町に埋葬されていたのだ。

 

 私達はすぐさま二手に別れると夜の内に騎士達の墓場、埋葬された場所へと向かい自身の血を流した。

 あの光景は忘れられないだろう。 干からび、腐り、死んだ者達が次々と棺から起き上がり、中には土から這い出た者達が私にひれ伏すのだから。

 

 死者をも蘇らせ、下僕とする吸血鬼の力。 状態が余りに悪い者は蘇らなかったが、それでも屈強な騎士たちが配下となったのは心強い。 ……少々、臭うのが難点なのだが。

 

「「「ディオ様! ティア様! 万歳!」」」

 

「うふふ、これだけいれば計画がスムーズに進むわね。 ディオはそっちでいいの?」

 

「あぁ、俺はジョジョを始末しにいく。 この俺の手で決着をつけるッ!」

 

 屋敷に集った屍生人(ゾンビ)の数は32体。

 私達が練りに練った策を実行するこの日、2人で何体率いるのかという話をしている際に驚くべき答えが帰ってきた。

 

「タルカスとブラフォードを入れた半数を連れていく。 俺が蘇らせたのだ、文句はあるまい」

 

「良いわよ、こっちは数体でも十分ですもの。 あの2人を連れていくなんて、確実に殺す気なのね」

 

 当然だと不敵に笑うディオの傍に、甲冑を身に纏った筋骨隆々の3m近い大男と静かに長い髪の男が現れた。

 英国人ならば知らぬ者はいないとされるタルカスと黒騎士ブラフォード。

 タルカスは生前怪力の持ち主として知られ、岩をバターのように切り裂く逸話を持ち、ブラフォードは30キロもの甲冑を身に着け、5キロの湖を泳ぎ切り敵に奇襲を成し遂げた逸話を持つ男。

 この2人が個人においても軍を率いての戦い両方にて生涯無敗を誇った英雄と誰もが知るところだ。

 

「ジョジョの驚く顔が目に浮かぶ。 俺は歴史をも支配できることが証明されたのだからな!」

 

 首筋に纏った赤いスカーフを翻し、颯爽と半数の騎士ゾンビ達を引き攣れて外へ向かう夜の帝王。

 私は静かにその姿を見送り、残った16名の屍生人(ゾンビ)へ向き直った。

 

「貴方達、お腹が空いたでしょう? 思う存分に食べ、仲間を増やし、敵を屠りなさい」

 

「「「オォォォォ!」」」

 

 獰猛な雄叫びが部屋に響き渡る様子を私は満足したように見つめる。

 いよいよだ。 この町で下僕を増やし、ロンドンへと解き放てば私達の国を一つ建てることが出来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 町の中心より大分離れたいわゆる町外れ、そこに私達は集った。

 狙いは厳重な壁に囲まれた刑務所。 中に入っている悪人共を下僕にした後に街全体を襲い、全てを支配下に置いて屋敷へと戻る手はずだ。

 16名の騎士屍生人(ゾンビ)に加え、私が可愛がった後に下僕にして武器を持たせた女屍生人(ゾンビ)3名、そしてメアリーを入れた20名が私の前に並ぶ。

 いよいよ攻め込む時だというのに、人混みからメアリーが一歩前へと進み出ると、私の前で跪いた。

 

「ティア様、今夜の事の説明は受けましたが全て屍生人(ゾンビ)としてよろしいのでしょうか? 昼間に活動する者達も必要でしょう、女子供は確保すべきです」

 

「んんー、どうしようかしら? 貴方の言う事も一理あることだし……いいわ、女子供は全て屋敷に攫いなさい、これは命令よ」

 

 町の住人をあらかた下僕とした後に考えても良いことだが、メアリーは屋敷内の家事においても貢献していることだ。 ここは進言を聞き入れるのも良いだろう。

 だが、中には不満を持つ者もいるのか、腐臭を撒き散らしながら下卑た笑みを浮かべる騎士屍生人(ゾンビ)が私の前へ跪いた。

 

「ティア様! それはあんまりでございますよ。 若い奴の血はそりゃ美味くッ」

 

「「「ゲッ!?」」」

 

 目障りだ。

 そう感じた私の行動は早く、草を刈るように腕を横に薙ぎ払うと目の前の不快な存在の頭が弾け飛んだ。

 周りが動揺する中、私は冷たい視線を周りに向ける。 向けられた者達は皆一様に震え上がり、私の言葉を待つ。 そう、それでいい。

 

「私は『命令』と言ったはずよ? 誰がこのティアの命令に意見を申して良いと言った? 返事はッ!!」

 

「「「ハハァ!」」」

 

 男も女も皆一様にひれ伏す光景にやっと私は内心で沸き起こる感情を抑えた。

 別に顔が気に食わなかったのが一番の理由だが、それはもうどうでもいいだろう。

 

 数は減ったが、私は10名の騎士屍生人(ゾンビ)を刑務所に向かわせ、残りは私が率いて町外れを襲う。

 私は勝利を確信していた。

 いくらジョジョ達が手強かろうと、町の住人全てを下僕にして向かわせれば勝てるはずがないのだから。

 いや、そもそもディオに殺されているだろう。 そう考えると思わず鼻歌を歌いながら早足に歩いてしまう。

 遠目に見える刑務所の中から銃声が聞こえ始め、まるで私を称える曲を流すかのように、人の恐怖に満ちた悲鳴が響き渡る。 その曲に更に機嫌を良くした私が歌い出す。

 

 しかし、すぐに私の歌と余裕の表情は消されることとなった。

 町はずれの集落へと続く道、そこへ立ち塞がるかのように2人のマントを羽織った男が現れたからだ。

 

 鋭い意思が籠った目を見て分かる。 この者達は戦う為に立ち塞がるのだと。

 私は金色に光る月を見つめ、ついで今気がついたとばかりに2人を見つめ直す。

 

「今夜は良い夜ね。 こんばんは、私はティアよ。 貴方達は?」

 

「……ストレイツォ。」

 

「悪いが、そんな趣味の悪い服を着る屍生人(ゾンビ)に名乗る気はない」

 

 宝石がついたサークレットを被り、静かに名乗るストレイツォという男の容姿は評価しよう。 そしてもう一人の男は見るに堪えないといったレベルではないが私の琴線には触れないモノだ。

 

 私が今着る服は深紅のドレス。 まるで血の色のようなドレスを身に纏う、その意味が目の前の輩には理解できないようだ。

 

「うふふ、そうかしら? 貴方達のように歯向かう愚か者の血で染め上げる予定だったから、すぐに味わい深い服になるわよ? ……貴方達、波紋使いかしら?」

 

「ほう、我々のことを屍生人(ゾンビ)風情が知っているのか。 面白い、その身に味わわさせてやろう」

 

「……注意しろ、様子が可笑しい」

 

 なるほど、波紋使いというのは案外多くいるのかもしれない。

 その力を試す為というのもあるが、私が手で合図を出すと一斉に屍生人(ゾンビ)共が襲いかかった。

 但し、武器を持たせた女屍生人(ゾンビ)は待機させているが。

 

「フンッ、喰らうがいい波紋疾走(オーバードライブ)をッ! コオオオオッ!」

 

 目前に迫った騎士の攻撃を軽やかな身のこなしで避け、無防備な横腹へと拳を叩き込んだ。

 瞬間、屍生人(ゾンビ)の身体から煙が噴き出し、蒸発するかのように粉々に体が弾け飛んだ。

 それを私は冷静に観察し、様子を見ていた。

 

 ストレイツォとかいう男も拳が触れた相手の体を溶かし、砕き、蒸発させるかのように倒していく。

 観察を続けていると、攻撃をする前に妙な呼吸をしているのが気にかかる。 波紋とは呼吸が関係しているのだろうか?

 

 瞬く間に5人もいた下僕が残り一人になった所で無名の男が私の元へと走り寄ってくる。

 私を守るように周囲の女屍生人(ゾンビ)が剣や槍、斧のようなハルバードを構える。 これらは騎士達の棺にあった状態の良いものを拝借したものだ。

 しかし、私は余裕の笑みを浮かべながら周りの者達を下がらせた。

 左手を前に突き出し、右手は頬に添え、まるでダンスの誘いをするかのように迫る男へと向ける。

 

 これは賭けだ、私の吸血鬼としての能力を持ってしてのだ。

 吸血鬼としての能力、それは肉体を自由自在に操作できる点にある。 髪の毛一本さえも自由に動かすことが出来、骨格も操作をしようと思えばできないこともない。

 

 一体、どんな原理で体が溶けるように粉々になるのか。 ここで波紋を知らねば後々に大きな痛手となるのは目に見えている。 ならば身を持って、勝利を得るためにも私は覚悟を決めて腕を差し出そう。

 

「馬鹿めッ! 何を考えているのかは知らんが、滅ぼしてくれる。 波紋疾走(オーバードライブ)!」

 

 私は男が繰り出す拳を突き出した左手で受け止める。

 激しい痛みが腕を走り、沸騰するかのように皮膚が波打つ。 これは皮膚ではなく中だ、そう……血管ッ!

 波紋の原理は特殊な呼吸を血液によって全身を送り出し、繰り出す技ッ!

 瞬きよりも早く、私が波紋の正体を知ると同時に波紋が流れる腕の血液を『気化』させて流れを止める。

 

 

 するとどうだろう、運命というものは私に味方してくれるらしい。 

 咄嗟のことで腕の中にある水分を全て気化させてしまったのだろう、私の腕と共に男の腕が『凍った』のだ。

 

「な、何ィィィ―――ッ! き、貴様、ただの屍生人(ゾンビ)ではないな!?」

 

「これは……そうか、水分は気化させると熱を奪う。 余りに大量の水分を気化させた為に凍る程に熱を奪ったのね、あははは!」

 

 最悪、危険と判断した時には右手で左腕を切り落とす覚悟だった。

 覚悟が道を切り開く。 誰が言った言葉だったか? 私は波紋に対して攻撃と防御、両方を備える力を手に入れたのだ。

 既に男の左肩まで凍り、後はどう料理をしようかと考えた時、男の首を無骨なハルバードが刈り取った。

 

 呆気なく宙を舞う男の首を唖然と見つめるのは私と助けに駆けつけようとしたストレイツォという男。

 その手に持つ、体格に不釣り合いな巨大なハルバードを悠々と操るメアリーが血が滴る獲物を地面へと置き、私に跪いた。

 

「ティア様、余り無茶はしないでくださいませ。 ティア様を襲う敵は私の敵、私が相手をします」

 

「……あっそ。 それじゃあ、後は他の者達に任せようかしら。 ちょうど、仕事を終えたみたいだしね」

 

 正直に言えばメアリーには幾許かの自我が残っている節があり、何時かは私の寝首を掻くと思っていた。

 屍生人(ゾンビ)にすれば無条件で忠誠を誓うのだろうか? それともこれもまた演技という可能性もある。 私がそう考え込んでいると、刑務所の方から集団がこちらに向かってくるのが見えた。

 吸血鬼の視力を持ってすれば、闇夜に紛れた者であろうと目視するのは容易い。

 警備員らしき服装、単調な囚人服を着た者達を騎士屍生人(ゾンビ)の一人が連れてきている。

 恐らくある程度仲間を増やした後にこちらへ向かってきたのだろうが良い判断だ。

 

「貴方達、ちょうどいいわ。 3人だけあの男の相手をし……後は町を襲いなさい」

 

「ッ! 貴様、無力な者達を襲うとはどこまで下劣な屍生人(ゾンビ)なのだ」

 

「あら、無力な相手ならば好都合じゃなくて? ……それに、私は吸血鬼よ? 貴方が言う下劣な存在と間違わないで欲しいわ」

 

 野太い返事と共に男の足止めを数人がし、残りは町の方角へとなだれ込んでいく。

 これでいい。 屍生人(ゾンビ)屍生人(ゾンビ)を生み、ねずみ算のように無数に増えていくことだろう。 私は勝利を確信した微笑を浮かべ、その場を後にして屋敷への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷へと到着すると、真っ先に自室へと戻り、並べられてある獲物を吟味する。

 

「そうね、相性的にこれの方が使いやすそうね。 少し、見た目が悪いのが気にかかるけど」

 

 槍、ハルバート、斧、ナイフといった様々な武器の中から、何の装飾も施されていない実用性重視のロングソードを手に取った。

 柄の部分すらも鉄で出来ており、かなりの重量を持っていそうだが軽々と棒キレのように振り回せる。

 その事に満足し、私は鞘にも入れずに手で剣を持つと屋敷に残しておいた女屍生人(ゾンビ)に武器を持たせ、一人だけ連れ帰ったメアリーと共に大広間を目指す。

 

 先程、ディオが帰ってきたとの報告があったのだ。

 ならば、ジョジョは死んだのだろう。 後は波紋使いの襲撃だけを警戒すればいい。

 栄光の未来を思い描きながら廊下を歩き、エントランスを通る際のことだ。

 玄関から入ってきた見慣れた男の姿に目を疑った。 一体、どういうことなのかと。

 

「……ティア、君まで吸血鬼になっているなんて、そしてまさか、メアリーまでだなんて」

 

「お久しぶりでございます。 ご心配をかけたようで申し訳ありません、ジョジョ様」

 

 礼儀正しく頭を下げるメアリーなど眼中に入らなかった。

 ディオが傷を負う、またはジョジョを倒し切れなければ報告が入るはずだ。 伝えに来た者からは何の報告もなかったし、ディオも無傷のまま帰ってきたと言っていた。 全く訳が分からない。

 

 問題はそれだけじゃない。 ジョジョ一人だけではないのだ。

 周りにいるスピードワゴンとかいうカスを筆頭に、村の防衛に手一杯となると予想していたストレイツォ。 他に何度も修羅場を潜り抜けたかのように歴戦の戦士の風格を持つ老人と屈強な体格の青年。

 

(まずいわね、メアリーも予想以上に自我が残ってそうだし、この土壇場で裏切るかもしれないわね)

 

 ハルバードを持ったメアリーの戦闘能力はかなりのものだ。

 私が仕込んだというのもあるが、かなりの仕上がりだと認識している。

 所詮、私の敵ではないがジョジョ達と同時に相手をするのはさすがの私といえど危うい。

 

 ならば、ここは周りの下僕達にメアリー共々襲わせ、時間稼ぎをしている間に私は大広間へ逃げるべきだろう。

 そう指示を出そうとした時、メアリーがハルバードを両手で降ろすように持つと私の方へと振り向いた。

 

「ティア様、私がここで足止めをします。 その間に逃げてくださいませ……それと、最後にこれを」

 

「あ、あらそうなの? これは……手紙?」

 

 予想外の申し出に思わず面食い、動揺しながらも素直に差し出された茶色の封筒を手に取った。

 それに最後とはどういう意味だろう? 私を裏切るつもりなのか、それだけでも知りたい所だが正直に尋ねるというのも馬鹿らしすぎる。

 

 

「ティア様。 私は長いこと貴方を見てきましたが、貴方は本当に臆病な方です。 生き延びた後に手紙を読んでください、それに思う所がないとしても私はそれでも満足です」

 

 躾けのなっていない子供を叱るように、顰めっ面だったメアリーの表情が微笑みへと変わった。

 彼女は他の屍生人(ゾンビ)達とは違い人を喰わず、化物のような姿をしていなかった。 顔色は悪いが生前の人間としての姿を保っていた。

 理由は私が思っていた通り、類まれなる精神力のお陰だろう。 眩しい程に高潔な精神力の……。

 

(いえ、一時の感情に惑わされている場合ではない。 私は王、強者よ。 何を感傷的になっているのか)

 

 内に沸き起こった感情を抑え、周りの下僕達にも足止めを指示すると私は大広間へと続く扉を開け放つ。

 振り向きなどしない、私に尽くすのは当然だ。 道具を使うことを躊躇する者がどこにいる。

 後ろから焦ったようなジョジョの声。 次いで、私の耳に入ったメアリーの言葉。

 

「メアリー! 君とは戦いたくはない、幼い頃から一緒に過ごした君とだなんて!」

 

「ジョジョ様、覚悟を決めてくださいませ。 貴方様の父君、そして貴方様にも恩義を感じております。 ですが、私は自分の意思で最後までティア様のお味方をすると、その約束だけは果たしたいのです」

 

 反射的に振り返ってしまった。

 扉が閉まる直前の隙間から、メアリーが武器を構えて立ち塞がる姿を最後に硬い扉は閉じられた。

 

 思わず横にあるレンガを積み重ねた壁を殴りつける。 屋敷が壊れるのではないかと思える程の衝撃と音が響き渡り、壁が粉々に砕け散った。

 心が張り裂けそうになるほど痛む。 その理由も知っている。

 

(私は、強い! 強い者は弱い者を利用していいのよ! 何も、私は何も悪くないッ!)

 

 頭を抱え、髪を振り乱しながら振り切るように走り出す。

 答えを知っているのに、それを見ないフリを、気づかないフリをしている自分に嫌気がさす。

 

 それでも私は必至に目を瞑り、目の前の光に気づかないフリをして暗闇へと逃げ出す。

 そうでもしないと、私が、私でいられないからだ。

 

 

 

 

 

 大広間へ続く扉を突き破るように開け放つと、機嫌が良さそうなディオが私に気がついたのか近寄ってくる。

 

「騒々しい、誰かと思えばティアではないか。 見てみろ、ジョジョを始末した帰りに近くの集落を襲い、下僕を増やしたぞ。 そっちはどうだ?」

 

 指差す方向へ目を向けると、猛獣のように獰猛な瞳を持つ屍生人(ゾンビ)達が天井に張り付いている。

 それを見ても、私の心は荒んだままだ。 せいぜい蝙蝠みたいだ、としか思えない。

 私の表情が暗いことに気がついたのか、ディオが声を掛けようとした所で無理やりその腕を引っ張り、中世風の趣きで彩られたバルコニーまで引っ張った。

 ここならば、誰にも聞かれないだろう。

 

「おい、何をする離せッ! ティア、一体どうしたというのだ?」

 

「……ね、ねぇ。 私達、正しいわよね? 何も、間違っていないのよね?」

 

 ディオの私を見る目が厳しくなるのが分かる。

 いついかなる時も、決して弱みを見せなかった私が体も声も、震える程に脅えているのだから。

 私が弱みを見せる時は相手を欺く時のみ、だからこそディオは警戒したのだろう。

 

 だが、時間が経つと分かったのだろう。 私がどれだけ不安定な状態なのかを。

 それに気づくとディオは視線を前へと向けた、次いで吐き捨てるように舌打ちをする。

 

「貴様、何をそんなに弱気になっている。 正しいか正しくないだと? それは俺が決めることだ」

 

「う、そ、そうよね。 後、ジョジョが生きてる、わ」

 

「何ッ!? まさかタルカスとブラフォードを打ち破ったとでもいうのか? ジョジョめッ!」

 

 半ば予想していた通りの答えが返ってくる。

 それでも私の震えは収まらず、絞り出すように小さな声でジョジョが生きていることを伝えると、ディオも倒したとばかり思っていたのか表情が怒りに染まる。

 私が必死に両腕で身体を押さえつけ、震えを止める為にも掴んだ指に力を込める。

 血が流れ、鋭い痛みも感じるが、それでも必死に押さえつけているとますますディオの視線が冷めていく。

 

「貴様、ジョジョを恐れているとはいうまいな? 正直、ここまで軟弱だとは思わなかったぞ」

 

「ち、違うわ。 私、本音を言えば、怖いのよ。 私、私は正しいわよね?」

 

 姉という呼び方から名前へ、そして今は貴様としか呼ばれない。

 それは順に姉弟の力関係を表しており、ディオが姉さんと呼ぶなら上だと感じ、名前ならば対等に、そして物の名前を指すかのように貴様と呼ぶのは下と見ているからだ。

 

 それでも、姉として見ていたのだろう。

 その目が、他人を見るように無関心の色が出てきた時、私は目を逸らした。

 目が言っている。

 2度も同じことを聞く程に愚者と成り果てたのかと、このディオの姉として相応しくないと、もはや吸血鬼として同列にいること自体が恥だと。

 

 不意に両肩を砕けるのではないかと思える程に強く掴まれ、引っ張られた先はディオの胸元だった。

 見上げた先には深紅の瞳が妖しく輝き、私の内部を侵食していく。

 

「あの小賢しく、強かなティア・ブランドーはどこへ行った? いついかなる時も不敵に、自己愛の極みにいる下種なティアはどこにいる? お前だ、お前はいついかなる時もそうでいろ!」

 

 ディオの言葉が私の心へ入り込み、私を形成していく。

 これは洗脳だ。 そう頭のどこかで理解し、拒むことが出来たであろうが弱い私は素直に受け入れていく。

 

 そうだ、何を迷う必要があるのだ。 私は私が無事であり、幸福であればよいのだ。

 今だに悪意ある人物のことを貶すように、言葉にするディオの頬を叩く。

 

「うごっ!? な、何をする貴様ッ!」

 

「あら、強く叩きすぎたかしら? 貴方が悪いのよ? ジョジョがしっかり生きているんだから、お仕置きよ」

 

「……チッ、強力な手駒が必要だとはいえ、我が強い者というのも不便なものよ。 ティア、これからどうするべきだと思う?」

 

 軽く叩いたつもりなのだが、吸血鬼としての力だと殴ったような威力になるようだ。 勢いよく首が横へ向き、次いで怒ったのかこちらを睨みながら私の名を呼ぶ、私の可愛いディオ。

 これから先をどうするのか? そんなものは当然決まっている。 私の口元が歪に弧を描くのを感じる、切に待ち望んでいたものだからだ。

 

「ジョジョ達を皆殺しにする。 何を当たり前のことを言っているのかしら?」

 

「それでいい、それでこそティアだ。 客を出迎える準備をせねばな」

 

 準備と言いつつも動かず、ディオはバルコニーの先に見える月を見つめているだけだった。

 まるで準備など不要、何もせずとも己の勝利は揺るがないと自信に満ち溢れている態度だ。

 ならば、私も無様な姿など見せられまい。 遠目に見える町並みが後に私達の手に落ちる、その前夜祭のようなものだ。

 

 大広間へ続く扉が蹴破られるような音が聞こえる。 お客様のご登場だ。

 

「来たか……」

 

「来たわね」

 

 同時に振り向き、見下すような視線で不作法に入ってきた者達を見つめる。

 そう、怒りに燃えるジョナサン・ジョースターを嘲笑うかのように。





気化冷凍法って凍らせる程に熱を奪うのか? って疑問は置いといて、相手の血液すらも気化させるってどうやるのか想像が全くつかないなぁ。 (自分のなら、吸血鬼だからそうなのかなーとは思うけども)

後2話程度で終わるから、パパッと仕上げてIFENDかな。

……無名の波紋使いさんは名前考えるのが面倒だから、名乗らせなかったり。。。

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