何気なくジョジョ読み返しているとやっぱり面白いものだなぁ。 ……あんまり変な設定つけるとおかしくなりそうだから少し程度に抑えとこう。。。
プロローグ
「ここへ来い。 き、聞こえねぇのか。 ティア、ディオ……ごほごほっ」
何度も言わずとも耳に入る不快な男の声。
隣で静かに本を読む我が弟、ディオを少しは見習えばいいものを。
「……ふぅ、具合でも悪いのですか?」
「なんだい父さん薬かい?」
「い、いいや。 薬はいらねぇ、ティア、ディオ! ここへ来い話がある」
胸を押さえながら咳き込み苦しむ我が父、ダリオ・ブランドー。
私が満面の笑みを浮かべながら尋ねるとその苦しげな表情が和いだ。
笑顔の元が貴様の苦しむ姿から来るものだと知ったらどう思うだろうか? 隣で冷たい瞳を向けるディオも内心で笑いを堪えていることだろう。
「お、俺はもう長いことねえ……分かるんだ、最後の気がかりはお前達兄弟だけだ」
「まぁ、そんなことは仰らないで父さん。 貴方にはもっと長く生きて貰わないと」
そう、1日でも1時間でも1分でも長く苦しんで貰わないと気がすまない。
私達姉弟が敬愛する母をこき使い、死なせた報いはその程度でも足りないぐらいだ。
「ティア、お前は母親に似て良い奴だな……俺が死んだらこの手紙を出して宛名の所へ行け! 面倒は全部見てくれる、こいつは俺に恩があるんだ! ケケケ」
何の話かと煩わしく感じながらも耳を傾けると12年前の激しい雨の日、その日に偶然崖から落下した馬車の一行を見つけたそうだ。
ダリオはその卑しい本性を隠そうともせず、落下した馬車の者達から金品を巻き上げたとのこと。
その際に生き残りの一人が何を勘違いしたのかダリオを恩人と認識し、あろうことかその人物は貴族の一員だという。
貴族の名はジョージ・ジョースター卿。 命の恩人の頼みとあればと快諾し、屋敷にて兄弟で生活することを許したらしい。
「ティア、ディオッ! 俺が死んだらジョースター家へ行けッ、おまえたちは頭がいいッ! だれにも負けねえ、一番の金持ちになれよ!」
「「……」」
この男に心配されるなど、いやされたくもないが呆れて思わず2人で見つめてしまう
すでにこの男が死んだ後のことなど、とうに考えているというのに。
数日後、苦悶の末にダリオ・ブランドーは病死した。
体は痩せ細り、いつも苦しそうに胸を押さえながら咳き込む姿を見るのが唯一の楽しみだったというのに残念だ。
悪友関係か、病気の噂が広まった頃には見舞い客が何人か来たものの全て追い返した。
お陰で私達の前では気丈に振る舞っていたあの男が夜中、一人寂しく呻いていたのを聞いた時には愉悦を感じた者だ。
葬儀には誰も来ず、ただ簡素に埋葬を済ませた墓石の前に私とディオは佇んでいた。
「……男というものはどうしてこう、醜いものなのかしらね。 母さんの血は誇りに思う、けどこの男の血が半分も流れていると思うと腸が煮え繰り返るわ」
「姉さん、俺も男だがそれと同類にしないでくれ。 それよりも、これからどうするかはもちろん決まっているんだろう?」
「あら、私の可愛いディオ。 貴方は特別よ? えぇ、分かっていますとも、あの男の言葉に従うようで癪だけど、誰よりも金持ちに、誰よりも幸福に、誰にも負けない人物と成るだけ」
静かに頷くディオ。
私にとって男とは足元で眠る者のように下劣で汚らわしく、そして品性の欠片も無いものを指す。
一時期どこでまとまった金を手に入れたのかダリオが酒場を始めたものの、ダリオ自身は他の女と共に浪費を続けているだけの堕落した生活、だというのに代わりとばかりに私達の母親だけを働かせ続けた結果、母は過労で倒れて亡くなった。
母は男の為というよりも、私達姉弟の為に働いてくれたのだ。 その母としての愛情と包容力だけが私の心を保たせてくれた。
いつまでもこんな寂れた墓場などに留まる理由もなく、父との忌々しい関係ともこれでおさらばともなれば少しは感慨深く……なるはずもない。
「「くずめッ」」
決別の言葉だけを残し、墓石に唾を吐くディオと足で土をかける私。
考えていたことは一緒だったのか、互いに目を合わせると薄くほほ笑んだ。
あぁ、やはり私達は姉弟だ。 この世で家族といえるのは私の母とディオのみ。 それ以外は……私の踏み台にすぎない。