超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第67話 囮の役目と新たな出会い

ルウィーの雪の大地を真上から太陽が照らす頃、とある雪原にて、たった1人佇む少年を、何人もの人と幾つものロボットが囲い、各々の武器をその少年へと向けていた。

 

「テロリストのリーダーよ! 貴様は既に包囲されている! 無駄な抵抗はやめて、神妙にお縄につけ!」

 

少年を囲う者たちの中のリーダー格の男が大声を張り上げ、少年に投降するように言う。 しかし、声を向けられた少年は何も返答を返さず、ただただ己を囲う者たち、ルウィー教会の兵士たちを見やるだけ。 その少年の態度をリーダー格の男は、投降する意思なしと判断したのか苛立つように言った。

 

「……あくまで反抗するという事か。 ならば、容赦はしない!」

 

男はそう言い、モンスターが現れるディスク、『エネミーディスク』を取り出し空へと掲げた。 するとそのディスクが光り出し、ディスクの中から何かが現れる。 ディスクから最初に現れたのは、3つの鋭いかぎ爪を尖らせ、肘に巨大な突起を生やしている太く巨大な腕。 次いで現れたのは、敵を射抜くかのような赤き目に、全てを噛み砕くかのような鋭い牙を光らせた、獣の顔。 そして、最後に現れたのはその巨体に見合った大きさの、巨大な翼。 そのモンスターは、本当に小さなディスクから現れたのかが疑われるかのような巨体であった。

 

「グォォォォオオオオオ!!!」

 

この場所へと降り立ち、空へと咆哮を上げたそのモンスターの名は『エンシェントドラゴン』。 このゲイムギョウ界では、通常のモンスターたちと比べて能力値の高い『危険種』と認定されている種だ。

 

エンシェントドラゴンが現れた瞬間、他の兵士たちは最初は驚くようにどよめいていたが、やがてそれは歓声に変わる。 このゲイムギョウ界で高い能力を持つ危険種を倒せる者はそうはいない。 だからこそ危険種として認定されるのだから。

 

最近になって一部のルウィー教会の兵士たちは、モンスターを呼び出すディスクなるものを、自分たちの主から受け取っていた。 その詳しい原理や出処などを聞かされてはおらず、未だにモンスターを使役することに戸惑う者や不満を持つ者たちもいる。 だが、この場において危険種のモンスターは、敵になれば恐ろしいが、味方になればこれほど頼もしいものもないだろう。

 

「さあ行け! エンシェントドラゴン! あいつを叩きのめすのだ!」

 

「グォォォォオオオオオ!!」

 

リーダーの男の指示が飛び、直立していた2本足を蹴り出し、翼を羽ばたかせて少年へと突進する。 幾らテロリストのリーダーとして選ばれた実力を持つ持ち主でも、危険種には敵わないと考え、兵士たちは誰もが無残に倒れるその少年の姿を想像した。

 

 

だが、現実は違った。

 

 

「……」

 

自分に迫ってくる巨大なモンスターに対し、その少年は逃げも隠れもせず、ただ真っ向からエンシェントドラゴンを見据えていた。 ついにエンシェントドラゴンは少年の目の前にまで迫り、その鈍く光らせる黒いかぎ爪を横薙ぎに振った。

 

しかし、振り抜かれたかぎ爪に、獲物を切り裂いた跡は無い。 いや、そもそもエンシェントドラゴンの振るったかぎ爪は何にも当たることは無く、空を切っただけであった。

 

そして、エンシェントドラゴンが標的とした少年は、いつの間に飛び上がったのか、そのドラゴンの頭の上に上空から着地していた。 少年は左手をエンシェントドラゴンの頭に添え、右腕を引いて拳を構えると

 

「フンッ!!」

 

力を入れるように声を出し、ドラゴンの頭の眉間へとその拳を叩き込んだ。 エンシェントドラゴンの巨大と比べ、明らかに貧相な細腕から放たれたその拳は、メキメキと音を立てながらエンシェントドラゴンの体へとのめり込んでいく。

 

「グオォォォオオ!??!」

 

頭に何かが乗ったのを近くした途端に、凄まじい衝撃がエンシェントドラゴンを襲い、エンシェントドラゴンはそれに耐える事が出来ずに、頭を地面へと叩きつけられ、その真下にはクレーターが出来上がっていた。

 

まるで巨大なハンマーでも振り下ろされたかのような衝撃は、エンシェントドラゴンと言う緩衝材を通した上で、クレーターを作り出したのだ。

 

「な、なんだと!? エンシェントドラゴンが、たった一撃で……クソ! 立て! 立つのだエンシェントドラゴン!」

 

リーダーの男はついさっき頼りになるように高らかに咆哮を上げたエンシェントドラゴンが、決して自分たちとそれほど体格の変わらない人間のパンチ一撃で地面へと倒れ伏せられるのを目の前で目撃し、驚愕したが、すぐに立ち直りエンシェントドラゴンへと強く呼びかけた。

 

「……ォ、オオ……」

 

しかし呼びかけに応じるエンシェントドラゴンの声はあまりにも弱々しい。 まだ何とか生きてはいるが、その巨体はピクリとも動かない。 その事実が、エンシェントドラゴンが地面へと打ち付けられ、動揺していた兵士たちのどよめきを更に増長させる。

 

「……そんな、危険種がたった一撃で倒されるだなんて……」

 

「あ、あんなの、人間じゃねぇ……。化物だ……」

 

エンシェントドラゴンの頭上に立つ少年に対し、後ずさる兵士たち。 未だに標的へと武器を向けているのは機械であるアヴニール製のロボットだけだった。

 

「……僕は、あなたたちに恨みがある訳では無いし、ましてやこの国を貶めようなんて、微塵も考えてもいない」

 

唐突に、エンシェントドラゴンの頭を足場に立っていた青年は地面へと降り、自分を囲う兵士たちに話しかけつつ、兵士たちに歩み寄る。

 

「だからと言って、大人しく捕まるわけにもいかない。 だから、あなたたちが僕を捕まえようと言うのなら、こちらも抵抗させてもらうよ。 ……けど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにいる人たちだけじゃ、僕を捕まえるのはおろか、倒すことも出来ないよ」

 

 

テロリストのリーダーとして扱われたその少年、イツキの言葉に、その場にいる人間たちは格の差を見せつけられ、同時に戦慄が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当にイツキさんは大丈夫なのでしょうか……?」

 

「……大丈夫よコンパ。 イツキの強さは知っているでしょ。 余程の事が無い限り、イツキが負けることなんて無いわ」

 

イツキがネプテューヌたちと別行動を始めて数十分。 ネプテューヌたち一行はイツキに指示された通りに進み、待ち人がいると言う目的地へと歩を進めていた。 その時、不安げに呟いたコンパの言葉に、アイエフは励ますように言うが、アイエフ自身もコンパと同じ思いだったのか、その不安を含んだ言葉はあまり説得力が無かった。

 

イツキが急にその場から飛び出して行った後に、聞こえてきた兵士の言葉から、ネプテューヌたちはイツキの言う仕事と言うのが、自分たちを安全に進ませるための囮だと理解した。 そう理解した瞬間、ネプテューヌとアイエフがイツキの後を追おうとしたが、それはベールによって止められてしまった。 当然ネプテューヌとアイエフは何故止めるのかベールを問い詰めた。 それに対してベールは、2人に落ち着くように言い聞かせた。

 

 

『ネプテューヌ、あいちゃん。 お2人の気持ちは分かりますが、ここでイツキさんを追っても、彼の邪魔になってしまいますわ。 ですから、今はイツキさんの言っていた人と合流するのを優先させましょう』

 

 

ベールはイツキが囮に買って出た理由を理解していた。 ルウィーの兵士たちが、今誰を最優先として追跡をしているのかを考えれば、それはイツキであると推測出来てはいたからだ。 勿論ルウィーの兵士たちは、ネプテューヌたちを邪教徒として追ってはいるが、実害があると断定されている訳では無い。 しかし、イツキは既にテロリストとして認定されており、実害があるとされている。 この時点で優先して捕まえるべきはイツキであると判断するだろう。 つまり、この中で囮をするならイツキが適任なのだ。 ベールは先ほどイツキが飛び出し、近くにいた兵士たちの注意を引きつけた際に、兵士が呟いた一言からその予測が確信に変わった。

 

その事をアイエフとネプテューヌに伝えて、今の自分たちがイツキを追いかけても、囮としての役割を果たしきれない事を説明し、今はイツキの言った人物と合流するべきだとしたのだ。 アイエフは納得しつつも、不安気にして時々イツキの飛び出して行った方を見やり、ネプテューヌは未だに不満気にしていた。

 

「大丈夫ですよ、イツキさんなら。 ……ところであいちゃん、そのわたしたちの味方である人と合流するためにも、無線を繋げて貰えませんか?」

 

「は、はい」

 

「───その必要はありませんよ」

 

ベールに言われ、アイエフはイツキから渡されたトランシーバーの電源を入れようとしたが、背後からかけられた言葉によってそれは遮られた。

 

「お久しぶりです、みなさん」

 

森の茂みの中から、ネプテューヌたちの前に現れたその女性は、挨拶と同時に腰を曲げ、丁寧にお辞儀をした。

 

「……あ! さっきルウィー教会で会った……」

 

「はい、ホワイトハート様の侍従のフィナンシェです」

 

コンパはその女性の着ている服と、その容姿から先ほどルウィー教会で最初に会ったメイドである事に気付き、その呟いた言葉にその女性、フィナンシェは肯定の意を返した。

 

その言葉を聞き、アイエフは片手でネプテューヌたちを庇うように突き出し、もう片方の手に愛用のカタールを装備する。

 

「……まさか、この国の女神はあなたのような侍従でさえも追っ手として駆り出すの? いくら女でも、私たちの邪魔をするようなら斬るわよ」

 

アイエフはカタールをフィナンシェに向け、そう答えた。 なにせ、目の前の女性は自分たちを捕らえるように指示した女神の侍従だ。 アイエフが敵意を示すのは当然の事だろう。 それを聞き、フィナンシェは慌てて弁解する。

 

「邪魔だなんてそんな! その逆です! 訳あって、みなさんを逃がすためにも、イツキさんに協力してもらったんです」

 

「……もしかして、イツキさんが言っていた、わたくしたちの味方と言うのは、あなたの事なのですか?」

 

弁解するフィナンシェの言葉を聞き、ベールはこの場に戦闘能力を持たない侍従が1人居ることと、今言った弁解からそう考え、フィナンシェに疑問をぶつけた。 フィナンシェは話を聞いてくれる余地があると知りホッとし、話を続ける。

 

「はい。 イツキさんからあなたたちをわたしたちのアジトへと案内するように言われております。 時間がありません。 わたしについてきてください。 ……もし、わたしがあなたたちを騙すような真似をしたのであれば、その時は斬っていただいてかまいません」

 

そう言ってフィナンシェは背中を向け、両手を後ろ手に回した。 フィナンシェのその信用されるがためにする態度に打たれ、ネプテューヌとコンパはアイエフたちに

 

「……ねぇねぇ、なんだか訳ありっぽいしさ、ここまで言っているんだから信じてあげようよ」

 

「そうです。 疑う前に信じてあげるです」

 

フィナンシェを信じようと、説得をする。 ネプテューヌとコンパの良くも悪くも純粋で誠実な性格ゆえの判断に、ベールは呆れつつも

 

「はぁ……、まったくあなたたちときたら、とんだお人好しですわね。 ……まあ、わたくしは構いませんけど」

 

と答えた。 と、その時何か機械の通信に混じる雑音が小さく響き、一同は何事かと振り返る。 音の発信源は、どうならフィナンシェの持ち物からのようだ。

 

アイエフはいつの間に取り出したのか、イツキから借りたトランシーバーを片手にフィナンシェに近づき、フィナンシェの懐を探り、その中からトランシーバーを引っ張り出した。 アイエフは片手に持っていたトランシーバーを軽くコツコツと叩くと、ほんの少しのタイムラグの後に、フィナンシェの懐から取り出したトランシーバーから、何かを叩く音が聞こえてきた。

 

「……イツキの言っていた通り、味方である事は確かみたいね。 この無線もあなたの持つ物と同じ周波数のようだし」

 

アイエフのフィナンシェへの疑いを晴らす言葉に、ネプテューヌとコンパは嬉しそうにして答えた。

 

「おー、それならこの人を疑う必要はもう無いよね? それじゃ、早いとこアジトに連れて行って貰おうよ! わたしもう疲れちゃってさぁ〜」

 

「わたしも、早く暖かい部屋に入って、温かい飲み物が飲みたいですぅ」

 

「……ハァ、まったくアンタたちは……」

 

自分で疑惑を晴らしておいて難たが、ネプテューヌとコンパの気楽すぎる態度に胃が痛みそうなアイエフだった。 そんなネプテューヌたちの楽しそうな雰囲気に、フィナンシェはつい笑みを零してしまう。

 

「……フフ、信じてくれてありがとうございます。 では、みなさんわたしについてきてください」

 

フィナンシェは手を後ろ手にしたままそう言うと、ネプテューヌたちが直進していた方向とは少しズレだ方向へと歩み始めた。 ネプテューヌたちもそれを追うように歩を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「ビッ……ガガッ……」

 

「ギャゥアァ……」

 

幾つものアヴニールの兵器の残骸と、倒れ伏せる巨大なモンスターを足場に、1人立つイツキは仁王立ちをし、自分と言う存在に恐怖を感じつつも、戦意を失くさない兵士たちや、物言わずただ銃口を向けるR-4カスタムと、その後ろに控えるビットスカウトを睨みつける。

 

「……いい加減にしてくれないかな。 僕はこれ以上あなたたちに付き合う義理も理由も無いんだ」

 

苛立ちの含まれたその脅しの言葉に、ルウィーの兵士たちはたじろぐ。 かれこれ彼らは30分以上はこの場における持てる全ての戦力をイツキへと向けていた。 だが、兵士たちがGGM-Ⅲで射撃しようと、ビットスカウトの支援を受けたR-4カスタムが実弾を撃とうと、イツキはそのことごとくを躱す。 実弾がイツキの体を捉えたとしても、その弾丸はまるで金属に弾かれたかのように跳弾する。 頼りにしていた危険種であるエンシェントドラゴンは、初めに地面へと殴り倒されて以降、一向に起きる気配が無い。 ルウィー教会の兵士たちにとっては、正に悪夢であった。

 

一方で、現在進行形でその悪夢を見せている張本人である、イツキと言えば

 

(……は、恥ずかしい……! 何かさっきから僕、自ら黒歴史作ると言う愚行を犯している気がする……お願いだから、もう帰らせて! これ以上僕に恥かかせないで!)

 

顔は真顔ではあるが、先ほどからルウィー兵士へと告げている台詞に対して、羞恥心で一杯にしていた。 状況が状況で無ければ、イツキは今頃顔を真っ赤にして枕に顔を突っ込み、何度も枕を挟んでベッドに頭突きをしていただろう。 しかし、そこは必死にその衝動を抑えつけて、表面上は全く表情を崩さず、後ずさる兵士たちに告げる。

 

「……もう分かったでしょう? あなたたちでは、僕には敵わない。 このまま素直に引いてくれれば、僕はもうあなたたちに手出しはしない。 これ以上そちらが無駄な被害を増やした所で、あなたたちには何の利益も無いはず。 僕としても、時間を無駄にはしたく無い」

 

(耐えろ……! 耐えるんだ僕! ここで顔を真っ赤になんてしたらいけない!)

 

表情とは裏腹に、内心かなり必死のイツキ。 そんなイツキの心境を知る筈もないルウィーの兵士たちは、目の前の存在の強大すぎる力に、殆ど戦意を喪失していた。

 

「……む、無理だぜ……あんなやつに敵うわけ無い……!」

 

「これが、テロリストのリーダーの実力……」

 

「もうダメだ……おしまいだぁ」

 

支給装備、GGM-Ⅲの銃口を下げ、段々と後ろへと後ずさる兵士たち。1人でも今ここから逃げ出せば、後は蜘蛛の子が散るようにこの場から逃げていくだろう。

 

「くっ……! 怯むな! 数はこちらの方が多いのだ! 奴とて疲労はある筈だ! アヴニールの兵器を主体に、人海戦術で奴を攻めるのだ!」

 

しかしそんな中、兵士たちのリーダーが、他の兵士たちを鼓舞して指示を出す。 その指示にルウィーの兵士たちは、逃げかけていた足を止め、指示された通りアヴニールの兵器たちを例のディスクから呼び出した。

 

(……まだ諦めてくれないか……)

 

イツキは未だに自分を捕らえようとする兵士たちに対し、内心でそう思った。 イツキは実はほんの少し前の戦闘中に、フィナンシェからネプテューヌたちと合流したと言う合図の通信を、バイブレーションで受け取っていた。 フィナンシェと合流したのならば、ネプテューヌたちは土地勘の無いこのルウィーでの、案内人を得たと言う事だ。 フィナンシェは比較的人目の付かない道を知っている。 つまり、ここでイツキはこれ以上囮に徹する必要は無くなったのだ。 まだまだイツキには余裕はあるが、消耗が全く無いと言う訳では無い。 この場でこれ以上キリの無い戦いをするのは、あまり良い策であるとは言いづらかった。

 

(いつもなら、手榴弾使って逃げるとこだけど、もう使い切っちゃったんだよね……さて、どうしたものか……)

 

どうにかしてこの場から逃れる方法を考えるイツキ。 しかし、今のイツキに使える武器は少なく、この状況から完全に敵から逃れるビジョンが浮かばずに、考えあぐねていたその時だった。

 

「───困っているみたいだね?」

 

唐突に、イツキの耳に自分に向けられた誰かの言葉が入り、それに反応して後ろを振り返るも、そこには誰もいなかった。 聞き違いかと思ったイツキだったが、イツキが謎の声を聞いて後ろを振り返っている間に、既に異変が起きていた。

 

「!? な、なんだ!?」

 

「け、獣か!? おい、そっちに行ったぞ!」

 

「は、はやい!」

 

イツキを囲うルウィーの兵士たちと警備ロボットたちの間を縫うように、凄まじい速度で移動する謎の影。 その影にすぐ近くにまで接近された兵士たちは、何事かと驚きつつも、その生物を慌てて捕らえようとするが、俊敏な動きをするその生物を捕らえる事は出来ずにいた。 その影はやがてルウィーの兵士たちの並ぶ円を一周仕切ると、空中に飛び上がり、バク転しながらイツキの目の前に着地した。

 

「……あの、あなたは……?」

 

突然の事にイツキもやや呆然としつつ、目の前に現れたその者へと何者か問いかけた。 その問いかけに対し、その少女はすぐに返答をよこした。

 

「私はサイバーコネクトツー。困っている人を見たら、つい助けちゃうお節介焼きだよ……って、これは私の仲間の受け売りだけどね」

 

ゴーグルに動物の耳のような形をしたキャップに、そのキャップでは抑えきれないツンツンした黄色い髪、その首元にはネックウォーマのようなものと、その短パンと下半分を切り取ったかのようなスーツを身に纏い、大胆に小麦色に焼けた肌を晒すその少女は、頬をかきつつそう答えた。

 

突然の乱入者に、助太刀をされたイツキを含む全員が驚く中で、最も早く次の行動に移ったのは、ルウィーの兵士たちのリーダーだった。

 

「クソ、敵の増援か。 構うな! 敵はたった1人増えただけだ! 展開した兵器を使い、数で押し潰せ!」

 

毒づきつつも声を張り上げて、アヴニールの兵器に指示を下すように周りの兵士たちに命令し、自身も呼び出したR-4カスタムに命令を下そうとした。 だが

 

「なっ、なんだと!?」

 

命令を下そうとしたR-4カスタムは、まるで刃物で斬られたかのように、機体をスッパリと半分にされており、中の部品を露出させて、地面へと転がされていた。 どうやらそれは目の前にいるR-4カスタムだけでは無いようであり、周りにいた他の兵器たちも漏電を起こしつつ、機体を斬られた状態で地面に転がっていた。

 

「あぁ、君たちがあてにしていたそのロボットたちは、もう全部斬っちゃったよ」

 

サイバーコネクトツーは少し見ていない間にアヴニール製の兵器が破壊されていたことに驚愕する兵士たちに、両手に持つ刃の黄色いダガーを空中に投げ、逆手に持ち替えながら、さらりと告げた。

 

リーダーの男は舌打ちしつつ、支給装備のバックパックに再び手を伸ばした。 確かに兵器を壊されはしたが、今壊されたものだけが出し得る全ての兵器と言う訳では無い。 まだアヴニール製の兵器が収納されているディスクをその男は持っていた。

 

「ふん、だが幾ら壊したところで、まだまだこちら側の兵器は残っている。 皆もまだ兵器が残っているのなら、出し惜しみせずに……ん?」

 

リーダーの男は疑問符を浮かべる。 腰につけた筈のバックパックに手を伸ばした筈が、何故か袋口に手を入れても、支給されたディスクを掴む事が出来ない。 それどころか、小さい筈のバックパックの底に手が届かなかった。 どうしたことかとその男は腰を捻り、確認した。

 

「……! こ、これは……」

 

視線の先にあったのは、口が開いたかのように横に真っ二つに斬られた、支給品の革製のバックパックであり、その真下には一緒に支給されたディスクがバラバラに散らばっていた。 ご丁寧に、それらのディスクも綺麗に分断されていた。

 

「だから言ったよね? 君たちがあてにしていたロボットたちは()()()()()って」

 

サイバーコネクトツーは、両手に持つダガーを慣れた手つきでジャグリングするように持つ手を交互に変えたり持ち手を変えたりを繰り返しながら、余裕の表情で茫然とするリーダーの男に答えた。 その言葉に男は歯噛みし、悔しそうにサイバーコネクトツーを睨みつけるが、睨みつけられている本人は全く気にせず、言葉を続ける。

 

「で、これから君たちどうする? 別に抵抗してもいいけど、この雪の大地で真っ裸って言うのは中々厳しい物があると思うけど?」

 

逆手に持ったダガーを振りつつ笑顔で答えるサイバーコネクトツー。 抵抗すれば、 身ぐるみ全て剥ぐと言外に言われたルウィーの兵士たち。 既に彼らには戦意も戦力も残ってはいなかった。

 

「……ちっ、全員撤退! 退却しろ!」

 

リーダーの男は、それが分からない程馬鹿では無かったようであり、舌打ちしつつ撤退の命令を全員に下した。 リーダーの命令を受けた瞬間、ルウィーの兵士たちは脇目も振らず、一目散に逃げて行き、あっという間に見えなくなってしまった。

 

この場にいるのはイツキとサイバーコネクトツーだけであり、後にあるのはアヴニールの兵器の残骸と、未だ弱々しく地面へと倒れ込んでいるエンシェントドラゴンだけ。 そんな中、イツキはサイバーコネクトツーの方へと向き直り、助けてくれた礼を言いつつも質問をした。

 

「あの、助けてくれてありがとうございます。 ……でも、何で僕を助けてくれたんですか?」

 

「? 何でって?」

 

「いや、何でって……僕はこのルウィーではテロリストのリーダーとして有名なんですけど、知らないんですか?」

 

「知ってるよ。 街で指名手配されてるの見たからね」

 

あっけらかんと言うサイバーコネクトツーに、イツキは一瞬絶句する。 イツキに渦巻くのは、何故自分がテロリストのリーダーとして有名だと言うのに助けたのかと言う疑問だけであり、その疑問を隠すことなくサイバーコネクトツーへとぶつけた。

 

「あの、何で僕がテロリストのリーダーと知っていて、助けてくれたんですか?」

 

「1つは私の仲間曰く、君はテロリストなんて呼ばれるような事はしないって言っていたこと。 それと後は……」

 

サイバーコネクトツーはイツキの質問の答えを途中で何か考えるように唸り、それからパッと笑って答えた。

 

「私の勘、かな?」

 

サイバーコネクトツーのその弱い根拠を自信を持って言ったのに対し、イツキは少し面食らうが、似たような事を言われた事があるためにすぐに立ち直り、再び礼を言う。

 

「まあ、とにかく助けてくれてありがとうございます。 ……あ、でもそのあなたの仲間と言うのは、一体誰の事なのでしょうか?」

 

サイバーコネクトツーが言った言葉では、サイバーコネクトツーの仲間はイツキと知り合いだと言う。 それが誰の事を指しているのかイツキは気になったのだ。

 

「あー、それはね……っといけない。 ゴメン、そろそろ行かないといけない。 仲間をまたせているんだ。 私の仲間については話すと長くなりそうだし、また今度話すとするよ」

 

何か用事があったのか、サイバーコネクトツーはそう思い出すように言ったのちに、片手を上げながらこの場から走り出した。

 

「じゃあね、イツキ君! そのうちまた会おうね!」

 

後ろを向きつつ手を振ってそう言った後、サイバーコネクトツーは走り去っていった。 イツキはそのサイバーコネクトツーの後ろ姿を見送った後、分からない事だらけではあったが、助けてくれたサイバーコネクトツーへと会釈をし、感謝した。

 

「……さて、と」

 

イツキは顔を上げ、見送ったサイバーコネクトツーから視線を外して振り返った。 視線の先にいるのは、弱り切っているエンシェントドラゴン。 イツキはそれに近づきつつ、言葉を口にする。

 

 

「僕もやる事やったら、さっさとここから離脱しないとね」

 


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