超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第66話 ルウィー逃走劇

ルウィー教会から脱出し、ネプテューヌたちと合流し、雪道の先を走り先導をする僕に、ネプテューヌは息切れしつつ聞いてきた。

 

「ね、ねぇお兄ちゃん! どこまで走り続ければいいの?」

 

「わ、わたしもうヘトヘトですぅ……」

 

ネプテューヌよりも体力の少ないコンパさんは、息も絶え絶えと言った感じでそう言葉を絞りだしていた。 だが、ここは一面雪しか無い場所であり、見晴らしが良すぎる。 それは追っ手から振り切るのが難しいと言うことだ。 現に後ろを振り向けば、遠くから教会の兵士たちが追ってきているのは裸眼で確認出来る。

 

「ごめんネプテューヌ、コンパさん。 だけど、もう少しで森に着くはずだから、それまで頑張って!」

 

「森? ここからだったら街の方が近いし、そっちの方に逃げて人混みに紛れた方がいいんじゃない?」

 

アイエフさんにはまだまだ余裕がありそうだが、僕たちが向かっている場所が森であることは疑問だったようであり、そう聞いて来た。 アイエフさんはルウィーに来たことがあると言っていたし、ルウィー全体は厳しくとも、教会周辺の地理なら何となく分かるのだろう。 だけど、街に逃げ込むと言うのは得策ではない。 それは主に僕のせいで、だ。

 

「……無理だよ。 今僕は、ルウィー教会に指名手配されていて、そこかしこの街に写真が貼り出されているんだ。 もちろん報奨金つきでね。 警備ロボットにも僕の顔を登録されているから、そもそも街に入れない」

 

この僕の発言に皆、特にネプテューヌとコンパさんが驚愕し、大声をあげて聞いてきた。 君たち息切れしているのに大声出して大丈夫なのか?

 

「え、えー!? それホントだったの!? お兄ちゃんがどこぞの海賊よろしくおたずねものにされているの!?」

 

「イ、イツキさん何をしたですか!? わ、悪いことをしてはいけないです!」

 

2人は僕が凶悪犯罪でもしでかしたかのように聞いてきて、ちょっと傷つく。 そりゃ指名手配されてはいるが、間違っている事をしている訳では無いし、後悔なんてしていない。 だけど、事情を知らないとは言え、ネプテューヌとコンパさんと言うこと、知り合いに言われるとちょっと心が痛かった。

 

だけど、ここで事情の説明なんてする暇が無いし、せめて森に入って追っ手を振り切った後に話そうと思い直した。 しかし、ここで意外な助け舟が入る。

 

「2人とも。 悪事を犯したと確定した訳でも無いのに、イツキさんを責めるのは良くありませんわ。 それに、わたくしの推測ですが、イツキさんはテロリストなんかではありませんわ」

 

ネプテューヌとコンパさんの傍へと並び、そう言ったのはベールさんだった。 当然、そのベールの言葉に疑問を持ったネプテューヌはベールへと問いかけた。

 

「へ? どういうことなのベール? お兄ちゃんはルウィー中の女性の下着と言う下着を盗んで回って、指名手配されたんじゃないの?」

 

「なに人の罪でっち上げてんのネプテューヌ!?」

 

「へ、変態ですぅ!」

 

「ちょ!? 違うよコンパさん! 今のはネプテューヌが勝手に言っただけだよ!」

 

こんな時でもネタを挟むネプテューヌが、僕の犯罪歴を勝手に捏造したせいで、純粋なコンパさんに変態扱いされてしまった。 純粋なだけに酷く傷ついた。 これはもうネプテューヌの首根っこ摑んで追っ手に向かって投げてもいい気がした。

 

「あー、はいはい。 そんなに騒げるなら、まだ走れるわよね? 無駄に疲れたくないなら今は黙って走りなさい」

 

アイエフさんは呆れつつ、話の流れを無理矢理切った。 本当は今すぐにでもコンパさんに弁解をしたかったのだが、今は逃げることが先決だと我慢する。 ベールさんも同様に考えたようであり、アイエフさんの言葉に同意した。

 

「あいちゃんの言う通り、今は逃げることに徹しましょう。 話は、その後でも出来ますわ。 ……とは言っても、彼らはそう簡単に逃がしてくれる訳では無いようです」

 

「……! 確かに、そうみたいだね」

 

ベールさんの最後の言葉と、視線を前へと向けた事から、僕もベールさんが見据える方へと視線を向け、その言葉に同意する。 雪原の先、僕たちの進行方向を塞ぐかのように横に並び、待ち構えていたのはルウィーの兵士たちと、アヴニールの警備ロボットたち。 彼らは既に臨戦態勢を取っており、各々の武器の切っ先を、あるいは銃口を僕らに向けていた。

 

「まさか、回り込まれた!?」

 

「少なくとも、歓迎している訳ではなさそう。 明らかに敵意を向けているし」

 

アイエフさんはこんなに早く回り込まれるとは思って無かったのか、驚いた様子で視線の先の兵士たちを見やっていた。 僕たちを見る彼らの視線は、とても良いものとは言えなかった。

 

「ど、どうするです!? このままじゃ、後ろの兵士さんたちと挟み撃ちになっちゃうです!」

 

コンパさんは慌てた様子でこの状況をどう乗り切るかをこの場にいる全員に問う。

 

……しかしまあ、こんな状況を乗り切る方法なんて限られているわけであって、僕とアイエフさんとベールさんはお互いに顔を見合わせると、示し合わせたかのようにお互いに頷いた。

 

「あれ? なんでお兄ちゃんとあいちゃんとベール、同時に頷いたりしているの?」

 

何故かネプテューヌはこの状況をどう打破するのかを考えつかなかったのか、それとも考えるつもりが無かったのかそんな事を言った。 それに対し、僕たちは事前に打ち合わせたかのように言う。

 

「そりゃあ勿論……」

 

「こんな状況に取るべき行動は……」

 

「たった1つしかありませんわ」

 

ベールさんの言葉が言い終えたと同時に、僕とアイエフさんとベールさんはほぼ同時に加速し、進行方向にいる兵士たちとの距離を一気に縮めた。

 

「!? 動くな! 止まれ!」

 

急に加速した僕たちに驚きつつも、手に持つ例の麻痺銃の銃口をこちらに向けて止まるように命令するが、立ち止まることはせずに、僕は目の前の兵士2人にラリアットをお見舞いした。

 

「グアッ!!」

 

「グエッ!?」

 

銃を手放し、地面へと倒れる2人を尻目に、アイエフさんとベールさんの方へと視線を向けた。 彼女たちの足元には、僕が倒した2人のように、気絶しておる兵士たちがいた。

 

「強行突破あるのみ、だよね」

 

言うや否や、僕はすぐさま懐にある手榴弾、チャフ・グレネードのピンを抜き、適当に放り投げる。 瞬間、クラッカーのような乾いた音が響き、僕たちに銃口を向けていたアヴニールの警備ロボットたちの目は潰されて、銃口を僕らに向けるのは愚か、宙をフラフラと機体を不安定にして浮いているので精一杯と言った感じだった。

 

「みんな! 今のうちに逃げるよ!」

 

僕の掛け声を、言わなくても分かっているとも言いたげに、道を塞ぐ障害物を取り払った僕たちは再び駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

雪原に回り込んできた兵士たちを振り切り、その後も何度か回り込まれながらもそれを突破し、どうにかして僕がさっきあの汚染化したモンスターを見つけた森にまで逃げ込む事が出来た。 ひとまず、ここまでくれば安心は出来ないが多少は休んでも問題無いだろうと、僕たちは走るのをやめてゆっくりと歩き出した。

 

「ひぃ……ひぃ……つ、疲れた……」

 

「わ、わたし……こんなに走ったの初めてですぅ……」

 

歩き始めようとしたとき、ネプテューヌとコンパさんはその場で立ち止まり、両膝に手を乗せて必死に肩で息をして呼吸を整えていた。 ネプテューヌが余計な一言を言わず、シンプルに疲れたとだけ呟いた事から、相当足を酷使したのだろうと思った。

 

「確かに、こんなに走ったのは久しぶりね……こりゃネプ子たちにはキツイわ」

 

ゲイムギョウ界中を旅して周り、ダラけきったネプテューヌたちより遥かに体力があるアイエフさんでさえ、過呼吸を抑え切れていなかった。 確かに、ここまで来るのに殆ど走るスピードを緩める事なく進んでいたのだから、幾ら体力があっても堪えるものがあるだろう。 かく言う僕も、あまり余裕が無かった。 何せこの森からルウィー教会まで疾走し、ネプテューヌたちを助けた後にも休むことなく走ったのだ。 往復している分、僕の疲れはネプテューヌたちの2倍であるのだ。 そんな中でも、肩で息をしていないのは、日々の朝練の賜物だろう。

 

「みなさん大丈夫ですか? 森に入りましたし、少しここで休みますか?」

 

唯一この場でまだまだ余裕があるベールさんは、そう気遣うように言った。 僕としてはベールさんの自室にあった数々のゲームや同人誌、BL関連のグッズを持っていることを確認していた事から、下手したらネプテューヌよりも体力が無いかと思っていたのだが、人は見かけに依らないなと、久しぶりに思い知らされた。

 

ベールさんの気遣いはありがたいが、森に入ったとは言え、ここはまだ入り口の部分であり、安心は出来ない。 僕は呼吸を整えると、パーカーの内ポケットと腰のポーチの中を確認し、残り数少ない手榴弾を確認しつつ言った。

 

「いや、ここはまだ森の入り口だし安心は出来ない。 ……手持ちの手榴弾もあまり残ってないし、せめて歩いてここから移動しよう。 その道中で、話もするよ」

 

ポーチの中の殆どは、僕が囮の役を果たすために使う手榴弾で圧迫されていたのだが、今は片手を突っ込んでもまだスペースが余る程スカスカだった。 そもそも、こんな森で自分の場所を自ら知らせるような手榴弾を使うようなことは無いと思うが。

 

「えーもう歩くの!? もう少し休みたいよ……」

 

「わ、わたしも……も、もう疲れて歩けないです……」

 

立ち膝のネプテューヌとコンパさんが疲れを訴えるが、あまり長居は出来ない。 だが、アイエフさんでさえも余裕を保てない距離はネプテューヌたちにとってはかなりの重労働だったろう。 少し考え、僕はネプテューヌとコンパさんへと近寄った。

 

「ごめん2人とも。 疲れているのは分かるけど、ここじゃまだ追っ手を振り切ったとは言えないんだ。 途中まで肩を貸すから、もう少しだけ頑張って」

 

「……そうね。 イツキの言う通り、まだ安心は出来ない。 コンパ、私が肩貸してあげるから、もう少しだけ歩きましょ」

 

僕の意見に賛成し、コンパさんの元へと歩み寄って横に並びそう言った。

 

「……うぅ、あいちゃんがそう言うなら、頑張るです……」

 

アイエフさんに言われ、コンパさんは何とか立ち膝から立ち直り、アイエフさんはコンパさんの左側から姿勢を低くして、コンパさんの左腕を自分の肩に回した。

 

さて、必然的に僕はネプテューヌに肩を貸さなければならなくなる訳だが……

 

「……ネプテューヌ、どうして君は瞳を輝かせて両手を伸ばして僕を見ているんだい?」

 

「おんぶしてお兄ちゃん!」

 

「駄々っ子か!」

 

突然のネプテューヌの駄々っ子発言にツッコミを抑えきれなかった。 ネプテューヌはそれが気に入らなかったのか、口をとんがらせて駄々をこねる。

 

「えー、なんでなんでー? いいじゃんおんぶくらいー」

 

「どう考えても肩貸すより重労働なんだけど……」

 

「でもでもー、わたしとお兄ちゃんって身長結構違うし、肩貸したらお兄ちゃん前屈みになって大変じゃない?」

 

……確かに僕とネプテューヌじゃ身長は見た感じ20は差がある。 ネプテューヌの言う通り、肩を貸すよりはおぶさった方が良いとは思うが……

 

「ネプテューヌ、本音を言って御覧なさい」

 

「おぶさった状態でお兄ちゃんの首筋に息吹きかけたりして反応を楽しみたいですサー!」

 

「素直でよろしい」

 

何故が誇らしげに敬礼するネプテューヌに対し、素早くネプテューヌの体を抱えると、大きい荷物を肩に載せるようにしてネプテューヌを抱えた。

 

「ねぷっ!? な、何するのさ! ってあれ? 何この抱えられ方? と言うか肩を貸すってこう言う事なの!?」

 

肩に抱えたネプテューヌがぎゃあぎゃあと騒ぐが無視し、アイエフさんたちの方へと振り返る。

 

「はいはーい、とりあえずここから移動するよ。 ……ネプテューヌに関しては、もうこのまま運んでいいかなアイエフさん」

 

「別に許可なんか取る必要無いわよ。 ……お互い、苦労するわね」

 

アイエフさんの許可と労いの言葉には、疲れも混じっていたような気がした。 それは決して今走った物の疲れでは無い。 何だかアイエフさんと少しだけ分かり合えたような気がした。

 

「ちょっとー? 何でお兄ちゃんとあいちゃんわたしをお荷物みたいな扱いするの? そりゃ今わたし重い荷物の気持ちを味わっているけど、人を苦労の種みたいに扱うのは良くないと思うよ!」

 

「へー、自覚あったんだ。 自分が苦労の種であるって」

 

僕とアイエフさんのお互いにネプテューヌに対する苦労を分かち合っているも、肩に載せているネプテューヌが顔を上げてそう言うが、実際にネプテューヌは毎回ろくなことしないから仕方ない。 それを口にしたところ、ネプテューヌは更に憤慨する。

 

「ムキーっ!! と言うかお兄ちゃん、これセクハラだよセクハラ! あんまり変なところ触らないでよー!」

 

そして何故かセクハラ扱いされる僕の善意。 本当に走り疲れているのか疑問な程手足をバタつかせるネプテューヌ。 ここで焦って弁解しても冤罪(主に純粋なコンパさん辺りから)をかけられかねないので、呆れつつも冷静に返す。

 

「仮にネプテューヌがここで僕をセクハラ犯に仕立て上げたとしても、ネプテューヌも教会のお縄にかかるよ。 ……そもそも、起伏に乏しい君の体のどこにセクハラする部分あるのさ」

 

……後半の言葉は完全にセクハラな気がしたが、これはネプテューヌがこのタイミングで変な駄々をこねて来て、若干呆れモード入っているからだと思う。 余計な一言だったとは思うが、普段ネプテューヌには散々振り回されているし、これぐらいのことは大丈夫だろう。

 

……と、思っていたのだが、この時の僕は、この直後に起こる出来事を予測出来ず、自分の不用意な発言を後悔することになる。

 

「かっちーん! 誰が起伏に乏しいお子様体型ですと!? わたし怒ったよ! 久しぶりに怒っちゃったよ! そんな事言っちゃって、後悔しても知らないんだからね! わたしが本当に起伏に乏しいのか、目をこらして刮目せよ!」

 

まくし立てるようにネプテューヌは言った後、幾何学的な文字の羅列を浮かべた、凄まじい光に包まれる。 そして、少しの間の後にその光は爆発するように拡散し、次いで僕の肩にズシリと重みがました。

 

「ふふ、どうかしらお兄ちゃん? この私の本当の姿を見ても、起伏が乏しいだなんて言えるかしら?」

 

肩に抱えている女神化したネプテューヌ、パープルハートが僕の横から覗き込み、そう誇らしげに言っていた。 ……言っていたのだが、今の僕は完全に呆れたようにネプテューヌを見ていたに違いない。

 

「……? どうしたのお兄ちゃん? 私をそんな目で見て?」

 

「……ネプテューヌの性格の事を忘れて、軽率な発言をした自分に呆れているんだよ……」

 

「? どういうこと?」

 

ネプテューヌは僕の言葉の意味が分からず、疑問符を浮かべるが、このタイミングでこの場所で女神化なんて行えば何が起こるのか、遠方から聞こえてきた声に全てを理解する。

 

「おい、向こう側で何か光ったぞ!」

 

「テロリストか!?」

 

それほど遠くない位置から聞こえてきた声は、教会の兵士たちの声だ。 おそらく、僕たちを追跡している追っ手だろう。 ネプテューヌの女神化の際の光に気づき、こちらへと注意を向けてきたのだ。 要するに、ネプテューヌの女神化の光は、わざわざ追っ手に僕たちの位置を知らせてしまったのだ。

 

「もう馬鹿ネプ子! あんたのせいでこっちの場所がバレちゃったじゃない!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

ネプテューヌの考え無しの行動にアイエフさんは結構怒っていた。 ネプテューヌは自分の行動が軽率だったことに気づいただけに、少し体を縮こませるようにして申し訳なさそうに謝っていた。 姿はあの大人びたパープルハートの姿なだけに、その反応は少し新鮮だった。

 

「あいちゃん。 既に過ぎてしまった事を責めても仕方ありませんわ。 ネプテューヌもこうして謝っていますし、今はこの場をどう乗り切るかを考えましょう」

 

そんな様子のネプテューヌを見て、ベールさんはフォローを入れる。 僕もそれに合わせてネプテューヌをフォローした。

 

「僕が余計な一言を言ったせいでもあるしね。 ごめんねネプテューヌ。 あ、あと1回降ろすよ」

 

「え、えぇ」

 

悪いことをした後だからだろうか、しおらしいネプテューヌを地面に降ろしつつ、僕はトランシーバーの周波数を調整し、コールする。

 

「こちらパトロール008。 応答願う」

 

『こちら、コードネーム兄だ。 どうしたイツキ殿。 パトロール交代の催促であるならば必要ないぞ。 今丁度そちらに向かっている所だ』

 

程なくして返ってきた無線機越しからの、恐らく変態兄弟の兄の声に対し、すぐに要件を言い返答する。

 

「それなら丁度よかった。 今すぐ保護して欲しい人たちが4人いるんだ。 008区の座標Fの5辺りに迎えに行ってあげて。 なるべく早く」

 

『保護? 急にそんな事を言われてもな……その手の仕事は我らの管轄外だ。 それにここから008区まではどんなに急いでも30分はーー」

 

「ちなみに、4人のうち2人はEを超えるロケット」

 

『5分でそちらに向かう。 少々待っていてくれ』

 

本当に欲望に忠実なこと……最も、僕が話題を上げたものの大きさに関して、女性陣に聞ける筈も無いため、なんとなく言ったものだ。

 

「それと、今sも008区に向かっている。 地点的にsの方が早く被保護者と合流すると思うから、そっちから無線で連絡を取っておいて合流して」

 

sとはスパイを指す隠語であり、ここでは教会で情報を探っているフィナンシェさんの事だ。 僕がルウィー教会へと向かう前の通信で、フィナンシェさんもネプテューヌたちと合流し、アジトに案内する事は事前に伝えられていた。 その合流地点が008の座標Fの5なのだ。

 

『了解した。 オーバー』

 

無線の雑音混じりだった音声が消え、通信が切れたことを確認し、トランシーバーを取り外してから僕はネプテューヌたちの方へと振り返り、方向を指で示しながら言った。

 

「みんなは今から向こうの方に向かって。 そこでとある人と合流して欲しいんだ」

 

「ある人? それって、誰です?」

 

「……追っ手が近づいてきているから、あまり詳しくは言えないけど、ネプテューヌたちは1度は顔を合わしている人だよ。 僕たちの味方だし、安心して。 それと、アイエフさんにこれを渡しておくね」

 

コンパさんの疑問に答えつつ、僕はトランシーバーをアイエフさんへと手渡した。

 

「これ、トランシーバー?」

 

「周波数は今言ったその人に固定してあるから、もしも迷ったらその周波数のままコールして。 使い方はわかる?」

 

「一応、何回か使ったことがあるから分かるけど……イツキはどうするのよ?」

 

「……僕には、別の仕事が出来たから、後で合流するよ」

 

「? 別の仕事ってーー」

 

アイエフさんの言葉を最後まで聞かず、僕はその場から飛び出すように走り出した。 方向は教会の兵士たちが聞こえた方だ。 途中ネプテューヌたちが呼び止めるように僕の名前を叫んだが、無視して疾走する。

 

程なくして銃を構えていた兵士2人が見えてきたが、その2人には何もせずに、すれ違うように横を通り過ぎた。 当然、それをその2人が僕を見逃す筈が無い。

 

「! いたぞ! テロリストだ!」

 

「最優先ターゲットを発見! 現在南東へ逃走中! 座標を送信する! ターゲットの逃走方向を予測し、回り込んで確保せよ!」

 

僕の逃げた方向を指差し、もう1人の方は無線で連絡を取っている声が聞こえ、目的を達したとばかりに進行方向を変えずに僕は突き進んだ。 今の僕の役割は、追っ手を分散させるための囮だ。

 

現時点で、僕たちを追いかけるルウィーの兵士たちが誰を優先して捕縛するのかは、言わずもがな、ルウィーの平和を脅かすテロリストのリーダーとして知られている僕である筈だ。 さっきすれ違った兵士から聞こえた言葉から、僕を優先して捕らえる、もしくはその場で殺すように言われている事は確かだろう。 それに、このまま追っ手たちに追いかけられながらアジトに逃げ込もうものなら、レジスタンスのアジトの位置がバレてしまう。 誰か1人は囮にならなければならなかった。 あの中では僕が最優先ターゲットであることや、囮としての経験から、囮に最もうってつけなのは僕しかいない。

 

(何の許可も得ずに飛び出しちゃったし、ネプテューヌ辺りは追いかけようとしそうだけど、ベールさんもいるし大丈夫な筈だ)

 

ベールさんはネプテューヌたちのパーティの中で精神的にも肉体的にも最も大人であるし、僕を追いかけても逆効果である事は理解している筈だ。

 

「……ともあれ、今回は骨が折れそうだ……」

 

今回の場合は教会の方から直接人や警備ロボットが送られてきている。 いつもの街のパトロール隊やロボットたちと相対する時の数とは、かなりの差がある筈だ。 これを全て真正面から戦いに行くというのは、あまり現実的な話では無いだろう。

 

 

「さーて、頑張りますか」

 

 

僕は気合を入れ直し、森の木々の向こう側から見えてきた出口へと飛び出すのだった。


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