またあの感覚だ。 意識ははっきりとしているのに手や足は全く僕の命令を受け付けてくれず、動かせるのは眼球だけであり、触れればすぐに壊れてしまうような泡沫の夢の中にいるかのような感覚。 嫌でもあの夢の事を思い出してしまう。
だけど、違うこともあった。 この感覚に陥ったときにいつも見ていた、視界を覆い尽くす赤色の光景は今は映っていなかった。 その代わりに映っていたのは、何かを見つめている髪の長い女の人だった。
その女の人が見つめていたのは鏡だった。 僕のいる位置はその女の人の真後ろだったので、直接顔を見ることは出来なかったけど、その人の肩ごしから鏡を覗き込んで見ることが出来た。
鏡に映っているその女の人は美しい人だった。 整った顔立ちと太陽のような黄金の髪、簡素な造りの筈の白いワンピースでさえその美しさを際立たせているような、いや寧ろ鏡に映るその女性の美しさが、質素なワンピースに美しさを与えているようだ。 これまで女神化した姿のネプテューヌや、ベールさんと言った美女に出会ってきたが、今僕の視界に映るその女性は彼女たちに勝るとも劣らないと言える美しさだった。
しかし、鏡に映るその美しい女性に表情は無かった。 明るいとも言えず、かと言って暗いとも言えないどっちつかずの表情であり、彼女は鏡に映る自分をただただ見つめていた。
唐突に意識がそこからぼんやりとし始めた。 視界に映っている鏡とその女性の輪郭から崩れていくように、だんだんとぼやけて黒に染まっていく。 抵抗は出来ず、僕にはその意識の浸食に身を任すことしか出来なかった。 意識が完全に消える直前、辛うじて見えていた女性の唇が微かに動いた。
『……あなたは……誰なの……?』
彼女の誰に対して問いかけたのかも分からないその言葉を最後に、視界は黒で塗りつぶされた。
◇
「……」
辺り一面が雪で覆われ、枝が雪化粧された生い茂る木々の中を、イツキはゆっくりと歩いていた。 時刻は既に朝を迎え終え、太陽は昼時を指そうとしていた。 イツキがいるのは彼が所属するレジスタンスの拠点の付近にある森の中であり、イツキはそこでパトロールをしていた。 レジスタンスの拠点の周りでのパトロールは
「……」
足音を極力立てないように歩き、辺りは勿論のこと足元にも気を配ってパトロールをするイツキ。 足元に気を配るのは、その場所に人もしくはモンスターの痕跡が無いか調べるためだ。 パトロールをしていれば必ずしも敵対勢力と遭遇する訳では無い。 寧ろパトロールをしていた際強力なモンスターに遭遇し、その鉢合わせした者の力量ではそのモンスターには敵わないと言う状況が作り出されてしまう可能性を考えると、こちらから敵と遭遇するのは避けたほうが良い。 そのため、パトロールの巡回の際はモンスターなどとの遭遇は避けるようにし、痕跡を探るようにし、もしもモンスターを見つけたらすぐに報告をするようにイツキとブランは呼びかけていた。
「……ん?」
視線の少し先に注意を向けた際、地面に落ちている何かを見つけたイツキは一度辺りを見回して、特に何かの気配は感じられないことを確認すると、小走りをして地面に落ちている何かのものの前まで駆け寄ると、その場で屈み落ちていた物を拾い上げ眼前まで持ってきた。
「……凍ったウロコ……コールドリザードのものだけど、これは……」
コールドリザードは最早イツキにとっては馴染み深いモンスターと言えるほどであり、何度も討伐したためにコールドリザードを倒した証拠として持ち帰る部位は見慣れていたために、それがコールドリザードのウロコである、固有名『凍ったウロコ』と分かったのだが、イツキはそのウロコの色と感触に疑問を感じていた。 本来コールドリザードの『凍ったウロコ』の色は赤く、氷のように硬いのだが、今イツキが手に持っているウロコは毒々しい紫色であり、少し強く握っただけでもボロボロに崩れてしまいそうなほど脆かった。 とりあえずイツキはそのウロコを丁寧に持参していた小さな保存用の真空パックに入れチャックを締めると、その場から立ち上がり、先ほどよりも一層警戒を強めてパトロールを再開した。
(ウロコ……つまり体表面が紫に変化する現象……汚染化か)
汚染化。 外的要因からモンスターの体に突発的に発生し、能力や凶暴性が増すその現象はイツキ自身何度か見てきた現象だ。 未だに汚染化のメカニズムなどは未解明であるが、モンスターを凶暴化させる事と、1度発生すると周りのモンスターに次々と感染するように汚染化していく伝染力は非常に危険な現象だ。 その汚染化したモンスターがいる可能性を示唆する物があるのなら、極力そのモンスターを見つけ次第撃破し、この事を教会に報告すべきだと判断したのだ。
イツキはそこから数十分程歩くと、進行方向とはやや右にズレた方向から、モンスターの咆哮が耳に入ってきた。 イツキはすぐにそちらの方に視線を向け、その咆哮の主が視界に入る位置にまで進んだ。 草を掻き分けながら進み、目の前の枝を取り払った所で、イツキの視界に何体かのモンスターらしき物が映った。 イツキはそれらが何であるかを確認する為に、目を細めて視線を凝らした。
視線を凝らした事で、視界に映っているモンスターたちは、どうも対立しているようで、現在はお互いに動き出すタイミングを図ろうとし、睨み合っていた。
「ビー、ビー、ビー」
「ビ、ガガ……ビビ」
睨み合っているモンスターたち、いやモンスターと対立しているのは、R-4カスタムとビットスカウトだった。 しかし地面を浮かぶ2体の機械のフォルムには幾つもの粉砕されたように欠けた部分や、切り裂かれたかのような傷がつけられており、R-4カスタムこそ傷つけられつつも、まだ正常に稼働してこそいるが、その横に控えるビットスカウトはノイズの混じった駆動音を上げ、フラフラと頼りなさげに宙を浮くばかりであり、壊れる寸前であることは目に見えていた。
「グォォォオオオ……」
「……」
「……」
方やその満身創痍と言えるビットスカウトたちに対立しているのは、コールドリザード2体とアイスゴーレム3体、スカルフローズンが3体。 合計8体のモンスターたちであり、イツキにとっては慣れ親しんだとも言える面子であった。
しかし、イツキがこれまで戦ってきたモンスターたちと、そのモンスターたちの風貌は明らかに違った。 コールドリザードの明るめの赤色の体は毒々しい紫色に染まり、それはコールドリザードが手に持つ斧ですら例外では無く、プラスチックのような光沢を持っていた黄色い斧は、今は黒く染まり、鈍い反射光を一瞬暗く光らせ、獲物を切るのを今にも待ち構えているかのように思えた。
様子が違うのはコールドリザードだけでは無い。 本来は透き通るような無色の氷で構成されたモンスター、アイスゴーレムの体は、本来は透明であることを疑う程、ドス黒い色で染まっていた。 スカルフローズンもそれらの例に漏れず、体中は暗い紫に変色し、手に持っている冷気を放つボトルの先からは、ガスのような物が漏れ出ていた。
そしてそのモンスターたちの周りには、R-4カスタムやビットスカウトであったであろう、大量の機械の部品や残骸が、食い散らされたかのようにバラバラに地面に落ちていた。 今もアイスゴーレムが、辛うじて形を残していたビットスカウトの残骸にトドメを刺した事から、R-4カスタムとビットスカウトをスクラップにしたのは、このモンスターたちなのだろう。
(……全員、汚染化しているのか……)
モンスターの体の変化から、イツキは冷静に分析し、予測は確信へと変化していた。 しかし、表情こそ変化は無かったが、これまで汚染化したモンスターと同時に戦ったのは精々3体くらいまででしかなかったイツキは、1度にこれ程まで汚染化したモンスターを見たことは無く、心中で驚愕していた。
「ビー、ビー、ビーーー」
と、汚染化したモンスターたちに気を向けていた間に、痺れを切らしたかのように、R-4カスタムは機械の両腕をコールドリザードたちへと向けた。 その瞬間にR-4カスタムの両腕は燃えるようなマズルフラッシュが次々と起こり、甲高い発砲音を幾つも上げて、内部に込められた銃弾をコールドリザードたちへと掃射した。
標的から逸れた弾丸たちは太い幹を貫通し、地面に小さな穴を開ける。 だが、標的を捉えている弾丸たちは、その役割を果たしてはいなかった。 アイスゴーレムへと向かっていった弾丸たちは、アイスゴーレムの体の堅固さに敵う訳が無く、小さく甲高い音を立てて弾かれる。 スカルフローズンへと向かっていった弾丸たちは、スカルフローズンの持つボトルから突如溢れ出した瘴気に阻まれ、スカルフローズンへと届く前に減速し、地面へと落下した。 コールドリザードに至っては、弾丸が幾つも命中し、傷ついているにも関わらず、苦痛に表情を歪ませることはおろか、気に留めるような様子も無かった。
やがてR-4カスタムのマズルフラッシュは消え、けたたましい発砲音は最後の弾を打った音の反響を最後に止んだ。 それを契機に、攻守は反転する。
「グォォォオオオ!!」
弾が切れたR-4カスタムに真っ先にコールドリザードは咆哮をあげ、襲いかかった。 R-4カスタムへとかなりの速度で距離を詰め、右手に振り上げられた斧を無造作に振り下ろした。 振り下ろされた斧は地面の雪を吹き飛ばして雪煙が舞い上がる。
辛うじてR-4カスタムは直撃を免れたが、雪煙の煽りを受け空中で大きく姿勢を崩してしまった。 その大きな隙を彼らは見逃す筈も無く、斧を振り下ろしたコールドリザードの後ろで控えていたアイスゴーレムたちは姿勢を崩したR-4カスタムに追撃の拳を振り下ろした。
「ビッガ!! ガ、ガガガーー!」
その振り下ろされたアイスゴーレムたちの一撃をR-4カスタムは避けることが出来ず、ノイズの入り混じった駆動音を高く上げ、宙に浮かせていた機体を地面へと落とした。 アイスゴーレムの一撃が振るわれた機体の部分は割れ、中の部品を露出しショートしていた。 もう放っておいても勝手に壊れてしまうだろう。
「……」
「……」
「……」
だが、アイスゴーレムたちはそこで手を止めることは無かった。 何も喋ることも無く、ただ無言で腕を振り上げて、もう動くことの出来ないR-4カスタムに拳を振り下ろす。 それも1度や2度では無かった。 何かに駆られるようにアイスゴーレムたちはR-4カスタムに攻撃し続けた。 そんな凶行を止める者はいない。 コールドリザードはその場で傍観を決め込むように動かず、スカルフローズンたちはただ頭蓋骨をカタカタと震わせ、R-4カスタムの壊れる様をただ見ていた。
「ビッ! ガッ! ピーッ! ガー……ザザ、ザ……」
R-4カスタムは幾度となくアイスゴーレムたちの
「ビビ、ビー」
そのR-4カスタムの壊れていく様子を確認した、R-4カスタムの後ろにいたビットスカウトは、身を翻してコールドリザードたちとは逆の方向へと逃げていく。 R-4カスタムと言う戦闘要因がいなくなり、撤退すべきと言う判断を、コンピュータが下したのだろうが、イツキにはそのビットスカウトはコールドリザードたちに恐怖して、逃げているように見えていた。
「ビ、ビビー……ガッ!」
しかし、そのビットスカウトを逃がすまいと、もう1体のコールドリザードは逃げ出すビットスカウトをその巨体を浮かすのには外見から見ると心許ない小さな翼を羽ばたかせ、素早く追いつくと、撃ち落とすのも面倒だと言わんばかりに、ビットスカウトに噛み付き、その勢いのまま噛み砕いた。
ビットスカウトは破砕音だけを立ててバラバラに噛み砕かれた。 壊れかけの機械音は1つも立たず、ただコールドリザードがバリバリとビットスカウトを咀嚼する音だけが辺りに響いていた。 やがてその音は止み、コールドリザードはビットスカウトの残骸を吐き出し、空を見上げた。
「……グォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
そしてイツキが確認した中で最大音量と言えるような、至近距離で聞いたら耳が
「オオオオオオオオオオォォォォ……グ、オオ……ゴオオ……」
しかし、最初に咆哮を上げていたコールドリザードの様子に変化があった。 力強く叫んでいた咆哮が急激に萎れるように弱まり始めたのだ。 イツキは不思議に思い、そのコールドリザードに注目した。 コールドリザードは姿勢こそそのままだが、何かに苦しむように体を震わせ、口から掠れ声を漏らしていた。 よく見れば、アイスゴーレムたちやスカルフローズンたちも、この場にいる全ての汚染化したモンスターたちも同じような様子だった。
「グオオォォ……ゴ……ゴガァ……」
決定的な変化があったのは、ビットスカウトを噛み砕き、戦闘の終わりに最初に咆哮を上げたコールドリザードだった。 小さく苦しげな声を上げた瞬間、汚染化した体表面がボロボロと崩れていき、やがてコールドリザードの体は、文字通りバラバラに崩れ落ちた。
「!?」
イツキは目を疑った。 モンスターを倒した時、通常は体がポリゴン状になり、霧散するようにして消える。 それがこの世界のモンスターの死であり、それは汚染化したモンスターを倒した時も同様だった。 だが、今目の前で突如苦しみ出し、このゲイムギョウ界から消えたモンスターは、それらの現象とは全く違う物であったからだ。 唖然としてイツキはそれを見ていたのだが、他の場所からも呻き声が聞こえ出し、そちらの方へと視線を向けた。
「……オオオ、オ、……ゴ……」
「……ギ、ギギギ……」
先ほど消えたコールドリザードと同様に、苦しむような呻き声を上げる汚染化したモンスターたち。 そして体がボロボロに崩れ落ちていき、連鎖するように次々とコールドリザードやアイスゴーレム、スカルフローズンたちの体は崩れ去っていった。
全ての汚染化したモンスターたちが崩れ去った頃、イツキはハッとしてすぐに茂みから飛び出し、コールドリザードたちのいた場所へと駆け出した。 R-4カスタムやビットスカウトだった機械の残骸を踏み越え、コールドリザードたちが立っていた地点を調べた。
「……これは……」
イツキが視線を地面へと見下ろした先には、先ほどイツキが拾った紫色に染まったウロコが落ちていた。 イツキはしゃがみ込み、それを持ち上げようとしたのだが、掴んだ瞬間にまるで少し固まった土を掴んだ時のように、あっさりと崩れてボロボロになり、空気に溶けるように塵となって消えた。 それは周りのアイスゴーレムやスカルフローズンたちの残骸も例外で無く、彼らの体の少しの残骸も、息を吐いたかのような弱いそよ風に流され、形を崩して消えていった。
イツキは右肩に装備している、パトロールの際に支給されるトランシーバーを起動し、周波数を調整して無線通信を始める。
「こちらパトロール008。 HQ、応答願います」
イツキが言ったパトロール008とは、コードネームでは無く自分が担当しているパトロールの場所を、番号ごとに区分化したもののことだ。 3桁まであるのは別にパトロールの場所が100箇所以上ある、と言う訳では無く、単純に語呂が悪いと言う理由から、勝手に決められた事であり、HQと言う本部を指す言葉も使うように指示されたのだ。
『こちらHQ。 パトロール008、どうかした?』
程なくして、パトロールを担当する者たちにそれらの事をするように指示をした張本人の声がノイズ混じりの無線越しに聞こえてくる。 そう、こんな我儘に近い指示を出したのは、他でも無いイツキの主人であるブランなのだ。
とは言っても、ブランの偶に起こる妙なノリに対して既に慣れてしまっているイツキは、これらのブランの我儘指示に対しては、当初は羞恥があったが、今ではすっかり慣れてしまったので、ブランからの返答を聞くと、目の前で起きた現象についてかいつまんで報告をした。
『……汚染化したモンスターが、突然自壊した……?』
「うん。 僕は勿論手を出していないし、外的要因で死んだとは思えないよ」
『……そっか、そう言う事だったのね』
「? 何が?」
何かに納得するように呟いたブランに対し、イツキにはブランが何を納得したのかわからなかったために、ブランに対して疑問をぶつけた。 ブランは間を開けずにその質問に答える。
『これまでの報告で、モンスターが突然汚染化したと言う物は多いんだけど、最初から汚染化したモンスターと遭遇したって言う報告は、殆ど無いのよ。 その殆ど無い報告の中のものの発見者は、その汚染化したモンスターの姿を確認した後、すぐに逃げたそうよ』
「……その話と、僕が見た汚染化したモンスターが死んだ現象って、何か関係があるの?」
ブランの情報と、自分自身が見た現象が、どのようにして結びつくのかがピンとこないイツキは、少し考えた後にブランへと聞く。 それに対しても、ブランはある程度予想していたようであり、解答はすぐに帰ってきた。
『……モンスターが汚染化した場合は、その能力と凶暴性が増すことから、勝算があるのならともかく、その場からすぐに逃げるのが普通なのよ。 単独で対応できる人はイレギュラーと言えるわね』
そのブランの解答を聞き、イツキは少し前にギルドで見た汚染化したモンスターに関する警告のポスターについて思い出した。 それには汚染化したモンスターによる被害が増加している事と、汚染化したモンスターと対峙した場合の対処法が書いてあった。 対処法と言っても、殆どが逃げるための時間稼ぎの方法だったが。
その事を思い出し、ブランが何を言いたいのかイツキはやっと理解した。
「……そうか、汚染化したモンスターがその場で討伐されなかった時、その汚染化したモンスターの行方が分からなかった……って事だよね?」
『ええ。 汚染化したモンスターを発見したって報告を受けた時、
「汚染化したモンスターは、何らかの原因で最後には自壊してしまう……って事なのか」
『十中八九、原因はその汚染化にあるだろうけど……まだ何とも言えないわね。 その辺りに、何か手がかりになるようなもの無いかしら?』
そう言われ、イツキはその場で首だけを動かして辺りを見回すが、先ほどまで汚染化したモンスターたちがいた場所には、手がかりどころか微かな痕跡すら残っていなかった。
「いや、もうこの辺には何も残っていない……けど」
イツキは1つ言葉を区切り、懐に入れてある先ほど回収したコールドリザードの落とす素材アイテムである、凍ったウロコらしきものの入った袋を取り出した。 中に入っているそれは既に形を崩し、ボロボロではあったが、完全に消えていはいなかった。 イツキはその事に安堵すると、無線へと返答をする。
「汚染化したモンスターのウロコらしき物を回収してある。 もう、形が崩れているけど……」
『それでも、それはきっと汚染化の原因や今回の現象の手がかりになると思うわ。 1度パトロールは切り上げて、その回収したものを持って帰ってきなさい。 そこのパトロールには、暇を持て余している……いえ、性欲を持て余している変態2人にやらせるわ』
後半の疲れと怒りが入り混じったようなキレ気味の言葉をブランが呟く。 無線越しからも見て取れるブランの怒りと変態2人と言う単語から、誰がどんな問題を起こしたのかを察した。
「……また、あの兄弟が何かやったの?」
『……あいつら、ホンットにデリカシーがないのよね……とにかく、そこのパトロールはもういいから、1度アジトに帰還しなさい。 いいわね?』
「了解」
ブランの命令に返事をした後、無線を切りイツキは立ち上がった。 辺りにあるのは汚染化したモンスターたちが破壊し尽くした、アヴニールの兵器の残骸だけであった。
(……この辺にまで捜索の手が伸びているのか。 そろそろ、アジトの位置が特定されてしまうかもしれないね……)
イツキは心の中でそう呟いた。 アヴニールの兵器に内蔵してあるカメラの映像は、逐一ルウィー教会でチェックされている事を、イツキはフィナンシェから聞いていた。 もしイツキが仮にこの場でアヴニールの兵器を発見し、破壊していたのなら、その映像からアジトの所在地が絞り込まれてしまっていただろう。 そう言う意味では、汚染化したモンスターたちがアヴニールの兵器たちを破壊してくれたのは、皮肉な話だが運が良かったのだろう。
今回の件で、ルウィー教会がどう動くのか気になったイツキは、つい無線機に手を伸ばしそうになったが、次にアジトで会った時に聞けば良いと思い、踏みとどまったのたが、通信を終えた無線機から呼び出しのバイブレーションの振動が伝わり、イツキは無線機の画面へと視線を向けた。
「……フィナンシェさん?」
その無線の周波数の呼び出しは、イツキが今正に呼び出しをしようとした相手であるフィナンシェであった。
ブランの侍従であるフィナンシェは現在、ルウィー教会を乗っ取っているマジェコンヌに従うフリをして、潜入をしている、言わばスパイだ。 アジトに報告に来る時はあるが、その殆どをルウィー教会で過ごしている。 その敵の本拠地とも言える場所から無線機を通して通信をするのは危険な行為だ。 イツキがフィナンシェに無線をすることを思い直したのもこのためである。
イツキが聞いた話では、イツキたちレジスタンスの使用する無線機は、盗聴不可能な暗号化プロトコルを持つ周波数を利用している(イツキ自身よく理解していない)らしいが、機械越しでは無く、直接盗聴されては意味が無い。 それ程のリスクを犯してまでフィナンシェがイツキを呼んでいると言う事は……
(……何か、予想だにしない事態が起こった?)
そう推測したイツキは、すぐに周波数を切り替えて、フィナンシェの呼び出しに答える。 無線が繋がり、イツキは返事をしようとしたが、それよりも先に無線越しに声が発された。
『あ、イツキさんですか!? わ、私です! フィナンシェです!』
普段の落ち着いた態度は感じられず、焦りの感情が声だけで伝わってきた。 現在指名手配をされているイツキの名前をうっかり言ってしまう辺り、本当に焦っている事が分かる。 案の定、イツキの推測した通り、何か異常事態が発生したのだろう。 イツキはフィナンシェが焦っている事をある程度予想していたため、すぐに無線に返事をする。
「落ち着いてフィナンシェさん。 1回深呼吸をして」
その言葉にフィナンシェは1度間を起き、無線越しにノイズのような深呼吸の音が流れると、無線機から再び声が発された。
『……すみません。 取り乱してしまいました』
「いや、大丈夫だよ。 それで、何があったの?」
フィナンシェが落ち着いた所で、イツキは何があったのかを聞いた。 フィナンシェが慌てるほどなのだから、かなりイレギュラーな事が起こったのだろうとイツキは心を引き締めた。 その内容を聞いた後、頭を抱えることになる事を知らずに……
『えぇ、それがーーー
『ーーーネプテューヌさんたちが、今ルウィー教会に来ているんです!』
……ネプテューヌは本当に問題しか持ち込まないな、とイツキは頭を抱え、天を仰いだ。
ども、アルテマです。
何だかんだ言って、僕の小説は明日で一周年を迎えます。
こんなに継続して小説書けたの始めてです(シミジミ…
これも僕を支えてくださった読者様方のおかげです。ありがとうございます。
いや、長かった……と、感慨にふけっていたのですが、こう言う時って特別編やるじゃないですか?
一切書いてないんですよ特別編(デデドン!
や、やっべー! ぜんぜんネタ思いつかなったよ! ど、どうしよどうしよう!?
……そう言えば、タグにあるネプステ全然やってないな……
と、いうわけで一周年だと言うのに何もやらないのはマズイと思いましたので、活動報告辺りで軽いネタをやろうと思います。
もし暇がございましたら、明日僕の活動報告を見てくれると嬉しいです。
最後に一言
これからも、【超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人】をよろしくお願いします。