超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第61話 本能に忠実すぎる紳士のことを人は変態と呼ぶ

「おや、イツキ殿はもう帰っていらしたか」

 

レジスタンスのアジトの僕とブランさんの住む廊下を歩いていると、背後から声を掛けられて振り返った。 振り返った先の十字路にいたのは良く顔の似通った2人の男性。 そのうちのやや身長が高い方が僕の方に話しかけてきたようだ。 少しテンションが下がっていた僕はそれに対して最近フィナンシェさんから聞いた目の前の2人の噂を交えながら言った。

 

「あぁ、近頃このレジスタンス内で『ルウィー屈指を誇る変態兄弟』と噂されてる双子の兄さんと弟さんじゃないですか」

 

「そう、僕たちは最近巷で噂の変態兄弟……って、何て不名誉な!? 我々はただ人類の神秘とも言える芸術を讃えると言う使命を遂行しているだけであると言うのに!」

 

僕の言葉に、双子の身長が少し低い方の弟が冒頭でノリが良いのか素であるのか分からないような反応をするが、そこから先の冗談めいた言葉を割とマジメに言っているから対応に困るのだ。 僕はマジメに取り繕わず苦笑いで適当に返しつつ、何と無く予測がついてはいるが、念の為確認をした。

 

「あー、そうでしたね。 ところで、今日の食料調達の人員にあなたたちが組み込まれていましたよね? 他の人たちは帰ってきているのに、どうしてあなたがたは帰ってくるのが遅かったのですか?」

 

僕の質問を聞いて、双子の兄の方は髪をかきあげ、弟の方もそれに合わせるように両腕を組み、兄の背中と背中を合わせるように立って言う。

 

「ふっ、それは言わずと知れたことですぞイツキ殿」

 

「人類の神秘の探索と発見、そしてそれの讃頌をしていたのさ。 これらは我ら兄弟が生まれてからの使命であり、何よりも優先せねばならないことなのさ」

 

双子の兄弟であるが故に、息ピッタリで言っているので、彼らが何の使命を背負っているのか分からない人から言えば様になっているのだろうが……。 僕はこの双子の化けの皮を破く魔法の呪文をかけた。

 

「……何カップでした?」

 

「「Dカップ」」

 

「あー、お巡りさんここです」

 

……いや、もうこれは逮捕されたところで手遅れな所まで来ている。 病院に行ってもらおう。 ……いや、病院から来てもらおう。

 

お分かりいただけだであろうか? そう、この双子の兄弟は極度の胸フェチ(巨乳限定)なのだ。 まあ、性癖は人によりけりだし、男の性のような物だし僕としても他人の性癖を否定するつもりはないのだが……この双子の兄弟は性癖を晒すどころか、女性に対しての態度が胸の大きさによって変わるのだ。 具体的に言うと、フィナンシェさんに対しては普通の態度。 ブランさんに対しては舐めた態度(ブランさんに対して胸の話題を振るとマジギレするので、今はブランさんの前では自重してる)を取るのだ。 彼ら曰く胸の大きさがDカップ以上の女性から尊敬するが、A〜Bの女性はその価値なしと切り捨てるそうだ。 デリカシーが無いってレベルじゃない。 僕の質問に対して答えた内容から、大方食料調達の際の道中で胸の大きな女性を見つけてナンパでもしていたのだろう。

 

僕が白い目で双子を見ていると、その視線に気づいたのか兄の方がまたキザな仕草をとって僕に弁解し始めた。

 

「もしやイツキ殿……我々を変態と思っていますかな? 否、それは否ですぞイツキ殿。 我々は……紳士」

 

前言撤回。 これかは始まるのは弁解では無く詭弁だ。 それに続くように弟の方もポーズをとって言葉にする。

 

「僕たちは紳士なら嫌いな者など存在する筈の無い、女性の巨乳を本能と言う使命に従い動いているのだよ」

 

「とりあえず君たちに理性が備わっているのか問いたい」

 

詭弁どころか開き直ったよこの人たち。 ツッコミ所満載過ぎてどこからつっこめばいいのか分からない。

 

しかしまぁ、この2人の性格と性癖はともかくとして、狙撃の腕とそれを補う視力はかなりの物とフィナンシェさんから聞いている。 最もそれはついでであり、彼ら曰く『1マイル(約1.6km)先の女性の胸のサイズを測定可能』という言葉から、この目利きスキル自慢の発言通り射撃スキルが備わったのはついでであり、本命は女性の胸のサイズを測る為にあることは簡単に分かってしまう。 最早この変態度は一周回って尊敬できるレベルだ。

 

「……あー、そう言えば僕お腹減って食堂向かう途中なんだ。 悪いけど、これで失礼するね」

 

これ以上この双子の兄弟と話をしていると、何か変態が感染しそうだから当初の目的を言って話を切り上げることにする。

 

「む、そうであったか。 呼び止めてしまって申し訳ない」

 

「それじゃ、僕たちもこれで失礼するよ」

 

2人とも特に僕を止めることも無く、呼び止めた事を謝ってから手を振り、十字路を過ぎて行った。 男に対して普通の態度なのは、男は皆巨乳好きと考えていることから『人類皆兄弟!』的なノリなのだろう。 それはそれでどうかと思うが、男に対してもガン無視とかしていたら対応に困っていたのでなんとも言えない。 僕はあの兄弟に対してため息を吐きつつ、食堂へと歩を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

……ちなみに、僕の好みは手の平に収まる位のサイズだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

食堂で軽食を済ますと、外は既に日が沈み、星が瞬き始めていた。 僕は再び居間へと向かい、ブランさんと共に書類の処理を始めた。 主にやることは新しく入団したレジスタンスの団員の確認や、フィナンシェさん経由で来た現在の教会の情報に目を通したり、今後のレジスタンスの活動についてのそれぞれの案を確認するなどだ。

 

「最近、レジスタンスへと入団する団員が少なくなってきているわね」

 

「各地の街ではアヴニールの警備ロボットが次々と配備されて、24時間監視されているよ。 こんな状況になると、街に入るのは勿論のこと出ることも難しいよブランさん」

 

街へ出るには街の教会の支部に申し出て、かなり厳しい書類審査を経てやっと外に出ることが出来るとの事だ。 しかも、その時はキッチリ警備ロボットの護衛と言う名の監視の目がある中で行動しなくてはいけないらしい。 教会側はこれ以上僕たちレジスタンスのような反政府組織の増大を阻止したいのだろう。

 

「……これ以上レジスタンスの団員を増やす事は難しそうね。 だとすると、今の状態で教会奪還を行動に移すべきだわ」

 

ブランさんは目を通し終えた書類をテーブルの脇の積み上げられた書類の束の上に乗せ、そう呟いた。 僕は読みかけの書類から視線を外してブランさんへと向けた。

 

「確かに、ブランさんの言う通り頃合いかもね……。 食料調達も難しくなってきたし、長期戦になると確実にこっちが疲弊しちゃうしね。 でも、実際にブランさんどうするつもりなの?」

 

僕の質問に、ブランさんは唐突に虚空からハンマーを装備すると、右手でぐるりと一回転させ肩に乗せた。

 

「当然、実力行使よ」

 

獰猛と言えるような野性味の強い笑みを浮かべてハンマーを強く握るブランさん。 力を込め過ぎて右手が震えているあたり、本当は今すぐにでも教会に乗り込んで偽のブランさんとマジェコンヌをぶっ飛ばしたいくらいにはマジェコンヌに対する鬱憤が溜まっているのだろう。

 

「……やっぱ、そうなるよね。 実際それしかないし……」

 

やる気満々のブランさんに対して僕はため息をつきつつ、ブランさんの意見に賛成した。 実力行使、と言う事は力尽くでルウィー教会を奪い返すと言う事だ。 僕はどちらかと言えば平和主義だし、話し合いで済めばそっちの方がいいと思う。 けど、奪い返す相手はあのマジェコンヌだ。 話し合いが通じていればリーンボックスで戦う必要も無ければ、初対面で敵対もしていない。 結局、実力行使で行くしか無いのだ。 ……まあ、ブランさんを散々傷つけたマジェコンヌに情けをかける余地なんて無いのだが

 

「でもブランさん。 実力行使でいくとして、具体的にどうするつもりなのさ? まさか教会に直接殴り込みなんてことはしないよね?」

 

「……別に私はそこまで馬鹿じゃないわ。 イツキとフィナンシェに散々殴り込みするなって言われてるんだから、そんなことしないわよ」

 

少しムッとして答えるブランさん。 言ってしまうと悪いが、ブランさんは1度先走ると止まれない性格であり、それは良い意味でも悪い意味でもそうだ。 それを把握しているフィナンシェさんと僕が口を酸っぱくして言わなければ、ブランさんはそのまま突っ走てしまう。 そんな事を考えていると、ブランさんは不機嫌そうな顔をしたまま僕に聞く。

 

「でも、イツキには何か具体的な案があるの? マジェコンヌからこのルウィーを取り返す案が」

 

少し痛い質問だった。 考えてはいない訳ではないが、僕の考えたその2つの作戦はまず前提から難点があるのだ。

 

「……一応、2つは考えてはあるよ」

 

僕は間を開けてそう答えた。 ブランさんはそれに対して何も言わなかったが、視線が早くその案を言えと語りかけていた。 僕は手を軽く振りながら右手の人差し指を立てて話し始める。

 

「作戦の内容は簡単だよ。 1つはラステイションのアヴニールの兵器の工場の生産ラインを一時的にでもいいから休止させる。 これについては多少荒っぽい方法を取ってもいい。 それで警備の薄くなった教会を強襲してマジェコンヌ達を追い返す」

 

現時点でマジェコンヌたちがルウィーの国民を縛りつけることが出来ているのは、ビットスカウトやR-4カスタムなどの大量のアヴニールの兵器による物が大きい。 フィナンシェさんの話では教会付近もアヴニールの兵器がうじゃうじゃしているらしい。 それらの元を一時的にでも断つ事が出来れば、必然的に兵器は減るはず。 そこを突いて行動するのだ。

 

「もう1つはどうにかしてマジェコンヌと偽者のブランさんを教会から外に出して、そこで迎え撃って教会から追い出す」

 

これが2つ目の作戦だ。 ルウィー教会が敵の手に落ちている今、そこは敵のテリトリーだ。 敵のテリトリーで戦うのはどんな罠があるかも分からないし、危険過ぎる。 なるべくそれらの罠が及ばない場所で戦った方が良い。

 

「……まあ、ブランさんにはこの2つの作戦の難点が分かっているんじゃない?」

 

僕はブランさんにそう問うと、ブランさんは呆れながら答えた。

 

「……そうね。 1つ目の作戦は私のやろうとしていた策とそれ程差が無いし、2つ目の作戦に至っては作戦ですらないと、色々穴が満載だわ」

 

「……うん。 自分で言っておいて難だけど、馬鹿だと思う」

 

ブランさんの辛辣な言葉がグサグサと刺さるが、一応考えた後で難点も理解していたのでダメージは最小限ではある。 そんな傷心する僕を放置し、ブランさんは一呼吸置いて言った。

 

「だけど、イツキの言う前提から足りない物って言うのは、こちら側の『戦力』のことよね?」

 

ブランさんの考えと言うより、分かり切っていると言うような確認の言葉に対し、僕はゆっくりと首を1度縦に振る。

 

「うん、正解だよブランさん」

 

実際にその通りなのだ。 アヴニールの兵器工場の工作はともかくとして、教会を強襲するのにも、マジェコンヌたちを外で迎え撃つにしても、僕たちレジスタンスには『戦力』と言える戦闘を行える団員が少ないのだ。 レジスタンスに加わった人たちの殆どは戦闘なんてしたことの無い一般の国民が殆どであり、戦闘が出来る人は僕とブランさん以外だと、あの変態双子兄弟と教会から逃げてきた兵士、それと元を含めた冒険者や賞金稼ぎ(バウンティーハンター)などのほんの1部だけなのだ。 アヴニールの兵器の事を差し引いても、これは厳しいものがある。 ……と言うよりブランさんの性格からして、ブランさんはまずこの1部の戦える人間を戦力として数えないようにしているだろう。 ブランさんは今回の事は自分の起こした不始末と考えて、それ故に自分の力だけでルウィー教会を取り戻そうと考えている。 当初ブランさんは単身でルウィー教会に奇襲をかけようともしていたが、それらも自分の起こした不始末に、出来ることなら他人を巻き込みたくないと言う考えからなのだろう。

 

ブランさんは少し考えるように唸った後、僕の案の修正をした。

 

「アヴニールの兵器工場の工作って言うのは良い案だと思うわ。 その上でマジェコンヌを何らかの方法で教会の外に引っ張り出すのよ。 そっちの方が確実だわ」

 

「……でも、それをするにしても」

 

「……兵器工場の工作員にしても人出が足りない、わね……」

 

僕の控えめな否定の言葉の続きをブランさんは言葉にし、息を吐きながら天井を見上げていた。

 

ラステイションにあるアヴニールの兵器工場を直接見てきた訳では無いが、あれ程の数の兵器を生み出すともなれば大型の工場が、それも幾つもの数必要な筈だ。 それ程大型かつ大量の工場に工作をするというのは、僕たちレジスタンスからすれば現実的では無い話だ。 おまけにアヴニールの工場の製作過程の殆どは機械が担当している。 仮に従業員を全て抑え込んだとしても意味が無い。 ここに来て、僕たちは戦力と言う大きな壁にぶち当たってしまったのだ。

 

「……ねぇ、ブランさん」

 

「何よ? 何かいい作戦でも思いついたの?」

 

……作戦を思いついた訳では無いが、戦力に心当たりがあった……いや、前から考えていて、今も考えている事があると言うべきかもしれない。 でも、この提案は既にブランさん自らが否定している物だ。 今更採用されるなんて思ってもいない。 だけど、やっぱり言わずにはいられず、僕の言葉を待つブランさんに息を吸い込み口にする。

 

「……やっぱり、ネプt」

 

「ダメよ」

 

「……まだ人物名の途中までしか挙げて無いよブランさん」

 

「どうせ、ネプテューヌたちに協力を求めようって提案でしょ?」

 

僕の提案を聞き切る前に一蹴したブランさんの推測はその通りであり、図星だった。 まあ、このタイミングでネプテューヌの名前が出るとしたら、協力を求めるか否かの話しか無いと分かるだろうし、自分の言おうとしていた事を当てられた事に対しては驚いてはいない。

 

今ネプテューヌたちはプラネテューヌに居ると、アイエフさんからメールを受けていた。 ラステイションに行く予定ではあったらしいが、ネプテューヌが毎度お馴染みのアホ行動やニート一歩手前の行動をしでかしているために、ラステイションに行くタイミングが無いらしい。 加えて、どんな経緯があったのか教えてはくれなかったが、現在ネプテューヌたちのパーティにベールさんが加わったらしい。 生粋のゲーマーであるベールさんと半ば自宅警備員と化しているネプテューヌが共鳴し、無理矢理止めないと2人とも1日中テレビの画面から離れなさそうな程ゲームに熱中しているらしく、いろいろと疲れが増すとアイエフさんは愚痴っていた。 お疲れ様です……

 

 

閑話休題。 そんなネプテューヌたちだが、ネプテューヌ以外も含めて皆正義感が強い人たちだ。 僕たちの現状を知れば協力を申し出無くても、向こうから協力を持ち掛けてくるだろう。 しかし、ブランさんはそれを良しとしない。

 

「……あんまり同じ説明するのは嫌なんだけど、もう一度言うわよイツキ。 よく聞きなさい」

 

ブランさんは面倒くさそうな表情をして話し始める。 実際僕は何度も聞いた説明だし、かなりくどいのだろう。

 

「ルウィー教会がマジェコンヌによって奪われたのは、あの日私が油断した所為で起きたことなのよ。 そもそも、ルウィー教会を奪われたと言う事は、このルウィーの問題であり、この国を統治する私の問題。 つまり、私自身が責任をとって取り返すべきなのよ。 ベールの時は例外で、借りを返すために協力をしたのよ」

 

ブランさんは僕がネプテューヌたちへ協力を求める事を提案すると、必ず否定した後にこのニュアンスの言葉を言う。 最後に必ず、ベールさんの時の事は例外だと言って。

 

ブランさんの言い分は理解出来るし、ベールさんの時の事も聞いているから分かる。 ブランさんの性格は分かっているつもりだし、分かっているからこそラステイションでもルウィーが奪われているという事実を言うことになってしまうマジェコンヌを追う理由をネプテューヌたちには言えなかった。 

 

ベールさんの時と言うのは、リーンボックスでブランさんが、マジェコンヌによって奪われたベールさんの女神の力を取り返すことに協力したことだ。 これはベールさんが僕がリーンボックスでマジェコンヌの罠に嵌って窮地に陥った際に、僕を助けようとするブランさんたちに協力をし、ブランさんたちと共に僕の命を救ってくれた事への恩のお返しだとブランさんは言うのだ。 建前上……と言うより僕とブランさんの間に主従関係が出来上がっているために、身内を助けてくれた事への恩返しであり、それ以上でもそれ以下でもないと言う。 迷惑をかけた人物として、僕はこのことに関しては何も言えない。 ……ただ……

 

「……本当に」

 

「……?」

 

「……本当にそれだけなの?」

 

「……」

 

僕の問いかけにブランさんは少しだけ目を見開いてこちらを返してきた。 そのブランさんの反応が何を示しているのかは分からない。 だけど、僕にはどうしてもブランさんが頑なにネプテューヌたちに協力を求めようとしないのは、自分の国の問題は自分自身で解決するというプライドだけから来ているとは思えなかった。 少し前までのブランさんだったのなら、他国の女神の力になんて頼りたくないと強く拒んだだろう。 それこそ、自身のプライドのために。 だけど、今ブランさんが話したネプテューヌたちの協力を良しとしない理由の1つ1つの言葉に、ブランさん自身のプライドだけが籠められているようには聞こえなかった。 寧ろ、ネプテューヌたちの身のことを案じているように僕には聞こえたのだ。

 

「本当は、これ以上自分の失態から起こった問題に他人を巻き込みたくないって、そういう理由からネプテューヌたちを拒んでいるんじゃないの?」

 

思い返してみれば、ブランさんはレジスタンスを結成することをかなり渋っていた。 そんなブランさんがレジスタンス結成に踏み切ったのは、フィナンシェさんがレジスタンスの活動にルウィー国民の保護も兼ねていると説得したからだ。 レジスタンスとしての活動だって、食料調達やレジスタンス団員の住居確保を優先しているし、戦闘は勿論のこと、ルウィーの一般国民に危険が少しでも及ぶ可能性のあることはブランさんはやらせてなかった。 ブランさんは多分、このレジスタンスを抵抗する者たち(レジスタンス)として扱ってはいない。 本来ならともに戦うべき人たちを、ブランさんは逆にそうした場所から遠ざけているように見えるのだ。 ブランさんは僕の質問に黙りこくっていたが、やがてゆっくりと息を吐いて目を閉じ、それとは対照的に口をゆっくりと開く。

 

「……そう思いたければ、そう思うといいわ」

 

冷たい一言と受け取れるブランさんのその言葉は、僕には冷たさだけではない何かを感じた。 ブランさんはそう言うとその場から立ち上がり、手に持っていた書類を僕に押し付けると、廊下に出る部屋のドアへとスタスタ歩いていく。

 

「とにかく作戦については私も考えておくから、イツキはその書類の処理が終わったら明日に備えてもう寝なさい。 それじゃ」

 

ブランさんはそれだけ言って部屋のドアノブを回してドアを開いたのだが、廊下に向かって押されているドアを途中でピタリと止めた。 

 

「……これは私の問題。 だから、私自身が解決しないとネプテューヌたちに顔向けできないのよ」

 

小さく呟いたその言葉は、部屋の空に吸い込まれるように消え入った。 その直後に部屋のドアは静かに閉じられた。 僕にはブランさんの後を追いかけることはできず、ブランさんの出ていったドアをジッと見つめることしか出来なかった。 

 


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