今更言うのも難ですし、ネプリバ1やっている人なら分かりますが……
らんらんの(´・ω・`)←この顔文字はデフォルトです
夢の中で、それが夢だと思えるのって結構稀な事だと思っている。
だって夢だと思っちゃったらそこで夢は終わって、目が覚めてしまうから。
今正に僕はその状況にあると思う。
何か見える。 何かが視界に映るのだが、ボヤけてそれが何なのか認識することが出来ない。
霞む視界を無理矢理呼び起こそうと腕を動かそうにも、右腕は僕の命令を受け付けてはくれない。
と、そんな時、僕の視界に入り込むように何かが横から現れた。 相変わらず視界は霞んでいてはいるが、それが人だとは何となく分かった。
誰かも分からないその人は僕の顔を覗き込むように、僕の顔にジッと視線を向けていた。
僕はその覗き込む人物が誰なのか知るために、必死に目を見開こうとしたり、せめてまばたきしようとしたが、どうも瞼も僕の命令を受け付けてはくれないようだ。 瞼そのものが鉛のように重く、ピクリとも動かない。
と、僕がそんなささやかな努力をしている中で、僕を見つめるその人の顔が、段々と大きくなってきた。
? 大きく……いや、近づいてきてる?
でも、僕にとっては都合が良かった。 ボンヤリと霞むこの視界でも、ある程度近づいてくれれば誰だか分かるかもしれない。
なんて事を考えていたら、唐突に僕の唇に、温かく柔らかい何かが触れられている感覚があった。
……え?
次いで僕の口の中に何かが入ってくる感覚があったが、今僕の目の前に映るその人の顔と、自分の唇が塞がれているその理由を理解した前では、そんなものはどうでもいいことだった。
霞んでいた視界はその人で一杯で、この距離ならそれが誰なのかすぐに分かった。
「……ンゥ…」
息を漏らし、目を閉じているその人は
ブラン……さん……?
◇
「コンパさん、それでイツキさんの容体は……?」
ベッドで静かに眠る少年、イツキの片腕や首筋に触れ、軽い触診をし、やがて一息ついてイツキに触れていた手を離したタイミングで、ベールはコンパへとイツキの診断結果を聞いた。
「呼吸も脈もだいぶ安定しているです。 もう大丈夫です」
自分でも確認して安心したのか、コンパは自然と笑みを浮かべて診断結果をベールやブランたちに伝えていた。 そのコンパの笑みもあいまって、イツキは助かったのだなと安心した。
ブランがイツキに解毒薬を飲ませた直後に、ネプテューヌたちはすぐに部屋に戻ってきたので、その時自分の唇に手を軽く触れていたブランは驚きイツキのいるベッドから飛び退いた。
そんなブランの態度を不思議に思いつつも、解毒薬がどこにあるのかブランに聞いた。 どうも調理場にたどり着いたのは良いが、解毒薬を持ってくるのを忘れてしまい、1度戻ってきたらしい。
ブランは既に解毒薬をイツキへと飲ませたことを伝えた。 反応は皆同じで意外そうな驚きで統一され、次いでどのようにして飲ませたのかブランへと質問したのだが、返ってくる返答は言葉を濁したり、関係ないと切り捨てたりと、ブランは頑なに答えようとはしなかった。 今もブランは時々自分の唇に触れては顔を赤くし、そんなブランを見て一同は疑問符を浮かべるしか無かった。
ともあれ、イツキが解毒薬を服用したのなら、その解毒薬が効いているのか気になったベールはコンパに頼み、イツキの診断をしてもらい、コンパがその診断結果を報告して今に至るという訳である。
「と、言うことは、今なら無防備なお兄ちゃんにやりたい放題なんですね! イヤッホー!」
コンパの報告を聞くや否や、上記の発言をしイツキの眠るベッドへと突撃したのは言うまでもなくネプテューヌである。
滑るようにベッドのそばまで行ったネプテューヌは、すぐさまベッドで眠っている筈のイツキの顔を覗き見る。 そこには先ほどまで苦悶の声をあげ続けていた時と違い、静かに寝息を立てて眠るイツキの顔が布団からはみ出ていた。
「おおお、寝顔ってだれでも可愛いものだからある程度予想はしてたけど、お兄ちゃんの寝顔も可愛いな〜」
イツキの顔を見て和むネプテューヌ。 その無防備なイツキの寝顔にネプテューヌはツンツンと頬をつっつく。
「おお〜、ほっぺたも柔らかい。 ふわふわのすらまんみたいだ〜」
人差し指でイツキの頬の感触を楽しむネプテューヌ。 ちなみに『すらまん』とはゲイムギョウ界の銘菓であり、ふわふわとした生地の中に、こしあんが詰まっている食べ物だ。 と言うか、モロあんまんである。
イツキで遊ぶネプテューヌを流石に看過することは出来なかったのか、コンパはネプテューヌの立つベッドの向かい側から注意をする。
「ねぷねぷ、イツキさんは病み上がりなんですから、そんなことしちゃダメです!」
「えー? いいじゃんいいじゃん別にー。 もう大丈夫なんでしょ?」
「ダメなものはダメです!」
コンパの注意に対して口を尖らせてブーイングするネプテューヌ。 それでもネプテューヌに止めるように言うコンパに対し、ネプテューヌはハッと何かに思い当たるように笑顔になる。
「あーそうだ! こんぱもこのモチモチのお兄ちゃんのほっぺたを触ればいいじゃん!」
「え、ちょ、ねぷねぷ!?」
言うや否やコンパの腕を掴んだネプテューヌ。 その突然の出来事に反応した頃には時すでに遅し。 無理矢理ネプテューヌに導かれた先にあった柔らかいイツキの頬に、コンパの人差し指が触れられていた。
「あ……柔らかいですぅ……」
コンパは自分の指先から伝わってくるその柔らかさについつい声を漏らしてしまった。 しめたとばかりにネプテューヌはコンパの手がイツキの頬をつっつくように動かした。 勿論この時空いている手でコンパがつっついている頬とは逆の頬をつっつくのを忘れずに
「ほれほれ〜、ここがええんか?ここがええんか〜?」
「うぅ……悪いことなのに、悪いことなのに……柔らかいですぅ……」
「……う…うー……」
コンパの手がただつっつくだけでなく、頬をこねくり回したり撫でたりしたりと動きを変えるようにコンパの手を動かすネプテューヌ。 その顔は完全に悪代官そのものであった。
悪いことをしていると自覚していても、指先から伝わってくる柔らかさが理性を正常に機能させてはくれず、ただただネプテューヌの動かす手になすがままと言った感じであった。 この際反対側からもネプテューヌから頬をつつかれているので、両頬から挟まれる形となり、大変呼吸しづらそうにしていた。
「ふふふふ。 柔らかいであろう? しかしこれだけでは終わらんぞこんぱ。 今度は2本指でこの柔らかさを味わってもらおう。 段階的に触れる指も増やしてやるから覚悟するんだな、ふふふふ……」
「そ、それだけはご勘弁を!」
いつもの天真爛漫な笑みとは違う、悪い笑顔を浮かべるネプテューヌ。 最早ノリとかそう言うレベルではなく、悪代官というキャラにのめり込んでいた。 つまりこのネプテューヌノリノリである。
対するコンパはネプテューヌの甘い問いに若干涙目になっていた。 ちなみに、コンパはノリに乗っているとかそう言うのではなく、結構本気でネプテューヌにやめてくれと請うていた。 つまりこのコンパノリノリでない。
しかしそんなコンパの態度を見て、ネプテューヌは向こうもノッているのだと勘違いし、またニヤリと笑い直し、コンパの閉じている中指を起こし、台詞を続ける。
「ふふふふ、口ではそう言っても手を止めないということは、つまりそういうこダランテッ!!?!」
「アンタはどこの悪代官だコラ!」
ネプテューヌのノリノリな悪代官の台詞は、流石に行き過ぎていると判断したのか、常に携帯しているハリセンをネプテューヌの頭にスパパーン! と綺麗に2連撃を加えたアイエフだった。
「あいたたた……もうあいちゃん、せっかちだな〜。 そんな自分もお兄ちゃんのほっぺた触りたいからって、ハリセンで叩くことないじゃん。 わたしはいつでも変わってあげたよ?」
「誰が頬をつっつきたいだなんて言ったのよ。 イツキはさっきまで病人だったのよ。 少しは自重しなさい」
「ええぇ〜……」
さっきコンパに注意された時のように口をとんがらせてブーイングするネプテューヌをアイエフはスルーした。
「あ、あいちゃん。 助かりましたです。 ありがとうございますです」
「コンパもネプ子に無理矢理やらされたとは言え、病み上がりの患者に変なことしちゃダメじゃない」
「うっ……返す言葉もないですぅ……」
シュンとしょげるコンパを見て、少し強く言い過ぎたかと反省するアイエフ。ともあれ、これでイツキも健やかに眠ることが出来るだろう。
「もう、しょうがないなぁ〜。 あいちゃんの言う通り、お兄ちゃんも可哀想だからこの辺にして……」
なんて考えた矢先に、アイエフの隣にいたネプテューヌがベッドを回り込むように歩き出し、コンパの前に立った。
……両手を前に構えて、指をワキワキ動かしながら
「コンパのおっぱいで妥協するよー! それー!!」
「ね、ねぷねぷぅぅぅぅぅううう!!?!」
ネプテューヌは体当たりするようにコンパの体に抱きつくと、後ろに回り込み、後ろからがっしりとコンパの大きく柔らかなメロンを掴んだ。
「おおう。 手の平に収まり切らないのは当たり前だけど、前やった時よりも収まり切らないなぁ〜。 もしかしてこんぱ、またおっぱい大きくなった?」
「し、知らないです! そんなことよりこんな事はやめるですねぷねぷー!!」
先ほどと同じように止めるよう懇願コンパ。 違うとすれば被害が第三者から己へと変わったことと、コンパが恥ずかしそうにしていることであろう。 しかしネプテューヌはそのコンパのたわわな果実を揉むことをやめない。 上下左右へとこねくり回したり、痛くならない程度に握ったりとしていた。
尚、ここから先の描写を写実的に表現すると、年連制限が必要になるため、文章にすることは出来ません。 ここから先はネプテューヌとコンパの会話のみをお楽しみください。
「ふっふっふ……良い反応をするねこんぱちゃーん。 恥ずかしそうに止めてとは言っても、本当は気持ちいいんだよねー? あれだよあれ、『悔しい……でも、感じちゃう…!ビクンビクン!』ってやつだよね? 何だかそれと動きが似ているしね〜」
「そ、そんなこと言わないでくださいですぅ……!」
「またまたそんなこと言って〜、素直じゃないこんぱにはお仕置きが必要だべ〜」
「ひゃう! そ、そこはダメですねぷねぷぅ!」
「何を仰るこんぱさん。 こんぱがそうやって反応してほしいがために、敏感な所に触るんですよ! ほれほれ〜!」
「ひいぃい! や、やめてくださいでひゅう!」
「おお、いい感じにア……なってきたね。 よいではないかよいではなボランバッ!!?!」
「どこのセクハラ親父だアンタは!」
アイエフのハリセン3連撃により、ネプテューヌはコンパから手を離して床に倒れた。 ネプテューヌに弄られていたコンパもまた、顔を真っ赤に紅潮させ、若干過呼吸をしながら床に倒れ伏せた。
頭に出来たデフォルメ的なたんこぶをさすりながらネプテューヌは立ち上がり、片手に持つハリセンを肩に載せているアイエフに抗議する。
「いたたたた……何言っているのあいちゃん。 今のはスキンシップであって、セクハラではないんだよ?」
「既にセクハラした時の上司の言い訳を言ってるじゃない!」
「まあ、100歩譲歩してあれがセクハラだったとしようか」
「何でアンタが譲歩できる立場にいるのよ……」
呆れるアイエフにネプテューヌは構わず続ける。
「あれはね、サービスシーンなんだよあいちゃん。 わたしからのささやかなファンサービスだよ!」
「……頭痛くなってきたわ」
「これがわたしのファンサービスだ!」
「ますます分からんわ!」
ネプテューヌのボケに、アイエフがツッコミを入れる。 2人の漫才は騒がしいとなっており、ギャーギャーとネプテューヌとアイエフはボケとツッコミの応酬を繰り返していた。
「……」
そんな様子をベッドから少し離れた位置にいるベールは、マジマジと観察していた。
(……先ほどまであまり明るい顔をしていなかったあいちゃんが、何だかイキイキとしていますわね。 ……ちょっとネプテューヌに嫉妬してしまいそうですわ)
ネプテューヌが馬鹿な行動をしたり、アホな発言をする度にアイエフがツッコミを入れて、その後にネプテューヌがまたボケての繰り返し。 だが、そんなネプテューヌにツッコミを入れているアイエフは、さっきまでの、イツキに対する負い目を感じているような感情を、ベールは読み取れなかった。
(勿論、イツキさんに解毒薬を飲ませて、容体が安定したということもあるのでしょうが……ああやって他の人を笑顔にしてしまうのも、ネプテューヌの織りなす力なのでしょうね)
今もアイエフはネプテューヌの頭にキレ良くツッコミを入れていた。 ネプテューヌの纏う雰囲気と、素か態とかも知れないボケ、そして何よりもその天真爛漫な笑顔に、皆つられて笑ったり、気付いたら敵から友達になっていたりするのだろう。 きっとそれがネプテューヌの1番の武器なのであり、力なのだ。
(……きっと、ネプテューヌたちには話しても大丈夫ですわね)
だからこそ、今ベールが置かれている状況を話すことを決心することが出来た。 今のところらんらん以外には誰にも話していない、己の根幹とも言える大切なものを奪われてしまっていることを
(それにしても、あいちゃんのネプテューヌに対するあのツッコミ……平手打ちのフォームでハリセンを持ち、ネプテューヌの頬を叩いた後にそのまま振り抜き、手首のスナップで切り返してもう片方の頬を叩きつつ上に振り上げ、トドメに頭にスマッシュを決めたあの動き……全ての動作が滑らかかつ鮮やかでしたわ……やはり、只者ではありませんわね)
あと、なんかアイエフのツッコミに感心していた。 本人からすれば不名誉なことである。
◇
その後、ネプテューヌとアイエフの漫才をベールは仲裁し、今だに倒れ伏せているコンパに声をかけたのだが、返答は無く、代わりに返ってきたのは静かな寝息だった。
時刻は既に草木も眠る丑三つ時に差し掛かっていた。 イツキの解毒が済んだことにより安心感から、緊張の糸が切れてしまったのだろう。 その日の疲労が一気にコンパへと押し寄せ、さきほどのネプテューヌの過激なスキンシップでトドメを刺されたのだろう。
静かに寝息を立てるコンパを見て、アイエフたちはとりあえずホテルへと帰ろうとしたのだが、ベールにこの部屋に泊まっていくように勧められた。 この話を持ちかけられたアイエフは遠慮しようとしたが、イツキに何かあったらすぐに対応できるようにしておきたいというベールの説得を受け、納得したアイエフは素直にベールの言葉に甘えさせてもらうことにした。
ちなみに、アイエフが泊まっていくことを伝えた時、ベールは何やら嬉しそうに部屋の隅の戸棚から、人数分の真新しい布団を取り出した。 なんでも、友達を歓迎し、一緒の布団で寝るのに憧れていたようだが、肝心の招待できるような友達がいなかったらしい。 ネプテューヌが『なんだ、ベールもぼっちだったんだ』と呟いたが、対するベールは『今はあいちゃんがいますもの』とアイエフに抱きつきながら開き直るように言った。
眠ってしまったコンパを布団の中に入れ、今だにモジモジとしていたブランを誘って、ベールたちはこの部屋に備え付けられているシャワールームで1日の汗と汚れを流すと、すぐに布団へと潜り込んでしまった。
こんな時間でも元気そうにしていたネプテューヌも、布団に入って5分としないうちに眠りについてしまい、アイエフもまた、隣にベールが寝ているという状況から眠れないかと思っていたが、ネプテューヌが眠った直後には既に静かに寝息を立てていた。
「……」
「……」
今だに横になるだけで、眠ってはいないのはベールとブランだ。 どちらも趣味に没頭し、眠らずに夜を過ごしたことが1度や2度ではないため、疲れはあるが、すぐに眠ってしまう程でも無かった。
「……ブラン。 起きていますか?」
お互いに無言であったなか、先に話しかけたのはベールであった。 端の布団で外側を向くように横になっているブランは、別にここでベールの問いに答えることなく寝ているフリをしても良かったのだが、何となく返答をしていた。
「……一応、起きてはいるわよ。 話し相手が欲しいの?」
振り向かずに、そうぶっきらぼうに答えたブランに対して、ベールは小声で答える。
「まあ、間違ってはいませんわね。 本当はあいちゃんやネプテューヌともお話したかったのですが、流石にそれはまた今度のお楽しみとしておきますわ」
ネプテューヌたちがイツキの解毒が済んだことにより、緊張の糸が切れたことをベールは十分理解していた。 その疲れが一気に押し寄せることも考えて、この部屋に泊まるように勧めたのだから。
それはさておき、とベールは言葉を区切った。 僅かな間の後に小声で、ブランにしか聞こえないように言う。
「……あなたは、ブランですわよね? 今日が初対面では無く、
「……!」
ベールの言葉に、ブランはピクッと肩を震わせた。 ベールの指す曖昧な単語の意味が、ブランにはよく分かっていた。
ベールの言葉の指す意味は、既に自分の正体がばれているということだ。
他国の女神が入国していることを悟られないために、わざわざ変装をしてまでリーンボックスに入国したが、最もバレてはいけない人物に自分の正体を看破され、ブランは戸惑っていた。
「……いつから、気づいていたの?」
ブランは戸惑いつつも、それだけはハッキリしておきたいようで、ベールへと質問を投げかけていた。
「名前を聞いた時ですわ。 服装がかなり違っていて最初は誰かと思ったのですが、声からなんとなく、あなたとは思っていましたから」
「……それだけで?」
「あまり良い意味ではありませんが、長い付き合いですからね」
ベールのあっけらかんとした返答に、ブランはこんなにも容易に自分の正体を破られたことに対して愕然としそうになったが、今は抑えてベールへと話しかけるのを続ける。
「……それで、私をどうする気でいるの? ここで決着をつけるの?」
自然とブランの肩に力が入り始めた。 女神と看破されているならと開き直り、いつでも女神化できるようにも身構えていた。
「それは、わたくしの次の質問のあなたの答えにもよりますわ」
ブランが警戒し始めたと同時に、ベールからも何か警戒を強めるようなものをブランは感じていた。 布団を隔てて、2人の女神の間に、ただならぬ雰囲気が流れていた。
「……」
「……」
再びお互いに無言になり、厳しい雰囲気の中、ベールがゆっくりと口を動かし始めた。
「では、質問しますわ。 どうしてあなたはわたくしの国、リーンボックスへと訪れたのですか?」
声色こそいつも通りだが、今のベールはブランの次の言葉を一字一句逃さぬように、ブランの背中を強く見つめていた。 視線を直接向けていないブランも、今のベールに隠し事をすることは出来ないと、感じ取っていた。
……いや、そもそもブランに、嘘を付く気なんてこれっぽっちも無かった。 嘘をついた所で何のメリットも無い。 だが、その理由を何の脈絡もなく問われ、答えるのには少し恥ずかしさがあった。 だが、今のベールは至って真面目だ。 だから、自分がどうしてこのリーンボックスへと来たのか、正直に話すことをブランは決心する。
「……イツキのため。……それだけよ」
間を開けたブランのその短い二言に、どれだけの思いが込められていたのだろうか。
ただ、イツキのために。 イツキを、守るために
強い決心が込められていた筈のその言葉には、今は悔やむ思いさえ含まれていた。
「……そうですか」
今のブランの言葉から、ベールが何を読み取ったのかは分からなかった。
ただ、今のベールに警戒するような様子はないことから、肝心なことは伝わっているのだろう。
ベールの次の言葉を待つ、ブラン。 長い間の後に、ベールはさっきの口調とは打って変わって、とぼけるように言った。
「……あぁそれと、今まで言った言葉は全てわたくしの
「……!」
あまりに驚き、ブランは寝返りを打ってベールの顔を見た。 こちらを見ていたベールとブランの視線が合う。
ブランが視線を合わせたベールは、特にブランに話しかけることはなく、ただ人差し指を自分の鼻の頭に添え、ウインクを返しただけだった。
「……ありがとう。 ベール」
ブランが素直に言った感謝の言葉に、少しベールは意外そうな顔をしていたが、すぐに微笑みを返していた。
(……悔しいけど、ベールはやっぱり私なんかより大人なのね……)
心の中でブランはベールの心の広さに感服し、
「まあ、イツキさんとブランが深い関係で結ばれているのは察していましたわ。 少なくとも、口移し出来るくらいの関係ぐらいには」
「…………は?」
唐突に呟いたベールの発言に、ブランはピシリと固まる。
ブランの心中は、ベールの評価の改めることから、そのベールの言葉がなす意味を考えることへとシフトしていた。
そう時間がたたずに、ブランはベールの言葉の意味を知る。 それと同時に、顔がトマトのように真っ赤に変わっていく。
「なっ……なっ……、て、テメまさか……!?」
分かりやすいブランの反応に、ベールはまた意外そうな顔をして答えた。
「あら? まさか、本当に口移しで解毒薬を飲ませたのですか? ……それは残念ですわ。 是非ともそのシーンをこの目で見ておきたかったのですが……」
「て、テメェ騙しやがったな!?」
ベールに一杯喰わされたブランは、若干怒りモードに入りつつ、今にもベールに襲いかかろうとしていたが、対するベールは特に焦ることもなく、とぼけたように言った。
「あらあら、おかしいですわね……。 さっきまでの発言も、今の発言でさえわたくしの
「〜〜〜〜ッッ!!!」
少し笑いながらとぼけるベールに、ブランは更に顔を真っ赤にし、悔しそうに歯噛みして布団の中に潜り込むことしか出来なかった。
(さっきの取り消し! やっぱこいつは嫌いだ!!)
子供もみたいに心の中でベールへの評価を訂正した今のブランには布団の中で唸りながら身悶えるしか無かった。
そして……
(……ふふふ、なんか騒がしいな〜何て思っていたけど、これはいい事を聞けたよ……)
明日どうやってブランをからかうか、何て考えている耳年増な女神がいたことを追記する。