「反省はしているわ。でも後悔はしていない」
目を覚ましてブランから言われた謝罪はこんな言葉であった。
これって後悔していないなら反省のしようが無いんじゃないかのと思うのだがそれはさて置く
「そんなことより…貴方が何者なのか、もう一度確認させて」
「は、はい」
「…?イツキさんの正体ですか?」
フィナンシェは首を傾げていた。どうやらブランは僕を見つけた経緯をフィナンシェに詳しく話していないようだ。
「そうよ。もし私の仮定が正しければ…いえ、これは結果が出てからにしましょう」
ブランはイツキに向き直る。そこで真剣な眼差しでイツキに問いかけた。
「私が今から貴方にいくつか質問をするわ。その質問に答えるだけでいい。だけど、絶対に嘘を言ってはダメよ」
そう念を押して、凄い剣幕でイツキを睨む。思わすイツキはたじろぎ、必死に頷く
それを確認したブランは持っていた、古めかしくかなり年季の入っている本を開いた。表紙もだいぶ傷んでいて、本の題名は掠れて読めなかった
「じゃあ聞くわ。貴方は何処に住んでいるの?」
「僕は…日本の東京に住んでいます」
「……」
ブランは手元の紙に何かメモをしてボールペンを置き、また向き直る
「ニホン?トウキョウ?」
フィナンシェは頭を傾げてウンウン唸っている
「次の質問よ。プラネテューヌ、ラスティション、リーンボックス、ルウィー、この四つが何だがわかる?」
「…わかりません」
「……」
またメモをするブラン。書き終わると開いていた本を閉じ、イツキを見つめた
「四女神の存在を知っているかしら?」
「……いえ、知りません」
「次で最後、この世界の名前は?」
「……地球?」
「……フゥ…確定ね」
一息ついてブランは答えた。フィナンシェとイツキは何が確定したのか答えを聞くためにブランに寄る。
「落ち着きなさい二人とも。別にそんな寄らなくても答えることは出来るわ」
そうなだめられて少し距離をブランから離した。
「いい?よく聞きなさい。イツキ、貴方の正体は……」
少し間を開けて答えようとするブラン、しかし如何せん口が噤んでしまう。それもそうだ。これはあまりにも現実離れした解答だ。それでも、結果はでてしまったのだ。言うしかあるまい
「……異世界人。この世界とは別の次元から来た存在よ」
異世界人……異世界人……
へぇ、僕異世界人何だ〜
「「ハァ!?」」
見事にフィナンシェとイツキの声は重なった。それもそうだ。
突拍子もない現実離れしたことを告げられたのだがら。
「……反応が普通すぎてつまらないわ」
「いやいやいや!!そりゃ驚きますよ!だいたいイツキさんが異世界人ってどう言うことですかブラン様!?」
「……またの名を異邦人とも言う」
「いやいや、そういう意味ではなくて!」
「お、落ち着いてフィナンシェさん」
「って何で当事者であるイツキさんはそんなに落ち着いているのですか?」
「いや、何というか一周回って落ち着いたというか…」
「貴方の言う国、地名は愚か、この世界は地球と言う物では無いわ。他に何か、この世界に来てから違う点は分かる?」
「…僕の記憶が正しければ、あんな化け物はいなかったはずなんですが…」
「…記憶が、正しければ?」
フィナンシェに迫られているなか、ブランはその言葉を見逃さなかった。
「それ、どういう意味?」
「…あー…」
イツキは迷った。ここまで事態が急変しているなら言うべきか?いや、しかし…
「…言いにくい事なの?」
「いや、ここまで来たら言うしかないです。ここから先の話は本当の事です。信じてもらえないかもしれないですが、聞いてください」
イツキは自分は記憶喪失である事を伝え、気づいたらここにいたことを説明した。
「……にわかには信じがたい話ね」
「そうですね。それに、どうしてイツキさんは記憶を失っているのに、名前や住んでいた場所を覚えているのですか?」
名前に関しては彼は頭の中に浮かんだ文字を咄嗟に言ったものなのだが、フィナンシェの疑問は当然といえるだろう
「いや、多分僕が失くしたのは[エピソード記憶]なんです」
「エピソード記憶?」
「はい。脳が記憶するものはそれぞれ覚えるものによって違うんです。例えば知識とか、運動の仕方とか、何と言うか……そうですね、戸棚と同じですね。しまう物が段によって違うんです。その中でも[エピソード記憶]、これは思い出を司る箇所です」
イツキは頭に残っている
「成る程。確かに、記憶喪失が全ての記憶を失くした事を指すのなら、その人は歩くことすら出来ないわね…」
分かりやすい例えを出して理解をするブラン。ブランは理解が早いようだ。
「うう…何かイマイチわからなかったのですが…」
フィナンシェは頭を抱えて考えているが、イマイチ理解が出来ないようだ。
「フィナンシェ…あなた、
「え?」
「え?」
「ん?」
急に静まり返り、気まずい空気になる。これもブランが何気無く呟いた某合法ロリさんの引用語であるためだが
「まあ、分かりやすく言うと僕の場合は林檎の存在は知っていても、林檎の味は忘れている、そんな感じです」
この空気の打破と、フィナンシェのフォローをしたのはイツキだった。
「…それはさておき」
ブランはズレていた議論を戻すことにする。
「貴方の言う、ニホンと言う国はこのゲイムギョウ界には無いわ」
「ゲイムギョウ界……それがこの世界の名前ですか」
「そうね。とりあえず、この世界の事を順を追って説明するわ」
少女説明中……
ブランはゲイムギョウ界について掻い摘んでイツキに教えた。
「とまあ、こんなところね」
まとめるとこういうことだ。
この世界の名は[ゲイムギョウ界]、4つの大陸の管理人である女神の住む天界と、人々の住む下界で構成されている。
下界には4つの大陸があり、プラネテューヌ、ラスティション、リーンボックス、ルウィーと呼ばれ、それぞれの大陸に一人ずつ女神が自分の守るべき大陸を管理している。
そして天界では最近まで、女神同士で大陸の覇権を争う、
最近まで、と言うのは今は一時的に休戦をしているからだと言う。
話をまとめるとこんな感じなのだが、気になる点が一つあった。
「あの、どうしてブランさんはその……
この時点での可能性はブランさんは多分教会の司祭、それも上位の(イツキの知識に宗教に関することは少ないため司祭の階級などは知らないため表記はしない。悪しからず)ものだと踏んでいた
が、次のブランの発言に度肝を抜かれることになる
「当たり前よ、私はこのルウィーの女神なんだから」
……女神……女神…
へぇーブランさんは女神なのかー…
「ハァ!?」
「…ワンパターンね」
「いやいやいや、何で異世界転生した異世界人が、いきなり大陸の管理人たる女神様にいきなり会えるんですか!?なんてご都合主義なんですか!?」
「ハァ…分かったわ。少し待ちなさい」
イツキがブランにまくしたてる様子は何やら既視感のある光景であったが、ブランも確かに証拠もなく自分は女神だと言っても疑うだけだと思い、ため息を一つついてこれ以上にない証拠を見せつける。
「プロセッサユニット、装着!」
突如ブランが光に包まれ、そのまぶしさにイツキは目を瞑る。段々と光が弱まっていくのを感じ、目を凝らしながら少しづつ瞼を開けていく。
「プロセッサユニット、装着完了!」
光柱が確かに立ったところには、不思議な少女が立っていた。
青みがかった銀髪と、白色の、いわゆるスクール水着のような形状の服装を着ている、瞳は赤色の少女だった。
「どうだ!これで私が女神って認められんだろ」
目の前の少女は勝気そうに言う。変身する前とは性格が真逆じゃねーの?という疑問よりは、目の前の事象にイツキは情報処理が間に合わず、ただ呆然とブランの女神化した姿を見つめていた
「ちなみに、この姿は[ホワイトハート]って言うんだぜ……ん?どうした?ぼーっとしちまって、男なんだからシャキッとしやがれ!」
バンッと小気味の良い音が響いた。ホワイトハートがイツキの肩を叩いた音だ。
ホワイトハートはこの時かなり力を抑えていたが、思ったよりもイツキの体には衝撃が響いた。そのおかげもあってか、情報処理能力のオーバーヒートを止めることが出来た。
「……イメージと違う」
「ああ?」
「イイエナニモ」
訂正、情報処理が中途半端であったため、本音七割位のくだらない事を呟いてしまった。
「ブラン様…この状況で女神化をしても、ただ変身が出来ることが確認できるだけで、女神であると言う明確な証拠にはならないのでは?」
ここまで空気であったフィナンシェが口を挟む。丁度イツキの抱いている残りの疑惑はそれであった。どうしてさっきの記憶関連の事がピンと来なかったのかが分からない位客観的な判断が出来ている
「じゃーフィナンシェ。何か他に私が女神だってこいつに認めさせる方法あるのか?」
「……そうですね…ブラン様の実力を見せればよろしいのでは?」
「体に叩き込むのか?よし!それなら任せろ!」
何とバイオレンスな人であろうか、女神としての品位は無に等しい会話であった
「よし任せろ!じゃありませんよ!!仮にも女神様がそんなことしていいんですか!?大体僕怪我人です!暴力はんたーい!!」
「うるせー!じゃあさっさと私が女神って認めろ!認めなきゃぶっとばす!認めてもぶっとばす!」
「脈絡もないただの脅し!?というか、主旨変わってるじゃないですか!?」
何て人だ!これは所謂ゲームだと何を選んでもろくに会話の内容すら変わらない[意味無い選択肢]の選択をやらされているのと同義じゃないか!!
ゲーム画面にするとこんな感じだよ!!
○女神様と認めてぶっ飛ばされる
□女神様と認めないでぶっ飛ばされる
二律背反どころか一律背反だよ!!迷うことすらしないよ!
……ごめんこれは被害少なそうな女神と認めるを選ぶね…
「あーあのブラン様?実力を見せるとは何も体に教え込むのではなく、モンスターとの戦いを見せれば良いのではありませんか?」
「……ちっ、しょうがねーなー。それで妥協してやる」
何とか矛を収めたホワイトハートはまたひかりに包まれた。光が収まるころには無表情のブランが立っていた。
「……き、肝を冷やしました」
(これもフィナンシェさんのおかげです。ありがとうフィナンシェさん!僕の命は貴方のおかげで繋がりました!フィナンシェさんマジ天使。寧ろ女神!)
心の中でフィナンシェの株を上げるイツキであった。(相対的にブランは下がる)
「とりあえず、私が女神かどうか認めるのは明日でいいわ。ここからは、貴方の立場を説明するわよ」
ブランは感情表現の起伏が平坦としか言いようのない声で言う。
余談だがここでフィナンシェがブランに対するフォローをしていた。曰くブランは感情表現の起伏というより差が激しく、女神化した時はそれが常にONになるらしい。キレる若者ってやつ?って呟いたら不機嫌になった。どうやら同じことを言われたことがあるらしい。
因みにこの時点で感情表現(キレ具合)の切り替わりスイッチがここで理解し切れた。どうも変身前で、感情が高ぶるとあの変身後のキレ状態になるようだ。
「まず、貴方がどうして異世界人って分かったのか説明するわね。まず、この本」
ブランは今、イツキに質問した時にも取り出したあの古めかしい本を開いている。所々、破れたり文字が掠れているのが確認できる
「それは…随分古そうですが……どこから引っ張り出して来たのですかブラン様?」
フィナンシェは怪訝そうにブランに問う。フィナンシェもこんな劣化しすぎた本は存在すら知らなかったようだ
「資料室のずっと奥に埋まっていたわ。劣化しすぎて読めないところの方が多いけど……まったく、資料室の管理って誰がやってるのよ」
「……除湿してなかったんでしょうか……」
「まあ、今はどうでもいいの。さっきも言った通り、読めない所も多いけど、内容の断片から察するに、ここに書かれているのは----
「ずっと昔、私たち先代の女神よりも前の伝承。異世界人の伝承よ」