超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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無事進路がほぼ決定しました! まあ後は面接だけですのでほぼ合格も同然……だと思います。

そんな訳で投稿。 でも書き溜めしたいと思うこの頃……


第40話 エムエス山岳

「……?」

 

「ん?どしたのブランさん。急に振り返って」

 

ネプテューヌ達と駄弁りながら歩いている最中、突然ブランさんは立ち止まり、リーンボックス教会の方へ振り返るのを見て、不思議に思い声を掛けた。

 

「……ううん。何でもないわ」

 

ブランさんはそう言って振り返るのを辞めて再び歩き出した。ブランさんの様子が少し気になったが、本人は何でもないと言っているし、追求したところで無駄だろう。立ち止まって少し距離が離れてしまったネプテューヌ達に早足で追いかけるブランさんを見て、僕も駆け足で追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、リーンボックス観光って何するの?」

 

リーンボックス教会から出てもときた道を戻って泊まっている宿の街まで帰ってきた直後の両腕を頭に回して呟いたネプテューヌの発言にリーンボックスについて地形なら多少はともかく、観光面に関しては下調べをしていない僕は答えられない。代わりに答えたのは隣を携帯電話をいじりながら歩くアイエフさんだった。

 

「なら、隣町のカフェはどうかしら。紅茶とスコーンが美味しいって評判で、一度行ってみたかったのよ」

 

一度携帯電話の画面から目を離した答えたアイエフさん。携帯電話にリーンボックスに来た際に行きたいところを纏めていたようだ。

 

「あいちゃんがそこまで言うのなら、わたしも食べてみたいです」

 

「わたしもわたしも!」

 

アイエフさんの提案にコンパさんとネプテューヌは賛成の意を表す。やっぱり年頃の女の子なので甘いものには目がないのだろう。コンパさんとネプテューヌの同意を得たアイエフさんは僕とブランさんの方へ向き、確認する。

 

「イツキとブランもそれでいい?」

 

「私はそれで良いわよ」

 

「僕も他の人の淹れた紅茶は気になる」

 

ブランさんは特にアイエフさんの提案に反対することは無いようだ。僕と言えばこれまで紅茶は自分で淹れたものかフィナンシェさんの紅茶しか飲んでこなかったので、自分の淹れる紅茶は世間一般ではどれくらいの位置に準ずるのかは気になるのだ。

 

「じゃあ、決まりね。確か、馬車が出ていた筈だから、馬車で行ってみましょ」

 

このアイエフさんの言葉に僕は疑問を感じたが、すぐに仕方ないことだと理解した。

 

「アイエフさん。この時間帯はもう馬車走ってないよ」

 

「え?どうしてよ?まだ時間は昼過ぎぐらいだと思うけど……」

 

やっぱり知らなかったらしい。まあ仕方ないと言えば仕方ない。馬車が走れなくなった要因である近辺のモンスターの増殖は最近のことらしいしね。僕はその馬車が走っていない理由をアイエフさんに説明しようとしたのだが

 

「なんでも、この辺りでもモンスターの数が増えてきたらしいわ。そのせいで馬車が出せないらしいの。実際に私たちはこの街までダンジョンを通ってきたわよ」

 

僕が口を開ける前にブランさんが説明したので出番は無かった。別にこれくらいで怒ったりはしないけど、ちょっと哀しい。

 

「そうだったんですか……。あいちゃん、どうするです?」

 

「しょうがないわね。丸一日かかるような距離でもないし、歩いて行きましょ。イツキ、ブラン。隣町の案内頼まれてくれる?」

 

コンパさんの仰ぎを聞いてアイエフさんは僕たちに隣町への案内を頼んできた。

 

「アイアイサー」

 

「分かったわ」

 

特に断る理由も無いので僕はちょっとしたノリで敬礼しながら了解の意を伝える。ブランさんも了解していた。

 

「それじゃ、こっちよ。ついて来て」

 

ブランさんと僕を先頭に隣町のダンジョンへと僕たちは向かった。隣町から僕とブランさんがこの中央街にたどり着いたのは途中からモンスター無視のスピード突破をしたとは言え、かなり早く着いた。アイエフさんの言う通り、大した時間もかからないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「チェイサー!」

 

ネプテューヌの気合の掛け声と共に横薙ぎに放たれたネプテューヌのバスタードソードが敵を切り裂き、声も上げられないままそのモンスターは霧散する。

 

「よーし!次も頑張って倒しちゃうもんねー!」

 

気合を入れてネプテューヌはそのまま次の標的に向かって駆け出し行った。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

そんな気合入りまくりのネプテューヌとは裏腹にアイエフさんは呆れた顔をし、コンパさんは苦笑、ブランさんは無表情で見ていた。かく言う僕も押し黙り、ネプテューヌのことを見つめていた。

 

「……ねぇ、どうしてネプ子はさっきからあんな調子なのかしら?」

 

「さ、さぁ……?」

 

やっと口を開いたアイエフさんの答えに僕は答えられなかった。

 

ここはダンジョン『エムエス山岳』。一応昨日ブランさんと一緒に通過したダンジョンだ。山岳と言う名前の通り、ある程度起伏のある山なのだが、ルウィーの雪山よりは遥かに歩きやすいためブランさんと僕はあっという間に通過できた。ネプテューヌ達を含めれば多少は遅くなるかもしれないが、それほど起伏が激しい訳でも無いのでさっさと通過できると思っていたのだが、ダンジョンに入って30分経った今、全く進んだ気がしない。

 

と言うのもさっきからネプテューヌはモンスターを見つけるや否や自分から攻撃をしかけることを繰り返しているのだ。全く敵と遭遇しないという状況はあり得ないので、最初の方こそネプテューヌの行動に疑問を思いつつもネプテューヌと共に敵を倒していたが、こうも何度もモンスターと戦うのは面倒だ。

 

そんなことを思っているうちにネプテューヌは最後の敵にバスタードソードを上から地面に叩きつけた。その敵が霧散するのに対したラグも無かった。

 

「ふぃ〜。次回も!私の活躍に乞うご期待!」

 

天真爛漫に笑ってポーズを決めるネプテューヌを見てため息を一つ吐く。ブランさんやアイエフさん達も同じような反応をしていた。

 

「ねぇネプテューヌ。どうしてさっきから度々モンスターに喧嘩を売っているのさ?」

 

とりあえず僕は皆の疑問を口にして聞いてみた。ポーズを決めていたネプテューヌはポーズを崩し、その質問に答えるために僕の方へと向き直る。

 

「……それはあれだよお兄ちゃん。わたしは女神なんだし、たとえ他国と言えど人々を困らせているモンスターを見つけたのなら、極力倒すことが女神としての義務だと思うんだ」

 

「無駄に良い声で言っても君がそんな心情を掲げなりはしないって皆分かってるから」

 

僕のこの言葉に皆首を縦に2回ほど振っていた。

 

「ブーブー!横暴審判!ゴシップネタはんたーい!」

 

「事実だから受け入れなさいネプ子」

 

「それで、実際のところどうなのさ?」

 

口を尖らせているネプテューヌに気にせず理由を問い詰める。ネプテューヌはやれやれ仕方ないと言いたげな感じで手に持っていたバスタードソードを僕たちに見えるように掲げた。

 

「いやーこの大剣をさ、プラネテューヌで新調したのは良いんだけど、衝動買いだったせいかすっごい使いづらいことに気づいたんだよねー。だからさ、今のうちに慣れておかないとって思って」

 

僕はネプテューヌの持つバスタードソードとネプテューヌの体を見て、あまりにもネプテューヌの小柄な体とその巨大なバスタードソードは不釣り合いだなと思った。思い返してみれば確かにさっきからネプテューヌの動きは武器に振り回されているようだったことを思い出した。

 

「何か見ない武器使ってると思ったら、ネプ子いつの間にそんなバスタードソードを買ったの?私知らなかったんだけど」

 

「こんぱも知らないし、仕方ないよ。さっきも言ったとおり衝動買いだったしね。おかげでお小遣いが底を尽きました!サー!」

 

「……武器を衝動買いする人初めて見た」

 

何故か誇らしげに敬礼をするネプテューヌに僕は色々な意味で呆れた。この世界でのモンスターとの戦いのために必要な武器を衝動買いする人がどこにいるんだ……。

 

「まあぶっちゃけるとレベリングを 強 い ら れ て モゴゴー!」

 

「はいはいそれ以上はダメだよネプテューヌ」

 

メタもとい、変なことを言うネプテューヌの口を抑える。いやーレベリングって何だろうね?

 

「?イツキさんはどうしてねぷねぷの口を抑えているですか?」

 

「あー気にしないでコンパさん。ところで皆どうする?ネプテューヌが今の武器を使いこなすまで付き合う?」

 

「そうね。流石に出会った敵全てと戦うような時間は無いけど、多少なら付き合っても良いわよ」

 

「わたしはどっちでも良いわ」

 

とりあえずアイエフさんから良いとの許可を得たし、ブランさんも反対しているわけでも無い。さっきからネプテューヌの動きを見ている限り、まだ剣の重さに振り回されているように見えたので、まだ新調した武器に慣れていないと言うのは嘘では無いのだろう。モンスターとの戦闘は危険な以上、今のうちに慣れておくことには僕も賛成だ。

 

「それじゃ、これからの戦闘はネプテューヌが前衛で、他の人はネプテューヌが危ない時に援護ってことでいいかな?」

 

僕のとりあえず今からの戦闘方針を纏めた言葉に皆が頷いたので、僕たちは隣町へと再び歩き出した。

 

 

 

 

 

……のが30分前の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇネプテューヌ。僕らは確かに30分前ほどに隣町に向かって歩き出したんだよね?」

 

「うん。そうだね」

 

僕の傍にいるネプテューヌは首を縦に振って肯定した。

 

「決めた方向性通り、ネプテューヌを援護しながら戦闘をこなして街を目指したんだよね?」

 

「うん」

 

「……それがどんな過程を経たら僕たちはロッククライミングをしなければならない状況になるんだろうね?」

 

僕は大きな石が大量に積まれて出来上がっている山の大きめの石を掴み登りながら、遠くに見えるゴールを見上げてネプテューヌに問う。

 

「う〜ん……わたしには分からないよ。ただ真下からあいちゃんがわたしのことを棒でしつこく突いてくることからわたしのせいなんだと思う」

 

「……」

 

ネプテューヌの真下から無言で片手に持つ木の棒でネプテューヌを突きまくるアイエフさん。その表情は太陽の位置が僕と丁度被るせいか全く読めなかった。

 

現在の状況を簡単に説明すると、予定通りネプテューヌを援護をしながら戦闘をこなしていった僕たちだったのだが、とある崖の近くで戦闘を終了した時点でネプテューヌはある程度バスタードソードを扱えるようになり、本人が調子に乗ってバスタードソードを振り回した所、崖が崩れて僕たちは全員落っこちて今に至る。

 

「……って大体ネプテューヌのせいじゃん!」

 

誰に説明したかも分からないような説明をして1人でツッコミを僕は入れていた。本当にネプテューヌはどこにいてもろくなことをしないな……

 

「……イツキ。1人ツッコミする暇があるならさっさと登りなさい。あと、ネプテューヌは死になさい」

 

「なんで!?」

 

後方からブランさんのっぺりとした声を聞こえてくる。この声のブランさんはブチ切れ一歩手前という状態だ。まあブチ切れていないだけマシなのではあるが。あと、ネプテューヌ。正直罵られても仕方ないことしたと思う。

 

「ま、待ってくださいです皆さ〜ん!わたし、もう疲れたですぅ……」

 

ブランさんの更に後方から僕たちを呼び止めるのはコンパさんだ。この面子の中で一番体力が無い彼女には崖登りは厳しいだろう。

 

「うん。そろそろ休もうか。幸いこの辺の崖、垂直って訳でも無いし、有る程度の段差は出来上がっているから休めることには休めるよ」

 

「そうね、イツキがそう言うなら休みましょうか。あなた達もそれでいい?」

 

僕の提案に同意してくれたブランさんは隣のネプテューヌやアイエフさんに確認をとる。コンパさんに関しては聞くまでも無いだろう。

 

「うん、わたしもそれがいいかな。色々と限界だし」

 

「限界?ネプテューヌも体力が無いクチなの?」

 

「……あいちゃんによる執拗な突きによってわたしの被ダメージが限界なんだよ」

 

「……」

 

未だに無言でネプテューヌをグサグサと後ろから突きまくるアイエフさん。僕は苦笑いを浮かべるしか無い。

 

と、そんなこんか言っているうちに丁度良い段差にたどり着いたので、僕は一足先に登り、後からくるブランさんたちのために横にズレて足を休めた。

 

「ふぅ……イツキ、もう少し横にズレて」

 

「ん、了解ブランさん」

 

僕はその場で体を引きずってブランさんに場所を譲った。ブランさんは僕の譲った位置に足を伸ばしてロッククライミングによって疲労している足をほぐしていた。

 

「ふー、休憩休憩!」

 

「……はっ!?私は何を……?」

 

足を休めることには喜んでいるネプテューヌの後方で、登り切っても未だに棒で虚空を突きまくっていたアイエフさんはそこで我に返っていた。と言うか、無意識だったんだあの行動……

 

「ふぃ……ふぃぃぃぃ……や、やっと休憩ですぅ……」

 

それから少ししてコンパさんも僕らの休む段差にたどり着いた。コンパさんは辿り着くや否やうつ伏せに倒れこんで呼吸を整えていた。

 

「あー……コンパさん大丈夫?」

 

「だ、大丈夫じゃないです……」

 

一応心配になって声をかけた。返ってきた答えは予想通りと言うか、コンパさんは若干涙目でこちらの方を見ながら受け答えしていた。

 

「コンパ、幾ら何でもアンタ体力無さ過ぎよ……」

 

「そ、そんなこと言ったってあいちゃん。私は看護専門ですぅ……戦闘要員じゃないんですぅ……」

 

「バリバリ戦ってるじゃんコンパさん」

 

アイエフさんの指摘に言い訳をするコンパさんに、いつも見ていたコンパさんがあのやけに大きい注射器を振り回して敵に液体を注入するシーンを思い浮かべてしまった僕は咄嗟にツッコミを入れてしまった。それに対してコンパさんは何か両手の人差し指をくっつけながら

 

「それはあの……アレですイツキさん。その、別腹みたいな……」

 

「どこのOLかいな」

 

根本的な体力は変わらないだろうに……まあ無理もないか。コンパさんの本分は看護学校の一生徒だ。寧ろ戦闘をこなしているだけでも比較対象がバウンティハンターのアイエフさんや、女神のブランさんと言うのが悪いだけであって、出来ている方なのだろう。

 

「もーコンパは体力ないな〜。そんなんじゃ某大型同人即売会の会場の一兵として働くことは出来ないよ」

 

「アンタは人のこと言える口じゃないでしょねぷ子」

 

「ブー!心外だよあいちゃん!わたしはいつだって元気に行動しているじゃん!」

 

「そんなこと言って、ラステイションで山登った時は息切れ起こしてヒィヒィ言ってたじゃない」

 

「ウグッ」

 

ネプテューヌの反論をさらっと論破するアイエフさん。ネプテューヌの事だから登り始めこそ元気にはしゃぎながら登ったのだろうが、その後すぐに体力が無くなりバテてしまった姿を何となく想像出来た。

 

「……」

 

僕はそんなネプテューヌとアイエフさんの夫婦漫才のようなやり取りを見て、本当に仲がいいんだなと眺めていた。

 

ネプテューヌが僕と出会う前に、最初に出会ったのはアイエフさんとコンパさんではあるけれど、それでも彼女達は出会ってからそう日にちが経ったわけでもない。それなのに3人とも、まるで古くからの付き合いの友人のように振舞っている。きっとこれはネプテューヌの人徳と言うか、明るく活発的な性格と、ネプテューヌの人を引き寄せるようなオーラのおかげなのだと思う。

 

「?どうしたのお兄ちゃん?わたしの方をじっと見て」

 

不意にネプテューヌと視線が合い、小首を傾げてネプテューヌは僕に聞いてきた。マジマジと見過ぎたかと思いながら、思ったことを口にする。

 

「いや、仲良いな〜って思っただけだよ」

 

その言葉を聞き、ネプテューヌは一瞬頭にクエスチョンマークを浮かべたが、すぐに何か思いついたようにニヤッと笑うと

 

「もしかして……お兄ちゃんはわたしとあいちゃんの仲を見て嫉妬しちゃったの?」

 

「へ?」

 

「もう可愛いな〜お兄ちゃんは!まあ確かにわたしみたいな可愛い女の子が他の子と仲良くしているの見たら嫉妬しちゃうよね。でも安心してよお兄ちゃん。ちゃんとお兄ちゃん仲良くするからさ〜。ほら!今ならわたしの胸を貸してあげるから、抱きついてもOKだよ!」

 

口早にそう言い両手を広げるネプテューヌに僕は何も言わず、敢えて両手を肩まで上げてため息をつき、やれやれとジェスチャーで示す。

 

と、そんな時僕の肩が軽く叩かれた。視線を正すとブランさんの手が僕の肩に置かれていた。

 

「今はおしゃべりして良いような状況じゃないみたいだわ」

 

ブランさんは親指で崖上を示す。その方向へ視線を向けると、モンスター達が各々の得物を構えてこちらの方をじっと見据えていた。

 

……それにしてもブランさん、強く僕の肩を握りすぎじゃない?痛いんだけど。

 

「も、モンスターさんです!」

 

「うわー……何か上の段差にも何体かいるね」

 

コンパさんとネプテューヌも周りを見てモンスターの出現に気づいたようだ。と言うより、既に僕たちはモンスターによって囲まれていた。

 

「まあでも、数は大したことないしやることは変わらないよね!」

 

ネプテューヌは立ち上がり、あのバスタードソードを手に握ってすぐにでも近くの敵に突貫しようとしていた。

 

「待ちなさいネプ子!」

 

「ねぷっ!?」

 

そんな様子のネプテューヌの手を引っ張り、僕よりも早くネプテューヌを止めたのはアイエフさんだ。多分アイエフさんはこの状況でネプテューヌが戦闘するのはマズイ理由が分かっているのだろう。

 

「ちょっとー!何するのあいちゃん!今からわたしはわたしの武勇伝の1ページを刻もうと勇んで突撃しようとしていたのに!」

 

「あのね、こんな足場の悪い所で、しかもネプ子の持つその大剣何か振り回してみなさいよ。最悪足場が崩れて崖下に落ちるわよ」

 

そう。この位置は傾斜がさほど鈍くはないが、決して安定している場所とは言えない。ただでさえ派手な動きを出来ないのに、この上バスタードソード何て範囲の広い武器を使われたらこの崖が崩れるのは確定的だ。

 

しかしネプテューヌはそれでも納得がいかないのか反論する。

 

「別に大丈夫だよーその辺気をつけてやるし。仮に落ちたとしても高度16000kmからパラシュート無しのスカイダイビングをやってのけたわたしは死なないよ」

 

「わたしたちはアンタと違って普通の一般人なのよ!」

 

「えー、あいちゃんたちの強靭な肉体なら大丈夫だよ!女神のわたしが言うからには間違いないって!……多分」

 

「今アンタ多分って言ったわよね?ねぇネプ子?」

 

ネプテューヌとアイエフさんの言い合いはこのままではモンスターに囲まれていると言うのに平行線を辿りそうだ。仕方がない。ここは僕が助けを出そう。

 

「ねぇネプテューヌ」

 

「何お兄ちゃん?」

 

「とりあえず、君がここでモンスター達と戦い、その衝撃で崖が崩れたと仮定しよう」

 

「……?うん」

 

「それで、仮にそこで落下死を免れたとして、だ」

 

僕は途中で言葉を区切り、崖に背を向けて足元を指差す。

 

そこに広がるのは、視界の下側に登ってきた崖であり、それ以外はここから見ては遥かに小さく見える個々の木々である。

 

「この距離をまたクライミングする訳だけど?」

 

「「「「それは絶対に嫌(です!)」」」」

 

仲良いね君たち。妙にコンパさんだけ語気が荒いな。

 

咳払いを一つして僕はもう一度ネプテューヌへと向き直り、理解を求める。

 

「まあ、そう言う訳だから今回ネプテューヌが戦闘をするのは厳禁だ。分かった?」

 

「うー……うん。分かったよ」

 

少し残念そうにするネプテューヌ。ネプテューヌは普段やる気をだすような事はしないし、このように珍しくやる気を出している中で事情があるとは言え、不本意な物だろう。だがこればっかりは仕方がない。

 

とりあえずネプテューヌが納得したところでアイエフさんは指を顎に当てて唸る。

 

「でも、このモンスター達にはどう対応するの?ノータッチて言うのは論外だし、あまり大人数で戦闘行動をとれないし……」

 

「大丈夫よ。ここに武器なんて持たずに戦闘をする人がいるじゃない」

 

アイエフさんの心配を無用とばかりに切り捨て、ブランさんは僕の肩を握ったままそう言った。

 

……気のせいかブランさんの機嫌が悪い気がする。

 

「あ、そうね。イツキならネプ子みたいに雑じゃないから、その辺も器用にこなしてくれるわよね」

 

アイエフさんもブランさんのその意見に同調しているようだった。……僕の人権は?

 

「……比較対象がネプテューヌじゃあなぁ……」

 

何て愚痴を零しつつ、僕はいつも付けている指貫の皮のグローブの裾を引っ張り、ロッククライミングによって緩んでいた皮のグローブをしっかりとフィットさせる。ネプテューヌが何か言っているが気にしない。

 

実際のところ、ネプテューヌと同じような武器の問題でブランさんとコンパさんはこの場で戦闘は出来ない。そうなって来るとこの場の条件で戦闘出来るのは無手の僕とカタール使いのアイエフさんだけだ。しかし、先ほどアイエフさんが指摘した通り、大人数で同時に戦闘をするのは崖が崩れてしまうかもしれない。出来るなら単独での撃破の方が良いだろう。アイエフさんの実力を信頼していない訳では無いが、ここは僕が行くべきなのだろう。

 

……後、女の子が戦っている中で、男である自分は何もしないと言うのはちょっと嫌だ。

 

今回の戦闘条件は、極力この場所のバランスを刺激しないようにモンスターを速やかに撃破すること。

 

何だか最近の僕は損な役回りが多い気がする……

 

「それじゃ、ちょっと行ってくるから待ってて」

 

そんなキザったらしい言葉を残し、僕は崖の段差を一つ一つ確認して跳び上がった。

 

 

 

 






気づいたらUA30000突破してた。 読者の皆様のおかげです! ありがとうございました!

こんな作者ですがこれからもよろしくお願いします!

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