超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

35 / 79
第32話 白の女神の決意

フィナンシェさんが歩く廊下を僕はちょうど後ろに着くように歩く。この間に他愛もない世間話でもしながら歩いていた。特にネプテューヌ達の話題に関しては、僕がラステイションに行って2人の女神に同時にあったことに驚いたが、ネプテューヌのおちゃらけた感じの性格や、ノワールさんの生真面目さを伝えると、一瞬意外そうな顔をしたが、すぐに納得するような表情をしていた。多分いつもブランさんのことをいつも見ていて、他の国の女神もあまり庶民と変わらないことを納得していたのだろう。

 

僕の知らない女神は後はリーンボックスの女神様だけだが、その人は案外マトモなのだろうか?……と考えたが一瞬で一蹴した。どうも女神と言うのは皆無自覚でキャラが濃すぎる。ノワールさんはマトモな方だが、ブランさんとネプテューヌのキャラはかなり濃い。多分リーンボックスの女神様もきっと一癖も二癖もある性格なのだろう。

 

「あ、ここですイツキさん」

 

「え?ああ、ごめんフィナンシェさん」

 

考えてごとをしていてフィナンシェさんが立ち止まったにも関わらず、僕はブランさんの待っている部屋を過ぎてしまったようだ。本当にこの悪癖は直さないといけないなと思いつつ、通り過ぎてしまった道を引き返した。

 

「ブラン様、失礼します」

 

ノックを3回してフィナンシェさんは部屋に入る。部屋の内装は至って簡素なものであり、ある家具は大きめの机と椅子に、どこにでもあるようなベッドだけだった。正直国を統治する女神様にしては不似合いな気もするが、状況が状況だし、ブランさんも気にしないのだろう。

 

「……何?フィナンシェ?今日のレジスタンスの新メンバーの確認書類にはもう目は通したわよ」

 

その当のブランさんと言えば何故かマクラに顔をうずめてらっしゃる。服装はいつも執務時とは違う寝巻きのようなワンピースを着て寝っ転がっている。ベッドの周りに積まれた同人誌を見る限り、さっきまで同人誌を読み漁っていたのだろう。読書の時間を邪魔されて機嫌が悪いのだろうか?何だかフィナンシェさんに対しても素っ気なかった。

 

「いえ、そうではなくブラン様にご報告を申し上げる方がいらしたので、案内をしたのです」

 

その言葉を聞いてもブランさんは中々マクラから顔を離そうとしない。しかし流石に無視し続けるのも悪いのかと思ったのか、少しの間の後に枕から顔を離してこちら側を見た。

 

「……今はそんな気分じゃ無いわ。悪いけど、また今度にしてもら……!」

 

枕から顔を上げたブランさんが面倒くさげに言ったその言葉は何故か僕の顔を見た瞬間途切れ、驚いたような表情をしていた。……急に帰って来たことに驚いているのかな?

 

「久しぶり。ブランさん」

 

とりあえず帰って来て久しぶりに会うので当たり障りのない挨拶でもしておく。ブランさんはその言葉を聞いても中々硬直から立ち直らず、少しの間の後状況を把握したのかブランさんは

 

「……何だ、イツキか……」

 

……久しぶりに会う人に言う第一声それ?そりゃ結構帰ってくるのは早すぎたと思っているし、最低でも1ヶ月はルウィーには帰ってこなれないと思っていたのに、実際は1週間未満で帰ってこれたしね。だからと言ってこの仕打ちは如何なものか。ブランさんらしいと言えばブランさんらしいが少しショック。

 

「……相変わらずの毒舌だねブランさん」

 

とりあえず僕も苦笑いしてこう答えた。ブランさんはいつも通りの人形のような表情の読み取りにくい顔をしていた。……一瞬、僕の顔を見た瞬間に嬉しそうに見えたのだが、気のせいだったのだろう。

 

「何しに帰って来たの?帰ってくるには早すぎると思うのだけど」

 

「えと、一応報告のために帰って来たのだけど……携帯とかで連絡すると、盗聴される可能性もあったし……」

 

……うーん、やっぱり何故か不思議な感覚だ。ブランさんはどうもさっきから言葉にこそ棘はあるが何故だかいつも見ていた時より少しだけだが嬉しそうだ。帰って来たことを残念がられた時は結構ショックだったが、もしかしたら照れ隠しか何かなのか?そうであったらここに来るまでの相当丁重な歓迎をされた身としてはかなり嬉しい。

 

「……とりあえずは報告を聞いてか……!」

 

「?どうしたのブランさん?」

 

またブランさんは何かに驚くような表情をした。僕にはさっぱり分からないが、ブランさんの視線は僕の左腕に注がれていた。

 

「……何でもないわ。とりあえず報告を聞こうかしら。フィナンシェ、お茶出してくれる?」

 

それからブランさんはまたいつもの無表情の顔に戻る。僕には全く何の事だか分からなかった。

 

「畏まりましたブラン様」

 

ブランさんの指示を聞き、フィナンシェさんは一礼すると部屋を後にした。多少紅茶を淹れらるようになってもフィナンシェさんの淹れる紅茶には到底敵わないので、久しぶりに飲めると思うと少しだけ楽しみだった。

 

「フィナンシェさんの紅茶は久しぶりだから楽しみだな〜。今日の茶葉は何かな?アップルティーだといいな〜……?ブランさん?」

 

フィナンシェさんを視線で追っていてブランさんから少し目を離していただけなのだが、気づけばブランさんは僕の左腕の手首を手に取り、その手首に巻きついているブランさん自身がくれたお守りをじっと見つめて、少しした後すぐに僕の顔をまっすぐに見すえた。

 

「……イツキ……私が何を言いたいか、分かる?」

 

ブランさんは掴んでいる僕の左腕を僕自身にしっかりと見せるように掲げてそう言ってきた。ブランさんの持つ手の真上には、あの紅と白のお守りがある。ノワールさんの話では、この御守りにはホワイトハートのシェアの力、つまりはブランさんの女神としての力が込められていると言っていた。力を込めた本人には、何かしらの変化が分かるのだろう。

 

「…………」

 

自意識過剰でなければ、多分相当僕はブランさんに心配されたのだろう。心配したからこそ、僕に自身のシェアの力を込めてまで御守りを渡した。だけど、本当はその御守りの力を使わなくてはならないような局面には陥っては欲しくなかったのだと思う。

 

「……うん。一杯心配かけられたし、僕はブランさんに謝らなくちゃいけないと思うけど、その前にすることがあると思うんだ」

 

僕はこの御守りのブランさんの込められた思いと力のおかけで、折れかけていた心を持ち直すことが出来た。もしこの御守りが無ければ、僕はあのままキラーマシンの餌食となっていただろう。

 

「……?それは何?」

 

謝る前にしなくてはならないことを分かっておらず、少し首を傾げるブランさんに僕は微笑んで答えた。

 

 

「僕を助けてくれてありがとう。ブランさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり。ブランさん」

 

報告を受ける気分では無いと断ろうとした矢先、目の前にいた人物と発せられた久しぶりに聞く声に気づいて私は硬直し、紡いでいた言葉を途切れさせてしまった。

 

着ている服こそ違うが、目の前にいるのはさっきまで私の思いを占有していた人物である、イツキその人だった。

 

目の前に見る限り五体満足のイツキが現れて、最初こそ急に帰って来たことに驚いて、無事であることが確認出来ると、次に私は何て言葉をかければ良いかわからず、何を血迷ったのか

 

「……何だ、イツキか……」

 

……正直これは自分で言っておいて無いと思ったわ。本当は無事で良かったーとか、心配したーとかもっと言葉はあったはずなのに、……多分無事で帰って来たことに安心して、いつもの調子で毒づいても問題無いなんて考えてしまったのかしら……自分のことなのに分かっていないのは複雑ね……

 

「……相変わらずの毒舌だねブランさん」

 

言われたイツキも苦笑いをしていた。さっきまでは心配ばかりしていたのに、内心を表には出さないようにはしているが、少し自分に自己嫌悪した。イツキが居たことに驚いて、嬉しくて少し顔を綻ばせてしまった気もするけど

 

「何しに帰って来たの?帰ってくるには早すぎると思うのだけど」

 

……だから、どうして私の口からはこんな棘のある言葉しか出ないのかしら?

 

「えと、一応報告のために帰って来たのだけど……携帯とかで連絡すると、盗聴される可能性もあったし……」

 

でも、やっぱりイツキが何の怪我もなく帰って来たことは嬉しいし、僅か一週間足らずで大きな怪我をするわけでもないから、あの御守りが使われたことも無いでしょうね。でもまあ、一応確認しておこうかしら。

 

「……とりあえずは報告を聞いてか……!」

 

言葉を紡ぎながら御守りに注目して気づいた。イツキの左腕に巻きつけられている御守りに込められた力の加護が弱まっていたのだ。

 

イツキに持たせた紅と白の御守りは、私の加護の力を込めた物だ。ラステイションへついて行けない私はイツキのために、イツキを守ってくれるように祈り、思いを込めて作り出したものだ。イツキが本当に危機に陥った時にその加護はイツキを守るために力を発揮し、イツキに力を与えるように願ったのだ。

 

その加護が弱まっていることが指すのはたった1つ。イツキはラステイションで自分がピンチになるほどの無茶をしでかしたと言うこと。

 

「?どうしたのブランさん?」

 

驚いた様子の私を不思議そうに見つめるイツキに、私はすぐに表情を元に戻した。とりあえず、この話をするのは私とイツキだけにしておきたい。

 

「……何でもないわ。とりあえず報告を聞こうかしら。フィナンシェ、お茶出してくれる?」

 

「畏まりました。ブラン様」

 

私の出した指示にすぐに従ってフィナンシェはすぐに部屋を出た。ドアを閉める時にフィナンシェと目があったけど、多分どんなニュアンスの話をするのかは察しがついているのかしらね。

 

そして静かに立ち上がり、出て行ったフィナンシェを視線で見送るイツキへと向かっていく。

 

「フィナンシェさんの紅茶は久しぶりだから楽しみだな〜。今日の茶葉は何かな?アップルティーだといいな〜……?ブランさん?」

 

私がイツキの左腕の手首を掴んだ時、いつの間に私が近くにまで寄っていたことに気づかなかったのか、少し驚いていたけど、気にせずに今一度イツキの手首の御守りに意識を集中させる。……やっぱり、込められていた私のシェアの加護は渡した時より弱まっていた。すぐに御守りから視線を外し、イツキへと向き直る。

 

「……イツキ……私が何を言いたいか、わかる?」

 

「…………」

 

その言葉を聞いて、イツキは痛い所を突かれたような顔をしていた。とどのつまり、私が何を言いたいのか理解しているのだろう。言いあぐねているの理由はイツキはあまり他人に心配をかけさせたくない人間であり、自分で出来ることは極力自分がやるというスタンスの人間であるからだろう。

 

だからこそ、私はイツキのことが心配で、気にかかっているのかもしれない。何も悩みを話さないからこそ、何か重い悩みに悩まされているのに、それを誰にも話さずに、自分の中で溜め込んでしまっているのでは無いかと思うと、心配で仕方なかった。……いいえ、イツキはきっと苦しんでいるはずだわ。あの凄惨な光景を作り出したことをイツキは朧気ながら覚えていると言っていた。あんな凄惨な光景をどうしようもなく生み出したしまったことをイツキはきっと苦しんでいる。現にイツキはあの時、泣いていたのだ。だがその苦しみを他の誰かに伝えたり、相談しようとは考えていない。そんな調子で、イツキはいつか壊れたりしないだろうか、心配で仕方なかった。

 

イツキは少しだけ考えるような仕草をすると、元から話すつもりではあったのだろうか、思ったよりも話すことをゴネるようなことはせず、すぐに言葉を紡いできた。

 

「……うん。一杯心配かけられたし、僕はブランさんに謝らなくちゃいけないと思うけど、その前にすることがあると思うんだ」

 

……その前にすること?

 

「……?それは何?」

 

イツキは私の問いにはこう答えてくれた。

 

 

 

「僕を助けてくれてありがとう。ブランさん」

 

 

 

……そうね。そうだったわ。イツキは感謝も忘れない、優しい人であること、ちょっと忘れていたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん、以上がラステイションであったことと、その収穫かな」

 

「……大体分かったわ」

 

「……イツキさんらしいと言えば、イツキさんらしいですね」

 

イツキはブランにラステイションでの出来事を途中から話に混じってきたフィナンシェも含めて報告をした。

 

イツキが報告したことはラステイションは現状女神に権威は殆ど無く、今は大企業であり、このルウィーに兵器を送り込んでいるアヴニールが牛耳っていることと、そこでプラネテューヌの女神ネプテューヌと、ラステイションの女神ノワールに出会ったこと。偶々手に入れたアヴニールの信頼をぶち壊したこと。そして何よりも、それらをぶち壊した理由と自分のした無茶を話した。イツキが話している間、ブランとフィナンシェは何も口を挟まずに聞いていた。

 

「……イツキ、多分私があなたと同じ立場だったら、あなたと同じ行動をしていると思うし、私はそのガナッシュってやつの信頼を壊したあなたのことを咎めることもしない。と言うか、その下町の人たちのことを見て見ぬ振りをして手に入れる情報なんて、欲しく無いわ」

 

話し終えたイツキに、ブランはイツキが気にしているアヴニールの情報を手に入れることの出来るチャンスを無下にしてしまったことについてはお咎めなしと言うことを伝えた。

 

「……ふふっ」

 

「?どうして笑ってるのよ?」

 

その言葉を聞いてイツキは少し微笑んでいて、ブランは何故イツキが笑っているのか気になった。

 

「いや、実は僕がアヴニールのことを敵に回した理由に、きっとブランさんも同じような事を思うだろうなって思ってさ。ラステイションの国民だとか他国の女神だとかそんなのそんなの関係なしに。今ここで本人から直接聞いて、同じ考えだったことに安堵しているだけだよ」

 

「……そう。……とりあえず、この件についてこれ以上言及するつもりは無いわ。それで、本題のあなたのやらかした無茶についての事だけど」

 

「……無茶はするなって忠告?」

 

「しても無駄だと分かっているのにどうして忠告する必要があるのよ。私はあの時は無茶はするなとは言ったけど、こんなに早く約束を破られたら、交わせる約束も交わせないわ」

 

「うっ……」

 

そのブランの言葉にイツキはぐうの音も出なかった。イツキとしてもまさかラステイションに来て早々にあれ程の戦闘をするとは予想もしていなかったのだ。

 

「だから、もう無茶をするなとは言わないわ。別に無茶をしたって構わない。だけど、これだけは絶対に約束しなさい」

 

ブランはイツキの顔をまっすぐに見つめる。その真剣な眼差しと少しの間の後、ブランはゆっくりと一つ一つの言葉をイツキに伝えるように

 

「絶対に、死んだりしちゃダメ。絶対よ」

 

「……はい」

 

そう言われてイツキは断れる筈なんて無く、コクリと頷き返事を返した。

 

「うん。ならいいわ。とりあえず、イツキの報告の詳細はまた後でまとめるとして、この後イツキはどうするつもりなの?」

 

「残りの大陸の内、プラネテューヌかリーンボックスだと今の所はプラネテューヌに行こうと思ってるよ」

 

イツキは何故プラネテューヌに行こうと考えている理由は主に2つだ。1つはネプテューヌ達の証言によると、プラネテューヌのとあるダンジョンでマジェコンヌと思わしき人物と鉢合わせたらしく、もしかするとその場に何か手がかりが残されているかもしれないと踏んでいること。そして、2つ目はネプテューヌ達と言う案内人がいるので、ある程度は融通が効くかもしれないと言う理由からだ。別にリーンボックスは後でも問題はない。

 

上記の理由からイツキは現段階ではプラネテューヌに行こうと考えている理由だ。そのイツキの今後の方針を聞いたブランは手元にあったカップを手に取り一口啜ると一言言った。

 

「なら、私も行くわ」

 

「へー、ブランさんも来てくれるのかー……ん?」

 

イツキはあまりにも急すぎるブランの緊急告知に反応出来ずにいた。いや、固まったのはイツキだけでは無い。傍らにいた侍従のフィナンシェでさえブランの言動に固まっていたのだ。

 

「ぶ、ブラン様!?何をおっしゃっておられるのですか!ブラン様はレジスタンスのリーダーなのですよ!」

 

「レジスタンスのリーダーだからって、その辺に踏ん反り返っていていいものじゃないわ。リーダー自ら行動すべきなのよ」

 

「で、ですがリーダー不在の組織なんて……」

 

当然、ブランの言動に驚きそれを止めようとするのはフィナンシェだが、ブランは全く聞く耳を持たないと言う感じであった。

 

「え、と言うか、何でブランさん急にそんなことを?」

 

イツキとしても何故急にそんなことを言い出すのか分からず、ブランに聞いた。

 

「さっき、私と約束したわよね?死んだりしたらダメだって」

 

「したけど、それとこの話にどう関係があるの?」

 

「でもあなた1人だとラステイションでの話を聞く限り、また無謀特攻でもして死なれたら困るのよ」

 

「……ブランさんにとって僕って何?」

 

便利なパシリ(大切な補佐官)よ。愚問じゃない」

 

「文字が違う!」

 

と、この後も何度もイツキとフィナンシェはブランの我儘を止めようとしたがブランは引き下がらず、結局イツキとフィナンシェが根負けをし、幾つかの条件は付くがブランの同行が許可された。

 

 

そして時間は今に戻る。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。