超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第一章
第2話 白き大地に降り立つ白き少年


「……?」

 

雪の大地の中ではおおよそ目立つ花や木が植えられている庭園のガラス張りのドームの中のベッドに横たわり同人誌を読む少女は怪訝そうな顔をした。

 

「どうかなされましたか?ブラン様」

 

長い金髪を靡かせ、白いカチューシャとメイド服を着ている少女は、どこにでもいそうなグウタラな少女に確かな敬意を持って話しかけた。

 

「…ううん。何でも無いわフィナンシェ」

 

ブランと呼ばれたその少女は読んでいた同人誌を閉じ、立ち上がって大きく手足を伸ばした。暫く寝っ転がって気づいていなかったのだが、そろそろ仕事の時間なのだ。

 

お気に入りの寝巻きから白を基調とした服に着替えて、フィナンシェが淹れてくれたハーブティーとサンドイッチを食べる。何と無く抜けきれなかった眠気が覚めていく。

 

「今日もモンスター討伐ですか?」

 

「ええ。ハイラノレ雪原のビッグクラブを討伐してくるわ」

 

「……危険種ですか」

 

「大丈夫よフィナンシェ。最近はルウィーのシェアは回復傾向にあるわ。余程のことでと無い限り、死んだりしないわ」

 

「……」

 

「……?どうかしたの?」

 

「いえ、何でもありません」

 

ブランはフィナンシェのつぶやきが気になったが、やがてフィナンシェに背を向け歩き出したのであった。

 

「……ブラン様…いいえ、ホワイトハート様…私は……貴方が心配でなりません」

 

悲しげなフィナンシェのか細いつぶやきは、無風であるその庭園の中で漂い消える。

 

ブランこと、夢見る白の大地 ルウィーの女神[ホワイトハート]には届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ…ハアッ…ハアッ……!!ぐ…」

 

黒髪に黒い瞳で、下はGパンに黒いTシャツの上に赤と黒のチェックのパーカーという、雪国で過ごすにはあまりにも心許ない出で立ちのその[無名の少年]は、息を切らせながらも走っていた。

 

今の彼にとって寒さなどは二の次の問題だ。彼はいま命の危機に晒されていた。

 

「グォォォォォ!!」

 

少年の真後ろを追随する唸り声の正体は、人の三倍は大きいカニだった。

 

何故このような事態なったか簡潔に説明すると、まず前提として現在必死に逃げている少年は記憶喪失だ。

 

自分のいた雪原の中が一体何処なのかは愚か、自分の名前さえ分からなかった。

 

このような遭難状態になれば普通は動かない(彼には自分のこれまでの生涯の思い出は無いが、知識は残っていた)のが鉄則なのだが、寒さもあり、いても立ってもいられず歩き出した。

 

そんな土地勘も無い状態で歩くものだから、偶然国の教会指定の進入禁止エリアに入ってしまい、運悪く危険種と遭遇してしまったのだ。

 

詰まる所こういうことである

 

「グォォォォォ!!」

 

その巨大なカニはテリトリーを荒らされたと勘違いされ、無名の少年を殺意を纏って追いかけている

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!もう!何何だよ!?てかこのカニデカすぎっていうのもあるけど、何で前走りなの!?カニは横歩きでしょうが!!しかもお前どちらかと言うとクモだよね?そんな足の生やし方蜘蛛しかいないもん!!」

 

その言葉が通じたのかどうかは分からないが、カニはまた唸り声を上げ、ハサミを振り回しながら追いかけはじめた。少しだけスピードが上がった気がした。

 

「いや、お前人間じゃないから!ハサミを腕と見立てて走っても大して変わんないよ!!」

 

そんな追いかけっこを続けていた。

 

 

 

 

 

彼等が鬼ごっこを初めて30分後

 

少年は多数のモンスターに囲まれていた。

 

追いかけられていた彼には土地勘が無いのもあるが、巨大カニはどうも賢いようで、モンスターが大量に現れる場所に誘導し、確実に殺そうとしていたのだ。

 

今彼の周りには青いタコの足が短いverみたいなのとか、氷で構成された形容し難い生物やらが殺気だてている。

 

「あぁ……なんでこんなところにUMAがいるの?それとも僕の知らない間に地球はこんなファンタスティックになっちゃったの?少なくとも僕の知っている地球はファンタジーのカケラもないバイオロジーでオートマチックでノスタルジックなんだけど……」

 

軽いパニック状態なのか、支離滅裂なことを言っていた。

 

無理もない。自分の名前もわからない状態で命の危機に晒されているのだ。

 

「あぁ〜…できればここで僕の取り合いみたいに喧嘩し始めてくれれば助かるんだけど」

 

そんな彼の思いとは裏腹に、徐々に距離を詰めてくる化物(モンスター)達。どうやら、早い者勝ちに決まったようだ

 

「……」

 

かと言って、彼もはいそうですかと納得する訳でもない。

 

この化物たち全員に勝てるとは思わないが、多少の抵抗はしてやろう

 

「ダリャ!!」

 

思ったら即日行動の先手必勝で、足元にあった石を青いやつに思いっきり投げる。突然の攻撃にそのモンスターは反応できず、怯んだ

 

それを見逃さず彼は距離を詰めてその勢いのまま、青いやつを蹴り飛ばした。

 

そしてその青いのは塵となり、霧散した。

 

「!?」

 

彼は驚いていた。蹴り一発で敵を倒せたこともそうだが、自分の身体能力の向上について最も驚いた。

 

考えてみればさっきまで命懸けの鬼ごっこの最中で気づいていたかったが、逃げていた時の速度もスタミナも、それからすぐに息が整う回復力は異常だ。

 

(おいおい。僕はアスリートか何かだったのか?)

 

「…いや、なんでもいいや。この場面を切り抜けられれば」

 

そうと分かればすぐに動く。やられたやつの方を向き、呆気にとられてる化物達の所に駆け出す。そのうちの一体を鷲掴みにし、別の奴らに向かって投げ飛ばす

 

「おおおりゃぁぁぁぁ!!」

 

そして何体かを巻き添えして投げた化物と巻き込まれた化物たちはまたも霧散した。

 

「よし!」

 

どうもこいつらは統制がとれていないらしい。隊列なんてものは持っての他、殆どのやつらが固まって動いている。

 

そこにつけ込んで今みたいに化物たちを投げつければ…!

 

そう思った矢先、突如化物達がまるでボーリングのピンのように薙ぎ払われた。

 

「グォォォォォ!」

 

さっきまで鬼ごっこを繰り広げていた巨大ガニだった。

 

獲物が横取りされるのが嫌だったのか、他の小型のやつらを攻撃したのだ。

 

それを見て恐怖したのか、他の化物たちは逃げるように散って行った。

 

逃げた奴らに目にもくれず、少年と相対する巨大ガニ。

 

「くそ…やるしかないよな…」

 

武道なんてものの知識は彼には無いが、構える少年。

 

そしてあたりは沈黙とし、互いに隙を伺う。

 

「グォォォォォ!」

 

先に動いたのは巨大ガニだった。ハサミを構えて咆哮を上げて標的に詰め寄る。

 

「ほっ!」

 

振り下ろされたハサミをバックステップで彼は避けた。ドゴーン!という音と共に積もった雪が舞い上がり、彼のいた場所にはクレーターが出来上がっていた。

 

まともに食らえば身体能力が向上しているとはいえ、死ぬかもしれない。

 

そう認識した彼は避けることに専念し、隙を見て反撃することにした。

 

「グォォォォォ!」

 

左右からハサミがそれぞれ横に薙ぎ払うように少年に迫る。それを少年はしゃがみ、背を反り、確実に避ける。

 

痺れを切らしたカニは両方向から同時にハサミを使って挟み撃ちにしようとする。

 

「隙あり!!」

 

それを少年はジャンプをして避け、拳をカニの顔に思いっきりぶち込む。

 

ゴーーーン!!

 

神社の鐘の様な音が響く。

 

彼は拳から電流が流れるような感覚を感じた。

 

「ふ、ふにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ゴロゴロ

 

まるで鉄筋コンクリートを素手で殴った様な感覚だった。余りの痛みにのたうち回ってしまう。

 

「グォ!グォォォォォ!」

 

そして間髪入れず迫りくるハサミ。何とか立ち上がり避けるが、如何せん反撃する手段が無いことを知る。

 

「ああもう!何だよあの硬さ!何食ったらあんな硬くなるんだよ!?カルシウムなのか?じゃあなんでこいつはカリカリしてるんですか!?」

 

つまらないことを呟くが、特に状況は変わらない。右から左から迫りくるハンマーのようなハサミをかわし続ける。

 

しかし鬼ごっこでの体力が回復しきらないのか、だんだん動きが鈍くなり、少しづつ確実にダメージを与えられてしまう。

 

「……ガハッ!」

 

ついに体力が無くなり、まともに薙ぎ払いを食らう。

 

近くの木に激突し、そのままうつ伏せになってしまう。

 

(あぁ……こりゃ多分骨何本かイッてるな。アバラは確実)

 

正直もう意識も朧げで、視界もボヤけていた。ただ、確実に言えること、いや見えているのはトドメを刺そうと距離を詰めてくる巨大ガニの姿だった。

 

「……ち、……ち、ぐ……しょ……う……」

 

何かが詰まったかの様な声しか出ない。こんな唸り声しか喋れない。

 

(全く、自分が何者かも分からないまま死ぬなんてな……それもまた人生なのかなぁ……でも、まだ楽しみたかったな…)

 

そんな願いを心で呟く彼の頭上で、無情にもハサミが振り上げられる。もう、動くことは愚か、声も上げられない。

 

少年は死を覚悟した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

ハサミを振り上げてたカニが突如仰け反り、弱々しい唸り声を上げ、粒子の欠片となり霧散した。

 

 

その時確かに捉えた。

 

 

散っていく粒子の中に立っている少女

 

 

ブラウンの髪に、雪国特有の白の薄いコートのようなものにスカート

 

 

そしてその小柄な体型と容姿には似合わない、巨大なハンマー

 

 

きっと彼女が助けてくれたのだ。

 

 

ピンチに颯爽と現れるヒーロー。昭和的で古臭い、所謂様式美という奴だ。まさか現実で起こるとは少年は思わなかった。

 

 

意識が暗くなっていく中、彼は呟いていた

 

 

「……綺麗…だ…」

 

 

そこで意識は暗転した

 

 

 

 

 

 

 




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