……ハマりすぎて小説かけないかもこれ
時は少し遡る。
「久しぶりの外だー!」
「やっぱり、おひさまの下は暖かくて気持ちいいですねー」
「こういう日は絶好のお昼寝に限るよね」
「はいです。あったかーい日向でのんびりするですぅ」
ネプテューヌ達は廃工場に設置してあったモンスターディスクを壊した後は比較的モンスターと鉢合わせすることが少なくなり、後はすんなりと脱出する事が出来た。無事に出ることが出来たからか、閉じ込められた当初は不安であったコンパも、呑気なネプテューヌと呑気な会話をしている。
一方で
「んー……」
「ねぇ。さっきから黙ってるけど、どうしたの?ネプテューヌの言ったことを気にしているの?」
「違うわよ。今更だけどちょっとガナッシュの狙いが気になって」
「私たちを閉じ込めたこと?」
アイエフとノワールは隔離された状況からの脱出と言う目下の目的を達成したことにより、ガナッシュが自分達を閉じ込めた理由を追求し始めた。
「えぇ。本当に目的はわたしたちを始末することだけだったのかしら?モンスターのディスクがあったことといい、何か他にも狙いがあるような気がするのよ。単なる偶然なのかしら……」
「他の狙い、か……」
ノワールには心当たりがあった。それはネプテューヌ達には記憶喪失と誤魔化しているが、秘密にしている自分の正体と、ガナッシュの態度に関連があると考えている。
(私の正体に気づいているような素振りだったし、きっと彼の本当の狙いは私……あとでネプテューヌたちには、ラステイションのゴタゴタに巻き込んでしまったことは謝らなくっちゃ……)
既に知る者、もしくは彼女のラステイションと言う、国そのものを憂うような態度から察している者はいるかもしれないが、ここで彼女の正体については記さないことにする。
「あいちゃん心配症だなー。いくらなんでも深読みしすぎじゃないかな。無事出られたんだから、それでいいじゃんっ!今日はもうお仕事なんてやめにして、シアンのところでゴハンにしちゃおーよー!」
そんなアイエフやノワールとは真逆な性格である楽天家のネプテューヌは早く食事にでもしようと提案した。この提案はネプテューヌ自身が考えて言った物ではないが、このネプテューヌの発言に、アイエフはハッとし、自分自身の気になっていた物に気づいた。
「……っ!?マズイわ、シアンも危ない!」
「……あいちゃん、どういうことです?」
アイエフの指摘にコンパは理解出来ず、説明を求めた。自分達からどうシアンに繋がるのかを理解出来なかったらしい。
「あいつが私たちを閉じ込めた時に言っていたことを思い出して」
「え、えーっと……」
アイエフに言われ、コンパは記憶を呼び覚まそうとするが、閉じ込められた瞬間はパニックになっていて若干記憶が朧気であった。それでも、必死に何とか思い出そうとする。
「……た、確か……」
『あなたたちがパッセとかいう町工場の協力者であることはわかっています。大概、我が社の仕事を受けることで、博覧会の出展物に探りを入れ、あわよくば妨害することが目的だったのでしょう?」
『我が社の勝利は間違いありませんが、何があるかわかりませんからね。障害となりうる芽は早いうちに摘みとっておきたいわけですよ』
「……あ!」
「思い出したみたいね。あいつは私たちがシアンの協力者であることを知っていたのよ。なら、シアンも私たち同様に狙われる可能性があるわ」
「な……っ!?」
「なんですと!?それじゃあ急いで戻らないと!」
ネプテューヌもやっと事態を飲み込めたようで、どこか巫山戯た感じはあったが、驚きを顔に表していた。
だが、この場の誰よりもそのアイエフの指摘に驚いたのはノワールだった。
「…………博覧会の為に私たちだけじゃなく、一般人のシアンも狙うなんてどういう神経してんのよあいつは!」
ただ自分達の利益の為だけに、他人から幸を搾取するして、自分達をモンスターの巣窟に放り込むに留まらず、一介の一般人すら報復の対象にするアヴニールのガナッシュに、ノワールは憤りを隠せなかった。
「もうこればっかりは頭にきたわ!ガナッシュもアヴニールも絶対許さない!そんな企業、修正してやるわ!」
「あばばばばば。ここにきてノワールがめちゃめちゃ怒っている件!」
「ノワールさん怖いですぅ……」
「そこ!ごちゃごちゃ言ってない!急いでシアンを助けに行くわよ!」
「「はひぃっ!?」」
鬼の様な形相のノワールに、怒りの矛先を向けられていない筈のネプテューヌとコンパも、行動を咎められただけなのに、跳ね上がる様に背筋を固めて驚いた。
◇
ネプテューヌ達が急いでシアンの工場に行く道中の下町は、建築物の多くが瓦礫と化していた。
「街がめちゃくちゃですぅ……」
「これはさすがのわたしもドン引きってレベルだよ……」
「ガナッシュのやつ、絶対に許さないんだから……!」
いつもおちゃらけているネプテューヌも、この惨状に巫山戯ることはせず、ノワールは更に怒りの業火を身に宿した。
「お、お前ら!来てくれたのか!?」
更に先に進むとシアンの工場の方向からその持ち主であるシアンがこちらに駆け寄って来るのをネプテューヌ達は確認し、シアンの無事に安堵した。
「シアン、無事だったの!?」
「あぁ。俺は大丈夫だし、下町奴らは殆ど避難させたんだが、イツキの奴が……」
「イツキ?イツキがどうしたのよ?」
「あいつ、俺たちを避難させて、たった1人でアヴニールの兵器と戦っているんだ」
「なんですって!?」
ノワールの驚きは当然と言える。ガナッシュは自分たちをモンスターディスクの設置された廃工場に隔離した。これは恐らくシアン達の工場を襲うために、邪魔なネプテューヌ達を足止め、あわよくばそこで始末してしまい、その上でシアン達の工場を破壊する寸法だったのだろう。これ程用意周到なら、不測の事態の為に、シアンの町工場を破壊する兵器以外にも、彼自身がモンスターディスクを所持しているかもしれないのだ。
自分たちはその2枚もモンスターディスクが設置された廃工場から脱出した訳だが、その2枚のディスクの中の全ての敵を倒した訳ではない。数は多かったが、それでも全ての敵に鉢合わせした訳では無かった。しかし、仮にガナッシュがモンスターディスクを持っている状態でイツキと相対しているのなら、イツキは大量のモンスター達と孤立無援で戦っていることを指している。4人はイツキの実力を知ってはいるが、幾ら何でも1人で戦力未知数の敵と戦うのはあまりにも危険だ。
「だから、ここは危険だ、早く逃げろ!」
「逃げろって……あなたはどうするのよ!?」
「教会に行って女神様に助けを求めてくる。きっと、女神様ならなんとかしてくれる筈だ。だから、お前らも安全な場所に逃げるんだ」
シアンはネプテューヌ達の身を案じてか、この場から逃げるように言うが、ネプテューヌ達は、はいそうですかと逃げる訳にはいかなかった。
「残念だけど、それは出来ないわ」
「そうだよ。わたしたち、ガナッシュには海よりも、コントローラのモールドよりも、ふかーい恨みがあるんだから。それに、お兄ちゃんが1人で戦っているって言うのに、自分達だけ逃げるなんてしたら、主人公失格だよ!」
「そういうこと。アヴニールの自慢の兵器なんて、全部スクラップにしてやるわ」
逃げるなんて選択肢は無いと言い張るノワール達に、シアンはそれでもネプテューヌ達を引きとめようと、口を開いたが、それは途切れてしまう。
突如シアンの来た方向から凄まじい爆音が聞こえ、その場にいたシアン達は一斉に爆音の響いた方向を見た。そして巻き上がる土煙と爆炎に目を奪われた。
「な、何か爆発したです!」
「………っ!」
「あ!待ってよノワール!」
その爆発を見て、未だ破壊活動をガナッシュが続けていると見て、己の怒りをも爆発させたノワールは脇目も振らずに走り出した。それを見てネプテューヌも駆け出す。
「あ、アンタ達!もう、勝手に動いちゃって!わたしたちも行くわよコンパ!」
「はいです!」
「お、おいお前ら!…くそっ!」
更にネプテューヌ達の後を追うように走り出したアイエフとコンパを見て、少し毒づきながらも自身もアイエフ達を追いかけた。
そして時は現在に戻る。
「!待ちなさいガナッシュ!」
ガナッシュの構えていた拳銃を狙撃したアイエフは、視線の先で消えたガナッシュを呼び止めるが、消えた者を呼び止めたところで返事がある訳も無かった。だが今はガナッシュの事では無い。
「イツキ!大丈……!!」
アイエフは倒れているイツキを見て絶句をする。ネプテューヌ達やシアンも同様の反応をしていた。
イツキの惨状はひどい有様だった。既に着用している服は穴や焼け焦げた後でボロボロであり、そこから傷の酷さを物語っているのは誰でも分かった。特に酷いのは右足の損傷であった。皮膚は焼けただれ、幾度も切り裂かれたような裂傷を負っており、中の肉が露出しとても直視することは出来ないものだった。
ネプテューヌ達がここまで来る途中、幾つもの建物が壊れていた。イツキがどれ程の敵と戦ったのかは計り知れない。だが、イツキ程の強者でもこれほどの大怪我をする程敵は強かったのだ。
それでも、イツキは戦ったのだ。
「……っ!イツキ!」
硬直状態を最も早く抜け出したのはノワールであり、イツキの名を呼び駆け寄った。
近づいたことにより、イツキの右足の惨状を更に近くで直視することになるが、ノワールはそんなことは構わなかった。ノワールはイツキの近くで膝を下ろした。
「イツキ……」
ノワールは静かにイツキの名をつぶやいた。イツキは目を閉じたまま、起きることは無い。
情けない
自分があまりにも情けないと、ノワールは思った。
これまでずっとラステイションの女神として、長い長い守護女神戦争にも身を投じて戦ってきた。それこそ、下界には降りることなど無いほどに戦い、それがラステイションの為だと信じて戦っていた。
だが、いざ下界に降りれば女神としての権威は失われ、アヴニールがラステイションを牛耳っていた。それらを取り戻そうとして必死になりながら、ネプテューヌ達の協力も得てアヴニールの実態を調べようとした。
だが完全にそれが裏目になり、ノワールはネプテューヌ達ごと廃工場に閉じ込められ、シアン達も襲われる対象になり、そしてこの話とは全く無関係のイツキに至っては、こんなにボロボロになるまで戦ったのだ。ラステイションの女神である自分では無く、他国の人間であるイツキが。
アヴニールから権威を取り戻そうと決意したが、その行動が裏目に出てイツキ達をラステイションのゴタゴタに巻き込んでしまった。
これは本来は自分1人で解決すべきことだった、とノワールは思っていた。だが、アヴニールの内情を多少なり知ることが出来たのはネプテューヌ達のおかげであり、イツキはシアン達を己が身を呈して守った。
(……でも、私には何も出来なかった……)
言葉には出さない。だが、ノワールの目から涙が流れた。何も出来なかった自分が情けないのだ。
「!こ、コンパ!イツキに応急処置を!」
「は、はいです!ねぷねぷも手伝ってください!」
「分かった!」
「俺も手伝う!」
そこで今まで硬直していたアイエフ達は、イツキの治療をしようと駆け出した。
だが、
「……ゲヒッ」
「「「「「!?」」」」」
イツキに向かって駆け出したネプテューヌ達も、イツキの横に居るノワールも、イツキの口から漏れた声と同時に、またも硬直してしまった。だがそれは、イツキの口から出た笑うような声に驚いてではない。
辺りに充満する絶対零度の殺気。まるでそれらは意志をなすように、鋭い刃物のようにこの場に居る人間達に向けられている。その殺意に当てられた者たちは驚いたり、泣いたりはしない。だがこの蛇に睨まれたカエルのような状況、動いたら、殺されると意思表示されているな状況に、冷や汗を大量に流していた。それでも、辛うじて誰がその殺気を放っているのかは分かった。
「……イツキ……?」
ノワールはその殺気に最も近い位置に当てられながらも、殺気を放つ人物に話し掛けた。
イツキから返事は無い。だが、突如動いたイツキの右手がノワールの右腕を掴んだ。
「え?」
ノワールは突然の事に反応出来ず、イツキの顔を見たが、それは失敗だったのかもしれない。
「……エヒャァ……!」
イツキの悪魔のような歪んだ笑みを見た瞬間、ノワールは自分から力が抜けるのを感じ、意識は暗転した。
◇
「……ん……んぅ……?」
目覚めると、まず最初に目に入ったのは何となく見覚えのある天井。ラステイションで僕が停泊しているホテルの天井だった。僕はうっすらと開けていた目を少しづつこじ開け、周りを見回す。
「……あ、起きたのね。イツキ」
僕が横たわっているベットの傍に、ノワールさんが椅子に座っていた。僕はとりあえずベッドから起き上がろうとしたのだが、もう少し横になっていなさいとたしなめられた。
とりあえずベッドに横たわったまま、この状況について整理しよう。キラーマシンを倒した直後の事を、僕は覚えていない。そしてノワールがここにいると言うことは、ネプテューヌ達は自力で廃工場から脱出し、下町に駆けつけて気絶していた僕を運び出してくれたのだろう。
「……?」
今更気づいたが、右足に全く痛みを感じない。布団の中で手を自分の右足に触れるが、全く痛みは無い。心当たりが無いと言えば嘘になるが、自分はそれをやった覚えはない。
「……ねえ、イツキ」
「はい?何ノワールさん」
ノワールさんに話し掛けられたので思考は中断、ノワールさんの方へ顔を向ける。僕が視線を合わせた事に気づいてノワールさんは話を始める。
「……先に謝るけど、私たちガナッシュの策に嵌って廃工場に閉じ込められいたの。だから、シアンの町工場に駆けつけるのが遅れてしまったの。ごめんなさい……」
「別にいいよ。それはガナッシュ本人からも聞いていたからね」
「そう……。それで、私たちは急いでシアンの所に駆けつけたのだけど、あなたはそこで気絶していたわ……それも、かなりの重傷を負って」
「……そうだね。実際、かなり手こずったし」
正直、この辺は誤魔化し様が無いだろう。多分ノワールさんが問い詰めようとしているのはその先の事だ。
「それで私は1番初めに気絶しているあなたの元に駆け寄ったのだけど、あなたは駆け寄って来た私の手を急に掴んだのだけど……覚えてる?」
「……いや、全く」
「そう。それであなたが私の手を掴んだ瞬間、私は気を失ってしまったの。それで、ここからはネプテューヌ達から聞いた話何だけど、私が気絶したのに驚いて、ネプテューヌ達もイツキと私の所に駆け寄ったらしいんだけど、その時のあなたの体を見て皆驚いていたわ。だって、遠目からも分かるほど酷かったあなたの体は、傷ひとつ無かったらしいわ」
こう言われては心当たりは確信に変わるが、まさか無意識に発動していたとは思わなかった。
(……そう言えば……)
何となく思い出したのはこの世界に来た直後の時の事を思い出した。あの時、僕はビッククラブと言う危険種に追いかけられ、死に目にあったがブランさんに助けられた。その時は確実にどこかしらの骨が折れているとは思ったが、目覚めて確認すれば、骨どころか肋骨も折れていなかった。多分、この時も無意識にあの力を使ったのだろう。
「……あなたに聞きたいことは山ほどある。だけど、それは我慢して、1つだけ聞くわ」
ノワールさんはそこで一呼吸置いて、僕だけに聞こえる様に言った。
「あなたは、何者なの?」
「…………」
話を聞いている限り、僕は無意識とは言え、あの力を使ってノワールさんの力・生命力を奪ってしまったのだろう。それで今後ノワールさんにどんな影響があるかは分からない。ノワールさんにしても、何と無く自分の力が奪われたことは分かっているのだろう。罪滅ぼしの様で悪いが自分の正体について話したくなる。
だが、自分の正体について言うにしても問題が発生すると思うのだ。それが明かすのが本当の正体であれ、偽物の正体であれ、だ。
本当の正体についてはお察しの通り、異世界人だなんて信用してもらえる訳が無いが、偽物の正体……いや、既に任命されているから偽物と言う訳でも無いが、僕がルウィーの女神、ホワイトハートの補佐官であることを言うのも憚れる。他国の一般人ならともかくとして、他国の女神直属の補佐官がこの国にいるのは、この国と言うより、このゲイムギョウ界の宗教がどれだけ他の宗教に対して当たりが強いか分からない。そんな訳で下手なことも言えない訳だが……
「……と、そうね。この話はネプテューヌ達を呼んでからにしましょ。ネプテューヌ達を読んでくるから、おとなしくしているのよ」
言葉を選んでいるうちに、ノワールさんはネプテューヌ達を呼ぶ為に立ち上がり、それだけ言うと足早に僕の部屋を出て行った。
「……?」
一瞬見えた、ノワールさんの顔が何かに少し怯えている様だった。
◇
「…………」
自分でも何かに怯えるように、その場から早く離れたいように足早に廊下を歩いていく。
イツキに対して気になることはあったけど、その話はネプテューヌ達も含めて行うべきだと考えているのは本当のこと。
だけど、本当にそれだけでネプテューヌ達を呼ぶ為に部屋を出て行ったのでは無い。
あの時、私でさえその場から動けない程の殺気を放った人物。それが目の前にいるだけであの時の感覚を思い出してしまい、今にもその殺気が再び放たれると思えば、不安で仕方なかった。
「……イツキ、あなたは一体……」
その疑問に答えられる人物など、いる訳が無かった。