超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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第17話 MAGES.

ボスリザード達を倒したところでイツキ達は目的のモンスターを探して奥へと向かっていた。

 

その道中もモンスター達に襲われたが、パーティが五人もいると特に苦労もせずにダンジョンを進めた。

 

何度かモンスターとエンカウントした際、イツキはブロック状のモンスター、テリトスのブロックを一個一個力技で解体し、相手に投げつけると言う戦法を取ったところ

 

「あんたって中々エグい戦い方するのね……」

 

とアイエフが言い、全員がそれに同意するようにうんうんと頷いていた。

 

(……て言われたけどな……)

 

イツキはチラッと前線で土管型モンスター、ドカーンを倒す片手間に、何故か一緒に前線に出ているコンパを見た。

 

「えいです!」

 

コンパは普通の十倍は大きい注射器を持ち、スパイダーに針を突き刺して何かを注入していた、その注射器の中に並々と注がれている得体の知れない液体をスパイダーに注入していく。

 

「ギュオ!!?ギャオ!??!ギャギャ!!!!……ぎ…」

 

飛び跳ねるように痙攣をし、その動きが段々と弱っていくと活動を停止し、スパイダーは霧となった。

 

(コンパさんの方がエグい戦法とってると思うんだけど……)

 

てっきりイツキはコンパはRPGの職業で言う回復職(ヒーラー)、小隊で言う衛生兵かと思ったのだがどうも違うようで、どうやら戦闘も兼ねている衛生兵のようだ。看護学生らしく薬品を使った戦い方をしているのだが、どうにも黄色い液体をモンスターに注入しているシーンを見るとモンスターに同情してしまう。

 

イツキとしても今コンパがニコニコ笑いながら注射器の中に補充している、スパイダーに注入していたあの得体の知れない液体を、あの妙に鋭く大きい針から注入されるのは御免こうむりたい。

 

イツキはコンパから視線を外すと今度はアイエフを見た。

 

「カオスエッジ!」

 

ドカーンをサマーソルトで蹴り上げ、間髪入れずに両手に装備されている短剣で突き刺し切り開いた。アイエフが装備している短剣は『カタール』と言うものであり、コンセプトは『拳で殴るように使う、刺突力の優れた短剣』とイツキはアイエフに教えられた。

 

アイエフの戦い方を注意深く見ると、確かにカタールを突き刺す動作はストレートパンチ、踊るように回転して敵を切りつける動作は裏拳のようにも見えた。このパーティの中では一番格闘技を使っているので今度イツキはアイエフに少し師事をしようかと考えた。

 

「ま、こんなものかしらね」

 

「あいちゃんお疲れ様です。これで汗拭くといいです」

 

「ありがとうコンパ」

 

コンパはアイエフにタオルを渡すとアイエフはありがたくそれを受け取り顔を拭いた。本来このような労いなどは戦闘に参加していない人がするべきのだと思うのだが……

 

イツキはコンパ達から視線を外すと後方にいる、今は戦闘に参加していない2人へと視線を移した。

 

「それにしても〜、ノワールっておっぱい大きいよね〜?」

 

「ぶーっ!い、いきなり何言ってんのよネプテューヌ!」

 

「えー?普通におっぱいの大きさを褒めただけじゃ〜ん。何でこんな大きいの?やっぱ牛乳?それとも揉まれたの?」

 

「牛乳でも無いし、揉まれても無いわよ!てゆーかこれセクハラよセクハラ!あんたはどこのエロオヤジよ!」

 

「おやー?そんなことを言ってもいいのかなー?ノワールく〜ん?」ワキワキ

 

「な、何で手のひら開いたり閉じたりして近づいてくるのよネプテューヌ?」

 

「大丈夫大丈夫〜。もっとノワールの胸が大きくなるようにするだけだからさ〜。痛くは無いし、むしろ気持ちいいと思うよ〜」ワキワキ

 

「いや、そう言う問題じゃひゃん!そ、そんなとこ触らないでよネプテューヌ!」

 

「ほれほれ〜ここがええんか?ここがええんか〜?」モミモミ

 

「だ、だからやめてーー!!!」

 

……これ以上彼女らの会話を聞かせると年齢制限が必要な行為に抵触しそうであるので、ここで辞めておく。

 

仲良くするのは構わないのだが、イツキはこの人目を憚らない行為に目を向けられず、注意することも出来ないので聞かなかったことにし、目を逸らした。耳に入ってくる会話も別のことを考え、シャットアウトすることにする。

 

(……そう言えばネプテューヌさん……もうネプテューヌでいいか。何だかネプテューヌをさん付けで呼ぶのは何だか抵抗があるし)

 

(ネプテューヌが女神化した瞬間、スタイルよくなったな……特に胸が……身長が伸びたことを考えると、案外女神化って成長した大人の姿ってことなのかな?)

 

そこまで考えたイツキはふといつも見ていた女神の少女の女神化前と、女神化後の姿を脳内で比較してみて気づいた。

 

「……ブランさんって、将来性ないのかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が万年ペタンコだゴラァァァァァアアアアアアアア!!!!!!」ガターン!

 

「ぶ、ブラン様!?」

 

当たらずとも遠からず。

 

 

 

 

 

 

 

現れたモンスターを粗方倒し終えると、イツキ達はじゃれていたネプテューヌ達を呼び、更に奥へと進んでいくが、一向に目的のモンスターは表れず、さっきまで元気にはしゃいでいたネプテューヌも、やや辟易としていた。

 

「お兄ちゃん……目的のモンスターはどれなの?…と言うか、どんな特徴してるの〜?」

 

やる気ゲージが低下中と聞けば分かるようなダレた声を出すネプテューヌに、イツキはしょうがないと言った様子でガナッシュからネプテューヌ達が来る前に受け取っておいた書類を懐から取り出す。

 

「んー……書類には、大型モンスターって書かれてるけど……」

 

「他に特徴は?」

 

イツキは四つ折りにされた書類を取り出したとき、ノワールは身を乗り出すようにイツキの持つ書類を覗き見た。

 

「……いや、それしか書いてないみたい」

 

「…本当みたいね……あなたを責めるつもりはないのだけど、この情報だけじゃね……」

 

ノワールは確かめるように書類を二度見すると、残念そうに身を引いた。

 

補足するとこのノワールのわざわざ書類を覗き見た理由はイツキへのアプローチなどではない。ノワールはイツキの考えた通り、アヴニールの関係者と疑っているのだ。まだ、確信には至っていない(寧ろ至ったら困る)ようだが、書類が偽物かどうかなどを確認する程警戒はしている。

 

(……やっぱり、考え過ぎなのかしら……ううん。油断は禁物よノワール!まだ彼がアヴニールの手先では無いと言う証拠は無いのだから!)

 

逆に言えばアヴニールの関係者である証拠も無いのだが、ノワールはそんなことには気にも留めない。

 

さて、疑われている張本人イツキであるが、イツキも同じようなことを考えていた。

 

(……何かいい匂いした……はっ!?)

 

……訳では無かった。ノワールは疑惑事情のこと以外は特に深くは考えず、ただ書類を確認しただけなのだがイツキにとっては不意打ちだった。

 

気づけば微かに体温を感じられる距離に近づかれ、イツキの呼吸時に鼻腔をくすぐった仄かに香る石鹸の香りにイツキの精神は一瞬グラついた。

 

「そんな時は誰かに聞いてみるです」

 

イツキの不安定だった精神はコンパの声によって引き戻された。その言葉の意味を理解すると、顔を少し顰めて

 

「そんな都合良く、ダンジョンに人がいるわけが……」

 

と、イツキが言いかけた時だった

 

「そのセリフは、都合良く人がいるフラグをたてているのだぞ」

 

声のした方へ振り向くと遺跡の影から

 

「……あなた、誰?」

 

「……私の名か?……そうだな、ここでもMAGES.とでも名乗っておくとするか」

 

やや形式じみた制服のようにも見えるが、何処と無く怪しげな雰囲気を、言うなればマッド・サイエンティストのようにも見える出で立ちの、トンガリ帽子もあいまって魔女のように見える少女はMAGES.と名乗った。

 

「MAGES?」

 

「MAGES.だ。それでは最後の.(ドット)が抜けている」

 

「……あんまり発音上関係ないと思うんですけど……」

 

「よく言われるよ。だが仮とは言え、結構気に入っているのだ。そこはちゃんと呼んで欲しい、ほら、そこのお前、リピートアフターミー。MAGES.」

 

MAGES.は自分の名前の復唱を求めた。その視線の先は、発音上の疑問を口にしたイツキ。

 

「え?僕?」

 

「他に誰がいると言うのだ?ほれ、リピートアフターミー。MAGES.」

 

「め、MAGES……」

 

「ノンノン。MAGES.」

 

「……MAGES.」

 

「Great!」

 

無駄に発音の良い英語で褒めるMAGES.に、このままでは話が進まないと察し、イツキとMAGES.のやり取りをアイエフは

 

「漫才はその辺にしてもらえるかしら?」

 

「おお、すまんな。ついつい話し込んでしまった。それで、私に何か聞きたいことでもあるのか?」

 

「この付近に大型のモンスターが棲みついているらしいんだけど、何か知らないかしら?」

 

アイエフは知りたい情報についてMAGES.に伝える。MAGES.はフンフンと頷き、特に考えもせず、最初から考えていたかのようなラグの少なさで答える。

 

「いいだろう。だが、ある情報が欲しいのでな。情報交換だ」

 

どうやら、向こうも向こうで情報を欲しがっていたそうだ。それならばこちら側も知っていることは答えようと言う態度は取った方がいいだろう。

 

「いいわよ。で、そっちが欲しい情報って何?」

 

「なに、簡単なことだ。ドゥクプェの売っている場所を知りたい、ただそれだけだ」

 

(ドゥクプェ?)

 

イツキは心中で首を傾げた。そんな飲み物は飲んだことは愚か聞いたこともない。しかしイツキには記憶が無い。この時点の自分が知らないだけで、意外と知ってる人はいるのじゃないかと思ったが、

 

「ど、ドゥクプェ?……コンパ知ってる?」

 

「初めて聞く名前です。ねぷねぷは知ってますか?」

 

「全然知らないよ。ノワールとお兄ちゃんは?」

 

「いや、聞いたことがないよ」

 

どうにも、このメンバーの中には一人もそのドゥクプェなる飲み物を知らないらしい。一応ノワールはまだ答えていないので、皆の視線がノワールに向けられるが

 

「私も初耳ね。……その、ドゥクプェってのは一体何なの?」

 

やはりと言うかなんと言うか、ノワールも知らない飲み物であるらしく、ノワールはMAGES.にそれが何なのかを聞いた。

 

「ドゥクプェを知らないだと!?選ばれし者の知的飲料ことデュクテュアープエッパーを知らないというのか!?」

 

まるで常識を問われるかのような勢いで言うMAGES.。彼女にとってその飲み物は必須の物なのだろうか?

 

「うん」

 

ネプテューヌはMAGES.の剣幕に特に動じもせずに簡潔に答える。

 

その様子にMAGES.は懐からおもむろに携帯電話を取り出すと、幾つかボタンを押した後耳に当てた。

 

「もしもし、私だ。どうやらこちらの世界のドゥクプェも機関により存在を抹消されたらしい」

 

「いや、しかしここで諦めるわけにはいかない。きっとどこかでドゥクプェが存在した痕跡があるはずだ」

 

どうも上司のような者と連絡を取るような素振りを見せるMAGES.。差し詰めそれは任務中のエージェントとその司令官のような会話を思わせるが、イツキは気づいていた。

 

(……あの携帯、画面真っ暗だけど……気のせいかな?)

 

MAGES.携帯電話は、電源が入っていないことに。

 

「引き続き、そちらも調査を続けてくれ……それでは幸運を祈る。ルクス・トュネーヴェ・イメィグ・ノイタミナ・シスゥム」ピッ

 

決めゼリフのように携帯電話との会話を終わらせたMAGES.は悔しそうな顔をして

 

「……っく!まさか、あの世界同様、こちらの世界にもドゥクプェが存在しないとは」

 

視線を斜め下に向け、悔しげに言うMAGES.のその姿はイツキにとってはもうただの誇張表現にしか見えなくなってきた。

 

「……誰との電話か知らないけど、次はこっちの質問に答えてくれるかしら?」

 

ノワールも何と無く察していたのかは分からない。が、少し呆れている様子を見るに、自演は分かったが問い詰めると面倒と感じたのか、追求はせず、情報を求めた。

 

「……あぁ、そうだったな。確か知りたいのはこの辺りに住む大型モンスターについてだったな。そいつならちょうどこの前で見かけたぞ。この辺りにいるモンスターとは明らかに見た目が違うからすぐわかるはずだ」

 

てっきりまともな情報を渡せなかったために出し惜しみとかするのかと思ったが、MAGES.はそんながめつい人では無いようで、親切に情報を教えてくれた。

 

「ありがとう、助かったわ」

 

「それでは、私も急ぐ身でな。これで失礼しよう」

 

そう言うとMAGES.は様になっているとしか言いようのない仕草で大袈裟に振り返る。誇張表現にしか見えない筈なのに、イツキはかっこいいと思った。

 

「どうやら、獲物はこの先にいるみたいね。さっさと行きましょう」

 

ノワールはそう言うと、さっさと先行して前へと進んで行き、その後に続くようにイツキ達も歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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七つの大罪 『強欲(グリード)

 

 

 

とある村に、とある少年とその両親が住んでいた。

 

その少年はとても欲しがりで、何かしらに興味を持つたびにそれを欲しがった。

 

初めて少年が欲しがったのはぬいぐるみだった。少年の母親は少年の願いを叶えるために、せっせと少年の両親である自分たちを模したぬいぐるみを作り、少年にプレゼントすると少年はとても喜んだ。

 

貧しい家庭のその少年の両親は最初のうちは少年の興味の示す物は簡単に手に入り、物を与えていたが、次第に手に入れるのは難しくなった。

 

その両親は少年を愛していた。出来れば少年の願いを叶えてあげたかった。それが出来ない自分たちの不甲斐なさを責め、少年にゴメンねと謝っていた。

 

少年は飽きることは無かったが、それでも新しい物への興味の方が勝っていた。

 

しかし、これ以上自分を愛している両親に迷惑はかけられない。

 

幼いながらもその少年は、両親の自分への愛を分かっていた。だからこそ、そう考えた。

 

その時少年の頭の中に声が鳴り響いた。

 

---俺を受け入れろ。そうすればお前の『強欲』を満たしてやろう---

 

少年はその声を聞き、心の中で歓喜するとすぐにその声の正体を受け入れた。

 

その瞬間、少年の体に変化があった。

 

何と、自分の肉体そのものが少年の欲した物へと変化したのだ。

 

少年はそんな自分の体を見て、恐怖した。

 

それは自分が異形の存在となっているものからの恐怖だ。こんな姿では、両親に嫌われてしまう……!

 

それは少年にとって最も苦痛であった。

 

少年は逃げ出そうとし、家の扉を開け放ったが、丁度畑仕事から帰ってきた両親と鉢合わせしてしまった。

 

案の定、自分の異形の姿に両親は目を丸くしていた。

 

少年はその場で縮こまり、見ないで!見ないで!と絶叫を上げた。嫌われてしまう、いや、嫌われた……きっと怒られる。

 

そう恐れた少年は小さく啜り泣く。

 

そんな少年を、2人の両親は優しく抱いた。そして痛いところは無いか?と少年の身を案じた。

 

少年にとって果てし無く予想外だった。嫌われたものかと思っていたのだから。

 

少年は、何故自分のことを嫌いにならないのか、両親に問いた。2人は少しキョトンとし、それから微笑んで言った。

 

 

 

 

私たちの、子どもだから

 

 

 

その言葉を聞いて、すすり泣いていた少年は大泣きをし両親に飛びついた。

 

こんな異形の姿になっても、両親は自分を愛してくれている。

 

それが単純に少年にとって嬉しかった。

 

そしてこれからは少年は、両親に尽くして生きていこうと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命は理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、大規模な盗賊が村を襲った。

 

少年は畑仕事に出かけていたが、村の方から煙が上がっていることに気づき急いで村に向かった。

 

少年がつく頃には、既に村は火の海だった。

 

少年は急いで自分の家へと駆け出し、玄関のドアを開け放った。

 

中には盗賊が何人か、金品を探っていたがそんなものは目には入らない。入るわけがない。

 

少年は必死に両親の姿を探した。盗賊が何か言っているが少年には全く聞こえない。

 

いつの間にか身動きを抑えられた少年はそれでも両親の姿を探す。いつまでたっても見つからないその姿に苛立ちは募るばかりだ。

 

そして少年はついに両親を見つけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の真ん中には、2つの両親の生首があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の中で、何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと少年は焼ける匂いがまだ立ち込める、灰と燃え残ししか残っていない焼け野原の上に立っていた。

 

少年の周りには幾つもの死体が、最早人間としての原型をとどめていないものが散乱していた。

 

少年は虚ろな目で辺りを見回した。

 

目に入ったのは母親から貰った、2つのあのぬいぐるみ。

 

奇跡的に燃えなかったそれを少年は両手に抱え、歩き出した。

 

目的なんてない。ただただ歩き出した。

 

理不尽すぎる結果に、少年は運命を呪い、自分の存在意義を奪われたことにより、

 

盗賊たちは、自分たちが満たされるためだけに村を、両親を襲った。こんな理不尽な運命を自分を味わっている。自分だけ……自分だけが!ふざけるな!こんなことがあるか!何故こんな目に合わなきゃいけないんだ!何でお前らはそんな人間がいるのにも関わらずヘラヘラ笑ってやがる!……そうだ。教えてやればいい。自己を満たすためだけに、他人の幸を搾取されることを……!

 

それはあまりにも世界を知らない自己中心で、あまりにも悲しい言い訳だった。

 

しかし少年の心は大きな大きな穴が出来ている。それを埋めるために、自分の欲望を満たし、頭の中に響き続ける声がそれを後押しする。

 

---求めろ、我慢なんて必要ない。やりたいことをやればいい---

 

少年は我慢をしなくなった。求めるものは全て求めた。欲しいものを手に入れるために、何人もの人を攫い、それを自分の欲しい物に変えた。邪魔する者は全て殺した。

 

それでも、心に空いた穴を埋めることは出来なかった。

 

それもその筈だ。その穴を埋められるのは、他ならぬ愛であると言うことを、少年は忘れてしまったのだから。

 

どんな物でも求めた少年が唯一失くしたものが、それであった。

 

そして今日も少年は人を攫いは遊び、殺す。

 

人としての倫理観などはもう残っていない。

 

心の穴を埋められるものを求めるためならば

 

 

我慢などしない

 

 

 

 


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