超次元ゲイムネプテューヌ 雪の大地の大罪人   作:アルテマ

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……一週間更新出来ないだけで、禁断症状でたよ…てなわけで投稿


第二章
第14話 重厚なる黒の大地 ラステイション


「ここが、ラステイション……」

 

ブランさんとフィナンシェさんに見送られ、ルウィーとラステイションの接岸場から歩いて数十分、ラステイションの街についた。

 

第一印象は工場地帯だ。どこを見ても工場の煙突ばかりが見えて、人の住む家の様なものは殆ど見当たらなかった。

 

工場ばかりあるせいなのかよく分からないが、少し目が痒い。光化学スモッグとかだろうか?だとしたら前にいた世界も直面していた環境問題が心配である。

 

「まあ、何にしてもとりあえず拠点が必要だよな……」

 

とりあえず僕はホテルを探そうとしたのだが、やはりと言うか何と言うか、どこも工場ばかりで全く見つからなかった。

 

「……うん。見つからないだけならまだマシだよ……」

 

結論迷いました。最早自分がどこにいるのかも分かりません。

 

「……まさかこの年で迷子になるとは……年齢覚えてないけど」

 

多分そろそろ18歳になるくらいだとは思うけど、実際のところどうなのだろうか?実は老け顔で本当は15歳だったり、そのまた逆で童顔で実はもう成人迎えているのだろうか?

 

「……って、今は年齢のことはいいよ!!この状況の打破だよ!」

 

……とは言うものの、特に良い案が浮かぶ訳でもなく、頭を抱えてウンウン唸っていた時だった。

 

「ねぇ君、何だか困ってそうな顔をしているけど、どうかしたの?」

 

声をかけられたので、そちらの方を見ると水色のマフラーに赤い髪のポニーテールが特徴的で、これまた赤のシャツと赤いホットパンツという中々露出度の高い少女だった。

 

どうもこちらが困っている様子で話しかけてくれたようだ。ここは言葉に甘えてホテルの場所を教えてもらおう。

 

「あー……お恥ずかしい話、この大陸に来たのは初めてなものなので……そのー……」

 

「迷子になったの?」

 

「ウグッ……はい。絶賛迷子な人です……」

 

「しょうがないよ。ここは入り組んでいるし、私も初めてこの大陸に来たときは迷っちゃったよ。私が知っている場所なら、案内してあげるよ」

 

「あ、じゃあどこか安めの宿まで案内してくれませんか?」

 

「それくらいならお安い御用だよ。あ、自己紹介が遅れたね。私はファルコム。駆け出しの冒険者だよ」

 

「僕はイツキです。よろしくファルコムさん」

 

ファルコムさんと握手をし、挨拶を交わした。これが僕と後々共に戦う、ファルコムさんとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇーイツキはルウィーから観光に来たんだ」

 

「ええ。ルウィーの雪景色も中々趣があり、楽しいところでしたのですが、機械工業にも興味があったので丁度良い機会と思い、ラステイションに訪れたのです」

 

イツキはファルコムに案内をしてもらう道中、自分がラステイションに来た経緯を話していた。勿論今イツキが言っているのは建前である。まさか、他国の会社の実態調査をしにきたと堂々と言う訳にはいかない。

 

「……うーん……」

 

「……?どうしました?」

 

「イツキって、ちょっと堅すぎじゃないかな?敬語を使うなとは言わないけど、もう少し肩の力抜いてくれてもいいんじゃない?」

 

「あー……少々ゲフンゲフン……お待ちをゲフンゲフン……よし、分かったよファルコムさん。こんな感じでいいかな?」

 

「……柔らかくなったのはいいけど、今の言葉遣い変えるまでの咳払いは何だったの?」

 

「僕が言葉遣いを敬語モードからタメ口モードに変わるまでのロード時間だよ」

 

「……へー……君って不思議な体しているんだね」

 

「ごめん真顔でボケをボケで返さないで……せめてツッコミをいれてよ……」

 

こんな感じに楽しく談笑をした所で、イツキはさりげなく聞きたいことを聞くことにする。

 

「それにしても何だかこの辺にいる人、何だか活気が無い様な気がするんだけど……ラステイションの国民はシャイなのかな?」

 

ファルコムとイツキが進む道中で、すれ違う人々は何だかどの人も疲れきった顔をしていて、まるで生気が無かった。

 

「……そっか、知らないのも当然か……」

 

ファルコムは歩む速度は変えないが、少し声のトーンを落として暗そうな雰囲気になった。

 

「今私たちが歩いているこの場所は所謂、下町に当たるんだけど、ここの人達が暗いのはアヴニールって言う会社のせいなの」

 

「!」

 

イツキはファルコムのアヴニール、と言う言葉に耳を傾けた。アヴニールの情報収集が今回のイツキの目的だ。聞き逃す訳にはいかなかった。

 

「詳しいことは私も分からないんだけど、アヴニールって言うのは、2年前から急速に成長を遂げた大企業なの。実質このラステイションを支配していると言っても過言ではないよ」

 

「ラステイションを、支配?」

 

「うん。家電から武器やら兵器まで何でも作って、その製品ラインナップの多さと低価格でほぼ市場を独占しているらしいの。そのせいで、下町の工場の人達の作る商品は種類も価格でもアヴニールに負けてしまって物は売れないし、アヴニールは下請けをさせてくれる訳でも無いから、下町の人達の経営する工場はどんどん潰されていってるらしいの」

 

「それ、独占禁止法違反じゃない?女神様は何をしているの?女神様はそんな状況を放っておくとは思えられないけど……」

 

「実際、下町の人達が集まってノワール様……あ、ブラックハート様に相談しようとはしたらしいんだけど……ブラックハート様の不在期間が長すぎたせいで、教会にいる職員達は表向きこそブラックハート様を信仰しているけど、中身はアヴニールに乗っ取られていて、下町の人達とブラックハート様を会わせようとはしないらしいの」

 

「……成る程……それで下町の人達は女神様に直談判しようにもアヴニールがそれをさせず、ドンドン下町の人達の工場を潰していっているのか……」

 

ファルコムの言葉を聞き、自分なりに実態を纏めてみたイツキ。

 

アヴニールがどのような要因で大企業になったかは分からないが、それは今は置いておく。問題は今のラステイションの現状とアヴニールの関係だ。アヴニールがドンドン市場に進出するたびに、下町の人達の商品は売れない。かと言って女神様に相談しようにも、教会は既にアヴニールの手の中だ。下町の人達はアヴニールが市場を独占する様子を黙って見ているしかない状況にあると言うことだ。

 

「……あー、ごめんね?何だか湿っぽい話しちゃって。でも、これでこの国の現状は分かってくれたかな?」

 

イツキが考察している様子を、気まずそうにしていると捉えたのだろう、ファルコムは手を振り少し微笑んで謝っていた。

 

「うん。大体分かったよ。ありがとう」

 

「そっか、理解してくれたならそれでいいや……っと、いつの間に着いちゃったよ。ここだよ、安めで割と部屋も広めのホテル」

 

そうこうしているうちにホテルに着いたようだ。イツキは一度思考をやめてファルコムに向き直った。

 

「ホントありがとう。案内してもらって……正直助かったよ」

 

「いいのいいの!困ったときはお互い様ってね」

 

「じゃ、もしファルコムさんが困っていたら今度は僕がファルコムさんを助けるね」

 

「うん。もし困っていたらよろしく頼むよ。それじゃあね!」

 

イツキに手を振りながらファルコムはホテルに背を向け歩いていった。すぐの角を曲がっていったのをイツキは確認した後、ホテルにチェックインするために自動ドアをくぐるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まあ、期待はしてはいなかったけど……まさか収穫ゼロとはなぁ……」

 

肩を落としてため息をつき、目の前のモニターと1時間ほど睨めっこしたために疲れきった体と目を癒すために、ソファに強く寄りかかり体を伸ばし、目の周りを優しくほぐした。

 

イツキはホテルにチェックインし、部屋に荷物を置いた後、ホテルの一室にあったパソコン専用部屋を借りて、アヴニールについて調べてみたのだが、検索にヒットするのはアヴニールのHPだけで、そこにあるのもアヴニールの社内教訓や商品のネット購入サービスだけだった。

 

この際某掲示板の情報でもいいからと、某掲示板サイトでスレッド検索をしたのだが、アヴニールのアの文字すら出ない始末。

 

(……どう考えても、情報統制が敷かれているとしか思えないな……全く、ネットの情報規制なんて某C国だけで充分だよ……)

 

思っていたよりもラステイションの抱えている事情は大きいようだ。アヴニールがラステイションを実質支配しているというのもこれでは頷けてしまう。

 

が、ここで1つ疑問が残る。

 

「……何でアヴニールは、他の国に兵器なんて売っているんだ……?」

 

他の国、と言うのは言わずとも分かるルウィーの事である。この先、ラステイションが完全に女神派を排斥し、女神は完全に象徴となってしまい、ラステイションはアヴニールが台頭するようになったとしよう(あまり考えたくはないが)

 

こうなれば、アヴニールは他の3国と完全に睨み合う形が出来上がってしまうので、自分たちの兵器を他国に送るなんて行為は自殺行為と言えるだろう。

 

(いや、そもそも前提が間違っているのか……?アヴニールが目指しているのは、ラステイションを台頭する事ではないのか?)

 

女神派を排斥するのは、教会を自分達の扱いやすい人間を送り込み、独占行為に目を瞑らせ、女神本人を下町の人達(反対勢力)と接触させないためなのだろうか?

 

「……うがぁぁぁぁぁぁぁ!!久しぶりに頭使ったから疲れた!!」

 

あまりの情報と推理の量のせいで、イツキの脳はオーバーヒートを起こしたようだ。両手で乱暴に髪を掻き毟り、何とか立て直すと、マウスを動かしウインドウを無視してシャットダウンをし、ソファから立ち上がった。

 

「……気分転換に、シャワーでも浴びようかな…」

 

時計の針が指すのは昼時なのだが、イツキはヒートアップした脳を冷やすには、冷たいシャワーを浴びるのが1番だと判断し、部屋の浴室でも使おうとチェックインした部屋に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

さてここに丁度瓶ジュースを買える小銭がある。

 

しかし目的のコーヒー牛乳はガラスを隔てた自販機のディスプレイを見ても、表示を見ても売り切れである。

 

「で、自販機に今のところある商品はフルーツ牛乳たったの1本……」

 

思わずスーパーとかで売れ残ったお惣菜(に更に見切り品として半額シールを貼ったがあまりの不人気で売れないお惣菜)かよと突っ込みたくなる程である。

 

イツキは当初部屋の備え付けのシャワールームを使用しようとしたが、何故か自分の部屋のシャワールームだけ水が出ないというトラブルが発生し、仕方なくホテル共用の大浴場でシャワーを浴びた。

 

パソコンで調べ物をしていて気付かなかったが、イツキはそれなりに汗もかいていたのでそれを流したついでに体も洗っておいた。予定通り冷たいシャワーも浴びたので、頭は多少は冴え渡っている。

 

しかしまたも……少なくともアヴニールなんかよりは情報量は圧倒的に少ないのだが、思考の時間が来てしまった。

 

「……ここはフルーツ牛乳で妥協をするか、それとも我慢をするのか……」

 

前述した通り、イツキは風呂上がりに飲みたい物はコーヒー牛乳である。しかし、風呂を出た直後の若干の喉の渇きを癒すというのはどんな飲み物でも最高の時間だ。イツキとしては出来れば最高の飲み物でそれをしたいのだが、如何せん目的の物の自動販売機の表示は売り切れである。

 

「……まあ、いいか。フルーツ牛乳で」

 

と、イツキが何故こんなあっさり妥協したのかは弁明をさせて欲しい。普段の彼ならもう少し悩んでから選択をするのだが、アヴニールの情報収集でヒートアップした脳は、シャワーを浴びることにより幾らかは回復しているとしても、考える行為にすこし辟易としていたのである。

 

そのためイツキがこんな簡単に妥協をした。そう考えてもらいたい。

 

小銭を入れ、フルーツ牛乳の対応するボタンを押すとあのクレーンのような物が動きだし、フルーツ牛乳のある段で止まり、フルーツ牛乳をキャッチすると、スムーズに出口に運んでいった。

 

扉を開け、フルーツ牛乳をおもむろに掴み、ラベルを剥がして自販機の隣のゴミ箱に放り込み、一気に煽ろうとキャップを取ろうとした時だった。

 

「ええー!?フルーツ牛乳どころか、普通の牛乳もコーヒー牛乳も売り切れ!?」

 

後ろから抜け切らない……と言うより完全に子供と言えるであろう少女の声が聞こえた。

 

最後のフルーツ牛乳を買った客と言うこともあり、後ろを振り返ると、薄紫色の髪にゲームの十字コントローラーの髪留めをし、白と薄紫のパーカーを着た少女が、たったさっきイツキがフルーツ牛乳を買った自販機の前で、打ちひしがれていた。

 

少女の頬が少し上気しているのを見る限り、彼女もまた風呂上がりの飲み物を欲しているのであろう。

 

「うぅぅ……風呂上がりのフルーツ牛乳は偉大なのに……それが無いのはもうプリンにカラメルソースがかかっていないのと同義だよ……絶望ものだよ……ねぷ?」

 

打ちひしがれていた少女は横を見た。その目線の先はイツキのもつフルーツ牛乳。

 

「…………」

 

少女はフルーツ牛乳をじっと見つめていた。

 

イツキとしては、風呂上がりはコーヒー牛乳派なので(大事なことなので何度か書く)それほどフルーツ牛乳を飲みたい訳でもないし、どうやら目の前の少女は風呂上がりはフルーツ牛乳派であるらしいので、ここは譲ってあげようと口を開けた時だった。

 

「うっ……うっうっ……誰か、誰か私にフルーツ牛乳を恵んでくれる優しい優しい紳士さんはいないのかな……黒髪でとっても優しそうな顔をしていて、赤と黒のチェックのパーカーにGパン履いているお兄さんとかいないのかな……シクシク……」

 

少女は自販機の前で伏せ、両手を枕に顔を隠しながらこのようにつぶやいた。ちなみに、このセリフを言っている最中に少女は何度か頭を動かし、チラッとイツキを見ている。

 

「…………」

 

この時点でイツキの少女への第一印象は『意地汚い女の子』と化した。最初こそ譲ってあげようとは思ったが、このような行動を取られては親切の思いも薄れてしまう。

 

「フルーツ牛乳……フルーツ牛乳を恵んでくれる人はいないのかな……今私にフルーツ牛乳を恵んでくれたら、私と友達になる権利と握手する権利がついてくるよ……私みたいな可愛い女の子と友達になれるなんて、幸せものだよ……うっ……シクシク…」

 

未だに演技……いや最早演技ではなくただの物乞いを続ける少女に呆れて物も言えないイツキ。

 

関わるのは面倒なことになると判断したイツキはその場で回れ右をし、部屋でゆっくりフルーツ牛乳で洒落込もうと思ったのだが

 

「こんな可愛い女の子が困っているのに、無視しないでよコラーッ!!!!」

 

「ゴファッ!!」

 

イツキの背後の腰の辺りに、薄紫の少女がタックルしてきた。ラグビー選手真っ青な見事なタックルを食らい、イツキと少女は廊下の床の上へ転がってしまった。

 

イツキは腰の辺りに衝撃を受けた際に、フルーツ牛乳……と言うよりガラス瓶が割れたりでもしたら危ないのでとっさに腕を上げていたため、フルーツ牛乳は無事である。

 

「どうして無視をするのさ!こんなに可愛い×2美少女が目の前で困っているんだよ!!普通だったら話しかけて訳を聞いて、共に困りごとを解決するのが紳士でしょー!」

 

少女はタックルしたことに何の悪びれもせずまくし立てる。イツキは腰を捻って少女と向き合うと

 

「いや、何と言うか……君のあからさまな、困ったふりと言う名の物乞いに呆れて、最初こそフルーツ牛乳譲ってあげようとは思ったけど……うん、今はない」

 

「ねぷっ!?そんなの酷いよ!最初は譲ってくれようとしてくれたんでしょ?だったらフルーツ牛乳譲ってよ〜!ね?お願い!今なら大サービスでハグもしちゃうよ!美少女とのハグだよ!抱きつき出血大サービスだよ!!」

 

たった今タックル(ハグ)を受けた身としては勘弁願いたいと思うイツキは、少女を優しく自分の上から降ろし、さっさと自分の部屋に戻ろうとする。

 

「ちょっと!どこ行こうとしてるの?私のフルーツ牛乳は!?」

 

「いや、これ僕の買ったフルーツ牛乳だよ……どうしていつの間に君の物になっているの?」

 

少女は部屋に戻ろうとするイツキを引き止めた。何と言う執念だろうか。この時点で諦めてフルーツ牛乳をイツキが譲れば、彼にとってもこの後事態が面倒なことになることは無かったのだが、イツキはその分岐地点(ターニングポイント)に気づかず、少女を無視してズンズン進んで行った。

 

「むむむむ……フルーツ牛乳譲ってくれないなら、こっちだって奥の手を使っちゃうもんね!!あんまり使いたくないけど、後悔しても知らないもんね!」

 

少女はむくれた顔でそう言うと、イツキの前に躍り出て、その場に仰向けで倒れこんだ

 

「……?」

 

不思議そうにそれを見ていたイツキはすぐに少女が仰向けになった理由を知ることになった。

 

「……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!私のフルーツ牛乳返してよぉぉぉぉ!!!お兄ちゃんのイジワルぅぅぅ!!!!」ジタバタ!

 

(何いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??)

 

何と少女は驚くべきことに、幼稚園児レベルの駄々をこね始めたではないか。そこまでしてフルーツ牛乳欲しいとは、その執念に感心すべきか呆れるべきかは分からないが、間違いなくイツキはパニックに陥っている。

 

当たり前だがここはホテルであり、他にも利用客はいる。加えてこのホテルの大浴場はフロントの目と鼻の先の位置にあるために、この状況は他の利用客の目に自然と入るのである。

 

ヒソヒソと聞こえてくる、兄妹喧嘩か?とか、妹を泣かせるとか、最悪な兄だな……とか、あの子のパンツ縞パンだ〜とかと言う話し声とその視線がイツキに降りかかる。

 

(うおおぉぉぉぉい!!これ今ここで弁明しても全く話聞いてくれないパターンだよ!と言うか、3番目のやつしれっと女の子のパンツ見るなよ!……ってそれもどうでもいいわぁぁぁ!!!)

 

パニックに陥るイツキに構わず、相変わらず手足をバタつかせ、フルーツ牛乳フルーツ牛乳連呼して駄々をこねる少女。

 

「お兄ちゃぁぁぁぁぁん!!私のフルーツ牛乳返してよぉぉぉぉ!!!無理矢理取るなんてヒドイよぉぉぉぉ!!」ビェェェェェ!

 

そして更に鋭くなる他人の視線。イツキにとってはただのとばっちりである。

 

(……あ!そうだ!今ここで他人の振りしてエレベーター乗れば大丈夫なんじゃないかな!うん、ならば後は実行だ!)

 

と、それはそれで実行したらイジワルな兄貴のレッテルを貼られるのだが、立案した行動を実行すべくエレベーターホールに行こうとしたイツキだったが

 

「……グスン…どうしてお兄ちゃんイジワルするの……?お兄ちゃんは何時も、ベットの上では優s「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」ねぷっ!?ど、どこに連れて行くの〜!?」

 

少女の爆弾発言に、近親相姦なんて冤罪を問われるのはマズイと思ったイツキは、マジェコンヌとの戦いの最中に出した声よりも大きな声量で叫び、少女を抱え上げてフロントの前の開いていた自動扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハァ……ヒドイ目にあった……」

 

「いや〜大変だったね〜。大丈夫?」

 

事態の根源が何を言うか、と突っ込む気すら僕には残っていなかった。それほどの全力疾走だった。

 

今はホテルから少し離れた児童公園のベンチに倒れこむ様に座って、抱えていた少女を降ろした。

 

「……ほら」

 

ベンチに降ろした少女に、やたら執着していたフルーツ牛乳を差し出した。何だかこれ以上ムキになるのも馬鹿らしいし、運良くベンチの後ろに自販機があったからだ。

 

「ねぷ!?フルーツ牛乳だ!ありがとう!!」

 

フルーツ牛乳を受け取り、嬉しそうにキャップを外して一気に煽る少女。その天真爛漫な笑顔に、まあ役得なのかな……と溜飲を下げることにした僕は、自販機の前に立ち、缶コーヒーを買った。

 

プハァーとおっさんみたいな声を出して、フルーツ牛乳の味の余韻を楽しむ少女の隣に座ると、プルタブを片手で上げて、カフェオレを一気に煽った。全力疾走でカラカラに乾いていた喉が、潤っていく。

 

「いやー、ありがとうねお兄ちゃん!フルーツ牛乳恵んでくれて!」

 

「どの口が言うのそれ……それと、お兄ちゃんやめて」

 

「えー?そんなこと言って、実は私みたいな美少女にお兄ちゃんって呼ばれて嬉しいんじゃないのー?」

 

「あーはいはい嬉しいなーこんな美少女にお兄ちゃんって呼ばれてー」

 

「ムキー!子供扱いしないでよー!!」

 

両手を上げて抗議する少女を僕は、頭を撫でて落ち着かせようとしたが、それはそれで子供扱いをされたと思ったようで、落ち着かせるのに、もう一本缶ジュースを奢ると言う羽目になった。

 

「ぶはぁー!やっぱりお風呂出た後の飲み物は最高だね!」

 

「……そこは賛成するけども、それ僕のお金で買ったって理解してる?」

 

「もう分かってるよ……って、あー!!??」

 

少女は飲みかけていたジュースの缶をベンチに置いた瞬間、なにか思い立ったように立ち上がった。

 

「ん?どうしたの?」

 

「お風呂出た後、すぐに依頼人に会いに行くこと忘れてたよ!い、急いで行かないと、あいちゃんに何をさせるられるか……」

 

少女はそう言うと、ベンチに置いた缶ジュースを忘れずに持ち、ホテルの方に戻るように駆け出した。

 

「ごめーん!!このご恩はいつか返すから!また今度会おうねー!!バイバイお兄ちゃん!」

 

腕をふりながら走り出す少女に、僕は軽く手をふり送った。そして少女はその華奢な体からは想像できない速度で駆けていき、すぐに見えなくなってしまった。

 

「……嵐のような子だったな……」

 

中々面白い子だったが、出来ればあの少女には今後会っても面倒な事になりそうだと僕は思った。

 

この時は思いもしなかった……まさか翌日に、あの天真爛漫、奇想天外、波乱万丈な少女とまた鉢会うことになるとは……

 

 







ネプテューヌファンの皆さん。ごめんなさい

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