この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

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なるべく定期更新できるように頑張りたいと思います。
アーマードコアVIが発売されます。
今後ともよろしくお願いします。



アイドル・ドリーム・ステージ 8

 

 『上代(かみしろ)兎歌(とか)』は、“独立種”という不穏な言葉を残して『街林(がいりん)』へと向かった先輩を追う。

 

「どこに行ったの……?」

 

 中等部区画から外へと繋がる通路には見当たらない。もう外へと出てしまったようだ。日没が始まっており、暗くなる前には見つけたいが、広い『街林』の中で、ふたりと出会えるかすら分からない。

 

 このまま真っ直ぐ『街林』の奥へと行くべきか、それとも学園周辺をぐるっと見て回るべきか。兎歌は足を止めて考えてみると、人型の巨体が目の前に現われた。

 

「え、アスク? どうしてここに?」

 

 法被と鉢巻は可辰に預かってもらい、素の鎧姿となったアスクが、兎歌に向かって親指を立てた。

 

「もしかして、外に出た私を追って? ……ごめんなさい!」

 

 アスクが、ここに居る理由を察した兎歌は迷惑を掛けてしまった、それに恐らく自分を連れ戻しにきたであろう彼の言う事を聞けないと罪悪感から頭を下げる。

 

「……中等部のペガサスの先輩がふたり、もうすぐ夜なのに『街林』に向かって行ったとのことです。余計な心配かもしれないけど、探しに行きたいんです!」

 

 兎歌が事情を説明すると、アスクは迷うことなく彼女を抱き上げた。

 

「……一緒に探してくれるんですか?」

 

 無理矢理にでも学園へと連れ戻す、そう思わないのは、これまでの『ペガサス』たちに見せてきた、アスクへの信頼からだろう。アスクは首を縦に振って肯定した。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ──可辰に出会う前であったら、意固地にひとりで探すと言っていたかもしれない、友達の訴えを聞いて心に余裕ができた兎歌は、アスクの申し出を素直に受け入れて、感謝した。

 

「……アスク、もうひとつお願いがあるんです。もしも先輩たちを見つけて、無事に学園に帰ったら……歓迎会の会場に連れて行って貰えませんか?」

 

 もちろんだと親指を立ててくれる彼に、兎歌は頼れる味方が傍に居てくれる安心感を得て、もういちど頭を下げた。

 

「じゃあ、先輩たちの事が心配ですし、出発しましょう! ……あれ? アス~~~~~~~っ!!?」

 

 下ろされる準備をしていた兎歌であったが、運んで移動する気満々だったアスクは、そのまま発進。

 

 アスクは、『プレデター』という生物兵器だったとしても、人型の体格による二足走行では到底出すべきではない速度で移動を始める。ただ平地を走るだけではなく、ショートカットのためかビル間を跳び、壁を走る三次元的な動きに兎歌は悲鳴をあげそうになる。

 

「──? ……もしかして、どこにいるのか分かっているんですか?」

 

 少し経って、慣れてきた兎歌が抱いた違和感は正しく、アスクは先輩ペガサスたちの居場所を把握していた。それはプテラリオスの索敵機能によるもので、登録していないため誰かまでは分からないが、最初から二つの『ペガサス』を表わす反応がする地点へと向かっていた。

 

「……!? いま悲鳴が聞こえましたよね!?」

 

 兎歌は移動中、女性の甲高い悲鳴を聞いた。アスクに確認を取ると彼も頷いた事で確信へと変わる。

 

「これから先は、自分の足で行きます……アスクは見つからないように隠れていてください」

 

 できれば傍に居てほしいが、アスクの存在を知られるのは絶対に避けなければならないと兎歌が言う。するとアスクは足を止めて兎歌を下ろすと、正面の方向に指を向けて、そのままなぞるように兎歌へと向けたと思いきや、離れていった。

 

「……? えっと……」

 

 意図が分からず考え込んでいると、遠くの方から走る音が聞こえてきて十中八九、先輩ペガサスたちが、こちらへと走ってきているのだと、アスクはこれを伝えたかったのことに気付く。

 

 兎歌は緊張からボウガン型専用ALISである【ブルーベリー】を強く握りしめながら、こっちに来る彼女たちを待った。あの悲鳴が襲われたゆえに出たものならば、間違い無く『プレデター』もやってくる。それも話の通り独立種だった時、戦わなければならないとかんがえるだけで、どうにかなってしまいそうだった。

 

「──はぁ……はぁ!? なっ、上代兎歌!? あなたがなんで!?」

「やっぱり! 良かった無事だったんですね!」

 

 案の定、走ってこちらに向かってきたのは探していた先輩ペガサス二名であった。どちらも『ALIS』を持っておらず見るからにして、がむしゃらに逃げてきたのが分かる。

 

「あ、待って!? なにがあったの!?」

 

 そんな先輩ペガサスたちは、兎歌に気付いた筈なのに立ち止まることなく、そのまま通り過ぎた。

 

 ──彼女たちがしたことは、何か追われていたものを兎歌になすりつけるものであった。それに気付かない兎歌は、よほど怖い目にあったのだろうかと先輩たちを心配し、追走者に恐怖を募らせる。

 

「あ、アスク……」

 

 アスクが再び傍に来てくれた、兎歌はそれだけで緊張が和らぐ、覚悟を決めて前を向くと、ゆったりとした挙動で巨体が現われた。『外殻』に身を包む、四足歩行の生物は誰がみても分かるとおり『プレデター』であった。

 

「い、いぬ……じゃない、もしかして狼の『プレデター』!?」

 

 兎歌は、東京地区に居たときに見た動物番組の記憶から、『プレデター』が、日本では旧時代の時点で絶滅したとされる狼ではないかと思い当たる。

 

『プレデター』は、『P細胞』を体内に取り込んでしまった生物が改造されて兵器となった存在。そのため当然の話であるが既に絶滅している生物は、そもそも『プレデター』とはならない。なので狼型プレデターが現われたというのは、かなりの異常事態である。

 

「これが……独立種……」

 

 単独で活動している狼型の独立種。月光に照らされる狼の姿へと進化した姿は、どこか神々すら感じさせた。

 

「……襲ってこない? アスク?」

 

 経験が浅い兎歌は、目が合っているのに動こうとしない狼型プレデターに、警戒心を緩ませて戸惑っていると、アスクが前に出て、狼型独立種に向かって両手を合わせて深々とお辞儀をした。

 

「え? ええ!?」

 

 アスクが『ペガサス』たちにできない挙動で狼型独立種に対して謝罪、あるいはお礼をしたこと、そうして狼型独立種が、そんなアスクに何だか呆れかえった挙動をみせたことに、兎歌は思わず声を上げるほど驚く。

 

「も、もしかして、アスクのお友達なんですか……」

 

 今は歓迎会のステージにてステージ飾りとなっているプテラリオスの事が頭に浮かんだ兎歌が尋ねると、アスクたちは同時に肯定する動作をした。

 

「そ、そうだったんですね……よ、よかった~」

 

 ──アスクが四本指を立てた意図を兎歌は読み取れなかったが。ともあれ狼型独立種はプテラリオスと同じく、アスクの友達であるのだと分かった兎歌は緊張を解す。

 

「あ、行っちゃった……あれ?」

 

 狼型独立種は、アスクとなんらかのやりとりをした後、その場を後にした。どうして先輩達を追っていたのかは分からないが、アスクの友達という事なら悪い理由ではないのだろうと、兎歌はひとりでに納得すると、腰から力が抜けて、その場にへたり込んだ。

 

「ううっ、本当に良かった……あ、てことは現われた独立種って、アスクの友達だったんだ。……あ、逃げた先輩たちが何処にいったのか探さなきゃ」

 

 遅れて兎歌は先輩たちの事を思い出す。学園に戻れておらず、『街林』に居たら大変だ。幸いなことにアスクに尋ねれば場所は分かるだろう。

 

 ──もしかしたら、歓迎会に間に合うかもしれない。そう考えている自分に気付いて、なんだか兎歌は久しぶりに笑みを零した。

 

「あ、アスク」

 

 こちらを振り向いたアスクに、お礼を言わなきゃと兎歌は立ち上がろうとした。

 

 ──そんな兎歌に向かって、アスクは急に走り出して手を伸ばした。

 

「え?」

 

 兎歌は勘違いしている。先輩たちが口にしていた独立種は識別番号04(狼型独立種)ではない。

 

 そうして気付いてもいなかった。自身の背後の存在に、それが自分を“卒業”させようとしていて、幸運にも回避していたことに。

 

 それは、己を殺しかけた識別番号04が、この場を去るのをずっと待っていた。アスクは兎歌を掴んで引き寄せると、腕を盾にするために前へと突き出した。

 

 ──鋭い鎌が振るわれて、アスクの腕を切り裂いた。

 

「アスク!?」

 

 片腕となったアスクは、兎歌を庇うように担ぎながら後ろへと跳ぶ。その最中蛇筒から物質を溶解させる液体を前方に撒き散らし、相手を近づかせないようにする。

 

「腕が!? だ、だいじょうぶ!?」

 

 心配する兎歌に、アスクは指を立てて問題ないとアピールする。それで幾分か落ち着いた兎歌は、アスクの腕を斬った敵の姿を把握する。

 

「……あ、あれはカマキリ型……それにあの姿、まさか独立種!? じゃあこっちが本当の……!」

 

 そこに居たのはアルテミス女学園周辺の『街林』ならば、何処でも見かけるカマキリ型プレデターであった。しかし通常よりも、ひとまわり以上大きく、『外殻』はまるで刃物のように尖っている、なによりも腕の鎌が六本に増えている。

 

 殺意の塊とも表現出来る姿に、兎歌は体を震わせながら、このカマキリ型独立種こそが先輩たちが追っていた正真正銘の独立種であることに気付く。

 

 そして、兎歌は知らないが、このカマキリ型独立種は数日にわたってアスクたちの悩みとなっていた存在であった。

 

「え? うそ!? 消えた!?」

 

 ずっと凝視していた筈なのに、カマキリ型独立種は最初から居なかったように姿を消した。兎歌は周囲を見渡すが、やはり姿は見えない。

 

「これって……もしかして姿を隠す〈固有性質(スペシャル)〉なの?」

 

 アスクに問い掛けるが、兎歌は脅えるあまり彼を見ることができず、肯定しているのを確認できなかった。

 

 カマキリ型独立種は、姿を隠すだけではなく、視覚、嗅覚、聴覚などあらゆる自身を特定しうる全てを掻い潜る〈固有性質(スペシャル)〉を持った、最悪の暗殺者であった。そのため識別番号04が一度は撃破寸前まで到ったが、それ以降どうしても見つけることのできなかった相手である。

 

「ど、うすれば、どうしたら……!」

 

 初めて戦う独立種、それも姿が見えない存在に、兎歌は恐怖から呼吸を乱し始める。

 

「きゃっ!?」

 

 そんな兎歌を抱えながら、アスクは近くにある三階建ての廃ビル屋上へと移動すると、兎歌を下ろした。

 

「あ……えっと、こ、ここで迎え撃つんですね?」

 

 兎歌は一瞬の不安から、アスクに手を伸ばしたが。すぐにそんな事をしている場合じゃないと誤魔化すように尋ねる。

 

 アスクは頷いたあと、六本全ての蛇筒から蛍光色に発光する水を放出しはじめる。その量は排水溝や罅や欠けた箇所から零れ落ちてもなお、屋上に水たまりができるほどであった。

 

「……!」

 

 アスクの意図を察した兎歌は、彼の死角を埋めるため背中合わせとなり、【ブルーベリー】を構えて、瞳を輝かせる。

 

 ──貸して上げる。それだけを言って『縷々川(るるかわ)茉日瑠(まひる)』から貸し出された、ボウガン型専用ALIS【ブルーベリー】が、初めて重いと感じた。

 

【ブルーベリー】は、とにかく扱いやすいのひと言に尽きた。小型種向けの『ALIS』と比べても小振りで、アシスト機能無しでも非常に軽く、取り回しが簡単。発射速度も飛び抜けて速い。一方で『プレデター』を倒すには、小型種相手にすら火力不足と『ALIS』として致命的な欠点を持つ。

 

 ──撃ちやすさだけを追求した、指揮官がもっとも近しい敵から身を守るための護身用、そう評価されている【ブルーベリー】であるが、兎歌とは非常に相性が良かった。

 

 兎歌の〈魔眼〉である〈凶射(きょうしゃ)〉は、視界内にある移動物体の運動エネルギーを追加して加速させるといったものだ。これによって【ブルーベリー】の威力不足を補い、中型種であれば簡単に殺傷できる。

 

 ──アスクが片腕を再生しながら、発光する水を放出する中で、兎歌は今にも全身が固まってしまいそうな緊張を和らげながら、その時を待ち続ける。

 

 短くも長く感じた数秒が経ち、兎歌の視界内、正面よりも少し右にずれた場所、光の水が不自然に跳ねた。放水の音に掻き消されているのか、それとも何かしらの能力か、水しぶきの音は聞こえなかった。

 

「──!」

 

 宙に散乱する光る水は兎歌の方へと、一定の間隔で近づいてきた。それが疑いようも無く透明となったカマキリ型独立種であるはずだと、兎歌は考えるよりも前に、水しぶきがする方に向かって矢を発射した。

 

「──〈凶射(きょうしゃ)〉!」

 

 飛んでいった矢に向かって兎歌が魔眼を発動すると、矢に運動エネルギーが加算され、不自然に急加速する。

 

「あ、当たった……!?」

 

 ──そうして矢は、兎歌の目からは何もない空間に不自然に停止する。その先端は消失しており、それが透明の何かに突き刺さったのだと、兎歌は少し遅れて理解した。

 

 カマキリ型独立種の姿が、パッと電球の灯りが点いたように露わになる。自身を細切れにするつもりで広げられていた六つの鎌に兎歌は怖気を走らせる。

 

 矢は胸あたりに出ているが、ダメージになっている様子は無い。時間が経てば体内に入った部分は『P細胞』によって分解されてしまい、傷も直ぐに治るだろう。

 

「あ……!」

 

 兎歌は今度こそ仕留めるつもりで、矢弾倉(アローマガジン)から自動装填された矢を放とうとしたが、アスクが前に出たため引き金を引く寸前の所で、(やじり)を真上へと向ける。

 

 アスクは一撃で仕留めるつもりで殴り掛かるも、カマキリ型独立種による“くの字”の足によるホッピング機動によって避けられる。続いて蛇筒を混ぜたラッシュを行なうが、相手のトリッキーな動きに翻弄されて命中に到らない。

 

 高等部ペガサス全員から戦闘センスが皆無と太鼓判を押されているアスクヒドラ。それは本人も自覚しており、ゆえに前に出てカマキリ型独立種に猛攻を仕掛けるのには目的があっての行為であった。

 

 透明化させる隙を与えないこと、兎歌に近づかせないこと、そして逃げられない状況を作り出すこと。

 

 数日前、襲撃されて重傷を負ったカマキリ型独立種は、襲撃者である識別番号04を最大限に警戒している。一定距離まで近づくと脱兎のように逃げ出す。

 

 カマキリ型独立種を探しに行った識別番号04が、兎歌たちの傍を離れたことで、近くに潜伏していたカマキリ型独立種が現われたのは皮肉な話であり、そして“卒業”してもおかしくなかった奇襲が失敗に終わり、こうやって対峙できているのはある種の幸運だった。

 

 そして、その幸運を逃してしまったら。カマキリ型独立種に逃げられたら、待っているのは最大の不幸だ。だから兎歌とアスクだけという危険な状況でありながら、対峙しなくてはならなかった。でなければアルテミス女学園ペガサスたちは、姿の見えない暗殺者に脅える日々を過ごすことになる。

 

 既にカマキリ型独立種は『ペガサス』を認識してしまった。ゆえに姿を消して潜伏されてしまったら、次に出現するのはアルテミス女学園内かもしれない。どちらにしろ自分たちは次の犠牲者が出るまで気づけない可能性が高い。

 

 だからアスクたちは、この場でカマキリ型独立種を仕留めなければならない、逃げるという選択肢をとれなかった。ゆえにアスクは猛攻を続けながら、倒せなくてもどうにかして逃げられない状況を作ろうと躍起になる。そうすれば識別番号04が確実に仕留めてくれる。

 

「狙えない……!」

 

 前衛が動き回るため、兎歌はアスクに当たりかねないと二の矢を発射できないでいた。彼女は射撃補助の〈魔眼〉を持ってもいなければ、名手でもない。数ヶ月前まで、平凡な人間だった『ペガサス』だ。撃てないほうが当たり前である。

 

 ──なにもしていない。

 

 それなのに、兎歌の頭の中に、ずっと言葉が響く。後衛はチャンスを待つのが大事だと敬愛する先輩から教えて貰っているのに、その待つ行為が兎歌にとって大きなストレスになっていた。

 

 兎歌は歯を食いしばって、引き金に力を入れそうになる指を必死に停めていた。それが戦いの場においてもっとも致命的な失敗になりうる。敵の挙動に集中を欠く行為へと繋がってしまう。

 

 一瞬、ほんの一瞬の攻撃の隙間を掻い潜り、アスクから距離を取ったカマキリ型独立種は六本ある鎌を振るうと、それらは体から切り離されて、勢いよく飛んでいった。

 

「え?」

 

 とっさにアスクは身を屈めて回避を選ぶが、それが失態であることに気付く。鎌の投射はアスクだけを狙ったものではなかった。兎歌は集中しすぎるあまり、状況確認を怠り、鎌に気付くのに遅れる。

 

 ──普通に走るだけでは間に合わない。アスクは咄嗟に蛇筒を地面に叩き付けて、兎歌目掛けて跳ねると、回転しながら飛ぶ鎌目掛けて、蛇筒を伸ばして弾いた。

 

「アスクっ! ──きゃっ!?」

 

 アスクが廃ビルから落ちていくと、兎歌は咄嗟に手を伸ばして蛇筒を掴むことに成功したが、勢いを殺せず、兎歌も一緒に落ちる。

 

 落下の最中、アスクは兎歌を抱きしめて体勢を整えて難なく着地すると、とにかく安否を確認するため、すぐに兎歌を下ろした。

 

「……ご、ごめんなさい! わたし……!」

 

 顔を真っ青にして、兎歌は自分が“卒業”しかけたことよりもアスクの邪魔をしてしまったことに、とても狼狽える。そんな兎歌に気にするなと伝えたいアスクであったが、カマキリ型独立種から目を離してしまったことに、アスクもまた余裕が無かった。

 

 このあいだに斬られた片腕は再生しきった。兎歌も怪我ひとつない。しかし相手は、あらゆる索敵から逃れる〈固有性質(スペシャル)〉を持つ姿の見えない暗殺者。たった一度の攻撃が命を失わせる。それを見逃してしまったいま、追い詰められているのはアスクたちであった。

 

 ──アスクは仲間内に相談すると、直ぐに識別番号04が現われない限り、兎歌を狙って何処かへと行くことはないだろうと推測。兎歌を囮にするみたいで嫌だと思いつつも、それしか手はないとして再び罠を張って迎え撃つと結論が出た。

 

 アスクたちの予想通り、カマキリ型独立種は逃げなかった。しかし予想外にも姿を隠さずに現われた。それだけじゃない。アスクを、兎歌を殺すために予想を超えた事をしてきた。

 

「え? う、うそ……こんなに居たの……!?」

 

 兎歌の頭に絶望の文字が浮かぶ。目の前に現われたカマキリ型独立種は百体を超えている。

 

 ──索敵から逃れるというのは、なにも姿形を消すばかりではない。木を隠すなら森の中という諺があるように“本体が紛れる”ほどの数の中に潜んでしまえばいいのだ。

 

「違う、これ全部偽物なんだ……!」

 

 増殖したカマキリ型独立種たちに、アスクは直ぐに凝固する液体を振りかけると、全て当たることなく通過するのを見た兎歌は、これらが立体映像の類いであることに気付く。

 

「じゃあ本物はどこに……」

 

 映像と分かったが、本物の区別が付かないほど完璧な偽物たちに囲まれた兎歌とアスクは、再び背中合わせになる。本体は透明になって紛れているのか、あるいは何処かで隠れているのか、兎歌は狩られる獲物の恐怖を強く感じた。





識別番号04が先輩たちを追っていた理由は、脅してアスクたちと合流させるためです。

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