この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」   作:庫磨鳥

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第三十二話

 

 8月1日、あともう少しで日が変わる深夜帯。月世(つくよ)は、ご機嫌な様子で生徒会室へと赴いた。三度のノックを行うも、反応はなく、しばらく経っても扉が開く気配がないため、そのまま中へと入った。

 

「失礼します」

 

 正面の生徒会長用の席には誰も座っていなかったが、左横にある紙の書類が保存されている棚の前に、ちょこんと小さな『ペガサス』が床に座っていた。月世は近づき声を掛ける。

 

「こんばんはA(エー)

「……こんば、んは」

「すみませんが、横に移動してもらってもいいですか? 少し、話があるんです」

「は、い」

 

 床に座っていた少女、『アイアンホース』のA(エー)が座ったまま横へとずれると、月世は棚の前、つまりは棚下の引き戸に向かって正座をし、四度ノックした。

 

「──お考えの最中、申し訳ありません。野花(のはな)生徒会長」

 

 返事は無い。しかし月世は中に野花(のはな)が居ると確信しており、そのまま話を続ける。

 

久佐薙(くさなぎ)月世(つくよ)(みな)を代表して、大規模侵攻出立の挨拶へと伺いました」

 

 本当は高等部ペガサス全員で来る予定だったが、月世がそれを止めて、自分だけが代表として挨拶しにいくと提案した。誰から見ても挨拶以外に何かあると分かるもので、夜稀など数名が反対したが、舌戦で勝てる訳もなく最終的には月世の案が採用される事となった。

 

「明朝、空が暁へと染まる頃、先んじてわたくしたち高等部ペガサスはアルテミス女学園を離れ、『街林(がいりん)』の奥地へと参ります」

 

 学園内は、このまま変わらない日常が続くように思えるほど至って静かであるが、大規模侵攻はすでに始まっている。現在進行形で数千を超える大群が進行中であり、翌日の昼前に高等部ペガサスたちが配置される事となる第一防衛ラインへと最初の群れが到着すると予測が出された。

 

 なので学園のペガサスは、『プレデター』が来る前に自分たちが配置される場所へと赴き、拠点作りや地形の確認など様々な準備もあって、数時間前には移動しなければならない。特に『街林』の奥地へと配置される高等部ペガサスならなおさらである。

 

「これが終わりではない事は重々承知。むしろ、これから始まるのだと分かっております。ですが何事も区切りは必要です。野花生徒会長に、お言葉をひとつ申し上げる事をお許しください……ここまで本当にお疲れ様でした」

 

 相手が見えていないのにも関わらず、月世は一礼をする。中身に含まれているのは決して善良なものではないが、月世は純粋な労いをもって野花に言葉を送った。

 

 高等部ペガサスに関する作業にスケジュール管理、生徒会長としての業務、学園長など大人たちに対する工作、中等部ペガサスの対応や、転校生を迎え入れる準備もした。他にも彼女は自分ができる事をしてきたため、野花が行った業務の数は多岐に渡る。

 

「──たくさん働いて、お疲れになりましたよね? ……もういいんですよ?」

 

 慈愛すら感じられる月世の優しい声色によって放たれた提案に、引き戸の中からコトリと音が鳴った。

 

「転校してきた『アイアンホース』が二名、こちら側に来てくれました。成果としては充分すぎるぐらいです」

 

 月世はじっと自分の顔を見ているA(エー)の頭を優しく撫でる。

 

「だから、これ以上無理をしなくてもいいんですよ?」

 

 成したことを褒め称え、罪を赦す、どこまでも甘い言葉。

 

「──ボクは頑張りましたよね?」

 

 狭い空間から発せられた声は、反響してかとても震えていた。

 

「はい。とても頑張りました」

「──ボクは──ちゃんと出来ましたよね?」

「はい、ちゃんと出来ました」

「──でも、たくさん失敗しました」

「ですが損失は発生していません。今のところ大黒字です」

「──A(エー)(ハジメ)が仲間になってくれた時、本当に嬉しかったんです──仲間が増えて──計画が成功して──“充分な成果”だって」

 

 月世が情報を提供し、手を加えたとはいえ、『アイアンホース』の転校計画の基盤は野花が考えたものである。特にA(エー)の“転校”に関しては、間違い無く彼女の功績である。

 

 そして“転校”の後、A(エー)は、ここに来たときには感情が希薄ではあるが、野花が甲斐甲斐しく世話を焼いている事もあって、とても懐いている。(ハジメ)のほうも、約束事とは別に心を開き、学園に馴染んだ。

 

 自身の性格や性質を理解している月世は、心から野花の自己肯定に同意する。正しく野花だったからこそ、ここまで上手く行ったのは間違い無かった。これは月世だけではなく、誰に問い掛けても認める事である。

 

 ──だが、彼女からすれば上手く行きすぎたのだろう。

 

「──だから──もう……いいかなって──」

 

 物事が上手く行けば、その分野花の心は幸せや喜びを感じ、それと相反して辛い事や上手く行かないことに関して諦念の心を強めていった。そして早いうちに自分自身に言い聞かせていた誓いも、自覚しないまま廃れていった。

 

 ──今日のアルテミス女学園ペガサスの全校集会、野花は何もするつもりは無かった。

 

「──ボクは兎歌に酷いことをしました──仕方が無かったんです──『勉強会』は孤立するべきで──そうしなければボクたちの事がバレる危険性があって──ああでも他にやりようは幾らでも──ただ会いたくないからって──嫌だったからって──私は──ボクは──」

 

 ブツブツと呟く野花、あそこまでするつもりは無かったと、あそこまで上手く行くなんてと、時々自分を慰める言葉も聞こえるが、それら全てが自虐となっていた。

 

「全校集会の件は、たまたま“大成功”してしまっただけです、そう考え込まないでください」

 

 そんな後輩の様子に月世はどことなく楽しそうにしながら、フォローを入れる。

 

「愛奈の後輩たちが悲しみ傷ついた事、わたくしも心が痛みます……ですが、今後を考えれば、あれは必要な行為でした」

「どうして──どうしていつも──」

 

 ──魔が差したって言われればそれまでだ。全校集会で中等部ペガサスたちの前に出なければ成らないという絶望的な憂鬱と、面倒という感情から発生した突発的な計略。そんな上手く行くわけないし、何か現物があった方が、安心するでしょうと言う鈍った思考がブレーキを掛ける事を忘れた事で、頭を下げて必死に頼み込む小さな小さな後輩に“1枚の書類”を渡してしまった。

 

「『勉強会』が孤立する事は、大規模侵攻の時のもしもを考えれば好都合です」

「ですからってあんな事をする必要は無かった! ──なかったんですっ……!」

「多忙な業務によって、疲れていたんです。失敗のひとつ起こしても仕方ありませんよ」

「そんな簡単にっ! ──言わないでくださいよ……」

 

 ──『勉強会』に降りかかった災いは、転じて絶大な福にする事が出来るものだとして、じゃあそれなら『ペガサス』の心を傷付けてもいいのか? いいわけが無い。肉体の傷とは違い、それがどれだけ辛くて治らないものであるかを、野花はよく知っている。

 

 野花は思い出す、たったひとつ問答しただけで出て行った兎歌の昏い瞳を。

 

 ──辛くともギリギリの所で踏みとどまっていた彼女の手を引いてこちら側に引っ張ってしまったのは自分だと、そもそも、彼女を辛い目に遭わせてきたのは元から自分だと。全校集会の時は、“生徒会長”と成れていたため、どうにか最後まで続けられたが、終わったあと野花は色々と耐えきれなくなって、棚の中へと引きこもった。

 

「どうしてこうなの? ──いつもいつも──前だって──」

「ああ、そういえばお礼を言っていませんでしたね」

 

 月世が、いま思い出したと言わんばかりに呟くと、引き戸の中から息が詰まるような音がした。

 

「遅れてしまったこと、真に申し訳ありません。野花……愛奈とわたくしの命を救って頂き、本当にありがとうございます」

「──ぼ、ボクは何もしていませんよ! 学園長に“卒業”したと報告を作りましたが──昏睡装置を作ったのは夜稀ですし──」

 

 野花は月世を昏睡させて活性化率の上昇を抑えていた事について話し始める。それは明らかに何かを誤魔化しているようで、お願いだから、この事であって欲しいという懇願も含まれているように見えた。

 

 そんな後輩を無視して、月世は弾みを隠せていない声で話を続ける。

 

「あの件についても、とてもお世話になりました。ですが今回、感謝の対象としているのは、もっと前のこと──」

 

 これ以上は聞きたくないと、野花は引き戸を開けて外にでようとするが、途中で月世に止められる。

 

 僅かに開いた隙間から月世の瞳がこちらを覗き込み、目が合った野花は声にならない悲鳴を上げた。隠れて見えないが、きっとこの先輩はいま、三日月のような笑みを浮かべていると何故だか確信できた。

 

「──二年の、冬の大規模侵攻にて愛奈とわたくしを、安全な場所へと配置してくれた事です」

 

 大規模侵攻において、アルテミス女学園ペガサスをどこに配置するのかを選ぶのは生徒会長の仕事である。管理する大人たちから頼まれたものではないが、東京地区の命令書には細かな事が書かれておらず、いつだかの生徒会長が、これではあんまりだと始めたのが切っ掛けであると、歴代の生徒会長たちが遺した資料に書かれてあった。

 

 そんな雑な命令書であるが、何故か学年だけはきっちり記載されており、第一防衛ライン。つまりは最前線には必ず高等部ペガサスを配置するように指定されている。

 

 高等部ペガサスは年を重ねている分、どうしても活性化率は高くなってしまい。それはつまり、戦闘中場合によっては『ゴルゴン』になる可能性が高いこととなる。であるならば、まだまだ余裕がある中等部の前に置き、できるだけ『プレデター』の数を減らしながら、そのまま“卒業”してほしい、との気持ちが強く透けて見える。

 

 管理者たちからすれば、一日でも早く崩壊してほしいと願われているアルテミス女学園であるが、あからさまに杜撰過ぎるのも政治的にまずいのだろう。他にも幾つか理由を考えられるが、野花にとって、それらは全てどうでもいいものでしかなく、前回の大規模侵攻の時は生徒会長として真面目に業務を全うするつもりだった。

 

 ──つもりだった。当時の高等部二年ペガサスの配置を見るまでは。

 

「どうして──知って──分かって──う、あ──!」

「野花が助けたかったのは愛奈だけだったのも分かっています。恩返しのつもりだったんですよね?」

 

 当時の高等部二年ペガサスの配置場所はふたつあって、その内のひとつが、『ペガサス』たちが確実に全員“卒業”している場所であると、過去のデータを読みあさっていた野花は、すぐに分かった。

 

 ──生徒会長であった自分に、優しくしてくれた先輩が居た。

 

 こんな事したって大して変わらないかもしれない。そんな風に言い訳をしながら、野花はその先輩の配置を、もうひとつの方にした。

 

「誇ってください。わたくしも愛奈も、貴女のした事でこうして今を生きているんです」

「──誇れるわけないじゃないですかっ! ──それをしたから先輩たちがたくさん“卒業”してっ! ──愛奈先輩の大事な──なによりも大事な先輩を──友達をっ! ──ボクが──“卒業”させたんです──」

 

 懸命に戦ったとされる。最後まで諦めずに戦ったとされる。だけど大規模侵攻最終日となった日にて現われた独立種によって、愛奈たちの同級生であった悌慧(ともえ)勇義(ゆうぎ)は戦闘によって“卒業”。大規模侵攻が終わった数日後、活性化率が抑制限界値手前となったため忠実(まめ)が、毒を服用して“卒業”した。

 

 分かっていた事であった、全校集会のあと生徒会室へと乗り込んだ愛奈にも指摘されて、彼女にしては珍しく強めの言葉で責められたが、これも貴女のためだと内心で思い、野花は、はぐらかした態度をとってしまった。

 

 ──それなのに愛奈先輩は救ってくれた……こんな、こんなボクを──でも、もしも、この事を知ってしまったら?

 

「嫌だ──言わないで──なんでもやるから──もう嫌だ──あの頃に戻りたくない──もっと頑張るから! ──ごめんなさい──許して──ごめん──赦してください────落ちたくない」

「…………」

「彼女を虐めるつもりはないので……ふふっ、そう怖い顔で睨まないでください」

 

 月世は再度、A(エー)の頭を撫でようとするが、すっと体を傾けて避けられる。薄い嫌悪感を含んだ視線で見つめられる月世は、本当に懐いていますねと楽しそうに笑みを零した。

 

「野花、貴女が罪だと思っている行いによって愛奈、そしてわたくしも命を失わずに済み、アスクに出会い、こうやって生きる事ができました」

「…………」

「それだけに留まらず、わたくしたちのために日頃頑張っている。そんな貴女に、これ以上の無理をさせるのは、わたくしとて偲びありません……だから、いいんですよ?」

「──それは──してはいけない」

「辛い事を、己の敵を……他人(だれか)に押しつけてもいいんですよ?」

「──…………」

「大規模侵攻が終わりましたら、活性化率をちゃんと下げてくださいね。愛奈の願いにはきちんと貴女も含まれていますので」

「──死にたくない」

「それを聞いて安心しました……中等部のほうはお任せください。そして“残りもの”について……もし、必要とあれば、ご遠慮無くお声がけください。野花生徒会長」

 

 月世は立ち上がり、言いたい事は全て言ったと言わんばかりに、そのまま生徒会室を出て行った。

 

「──ほんとうに──なんなんですか貴女はっ!! 私に──ボクに、どうしろっていうんですか……っ!」

 

 月世が居なくなってしばらく、野花は引き戸を全開にして体を外に出すが、立つ気力が湧かず、まるで土下座のような姿勢で叫んだ。

 

「……野花(のは、な)……」

 

 事情は全く知らないが、辛いのは嫌な事だとはよく知っているA(エー)は、野花の頭を撫でた。

 

「──A(エー)──もう少しだけ、そうしてください」

「は、い……」

 

 不慣れで力加減がちゃんと出来ていない。それでも、心が癒やされるような気がして、野花は日が変わった後もしばらく、A(エー)に撫でられる事を望んだ。

 

 

+++

 

 ──時を遡り、数日前の訓練所、愛奈に誘われるがまま訪れたアスクは、月世に土の中へと完璧に埋められた。

 

 

 

 

16042:アスクヒドラ

ああ~、土の中おちつくんじゃ~

 

16043:識別番号04

埋められた事を満喫しているのは正しい反応なのか?

 

16044:識別番号02

回答→違うと思われる。

 

16045:アスクヒドラ

ていうか、見事なスコップ捌きでガチ目に埋められたんだけど全然苦しくないんだよね?

『プレデター』って酸素なくても生存可能なの?

 

16046:識別番号02

否定→その進化元である生物と同じく生きるために必要な物質要素は変わらない。

追記→アスクが生存できているのは『P細胞』が体内にて酸素を作り出しているからだと思われる。

 

16047:アスクヒドラ

『P細胞』万能すぎませんかね?

まあ、俺のチート毒の事を考えれば酸素ぐらい作れてもおかしくないか……。

あれ? もしかして、このマイボディ、そのまま宇宙に出ても平気? 月のこともあるし、ここら辺はマジでしっかりと調べたほうがいいよな……。

 

16048:識別番号02

不明→無酸素空間での活動は調べてみないことには分からない。

自論→なんか出来そうな気はする。

 

16049:アスクヒドラ

いつになくざっくりですねゼロツーさんや。

 

16050:識別番号02

理由→アスクヒドラが埋められている事で結論が出そう。

 

16051:アスクヒドラ

あ、ほんとだー! 俺そういえばいま無酸素状態じゃんか! 

本当に穴ひとつねぇや。とりあえず無酸素で十分は平気ですね! いや多分、宇宙とは全然違うと思うけども……。

 

16052:識別番号04

本気で埋められたのか?

 

16053:アスクヒドラ

マジで完璧に埋められたよ。

でも、辛かったら何時でも出てきてくださいって言っていたし、そこまで固められてはいないみたい、ちょっと持ち上げてみた感じ、俺の馬力だけでも出られるかな。

そんなわけで転校生も、ここに来ちゃうみたいだし、しばらくの間は土の中でゆったり過ごすわ~

 

16054:識別番号02

意見→今回の『ペガサス』のツクヨの行為は生物的観点から見て常軌を逸しており何かしらの方法で抗議を行なったほうがいいと思われる。

 

16055:アスクヒドラ

まあ、理由はちゃんとあるみたいだし、いいかなって。

それに俺が怒るのって最終手段みたいなところあるじゃん。

 

16056:識別番号02

危惧→そんな風に全てを許す態度であり続けた場合『ペガサス』たちの価値基準にも多大なる影響を与える可能性が高い。

質問→都合の良い道具扱いされるのはアスクも望むものではない筈だ。

 

16057:アスクヒドラ

……心配してくれているのは分かるけど、ごめんゼロツー。

俺はもう、みんなにとっての神様みたいに成っちゃっているからさ。よっぽどの事でも無い限り、みんなのやる事を否定したくないんだ。

 

16058:識別番号04

土の中に埋められるのはよっぽどの事態ではないのか?

 

16059:アスクヒドラ

…………それとこれとは別ということでお願いします。

と、ともかく、意思疎通がままならない現状、彼女たちにとって俺の些細な行動は、とんでもない大事なことだって勘違いされちゃうかもしれないしさ……このまま出番が来るまで土に埋まっていたい気分だったりもするよ。

 

16060:識別番号04

共同生活が苦痛になったのか?

 

16061:アスクヒドラ

それは全然ない。マジでない。みんなと一緒にいたいアイラブユー。

あー、久しぶりに誰も居ない状況だからか変なこと思っちゃったな。

 

16062:識別番号02

希望→アスクが悩んでいることについての詳細。

理由→アスクが自身を神と評する事に違和感を覚えた。

 

16063:アスクヒドラ

別に悩みってわけじゃないけど、俺の何気ない動作で、もの凄く気にされていると、こんなめっちゃ忙しい時期に意思疎通が困難な所為で余計な負担増やしちゃっているなーって思って。それが神様扱いっぽいなーってだけです、はい……特に深い意味はなかったよ?

 

16064:識別番号04

『ペガサス』たちの現状から、アスクヒドラの価値を思えば当然ではある。

 

16065:アスクヒドラ

まあね。でも俺としては苦労を掛けたくないし、それぐらいなら都合のいい存在に成りたいよねって……それでサヤちゃんみたいに助けられるって言うなら余計にね。

だから、別に土に埋めてもいいし、道具のように扱ってくれてもいい……でも無視だけは勘弁な!

 

16066:識別番号02

質問→『ペガサス』個人の対応の意思は把握したが組織運営に対して干渉しないのは何故だ。

 

16067:アスクヒドラ

それこそ「はい」か「いいえ」にしか意思疎通できない神様(仮)が、人様の活動に干渉したって碌なことにならないからですね。

一ヶ月以上過ごしているから、エナちゃんたちが他を疎かにしても俺の願いは全力で叶えてくれようとするの分かるから! 迷惑かけたくねぇ! 絶対にかけたくねぇ!

 

16068:識別番号04

──富士山に直行しようとした奴の発言とは思えないな。

 

16069:アスクヒドラ

アレは本当に軽率でした。そんで止めてくれてありがとう。

 

16070:識別番号02

質問→アスクの考えは把握したが結論として『ペガサス』と、どうでありたい?

 

16071:アスクヒドラ

俺は、みんなのやる事する事、余程が無い限りいっしょにやっていきたい。

 

16072:識別番号02

質問→それが非道と感じるものでもか。

 

16073:アスクヒドラ

うん。ツクヨパイセンとの対談の時でも話したけど。

単に実感が無いだけなのかもしれないけど、俺はみんながする事を肯定してあげたい。だって、敵である俺を先にみんなが肯定してくれたから、ここに居られるんだし。

 

16074:識別番号04

『ペガサス』の全員を救うつもりはないんだな?

 

16075:アスクヒドラ

そんな烏滸がましいこと思えないよ。可能であるなら勿論助けたいと思うけど、もし自分の手の数しか誰かを救えないって言うなら、俺はエナちゃんたちだけで手いっぱい触手いっぱいだよ。

……あ、やべ。蛇筒! 蛇筒ね!

 

16076:識別番号04

其処はどうでもいい。

──把握した。今後共アスクヒドラの意思を尊重した協力を継続する。

 

16077:アスクヒドラ

うん、いつもありがとねゼロヨン。

 

16078:識別番号02

提案→足りない手は自身のを借そう。

 

16079:アスクヒドラ

わー、百人力ならぬ百本力だー(物理的な意味で)

……前から借りっぱなしだと思うけど、これからもよろしくお願いします。

 

16080:識別番号04

識別番号03が突如として水平方向に高速回転しはじめた。

『ペガサス』たちが驚愕して戸惑っているから止めろ識別番号03。

 

16081:アスクヒドラ

あー……間違っていたらごめんだけど、ゼロサンも勿論頼りにしてるよ。

そして元気なのは嬉しいけど育ちきるまで殻が割れるような事はしないでね?

 

16082:識別番号04

停止した。

 

16083:アスクヒドラ

ムツミちゃんとキーちゃん怖がらせないようにね……。

ひと安心……あ。

 

16084:識別番号02

疑問→なにかトラブルが起きたのか。

 

16085:アスクヒドラ

なんか……唐突にめっちゃ寂しくなった。エナちゃんたちに会いたいぃぃぃっ!

というわけで、土の中から出ていいと思う? なんか射撃音聞こえるけど。

 

16086:識別番号02

反対→経過時間を考えるに転校してきた『アイアンホース』が来ている可能性が高い。

結論→『ペガサス』たちに掘り返されるまで大人しく埋められているべきである。

 

16087:アスクヒドラ

ですよねー。

 

16088:識別番号04

発掘されるまで我慢しろ。

 

16089:アスクヒドラ

その言い回しだと俺まるで土偶じゃんか! 現状そこまで大差無かったわ!!

 

16090:識別番号04

単身でボケとツッコミを完結させるな。

 

16091:アスクヒドラ

せめて化石とかがいいです……はっ、天才的なことを思いついた! 土の中にいる時だけ俺の種族『ギアルス』ってことでどう!?

 

16092:識別番号02

心底→どうでもいい。

 

16093:アスクヒドラ

逆に話広がったら、どうしようと思ったまである。

 

16094:識別番号04

アスクヒドラ。自身らが合流を目指さなくて本当にいいんだな?

 

16095:アスクヒドラ

うん、ゼロヨンはゼロサンの事を見ていてほしい。

……なんとかするよ。意地でもなんでも、エナちゃんたちみんなで終わったら良かったねって言ってみせる。

 

16096:識別番号04

──了解した。

アスクヒドラ。

 

16097:アスクヒドラ

ん? どった?

 

16098:識別番号04

幸運を。

 

16099:識別番号02

祈願→幸運を。

 

16100:アスクヒドラ

おう!

 

 

+++

 

 

 

「──みんな、行こう」

 

 朝日が昇り、色付き始める空。高等部ペガサスと人型プレデターが、学園の外へと出た。

 

 

 





蝶番野花は本気で喜んだ。だからもういいかなって思った。


野花は、疲れて、嫌になって、楽になろうとして、後悔する普通の女の子です多分。

次回から、戦闘シーンが主となる後半となります。そんなに長くならないとは思いますが……楽しんで頂けたら幸いです、はい。

ひとつの区切りということで、感想、評価、お気に入り登録などして頂けたら幸いです。
( ̄▽ ̄)
久しぶりに顔を青くお送りします。

また、ある程度書き溜めたら投稿したいと思うので、しばらくお待ちになっていただければ幸いです。それでは。

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