この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 作:庫磨鳥
今回の視点主は『喜渡愛奈』です。
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8651:識別番号01 体力面、機能(?)面ともに問題無しかな、今から六人連続で活性化率を下げるけど緊張するなぁ。トラブルが起きずうまくいきますように!
8652:識別番号03 それは誰に向けての言葉ですか?
8653:識別番号01 んー。言うなれば運命とか奇跡とか……概念にかな? いわゆる神頼みってヤツだね。まあこのくそったれな世界を見る感じ居ないかなとは思うけど、何事もこういうのは気分だから。みんなも上手くいくように祈ってくれ。
8654:識別番号03 分かりました。識別番号01の成功を祈ります。
8655:識別番号04 失敗なく進行することを祈る。
8656:識別番号02 祈願⇒ナムー
8657:識別番号01 みんなありがとう! でもなんか違うぞゼロツー! どこでそれ覚えた!?
8658:識別番号02 回答⇒識別番号01の過去の発言から引用。
8659:識別番号01 そりゃ俺しかいないよねぇ……。 というか、いざやろうとなってから気付いたけど、噛みかたにすごい悩む。
8660:識別番号04 ──絵面がヤバイからか?
8661:識別番号01 そう、下手な噛みかたするとね。ほんとヤバイと思うんだ絵面。
8662:識別番号04 ──ハァ。
8663:識別番号01 わかっとる! またかよって言いたいのは俺が一番わかっとるっ! でも諦めずにため息で片付けないでくれ! 俺からしたら何度も言うぐらいの問題だから!
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「それで、オレはどうすればいい?」
なにもしない彼に焦れたのか真嘉が問い掛けると、彼は戸惑った風に瞳を左右に揺らしたあと、真嘉を抱き上げて、ベッドに腰掛けた。
「うおっ……あー、そういえば月世先輩の時もこんなかんじだったな……」
顔を赤らめて頬を掻く真嘉。その気持ちすごく分かる。お姫様抱っこってなんか恥ずかしいよね……その分ちょっと暖かい気持ちになるけど。
「……わたくし、あんな感じだったんですか?」
「うん、そうだよ。あ、月世照れてる?」
「え?」
「あんな無力そうな乙女姿を、みんなに見られたと思うと流石に羞恥を感じます」
「え?」
「なにか?」
月世が照れたということに、先に戻って
いい反応が見られたと笑う月世に、彼と真嘉のほうへと集中しなさいと肩を小突く。
「その……だ。そ、そういえば名前を言ってなかったな。『
照れによるものか、突然自己紹介をする真嘉。途中で自分でもなにを言っているのか分からなくなったのか、もう耳まで真っ赤になる。
──つい、さっきまで弱々しく消えてしまいそうだった彼女が、すっきりとした面持ちで感情を表にだしている姿を純粋に嬉しく思う。真嘉が恥ずかしがって顔を真っ赤にするなんて、それこそ昨日まで考えられなかった。
……まぁ、それはそれとしてなんかずるいなと感じてしまうのは、わたしの性格が悪いからだろうか?
8665:識別番号01 顔を真っ赤にしたマカちゃん可愛い……顔が近い、尊み溢れる……無理、しんどい……。
8666:識別番号03 何かしらのダメージを受けているのですか?
8667:識別番号04 絶対にそういうものではないと断言する。
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「ちょっ、こそばいな……!」
「う、う、うわぁ、服の中へと入っていっちゃいました……」
彼は触手を動かしはじめる。狙いを定めているのかゆっくりとした動きで、あらゆる所から真嘉の体へと徐々に近づいていく、その何本かは服の中へと侵入していき……なんだか見てはいけないものを見ている気分になってきた。兎歌も似たことを考えているのか恥ずかしそうに手の隙間から真嘉のことを見ている。
「久佐薙先輩の時も全身を噛んでいたみたいだが何か意味が……ん? 蝶番? ……え? そ、それは早く言って欲しかった……!」
「どうしたんですか?」
「な、なんでもない……です……“月世”先輩」
「そう、それならいいんですよ。ふふっ」
どうやら野花が私たちに聞こえないように夜稀に伝えたらしい。顔を青くした彼女に月世が話しかけると名前呼びに変わっている。
そうこうしている内に触手たちの動きが緩やかになる。どうやら配置が決まったらしく、蛇のような口を大きく開けて、一斉に真嘉に噛みついた。
「んっ!?」
「先輩、どんな感じ? 痛い?」
思わずといった感じに声を上げた真嘉に、夜稀が興味津々で尋ねる。
「い、いや、牙が刺さったって感触はあるけど痛みはないな」
無意識に身体が緊張してしまったが痛みは無かったらしく、なんだか私も思わず深く息を吐いてしまう。しかし、彼は私たちの時とは違って、かなり慎重にやってくれているようだ。私たちの時は、すぐに抑制限界値を超えて活性化率を下げないと『ゴルゴン』になっているほど危うい状態だったから、彼が急いでやってくれたのだろう。
一方で、真嘉たちはまだ数字に余裕があるため、できるだけ傷付けないように不快にさせないようにしてくれてるらしく、こんな所でも彼の優しさを知れて、なんだか嬉しくなる。
8670:識別番号01 うしっ、噛んだ時の反応に心が死にそうになったりもしたが、問題はなさそう。 んじゃまぁ、始めていきますかー。 あー、女の子の体めっちゃ柔らかいっすぅ……。
8671:識別番号04 雑念が消えないな。
8672:識別番号01 いうて、始めちゃえば半自動みたいなものだしね。こう半分ぐらいまで下がれーと思った後は、やる事といったら異常が起きてないかを見ているだけだから、それ以外は己の雑念との死闘よ。
8673:識別番号03 雑念に負けたらどうなるんですか?
8674:識別番号01 うーん。力いっぱい抱きしめちゃうかもな……それこそ壊れそうになるまで、だから絶対に負けられない。唸れ俺の人間的理性!
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「……んっ」
再度、真嘉が声を出したと思ったら人工呼吸器の画面に映し出されている数字に変化があった。
──特に、なにかしら特別なことがあったわけじゃない。正直言ってしまえば人類の歴史が変わった瞬間と呼ぶには、あまりにも地味で元からそうであったかのように――真嘉の活性化率の数値が下がり始めた。
「……下がっている、下がっているな……本当に下がってる? ……ああ、本当に下がってる」
夜稀は何度も何度も疑って、単なる自分が作った機械の故障とも思ったのかもしれない。そして最後には“活性化率が下がっている”のは現実だということを認識したらしい。
「──愛奈先輩、月世先輩のことを見ていても正直嘘っぽいなって思っていたけど……本当に下がるものだね」
「ああ、これが現実か……く、ふふ。奇跡なんて本当にあるものなのかよ……!」
「あるみたいだよ……あるんだ……」
活性化率は下がり続けている。ベッドの近くで真嘉のことを心配そうに見ていた二年生たちも、その様子を見て、言葉がでないと言った様子だ。
──それから、特に問題が起こることもなく活性化率が【47%】となったあたりで、触手たちが口を開けて離れた。
「──終わったのか?」
彼が頷く、真嘉は画面の数字を見る。
「……ああ、本当に下がってるんだな」
「真嘉! 平気? どこも異常はない?」
「ああ、ちょっと怠いし眠たいぐらいだな」
「まかまか……」
「問題なかっただろ?」
「……うん! 流石まかまかだよ!」
彼に補助されながら立ち上がる真嘉。私と同じように少しふらついている様子だが、それ以外はとくに変わったところは見られない。
「……よかった」
そう呟く兎歌を見ると赤い瞳から涙を流していた。
「うん、本当によかった」
「……っ! 先輩! わたし、『ペガサス』の事なにも知らなくてっ! ごめんなさい!」
「……なにも謝ることなんてないよ」
兎歌がなにを知って謝ってきたのかは分からない。だけど、まだまだ新入生である兎歌が気にすることは何もないと優しく抱きしめて背中をさする。
──きょう、たくさんの後輩たちを抱きしめた。みんなそれぞれ違うけど、背中の広さは殆ど同じで、とても小さくて弱々しいと思った。
「……下がったんだな……半分も、こんな簡単に……」
「真嘉……」
「……なんでもない。それで? 順番は決めたのか?」
疑う気持ちもあるのか、それともただ現実感がないだけなのか、それとも違うなにかか、真嘉の声はどこか遠い。それでも次に続く二年生たちを不安にさせないようにか、彼女は明るい調子で話しかけた。
8677:識別番号01 うし、マカちゃんは問題無く終わったけど、副作用なのか結構怠そう。エナちゃんやツクヨさんを見る感じ、時間が経てば治るっぽいけど。
8678:識別番号02 応答⇒P細胞の活性化率が下がったことによる身体能力の低下が発生している可能性が高い。
8679:識別番号01 P細胞の活性化率って身体能力にも影響するのか?
8680:識別番号02 肯定⇒しかしながらP細胞はそもそも人間の体内に注入して活用することを想定していない細胞兵器であるため明確なデータを知り得ないことには不確定な情報と言わざるをえない。
8681:識別番号01 そういえば俺も『ペガサス』に関しては本に書いてあったことや、エナちゃんからぐらいしか知らないからね。 これからの事を考えてエナちゃんたちに、なにか教えてもらえる手段を考えようかな?
8682:識別番号02 肯定⇒『ペガサス』から教えを請うのもそうだが識別番号01は専門的な情報媒体を読んでここに載せるべきである。
8683:識別番号01 ……俺も理解できるやつあったらね……。
8684:識別番号02 抗議⇒……………………。
8685:識別番号01 無言の圧がやべぇ。 半分冗談はともかく、『ペガサス』に関係する本ってマジでゴシップ雑誌ぐらいしか殆ど無かったんだよね。たぶんというか絶対『ペガサス』の情報って国家機密とかで、正確な情報を調べるの難しいかも。
8686:識別番号02 ちっ。
8687:識別番号01 舌打ちっ!? |
「はーい! 次はきょうちゃん……だったら良かったんだけどー、ほむほむになったよ!」
「分かりやすく活性化率が高い順にしたの」
「そうか……
「うぅん? ……ええ、問題ないわ。はやく……乗りましょう……」
真嘉の時に順番を決めていたらしく、『
──彼女は礼儀正しく真面目な子だった。高等部に進学してから私たちの見る目を変えた後輩が多くいる中で、変わらず私たちに接してくれた。
戦場で何度か共闘する機会もあって、とても強かったのを覚えている。仲が良かった
──過眠症で不眠症。彼女のことを真嘉たちがそう言っていたのを聞いたことがある。寝て起きてを繰り返して夢と現実を往き来する。そのため脳が休まっておらずさらに、今はまともに会話もできない状況らしい。
「……ん~?」
ぼーっと薄く目を開いて彼を見つめる香火。もしかして夢だと思っているのだろうか?
「ふふっ、私……穂紫香火……っていうの……ねぇ、素敵な人……一緒に踊りませんか?」
8690:識別番号01 カビちゃん。大人みたいにすごく美人さん。眠たそう……いや、幻覚を見ているのかな? なんか、心ここに有らずでずっと夢を見ているみたい。
8691:識別番号02 提案⇒識別番号01の能力を使えば意識を覚醒させる毒を生成して投入することも可能である。
8692:識別番号01 ……いや、やめとくよ。今この状態だから俺のことを怖がっていないのかもしれないし。 辛い現実へと戻すのは、彼女のことをもっと知ってからのほうがいいと思う。
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「穂紫先輩、活性化率を測定したいから腕輪を取り付けてくれ」
「ん~……すぅ……」
「ね、寝ているんですか?」
落ち着いた兎歌が、香火が立ったまま寝ていることに戸惑う。すると彼が香火の腕に腕輪をはめ込んで、画面に数字が出てきたのを確認する。彼女の活性化率は【92%】。たった一回の戦闘が致命傷になりかねない数字だ。
「──ん」
あとは真嘉と同じように抱き抱えてベッドに座り触手で全身を噛む。そして少し時間をおいてから問題無く数字が下がり始める。
「──動作が違和感無く自然、人間を真似ているというよりも、“まるで元から人間みたい”で……硯、彼は『ゴルゴン』なんですか?」
「自我を残した『ゴルゴン』の可能性は捨てきれない……けど違うと思う」
「──〈魔眼〉ですね」
「そう、『ゴルゴン』の〈
「―──男ですね、単なる外殻の形と言われればそれまでですが、体付きが男性的です。もし同じ形の単なる鎧があったとして同じ身長の『
「『ペガサス』が女性である以上、『ゴルゴン』の身体的特徴は必ず女性的になるはず……やっぱり彼は根本的に『プレデター』とは違う……」
気がつけば夜稀と野花が冷静に彼の正体について分析していた。様々な視点からの知識に基づいて意見を交換しながらも、その目は彼に集中している。
二人は彼の身体的特徴や〈固有性質〉から『ゴルゴン』ではない可能性を導き出している。『ゴルゴン』かもしれないで思考が止まっていた、私とは大違いだ。
「香火? どうした?」
「……すぅ……すぅ……」
「……寝ているのか?」
──香火の活性化率が【50%】まで下がったところで触手たちが離れた。しかし動こうとしない香火に心配そうに真嘉が声を掛けるが、どうやら熟睡しているだけのようで、一安心する。
「すぅ……すぅ……」
「……おやすみ香火。ちゃんと朝まで寝ろよ。悪いがソファまで起きないように運んでくれないか?」
真嘉の頼みに、彼は頷きソファへと移動する。香火が熟睡していることが本当に嬉しいのか、真嘉は自分の時よりも遙かに嬉しそうだった。
「毛布を持ってきましょうか」
「ここで見ているだけというのもなんですし、わたくしもお手伝いします」
「──え? 月世先輩と二人きりで移動とか嫌なんですが──あ、はい、よろしくお願いします!」
そう言って病室を出て行く野花と月世。月世のほうがなにか企んでいるようだったから私も付いていこうと思ったけど、愛奈はここに残ってくださいと月世に断わられてしまった……野花に変なことしないといいけど。
「次は私ね……」
「さやさや。怖いなら変わってあげようか?」
「べ、別に怖くないわよ!」
香火をソファに寝かして、所定の位置へと戻ったところで咲也が彼の前に出た。あきらかに酷く緊張しており、頭痛がするのかこめかみを押さえている。
――咲也の反応は、至って普通だ。いや、それよりもマシなのだろう。だって彼はどれだけ優しくても人型プレデターに代わりは無いのだ。私のように受け入れているほうが客観的に見れば異常事態だと言える。
「……『
咲也が腕輪をはめ込む。画面には【90%】という数字が表示された。
「きゃっ!?」
持ち上げられた咲也が悲鳴を上げて、後は同じ手順で咲也に噛みつく。
「んっ! な、何かが中に入って……へ、変態……!」
「中に入ってって事は、何かしらの物質を体内に入れているみたいだね」
「気になるのはそこだけなんですか!?」
納得している夜稀に、顔を真っ赤にした兎歌が思わずツッコんでいる……私が居ない間に仲良くなったみたいだ。
咲也のつっけんどんな態度にも気にせず。彼は作業を行なう。ただ前の二人と比べて動きが迅速な気がする。決して雑ではなくただ効率よく動いているように思える。もしかしたら嫌がっている様子の咲也のために早く終わらせてくれようとしているのかな?
8703:識別番号01 はーい。すぐ終わりますからねー。痛くないですよー。ちょっとだけ我慢してねー。はいはい、痛かったら手を上げてくださいねー。すぐ終わりますからねー。
8704:識別番号02 質問⇒『ペガサス』の咲也で、五人目の毒の投与となるが違いの有無。
8705:識別番号01 体格差の影響でか多少の下がる速さに違いがあるぐらいかな? というか感じるP細胞の量というか数が全員ぴったしなんだけど……細胞単位でちゃんと数を決めて体内に入れてるってことか?
8706:識別番号02 応答⇒その可能性は高い。 補足⇒そもそもP細胞は人間の体内に取り入れて運用することを想定していない細胞兵器であるため自身の保有する一億八千年前のP細胞の知識を以てしても『ペガサス』に関することは全て憶測でしか話せない。 要求⇒早期に『ペガサス』の専門情報を見つけだすべきだ識別番号01
8707:識別番号01 あ、あったらね…… ゼロヨン、ゼロツーなんか過激だけど、どうしたんだと思う?
8708:識別番号04 『ペガサス』に対する知的好奇心を解消できなくて鬱憤が溜まっていると思われる。
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「……終わったの?」
ずっと目を瞑っていた咲也は触手たちが離れてもしばらく終わったことに気がつかなかった。
「下がってる……その、ありがとう」
立ち上がって、画面を見て自分の活性化率が【47%】まで減ったことを確認すると、咲也は暫くコメカミに手を当てた後、彼の方へと振り向いてお礼を言った。
「……私は──」
「──はいはい! じゃあ次はきょうちゃんの番!」
「ちょっと!?」
響生が手を上げて言った。すると彼は響生と同じ視線になるように屈んで、人差し指を人間で言うところの口元で立てた。いわゆる静かにというジェスチャーだ。
「あ、香火が寝てるんだった! 本当にごめんね!」
自分の口を両手で隠して謝る響生に、今度は親指を立てる。
「えへへ! ありがとう人型プレデターさん! あ、そうだ、自己紹介しないとだね!」
どうやら始める前に自己紹介をする流れになったらしいが、その発端である真嘉が少し恥ずかしそうにしていた。
「きょうちゃんはね。『
──呼んでもらっているとは言うけど、高等部の中で響生のことをきょうちゃんと呼んでいるのを見たことがない。二年生たちがどうしてあだ名で呼ばないかは分からないけど、私と月世の場合は単純に呼んでと頼まれてないからだ。今度からきょうちゃんって呼んだほうがいいのかな?
「よろしくね! 人型プレデターさん!」
彼は頷くと響生の頭に手を乗せた……なんだろう、私たちとの対応よりも丁寧というか、もしかして響生のこと小さな子供扱いしているのかな?
8714:識別番号01 キョウちゃん、マカちゃんと同じ歳ぐらいの子って分かってるけど、小っちゃくて元気いっぱいで、つい年下扱いしちゃう。
8715:識別番号03 年齢の差異によって何か変わるんですか?
8716:識別番号01 うん。でも難しい話で俺もどう説明していいか分からない。結局前ゼロツーが言ったように個人で考えないといけないやつだしね。こればっかりは自分で経験していかないとだなぁ。
8717:識別番号04 ヒビキを実年齢よりも年下扱いするのは正しい行為か?
8718:識別番号01 たぶん間違ってるね! いやでも、女性は年下扱いするものだし合っているのか? だけどあんまり子供扱いするのも失礼なはずだし……。
8719:識別番号03 難しいです。
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「ほんとだー! ぜんぜん痛くないよ!」
彼に抱えられて触手に噛まれた響生は、はしゃぎ出して彼が調整してくれなかったら落ちそうだった。それにまた大声を出してしまい、静かにと彼に窘められて両手で口を塞ぐ。
「えへへ、なんだか赤ちゃんになったみたい! 人型プレデターさんに沢山甘えちゃおうかな!」
「なんてこというのよ……」
響生の発言に、咲也たち二年生組はあらぬ想像をしてしまったのか顔を赤らめる。でも、たしかに彼にああやってお姫様抱っこされると、温かくもなく冷たくもない金属のような堅さが自分を守ってくれるような気がしてすごく安心する。
学園まで抱えられている時、触手で私を包んで風避けしてくれたこともあって、今思えばかなり快適だった気がする。
「……またやってほしいな」
「え?」
「なんでもないよ」
うっかり口から零れてしまって、兎歌に聞かれ咄嗟に誤魔化す……すごく恥ずかしい!
「──人型プレデターさんは、えなりんが好き?」
「ちょっと!?」
活性化率を下げている中で、響生はとんでもないことを彼に質問すると、彼は少し間を置いて親指を立てた。
──そ、そうなんだ。私のこと好きなんだ……ま、まぁ多分広い意味だと思うけど……へ、へー。
「こうやって、きょうちゃんたちを助けてくれるのもえなりん先輩がお願いしてくれたから?」
──彼は首を動かさなかった。肯定も否定もしない彼に響生はどう思ったのか、ここからでは顔がよく見えない。
「それでもいいよ。その代わりまかまかたちもちゃんと愛してね!」
「おまえ!? 愛してってなんだよ!?」
「なにって言葉通りの意味だよ? というかレミレミ。そこで固まっていないで早く早く! 今日が終わっちゃうよ!」
【89%】が【44%】になったところで終了した響生は最後のほう、そんなひと言を残した。真嘉が何を言ってるんだと響生に詰め寄るが、適当にあしらって二年生最後のレミに話しかける。
「は、はい……」
なにか言いたそうなレミ、彼女とは直接話したことはほとんど無くて、高等部区画の至るところで紙の本を読んでいるのを見かけており、読書に集中する彼女のページを捲る音を傍で聞いては癒やされていた。
単なる情報収集の一環だったのかもしれないが、彼が元々居た『街林』の家には大量の本があった。同じ読書するものとして仲良くできたらいいなと、勝手ながら思っていた……こんどオススメの本とか教えてもらおうかな? 時間ができたんだ、私も久しぶりに何か読みたくなってきた。
「次は夜稀先輩の番ですね」
「そう思っていたんだけど止めとくよ」
「え!? あんなに楽しみにしていたのに!?」
兎歌と夜稀の話に聞き耳を立てる。夜稀の反応からして二年生の後に活性化率を下げるものだとばかり思っていたから、私も兎歌と同じぐらい驚いた。
「彼の〈固有性質〉が本物であることはわかったし、どうせならちゃんとした準備をしてからやりたい」
「でも、活性化率が……」
「心配は無用だよ。あたしの活性化率は【60%】と余裕だから……それに
「野花も?」
「──ただいま帰りました!」
どういうことかと尋ねようとしたが、ちょうど野花と月世が戻ってきた。何故か私たち全員分と思われる毛布を抱えて。
「ありがとう月世、野花も、なにかされなかった?」
「ひと言も喋りませんでした! それはそれですごく怖かったです!」
「あはは……なんか月世がごめんね」
とある事情もあってから、昔から私たち三年の中でもっとも怖れられているのは月世だった。あんまり怖がらないで欲しいなという思いはあるが、月世の普段の言動を考えると仕方ないなという気持ちのほうが強い。
「もし酷いことされたら、遠慮無く私に言ってね?」
「そうですね。わたくしが酷いことをしたらご遠慮なく愛奈に報告してください」
「それ自分で言うんですね! ──なんなのこの人?」
「月世かなぁ」
笑みに含まれる感情とかはなんとなく分かるようになってきたけど。相変わらず突飛な発想は後になって、こういう理由なんだろうという予想を立てられるぐらいだ。
「あ、あの……本当にありがとうございました! ──っはい!」
──そうこうしている内に終わってしまったようで、レミが彼に向かって頭を下げていた。これで二年生の五人全てが活性化率を下げ終えたことになる。見た感じ異常は見られず、ひとまず安心と言ったところだ。
「そういえば、野花は活性化率を下げないの?」
「はい! 色々と考えた結果、ボクは後日にしようと思いまして!」
「本当にいいの?」
「構いません! ──心配しないでください、その時が来たらボクもきちんと活性化率を下げます」
「……そう、野花が決めたのなら私はなにも言わないよ」
「ありがとうございます! それではその旨を彼に伝えて来ますね!」
そういって野花は彼の下へと向かった。
──その背中を見ながら、迷惑でお節介なだけかもしれないけど、“その時”が来るまで私は声をかけ続けることを決めた。
「……愛奈先輩」
「真嘉、よかったね、みんな無事に終わって」
「はいっ……」
さっきまで喜んでいた様子とはうって変わり、現実感がないのか、どこか浮ついている真嘉。確かに見ている私でもあっさりと活性化率が下がった印象だったので、いざみんなが終わったとなると、寿命が延びたという実感が湧かない気持ちは分かる。
私や月世は抑制限界値をいちど超えても、こうやって『ゴルゴン』にならずに『ペガサス』として生きていけること自体が、一種の本当に下がった証拠になっており実感を持てているが、彼女たちの場合は抑制限界を超える前だったので、実感を持てる証拠がない。
こればっかりは時間が必要だと、私は特に触れることなく、純粋に彼女たちが無事に活性化率を下げられたことを喜んだ。
「あの、これからどうする、んですか?」
「そうね。もう日が変わると思うし……お開きかな?」
「──でしたら、提案があるのですが」
待ってましたと言わんばかりに月世が会話に入ってきた。……大量に毛布を持ってきた時点で月世のやりたいことになんとなく気がついていた。
「せっかくですし、私たちみんなで彼と一緒にここで寝ませんか?」
なので特に驚くことはなく、むしろ賛成だと月世の提案に乗った。
次で1章完結となります。