東方 無灯炎   作:キチガイ中二病

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前中編

 プロローグ

 

豊かな自然に、妖怪や吸血鬼、人間が共存する幻想郷―。

雲ひとつない青い空の下で、数多の異変が起きている。そう、今日も―。

『迷いの竹林』と呼ばれる人里に一番近いこの場所で、二人の女性が毎日一回は激しい攻防をしている。

一人は白髪の長い髪を幾度も留めている。全身から闘争心があふれ出ている。

「今回は、いつになくやる気ねぇ。もこたん。」

「おい、その呼び方やめろよ。お前に言われるとイラッとするんだよ。」

艶のある長い黒髪はその女性をより美しく―より穏やかにみせる。

「そういえば、おまえは今、外に出ていいのか?仮にもお姫様だろ、輝夜は。」

 ウフフッとだけ笑い、妹紅の質問には答えなかった。いつものすかした態度―。まるで小さな鳥を見下している虎のように感じる。

 今日という今日は絶対に負けられない。それは一週前の戦いで『負けた者は勝つまであだ名で呼ばれる』というルールを決めてしまったからだ。さらにそのルールは輝夜が唐突にしかも戦いが終わってから言ったことだ。そのときは、疲れでしゃべることすらできな

 

 

 

 

かったのに―。

その戦いから一週した今日までずっと負けてきた妹紅の怒りは限界に達していた。絶対に負けないという気持ちが妹紅の闘争心を高める。

「あの時決めたじゃない。なんでそんなに怒っているの?」

「あたりまえじゃないか!疲れてしゃべることが出来なかったのに勝手に決めやがって。」

 そうかしら?と呟く輝夜の姿に余計に腹が立った。しかし、誰にも知られないようにこっそり鍛えていた妹紅は自信に満ち溢れていた。

「何度やっても同じことよ。あなたは絶対に私に勝てないわ。」

 その言葉が妹紅のカンニン袋の尾を切った。怒りと闘争心が身を包むように揺らいでいる。

 炎をまとい何の前触れもなくいきなり突進してくる妹紅を正確に抑えつける輝夜は余裕の笑みを見せている。嘲笑しているのだ。その後も勢いよく攻撃するものの全く効いていない。

 輝夜は呆れたように攻撃を返すだけだった。

 

   第一章  雲泥の差

 

 「負けるかー!」

静かな竹林から大きな叫びが聞こえた。そして、地面が揺れるような爆発が起きた。

「まだまだ弱いわね、妹紅。」

ライバルの輝夜にまた負けた。妹紅の胸にはいつも悔しさが残っている。

(どうやったら勝てるんだ・・・)

輝夜には妹紅の攻撃が効いていないように、いつも平然としている。その態度がいつもイライラさせる。

「まだ勝負は終わってないわ。次は絶対に負けないわ。」

張り切って勝負を仕掛けた。闘心が燃えたぎっている。全身から熱いオーラが出ている。

「その負けず嫌いの性格は何とかならないのかしら・・・。」

輝夜は呆れたように答えた。妹紅はすかした態度にいらだち、いきなり攻撃を仕掛けた。

「スペルカード 火の鳥―鳳翼天翔―!」

巨大な火の鳥が怒りによって、激しく燃えている。自我を持っているかのように輝夜に襲いかかってきた。

 

 

 

 

「・・・そんな力で、私に勝てると思っているの?」

妹紅の怒りの攻撃を軽々と壊し、攻撃に移った輝夜の目の前にその姿はなかった。周りの竹がいまにも襲いかかってくるように揺れている。ときどき、竹と竹の間から炎が襲いかかる。

(そんな手に引っ掛かると思っているのかしら・・・。妹紅にしては考えたわね・・・。)

「楽しくなってきたじゃない!でも、そんな手は通用しないわ!・・・スペルカード 蓬莱の弾の枝―虹色の弾幕―!」

そう叫んだ瞬間、七色に輝く弾幕が竹林を覆うようにしてはじけ飛んだ。妹紅は炎の壁で致命傷を避けた。しかし、輝夜の本気の攻撃になす術は無かった。

「妹紅!逃げているばかりじゃつまらないわ。さっさと姿を現しなさい。」

そんなこと言われても―状況を考えろよ・・・。

逃げる妹紅に追いかける弾幕―竹林の中を鬼ごっこしている。そんな妹紅に呆れた輝夜はもう一つの難題で攻撃した。

「スペルカード 火鼠の皮衣―焦れぬ心―!」

赤くて燃え上がるような弾幕が妹紅におそいかかってきた。しかし、妹紅は余裕の笑みを浮かべて攻撃に移った。その余裕が命取りになることは、妹紅は知る由もなかった・・・。

「言い忘れていたけど、その弾幕はいつものやつとはちがうわ。」

弾幕が爆発し、妹紅を拘束し始めた。身動きが取れなくなった。ほどこうとすればするほど締りが強くなっていく。

「まったく、その油断がいつも敗北を招いているのよ。すこしは慧音に授業を受けたらいいんじゃないの?」

またあのすかした態度だ。でも、これが力の差か・・・。

             ※

「いつまで寝ているの?私は先に帰っているから―。」

悔しい、悔しい、悔しい!・・・もう・・立てない・・・。・・・人影・・・?

「こんなにぼろぼろになるまでやるなんて―」

「慧・・・音?」

妹紅は慧音に担ぎあげられた。この感じは、懐かしい―。確か月にいたときも同じ事が―。

 でもあのときは怒りに身を任せて―。

 満月の光が二人を優しく、そして静かにを包みこんででいる。

 

   第二章  重なる異変

 

 木造建築の病院―永遠亭。ここは『迷いの竹林』を特定のルートで進まなければたどり着けない場所。普段は妹紅が道案内をしている。しかし、ここ最近は永琳が人里を訪れているので、仕事は休みになっている。

 満月の光に照らされている静かな部屋―。傷の痛みが失せない体を無理に起こす妹紅。静かだ―。満月を見上げる妹紅の前に慧音の姿があった。

「ずっと看病してくれたのね。・・・・悪いわね。」

 答えずに作業を続ける。また、こうなるとは思わなかった。少し後悔する妹紅を慰めるように慧音は話した。

「自分の行動に自信が持てないやつはここの館にはいないはずだ。」

「そうね・・・・。」

会話が途切れると長い沈黙に包まれた。静かな風が二人の頬を伝った。冷たくて気持良い―。母に抱かれたようだ。親に抱かれるのはこんな感じなのかな?ふと頭をよぎる疑問を振り払う。あの時の事は思い出してはいけない。そう心に言い聞かせる。

 慧音に優しく手当てをされた後、ゆっくりと寝床に入る。温かい布団―冷たい風―。妹

 

 

 

 

紅の疲れは気持ちが安らぐのと同時に出てきた。深い眠りに落ちた妹紅を自然が優しく包み込む。

 

 

 

 ・・・・ここは、夢の中?何も見えない闇の中、妹紅を誘うように明るい光が差し込む。紅く―強く燃える炎の鳥が妹紅に近づく。

「我を怖がらんのか?」

「あなたバカなの?私の心にずっといたんでしょ。とっくに気付いてたわよ。」

紅い鳥―フェニックスは驚いている様子だ。こんなに近くにいて気付かない方がおかしい。「今のあなたはあなたを悔やんでいるようね。」

「・・・・・。」

しばらく沈黙が続いた。考えが読まれていて動揺しているのか辺りを見渡している。長い沈黙を遮るように妹紅が唐突に叫ぶ。

「あなた、私の心に住んでいるのに私の思っている事を何一つ分かってないわ!あなたはあなたが弱いから私が負けているとでも思っているんでしょ!今のあなたのままじゃ絶対に勝てないわ。誰にも―。」

静かな闇に妹紅の声がこだます。しばらくして、フェニックスの口が開く。

「我はお前の事を分かっていると勝手に思い込んでいたようだ。・・・まさか、一番わかっていなかったのが我だったとはな。」

「誰でも変わっていけるのよ。」

小さいけれど強い声に圧倒されたフェニックスは果てしない闇を切るように飛び去った。

 

 

 

眩しい朝の光が暗く静かな部屋に差し込む。小鳥が朝を感嘆して詠っている。そんな清々しい朝の中、廊下を勢いよく走る音が聞こえる。こちらに迫ってきている。いやな予感―。「妹紅!おっはよ~う!」

的中した・・・。月の兎が二匹否、二人入ってきた。そこに大きな影が現れ、兎を追い

払った。全く、朝から騒々しい・・・。赤と青が交互した服に包まれた医者―八意永琳は静かに妹紅の横に座り、慧音とは比べ物にならないほどの手際の良さで看病している。

「やっぱり慧音よりは早いわね。」

 

 

 

 

「そりゃそうよ。でも慧音だってあなたを思ってやってあげたのよ。後でお礼を言わなきゃだめよ。」

軽くうなずいて返事する。それにしても昨日の傷が嘘のように治っている。毎回のことだったので気にしてはいなかったが今回の回復は異常だと誰にでも分かった。

「無理してはダメよ。まだ後遺症があるかもしれないから・・・。」

「心配しないで。そう言えば、今日は休みなの?」

永淋は小さくうなずき、その場を立ち去った。しばらくの沈黙の間、妹紅は輝夜に会いに行く事を決意した。

 

 

 

「あら、妹紅。おはよう。昨日は少しひどい事をしてしまったわね。・・・・ごめんなさい。でも傷が治った様で良かったわ。」

「輝夜、ありがとう。・・・・今度は絶対に負けないわよ。」

輝夜はウフフッとだけ返事した。いつもと変わらない日常に少しだけ幸せを感じた。小鳥の鳴き声―揺れる竹の音―指を伝う風―平凡な日常。

軽くノックして慧音の部屋に入るが、そこに慧音の姿は無かった。そうだ、慧音は今日も寺子屋で子供達に勉強を教えているんだ。慧音の勉強はたまに熱が入り、子供達には分からない事をしゃべる時がある。今日はちゃんとした授業であるようにと妹紅は朝日に強く願うのだった。―「ありがとう」と書いた紙を机に置いてその部屋を後にした。

太陽が昇りきる前に外へ駆けだした。夏が近づいているのか気温が高い様な気がする。

『迷いの竹林』の中に入る。数多の竹が重なり合い影が出来ている。少し涼しい風が妹紅のそばを吹き通る。しばらく歩いたその先に昨日闘った場所が見えた。

重なり合う竹と竹の間から漏れる光の中、少し昨日の事を思い出してしまった。

昨日の事はもう思い出さないようにしよう・・・。

「おい、自分の弱さは自分が一番知っているんだろう?」

ふと後ろから声が聞こえた。永琳でも慧音でもない声―知らない声だ。

「ちょっと、いきなり出てこないでくれる?少しびっくりしちゃったじゃない・・・。」

その声の主は絶えることなく燃え続けている火の鳥―フェニックスだった。沈黙を打ち消すようにフェニックスはびっくりした妹紅を大笑いしている。その笑いを遮るように妹紅は叫んだ。

「う、うるさい!べ、別に昨日の事を思い出したわけじゃないんだから。ただ・・・・。」

 

 

 

 

その先の言葉が出なかった。ただ・・・自分の弱さから逃げているだけ。そう、今も・・・。しかしフェニックスはまるで以心伝心したかのようにいきなり呟いた。

「自分の弱さから逃げているだけか・・・・。」

妹紅の顔から熱が出ていた。否、極度の恥ずかしさで赤面していた。なぜなら自分が思った事をそのままフェニックスが呟いたからだ。恥ずかしすぎて顔もむけられない。妹紅は勇気を振り絞ってフェニックスに訴えた。

「ちょ、ちょっと・・・あなた・・さっきわ、私が・・・考え、た事・・・なんで、分かった・・・のよ・・・。」

フェニックスは呆れたような顔をしている。お前いまさら何言ってんだ?と言いそうな空気に包まれた。そう思った瞬間、

「お前いまさら何言ってんだ?」

ああ・・・もうダメ・・・。思っていた事を言うなんて・・・。恥ずかしさが頂点まで達し妹紅はオーバーヒートしてしまった。あまりにも高い熱で妹紅はふらふらしていた。前に向き直り先に進もうとするが二、三歩歩いているうちに意識がもうろうとしてついにはその場で倒れてしまった。妹紅には永遠亭に帰る気力がない。さらにここは『迷いの竹林』だ。一般の人は迷うので入ってこない。つまり、永遠亭にいる者しか助けに来れないのである。少し奥に来過ぎた事を今更後悔する妹紅。フェニックスは運ぶ事が出来ないだろう。こんなときに永淋が来てくれたら・・・。そう、心で強く思うのであった。

ああ・・・もう立てない。―叫ぶ気力もない・・・。もうこのまま倒れたままになるのだろうか?いつに間にか妹紅は眠っていた。フェニックスは誰もいない事を見計らってどこかに飛び去ってしまった。

 

 

 

ここはどこだろう・・・。竹林ではない光景・・・。上がった熱を冷ますように涼しい風が吹き抜ける。見慣れた光景を前に妹紅は寝床から飛び起きた。自分が倒れた事より、自分がここにいることに疑問を持った。

なんで私はここにいるんだろう・・・。あの時は運べる人なんて誰もいなかったのに・・・。もしかしてフェニックスが人を呼んでくれたのかしら?

たくさんの疑問について考えていた妹紅のそばに永琳が座っていた。深く考えていたので永琳がいた事に気づいていなかったのだ。

「病み上がりなんだから少し安静にしていなさい。」

 

 

 

 

妹紅の熱はまだ完全にひいていなかった。体を動かそうとすると傷が痛む。そんな妹紅の疑問は時間が過ぎるたびに深くなっていった。

「・・・う。・・・こう。・・・妹紅。妹紅!」

永琳は強く叫んだ。その声にはっと気が付いた。

「一人で悩む事はあまり良くないわ。悩みがあるなら私たちに相談しなさい。私達・・・仲間でしょ?」

そうだ。肝心な事を忘れていた。永遠亭にいる人は皆仲間なんだ。ここにいる永琳も、ライバルの輝夜もみんな仲間なのだ。これだけは絶対に忘れてはいけない。妹紅は心に深く刻み込んだ。

「あの・・・質問があるんだけれど・・・いいかな?」

満面の笑みを浮かべている永琳には話せそうだ。とても安心する笑顔だ。そのまま妹紅は話を続けた。

「私をここまで運んできた人って誰?どうしてもお礼が言いたいの。ねぇ、永淋は分かる?」

永琳はしばらく黙って考え込んでいた。

永琳にも分からないのかな?そんな不安のなか不意に永淋は話した。

「一言でいえばちょっと怖そうなおじさんかな?人里でも見た事の無い人だったわ。確か幻想郷中を旅しているって言ってたわ。」

ヒントは怖そうなおじさん・・・か。しかしこれだけでは分からない。

「特徴は何かあった?」

早く会ってお礼を言いたい妹紅は永琳に必死に質問を繰り返した。

 

 

 

ある程度の情報を得た妹紅は廊下を全速力で駆け抜けた。しかし廊下の中間あたりでいきなりブレーキがかかった。妹紅の服の襟元を掴んだ手が先に進ませなかったのだ。

「離してくれ!早くお礼が言いたいんだよ!」

駄々をこねる妹紅に鉄槌が、否げんこつが下された。混乱している妹紅を見ている医者―永琳は耳元で囁いた。

「ごめんなさいね。本当は行かせてあげたかったのよ。でもあなたの傷はあなたが思っている以上にひどいものなのよ。」

 

 

 

 

 

 

 

またここか・・・。大きなため息とともに命の恩人に会えなかった悔しさが湧き出した。風に揺れる竹のざわめきが妹紅を慰めているように聞こえた。夏風は妹紅の横を通り抜けた。この部屋がいつもより静かだからだろう竹のざわめきと秋風の音がいつもより大きく聞こえているような気がした。

しばらくして永琳が入ってきた。妹紅は今朝の事をまだ気にしていた。少しにらんだ目つきで永琳の背中を見ていた。その視線に気づいたようにふと話し始めた。

「今朝はごめんなさいね。謝っても許してくれないでしょうけど謝っておくわ。」

月の光を浴びている永琳の姿はどこか悲しげに見えた。妹紅は天井に視線をそらした。こっちこそ悪かったわねと言おうとした瞬間、永淋が口をはさんだ。

「あなたの気持ちも分からなくないわ。でも、あなたはまだ・・・。」

永琳は口を閉じてしまった。しかし、妹紅もその先を聞きたくなかった。自分の傷が深い事を永琳から聞きたくなかった。―真実を知りたくなかった。そのとき、フェニックスの言葉を思い出した。

「自分の弱さから逃げているだけ・・・か。」

そうだ!現実逃避をしてはいけない!少し怖かったが勇気を振り絞って永琳に聞いた。

「あ、あの!・・・私の傷はまだ・・・治って、いないの?」

永琳は答えなかった。真実を伝えるのに少しためらっているようだ。会話が途切れたことで気付いた。風が止み、夜の静けさだけが漂っていた。長い沈黙で胸が締め付けられるような苦しさが襲った。

「この事はあまり言いたくないけれど・・・あなたが望むのなら教えてあげてもいいわ。真実を知る覚悟があるのね?」

妹紅は静かにゆっくりとうなずいた。その覚悟が伝わったのか、永琳はためらいつつも話し始めた。

「あなたの体には・・・外から見たら絶対にわからない傷があるのよ。今回の弾幕勝負で生じたその傷は・・・。」

妹紅は不安の中ゴクリと固唾を飲んだ。永琳も決心して話を続けた。

「・・・その傷は私がどんな治療を施しても治らなかったわ。・・・あなたが炎の力を授かったときと同時に現れたようで少しずつ大きくなっているわ。さらに・・・・・もうダメ・・・。これ以上は話せないわ。」

いきなり話を切られて妹紅は不安になった。―残念な気持ちになった。

 

 

 

 

私の体はそんなにひどいの?そんな言葉がのど元まででかけた。永琳は立ち上がるとおやすみなさい。といって部屋から出て行ってしまった。

私は一体―。

そんな疑問だけが妹紅に募るばかりだった。

                    *

明かりも付いていない部屋を満月の光が一面に照らしていた。そんな中部屋の隅で赤と青の服を着た医者が一人で泣いていた。

「妹紅・・・。あの先は・・・・とても私の口から言えることではないわ。・・・許して妹紅・・・・。あの傷は―。」

再び吹き始めた夏風が永琳を慰めるように吹き抜けた。

 

 

 

清々しい朝を迎えた妹紅には昨日の疑問がずっと残っていた。兎が二人飛びついてきたが安易に振り払って廊下を進んだ。慧音にばったり会った妹紅は唐突に訪ねた。

「ねぇ、慧音。永淋を見なかった?いつもならキッチンにいるはずなんだけど・・・。」

唐突な質問にも慌てる様子を見せない慧音。さすがは寺子屋の先生だ。そんなこともふと考えたが、今は永琳の様子が心配だ。昨日の様子からすると精神の状態がとても不安定な事が分かる。

慧音の反応はいいえだった。残念な妹紅の様子を見て言葉を足した。

「永琳も疲れているのだろう。少し安静にさせてやれ。」

妹紅はうん。と小さくうなずくと輝夜の部屋に向かって歩き出した。

輝夜なら何か知っているかもしれない。そう思いながら朝の光で輝かしい廊下を小走りで駆け抜けた。

 

 

 

永遠亭の真後ろに豪華な屋敷がある。周りが竹なので人里からは絶対に見える事は無いそこが輝夜の住んでいる屋敷だ。普段は訪れる事の無い場所だ。だから屋敷の豪華さに気付かなかった。

こんなに立派な屋敷だったなんて思ってもいなかった・・・。少し感嘆しながら中に入って行った。

 

 

 

 

玄関の扉を閉めると中は薄暗くて広くなっていた。あんどんの光のみが照らすこの部屋を見渡していると闇の奥から声が聞こえた。

「こんなところに来るなんて珍しい事もあるのね。」

艶のある長い髪をたらして十二単と呼ばれる何層にも重なった着物を着ている女性―妹

紅のライバルというべき存在―輝夜だった。

「こんな薄暗い場所で生活しているなんて体に悪いわよ。たまには一人で散歩したらどう?」

こんな部屋に輝夜が生活しているとは思っていなかった。予想を大きく外れている。外は豪華だが中には何もない―あるものと言えば永琳が座っていると思われる丸い座布団と輝夜が座っている座敷と屏風、それに複数のあんどんだけだった。

「あなたがこんなところにくるんだもの少しびっくりしたわ。妹紅、驚いたでしょう?月の姫様がこんな場所に住んでいるなんて思わなかったでしょ?」

驚くどころじゃないだろ!永遠亭の奴らが輝夜はこんな場所に住んでいるなんて知ったら壁を突き抜けながら吹っ飛ぶぞ!と心の中で叫んでいた。そんな中、

「あなた、ここに来たという事は何か私に相談したい事があるのね?」

その言葉を聞いてはっと思いだした。いつも弾幕勝負をして絆が深まっていたのだろう。

「まさか、ライバルである私の家に来たのに用が無いなんて言わせないわよ。」

―ライバルである輝夜に相談したい事・・・それは―。妹紅は決心して尋ねた。

「あ、あの・・・永琳の事で相談があるんだけど。」

―馬鹿にされる。そう思っていた妹紅の予想とは大きくずれた返答だった。

「永琳なら見ていないわ。いつもならこの時間にお茶を持ってきてくれるのだけれど・・・。なにかあったのかしら?ごめんなさい・・・・私にもわからないわ・・・。」

「ありがとう・・・。」

妹紅は残念な気持ちより輝夜に協力してもらった感謝の気持ちでいっぱいだった。ゆっくり立ち上がり部屋を出ようと扉に手をかけた時、勢いよく扉が開いた。しかし、妹紅の前には姿が無かった。不思議に思ったそのとき、輝夜が勢いよく駆け付けた。妹紅は輝夜に飛ばされた。

「おい!人にぶつかっておいて謝らないとはなん・・・・だ。」

言い終わる前に気付いた。まさかこんなことがあるとは思っていなかったからだ。あまりの驚きで言葉が出なかった。いきなり現れた影は―永琳だった。

「え・・・い・・・りん。」

永淋の方も驚きを隠せていない。妹紅は安心してその場に座り込んでしまった。と同時

 

 

 

 

に泣き崩れてしまった。永淋が駆け付け、そっと優しく抱きしめてくれた。後から輝夜もそばに来て優しく抱きしめてくれた。

温かい・・・。これが愛・・・。

今まで戦いばかりしてきた妹紅は愛が分からなかった。なにが愛でなにが優しさなのか感じる事が無かった。

あの夜―慧音が私を担いでくれたのも愛があったからなのかしら・・・。

不思議な疑問が頭の中でぐるぐる巡っている。

「あなたに辛い思いをさせてごめんなさい。」

「永琳・・・こちらこそつらい思いをさせてごめん。」

輝夜がにやにやと笑っていた。どうやら面白い事があったのだろう。悪だくみをしている顔だった。

「妹紅、あなたが謝るなんて珍しいわね。これは文屋に頼んでおこうかしら?きっと新聞の一面に大きく書かれるわよ。」

わざと大きな声で話した。妹紅と永琳は赤面した。

「お、おい!そんなこと言うなよ!あの文屋に絶対に言うなよ!絶対にだ!」

はいはい。と言ってその場を離れ、指定席に戻った。はぁ、と大きなため息を吐きその場を離れた妹紅に輝夜が追い打ちをかけた。

「妹紅!あなたと闘ってばっかりだったから気付かなかったわ。あなたにも乙女な部分があるのね。」

からかっているのは分かっていた。しかし、怒る気にならなかった。ただ、恥ずかしさと楽しさの漂う雰囲気がだったからだ。

「もうからかわないで!」

叫びながら輝夜の部屋を抜け出した。

もうなんなのよ!赤面しながら永遠亭に走り向かう。駆け抜ける風はとても気持ちが良かった。

 

 

 

太陽の色が橙色となり、カラスが鳴く時刻なった。雲ひとつない夕焼けの空を一人の少女が飛んでいた。鳥のような姿で飛ぶ少女―藤原妹紅は久しぶりに飛んだので、気持ちが晴れていた。

時は遡り、午後の丑の刻。永琳から空を飛ぶ程度なら支障はない、とのことだった。

 

 

 

 

竹林の上を飛ぶのは久しぶりだった。こうやって上から見ると普通の人なら確かに迷うにきまっている事が一目瞭然だった。これからは自分の仕事はしっかりこなそうと心に誓った。

少し欠けた月が上がるころ、妹紅は永遠亭に帰ろうとしていた。

少し遅くなっちゃった。慧音や永琳に怒られるかな・・・。

はぁ、とため息をついたその時!永遠亭の方がいきなり明るくなっていた。いやな予感しかしない。

まさかとは思うけど・・・・。お願い!何もありませんように!

強く願うばかりであったが永遠亭と輝夜の屋敷はその期待を裏切るような姿だった。なんと!永遠亭は燃え盛る炎の中にあった。火に強い妹紅は永遠亭の中に入ろうとした。しかし、結界が張ってあるように、否張ってあり中に入る方法はなかった。どうやら炎の結界のようだ。誰が放ったのか、そんな事を考えている余裕はなかった。慌てる妹紅は結界を壊すほどの力が出なかった。

こんなときに全力が出せれば・・・。いや!今はそんな事を考えている暇は無い!出来ることを精一杯やるだけだ!

いくらやっても消える気配はなかった。ふと窓から中が見えた。人影があった。

良かった!慧音たちは中に避難していたんだ!

安心するのもつかの間だった。片方の人影が倒れた。周りの炎で影しか見えなかった。一瞬炎が妹紅の前をよぎった。身を構えて炎から身を守った。もう一度窓を見たときには二つの影は無くなっていた。

 

 

 

しばらくして炎の結界が消えた。妹紅は何も考えず永遠亭に入るのであった。幸いなことに永遠亭も輝夜の屋敷も燃えていなかった。さっきまで起きていた事が嘘のように感じた。

永淋の部屋に入った。そこには永淋が倒れていた。風邪にでもかかった様に咳と高熱を出していた。妹紅は永淋の額に手を付けた。しかし、あまりの熱さですぐに手を離した。

こんなに高い熱を出しているなんて・・・・。でも、ただの熱ならすぐに直せるはずじゃ・・・。

そんな事を考えているとき後ろから疲れたような声が聞こえた。振り返るとそこには輝夜が立っていた。

今日の朝はやけに眩しいような気がした。 

 

   第三章 意思の強さ

 

「この病気は・・・治せないわ。」

今にも倒れそうな輝夜は倒れまいと必死に力を振り絞っている。

「治せないってどういうことだ?」

「この病気は『永久白夜』という病名で、感染速度が速く、月にある物質が必要不可欠なのよ。しかも、高い熱にひどい咳が止まらなくなるのよ。さらに―。」

妹紅は耳をふさいだ。さらに、体が異常なほどに震えていた。

これ以上は聞きたくない!絶対に聞きたくない!

その行動を見て輝夜は話す事を止めた。その瞬間、目を閉じいきなり倒れ掛かってきた。高い熱と激しい咳込みをしていた。どうやら、病気にかかってしまったらしい。このまあまでは一日で幻想郷中に広がってしまうほどの速さだ。妹紅は二人を寝させて部屋を完全に閉めきった。二人の兎も廊下に倒れていた。急いで空いている部屋に寝かせた。慧音の部屋に入ると紙が置かれていた。

なんの紙かしら・・・・?

不思議に思いながら裏返して見ると、慧音の字で『病気を撒いたのは紫だ』と書かれて

 

 

 

 

いた。紙にはそれしか書かれていなかった。妹紅はその紙を握りしめた。自分に対する怒りと悔しさがこみあげてきた。

私が早めに帰ってきていれば・・・・。私のせいだ!

「ちくしょう!」

そう叫んだとき、後ろから不敵な声が聞こえた。

「フフフッ、こんなにひどいあり様になったのね。」

この声は・・・あいつしかいない。今回の異変の黒幕―八雲紫。自分が起こしたのに、他人事のように見ている。何を考えているのか全く読めない。

あいつがやったのか・・・絶対に倒す!今ここで倒してやる!

怒りの炎をまとい襲いかかる妹紅の攻撃を見ずに受け止めている。まるで輝夜と闘っているかのような感覚だった。後ろに下がったときいきなり攻撃を仕掛けてきた。さらにその攻撃は見覚えのあるものだった。

「スペルカード 火鼠の皮衣―焦れぬ心―。」

この攻撃は輝夜のものだ。なのになぜこいつが使えるんだ・・・・。

紫は相変わらず立っている場所から動かない。その姿はこちらを見下しているようにしかみえない。

「あなた、私がこのスペルカードを使えるなんて不思議だと思ったでしょ?」

驚きを隠せないのも無理はなかった。なぜなら全て同じだったからだ。それどころか、輝夜よりも大きく、速く、威力の高い弾幕だった。当たったら命にかかわるほどの傷を負うことになるだろうと、妹紅にも分かっていた。

必死に逃げる妹紅を無視して紫は言葉を継いだ。

「なぜ私がこんな異変を起こしたと思う?」

そんなの分かるわけないだろ!

妹紅は逃げるので精一杯だった。だから考える余裕などなかった。紫は頑張って避けている妹紅を無視したままだった。

「私がこんな異変を起こしたのは他でもないあなた達の力を吸収して月にもう一度戦争を仕向ける為よ。なにせ月の住民は不思議な力を持っていて、私達の力を軽々と越えているからよ。」

その事を聞いて妹紅は怒りが込み上げてきた。今までにないほどの怒りが込み上げてきた。妹紅は怒りにまかせ叫んだ。

「そんな理由で私達が犠牲になるのは絶対に許さないわよ!」

紫の笑いが消えた。少しして何かしゃべっているのが聞こえた。

 

 

 

 

「そんな理由ってなによ。あなたには私のつらさや苦しみが分からないでしょうね!今までの私の努力がどれだけけなされてきたか分かるの!月に行ってはけなされ・・・・。もう決めたわ。あなたの意志は私の力で潰してあげる!」

本気を出した紫は妹紅をめがけて攻撃してきた。

 

 

 

「この程度の力なのね。だからいつもあなたは負けるのよ。何度やっても結果は変わらないわ。・・・さよなら。」

そう言い残して紫は異次元に帰って行った。倒れたままの妹紅には悔しさと怒りしか残っていなかった。

ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!私は誰一人も守れなかった・・・。そんな自分が嫌いだ!大っ嫌いだ!

妹紅がここで倒れている時も病気の感染は早まるばかりだった。妹紅は寝ていた事に気付かなかった。

 

 

 

ここはどこ?真っ暗な場所・・・。何も見えないさらに一筋の光もない。

闇が漂う空間の中で妹紅はただ立ち尽くしているままだった。少しして、一筋の温かい光がさした。

「また、あなたと会うことになるとはね。私も弱すぎるわね・・・。なにせ、仲間一人も助けられてないもの・・・。」

真っ暗なこの空間では炎の鳥の光がより明るく見えた。少し考えた後、炎の鳥は話し始めた。しかし、その声は少し戸惑いが見えていた。

「お、おい・・・お前このままじゃ悔しいだろ?だから、われの力を貸そうか?」

妹紅は今、人生の分岐路に立っていた。このままの強さで紫を倒しに行くのか。それとも、力をもらい自分の力ではない力で紫を倒すか。しかし妹紅は迷わず決断した。

「あなたの力を貸してもらうわ。このままじゃ誰ひとり救えないもの。」

「そうか・・・。ならば貸してやろう。しかしその力は自制がきかなくなる力だ。注意するのだぞ。」

フェニックスはあまり乗り気ではなかった。少しためらいながらも儀式を始めた。終わ

 

 

 

 

ると、真っ暗な空間を温かな光が包んだ。眩しい光が消えると、そこには誰も知らない妹紅がいた。妹紅はふと頭によぎった言葉を頼りに歩き始めた。

博麗・・・神社・・・・。

この言葉を頼りに博麗神社に進んでいく妹紅は次々と襲いかかる狂った妖怪をなぎ倒していく。その手の中にある炎は今までの情熱に燃えた炎ではなかった。何も感じる事の無い残酷で冷徹な破壊の黒い炎だった。全てを燃やす力を得た妹紅は何も感じる事がなくなった。嬉しさも悲しさも怒りも悔しさも―痛みも、何も感じなくなった。そんな破壊するだけの人形と化してしまった妹紅を止められる者はいなかった。

                 *

「やっぱり自制心が燃やしつくされたか・・・・。そして全ての感覚すら燃やしつくされてしまったのか。だから貸したくなかったのだが・・・・。」

何もない空間の中、一人ただ悔やむだけの炎の鳥がいた。ただただ、悔やむことしかできない自分に腹が立った。

この暗い空間は妹紅の心をそのまま表していた。こだます事の無い音、決してさす事の無い光、何も見えない深い闇―。

そして、この力が妹紅の体を蝕んでいる事など誰も知らなかった。

道中、人里に入りこんだ妹紅に里の人間は不思議に思っていた。妹紅は余り人里によることが無いので周りの人間は珍しく思ったのだった。そんな中如何にも悪そうな連中が妹紅に寄り付いてきた。

「お姉ちゃん、かわいいね。俺らといい場所に行かないか?」

しかし、妹紅は歩く速さを遅めなかった。そんな、何かにとりつかれたように歩く妹紅を見て人間はいらだった。いきなり懐から鎌を取り出し妹紅に襲いかかってきた。

「こいつ!俺の言う事を聞け!」

鎌を振り落とした瞬間、周りに血しぶきが飛び散った。妹紅は里の人間を燃やしつくした。さらに、妹紅を怖がって逃げていく里の人々を次々に捕まえては燃やしつくすことを繰り返し、ついに里全体を燃やしつくして去って行ってしまった。

妹紅はただ、破壊と殺戮を繰り返すようになってしまった。何も感じない破壊の人形同然になってしまった。

 

 

 

少し高い階段を登り切った場所には鮮やかな赤に染まった鳥居がそびえたっていた。そ

 

 

 

 

してその奥には少し古ぼけた神社が建っていた。そう、ここが博麗神社だ。

ゆっくり階段を登って進んでいく妹紅の上を妖怪が通り越した。どうやら博麗の巫女が今日も朝から妖怪たちと闘っているようだ。

「もう!うっとおしいわね!スペルカード 霊符「夢想封印」!」

そう叫ぶと妖怪が一斉に神社の外に飛ばされた。飛んでくる妖怪を燃やしながら進んでいく妹紅の前にいきなり博麗の巫女が現れた。

「こんなところに来るなんて珍しい事もあるのね。よりによってあなたなんてね。」

妹紅は答えなかった。それどころかいきなり攻撃を始めた。

「やっぱりそう来るのね。大体想像できたけどいきなりはひどいわね。」

妹紅は答えなかった。黒炎の力を大きくして襲いかかってきた。危険な炎だと察知した博麗の巫女―博麗霊夢は紙一重でよけきった。案の定、黒炎は地面にあたっても消える事はなかった。霊夢は攻撃を止めない妹紅を結界に閉じ込めた。

「これであなたは出る事は出来ないわ。」

妹紅は結界を壊そうと炎を当て続けている。黒炎は霊夢の最高の結界にひびを入れた。そして打ち破った。再び襲いかかる妹紅の攻撃を避け、得意な技で攻めた。

「スペルカード 霊符「夢想封印」!」

当たった妹紅は飛ばされ、木にぶつかった。口から血をはいたが妹紅の眼は死んだままの眼だった。霊夢は木に寄りかかったままの妹紅に近づき、頬をはたいた。妹紅はうついたままだった。

「あなた馬鹿なの!自分の弱さからまだ逃げているのね!そんなんじゃ何も助かんないわよ!何も、何も・・・守れないわよ!それでいいの!」

妹紅の体が少し動いた。妹紅はゆっくりと顔を上げ霊夢を見上げた。

そうだ・・・・。私はこんなところで立ち止まっている暇はない!こんな闇の力に負けないわ。

霊夢の言葉が妹紅の心に響いたのだ。手を差し伸べる霊夢。妹紅は霊夢の手をしっかり握ってゆっくり立ち上がった。霊夢の服は少しぼろぼろになっていた。

「ごめんなさいね。私のせいでこんな事になっちゃって。」

霊夢は妹紅の顔を見て笑った。妹紅はあまり謝る事の無い性格だから、謝っている姿が珍しかったのだろう。フフフッと笑っていた。

「あなたが謝るなんて珍しい事でもあるのね。後、意識が飛んでいてもここに来るなんて何か私に用があるの?」

その言葉を聞いてはっと思いだした。聞きたい事、それは幻想郷の今の現状の事であっ

 

 

 

 

た。なぜなら、一日で幻想郷中を感染させる病気が広がっているからだ。

「ねぇ、今の幻想郷の状態を教えてくれない?」

霊夢は少し立ち止まってすこしは早歩きで神社に向かった。妹紅はおいてかれまいと走ってついていった。

「霊夢、そんなに急いでどうしたの?」

霊夢は答えなかった。それどころか歩く速さがさらに速くなっていった。

神社の中に入り戸を閉めた場所から次々と札を貼っていった。どうやら何者かがこの神社に入るのを霊夢が拒んでいるようだ。

 

 

 

少し落ち着いたところで霊夢に話しかけた。

「ねぇ、さっき神社中に札を貼っていたけれど何をしていたの?」

霊夢はお茶をすすって落ち着いたところで話し始めた。

「この神社に『永久白夜』の病原菌が入ってくるのを防ぐ為よ。全くうっとおしいんだから!早く無くなって欲しいわ!」

妹紅は『永久白夜』という言葉に驚きを隠せなかった。まさか霊夢が知っているなんて思いもしなかったからだ。

「なんでその病名を知っているの?」

本当は恐ろしくて聞きたくなかった。でもここで聞かなければ後先後悔しても無駄だという事が分かっていた。

ここで少しでも情報を集めておけば少しでも後が楽になるでしょう。

そう考えて、問いかけようとしたときいきなり霊夢が話し始めた。

「そういえばあなたには言ってなかったわね。私がここに来て間もないころ、私は紫に拾われたのよ。この歳になるまであらゆる事をおしえてもらったわ。命の恩人だけど性格が悪くて、なんでも絶対的に一番になろうとするから私はこうしてこの神社の巫女になったのよ。」

知らなかった霊夢の真実に妹紅はただただ聞いているだけだった。今の霊夢から全く想像できない過去だった。

話を進めていくとどうやら今の名前も紫が決めてくれたらしい。―今や有名な博麗の巫女からは想像もできない過去―捨て子だったのだ。

その事を聞いて、妹紅はあぜんするだけだった。何も言葉が出てこなかった。

 

 

 

 

「ちょっと、あなたなんで泣いているの?どうしちゃったの?」

霊夢のその言葉を聞いて妹紅は自分の現状を知った。―泣いていたのだ。涙がただただ頬を伝っていくだけだった。

あれ・・・?なんで私泣いているのかしら。別に何もなかったはずなのに・・・。

「ちょっと失礼するわね・・・。」

そう言い残して妹紅は茶の間から勢いよく飛び出していった。何も考えずにただ飛び出していった。聞いてはいけない事を聞いてしまった罪悪感が妹紅を襲った。

私は・・・私は、なんて事を・・・・。

聞いてはいけない事を聞いてしまったことに悔やみ続ける妹紅―。

                 *

病原菌が結界にあたって消える音とお茶をすする音が大きく聞こえた。茶の間に一人静かに座り、お茶を飲み続けている少女の姿があった。

私も少ししゃべりすぎたかな・・・・。でもこれから紫を退治しようとしていたらしいから元気づけてあげなきゃ・・・・。

一人決心し、静かに席を立った。少女は何を考えているんだろうか。―静かに茶の間から出た。

茶の間には誰もいなくなった静けさだけが残っていた。

 

 

 

神があまり寄り付かず妖怪が多く集まる神社―博麗神社。今は紫が放ったウイルスから身を守る為、結界で神社全体を囲っている。

近くの森から不穏な足音が迫ってきていた。いきなり神社に近づいて大きな砲撃を放った。神社に貼ってあった結界はかなりの強度があったがそんな結界にさえひびが入ってしまった。七色に輝く光線はついに結界を壊した。飛び散る破片を浴びる陰―一人の少女は逃げ去って行った。ほうきに乗って遥か彼方へと、流れ星のように飛び去って行った。

                   *

神社内では大きな揺れが起こっていた。妹紅を探していた巫女は突然の揺れに驚いた。ここの地盤は幻想郷一固いため地震の時は多くの人や妖精、妖怪さえもここに集まる。しかし、敷地内に妖怪などの気配は感じられなかった。

地震ではない様ね・・・。この感じから結界が何者かに壊されたと考えていいわね。早く妹紅を連れて安全な場所に行かないと―。

 

 

 

 

霊夢は湯呑を落として疾風の如く廊下を駆け抜けた。今は妹紅を助けることだけを考えろ。と自分に言い聞かせながら走っていた。しかし廊下が途中で切れていた―無くなっていた。先ほどの揺れで崩れたのではない。何者かが結界を壊す時神社も巻き込んだのだろう。レーザーで打ち抜かれたような壊され方だった。

誰がやったのかしら思い当たる人物はいるけどまさかウイルスにやられたのかしら・・・。いやいや、今はそんな事を考えている暇はない!早く、早く助けないと―。

首を横に振り、今来た道を戻って行った。不安と恐怖を感じる中、駆ける廊下は静かで寒くて―苦しかった。

 

 

 

結界が壊れ無かった物置の暗い部屋の中、少女の泣き声が聞こえた。悲しく叫ぶ声がいやに響いていた。深い闇の外から大きな声が聞こえた。

「ちょっと!早く出て来なさい!」

扉がかんぬきで閉められているため外から入る事は出来なかった。扉をたたく音だけが強くなっていくばかりだった。

「いつまで引きこもっているのよ!早く出て来なさい!」

出てくるわけないじゃない。あんな事聞いた私は最低の奴なんだわ。もう出たくない。

そう思って、うずくまった時いきなり扉が吹き飛んできた。眩しい光と共に目の前に人が立っていた。少し怒っているようだ。腰に手を当てて立っていた。妹紅に近づいていきなり説教した。霊夢の手が上がった。次の瞬間頬を思いっきり叩かれた。高い音が小屋中に響いた。

「あんた馬鹿なの!過去の事いつまでも気にしているなんてふざけないでよ!あんたがいないと誰も助からないのよ!ちょっとは自覚しなさいよ!」

ああ、そうだ。私はなんて愚かなんだろう。自分の力でみんなを守らなきゃ。私があいつを倒さないと。

妹紅は自分が愚かだと分かったとき、悔しくて、涙がこぼれた。そんな涙をふき、立ち上がろうとする妹紅。しかし、ずっと座っていたので立ち上がれなかった。そんな妹紅に霊夢が手を貸してくれた。

「まったく。・・・今回だけだからね。」

そう言ってそっぽを向いた。恥ずかしいのだろう耳が赤くなっていた。

「さて次は戦力になりそうなやつを探しに行かないとね。」

 

 

 

 

小屋を出て初めて分かった。神社が半壊していた事。地面がえぐれ、遠くの山までも消し飛んでいた。大きな揺れは地震ではなく何者かによって起こった事だと分かった。

「やっぱりひどいわね。だいたい予想付くけどたぶん魔理沙ね。まったくこんな時に頼

りになる奴がいないんじゃ困るわ。あ!後これ持ってて、一応魔除けだから。」

一枚の札だった。こんな物で本当に身を守れるのか不安だけどもらった。

うめき声がそこら辺から聞こえてきた。さっきまで霊夢の声しか聞こえなかった。確実におかしいと思った。

私の体はどうなっているの?このままでは紫を倒す前に倒れてしまうかもしれない。急がなければ。くじけている暇も立ち止まっている暇もない。とにかく先へ進まなければ。

準備万端の二人は森の奥に進んでいった。次なる目的は赤い霧の漂う館―紅魔館。

                   *

二人が立ち去った後、陰が静かにあとをつけていた。ほうきに乗り、片手に八卦炉と呼ばれる魔力を具現化する事の出来る道具を持っていた。

「待っていろ、霊夢。必ずおまえを倒す。今度こそおまえを―。」

白黒の少女に襲いかかる妖怪はあっさり倒されていく。そんな残酷で冷徹な目を博麗の巫女に向けていた。

 

 第四章 拡がる異変

 

進むにつれて森が深くなっている森―。二人の少女は長い時間歩っていた。ここの森は二つの事で有名になっている。一つ目は妖怪が多く住みついている事。二つ目はきのこが多くはえている事。毒キノコから有名な松っ茸まではえている。

先に進む中二人は魔法の森の異変に気付いた。

「霊夢、気付いているわね。やけに静かだと思ったら妖怪が一匹もいないし、気持ちのいい風が吹いていると思ったらキノコが一本もはえていない。・・・さすがにこれはおかしいわ。」

霊夢は黙って遠くを見つめていた。いつもとは違う真剣なまなざしの先には何が見えているのか。妹紅が歩き続ける中、霊夢は立ち止まってしまった。妹紅は構わず先に進んだ。霊夢は相変わらず立ち止まったままだった。歩き続けるといきなりつまづいた。後ろを振り返ると地面が一直線にえぐられていた。倒れた妹紅のそばに霊夢が駆け付けた。

「ちょっと、大丈夫?ひどい怪我していないわよね?」

妹紅は霊夢がなぜ立ち止まったかその時分かった。霊夢は妖怪がいなくなりキノコが生えていないのかをこのえぐれた地面を見ながら考えていたのだった。

 

 

 

 

「心配しなくても大丈夫だよ。・・・それで、何かわかった?」

霊夢は妹紅がいきなり質問をしてきた事におどおどしていた。少し息を整えて今まで現状分析していた事を話し始めた。

「このえぐれた地面も妖怪がいないのもキノコがはえていないのも犯人は一人だわ。たぶん・・・あの魔法使い。―魔理沙の仕業よ。」

考えた末に出てきた人物が霊夢の大の親友の霧雨魔理沙だとは思っていなかった。

霊夢の出した答えに妹紅は驚くばかりで声も出なかった。まさかとは思っていたけれど本当に信じられなかった。しかしこのえぐれた地面を見ると少しだけ分かるような気がした。山の方まで吹き飛んでいる事が分かった。この森はとても大きくジャングルくらいの大きさがある。それなのに山の方まで見えるという事は相当な威力と範囲があったに違いないだろう。

 

 

 

その場に長い間立ち止まっていたが、いやな風が吹き続けていた。悪い予感しかしない空気が漂っていた。相変わらず妖怪の気配は感じられなかった。木が大きくざわめいていた。

その音に混じって飛行機が飛んでくるような音があった。きれいな星かと思いずっと眺めていたがその星のようなものがこちらに飛んできていた。その瞬間

「危ない!」

霊夢に捕まえられて地面を転がった。すると目の前に大きな閃光が通り過ぎた。

「やっぱり博麗の巫女は違うな。なにがって?そりゃ、すべてに決まっているじゃないか。そこのひな鳥とは違ってな。」

その言葉と同時に陰から姿を現した。案の定、魔理沙だった。妹紅はショックだった。なぜなら妹紅が見ていたのは星ではなかったからだ。―ほうきに乗った魔理沙だった。

しかし、いつもの魔理沙とは雰囲気が違かった。いつもなら元気に明るくふるまうはずだが、今は親友である霊夢を敵対し亡き者にしようという殺気が感じられる。

こんなこと普通じゃない!きっと紫の仕業だ。そうに違いない。

妹紅が心で納得している時には戦闘が始まっていた。竹馬の友で争う姿はむなしさと悲しさしか感じられなかった。本気でぶつかり合っている二人の間に入るすきなどなかった。

「妹紅!早くこの場所から逃げなさい!そしてあの館に行きなさい!」

激しく争う中、必死に叫び妹紅に逃げる事を促した。妹紅は軽くうなずき、全速力で森

 

 

 

 

の中を駆け抜けた。

今はとにかく逃げるしかない。そして、あの館に―。

何も考えずただ突っ走るしか出来なかった。自分の無力さを改めて感じた。

自分に力があったらどんなに楽だろう。どれだけの人を助けられるのだろう。

そんな事ばかり頭をめぐる。妹紅は悔しくなった。目の前がかすんできた。涙が頬を伝っていくのが分かった。

「霊夢・・・ごめんね。」

ふと、そんな言葉が出ていた。唇をかみしめ遥か彼方のあの館に向かって走って行った。

                   *

「そんなもんか?博麗の巫女も衰えたもんだな?」

その言葉で確実に分かった。魔理沙はいつも「霊夢」と呼び捨てで呼ぶ。さらにいつもより弾幕の威力が強くなっている。霊夢は確信した。

紫のウイルスの能力は激しい風邪と熱が起こり、体がウイルスに勝てなかったら、親しい者を敵対し、邪魔する者をすべて破壊しつくす。・・・なんてものを作っているの。何を考えているのかしら?

「おっと。戦闘中に考え事か?私もなめられたもんだぜ。ま、今までのも本気じゃなかったけどな。」

あんなに威力の高い弾幕を撃っているのにまだ余裕なんて・・・。このままじゃ―。

魔理沙は倒れている霊夢を見下すように見ていた。この程度の力か?と、目線だけでも分かった。魔理沙の手に光が集まっていた。本気で消す気でいた。霊夢は危険を感じた。地面に起爆札を貼って、爆風と煙に隠れた。―全力で遠くに逃げた。

「博麗の巫女も本当に衰えたな!かくれんぼなんて懐かしいな!小さいころによく遊んでいたじゃないか!でも、まあ今回は絶対に捕まえてやるからな!」

魔理沙の大きい声が森中にこだました。霊夢は大きくため息をついた。少しホッとして小さかったころを思い出した。

あの時は楽しかったなぁ。いっつも二人で遊んでいたっけ。

懐かしいころを思い出していると後ろから不穏な足音が聞こえてきた。すると、いきなり魔理沙が横から顔を出した。いきなり出てきたので霊夢は驚いた。魔理沙は不敵な笑みを浮かべバック転をした。その瞬間力が最大間で溜まっていた八卦炉を正面に向けた。―大きな閃光が霊夢に直撃した。

                   *

遠くから大きな爆音が聞こえた。走り続ける少女は立ち止まって後ろを振り向いた。

 

 

 

 

霊夢―大丈夫かしら。でも今は、立ち止まってなんていられない。とにかく前に進まなければ。

太陽が走り続ける少女の背中を後押ししていた。

 

 

 

大きな爆音とともに霊夢とそこらへんの木々が吹き飛んだ。今までにない大きさと威力だった。霊夢は立ち上がる気力がなかった。魔理沙は霊夢の頭を踏みつけた。

「この程度か?かの有名な博麗の巫女がただの魔法使いに負けるなんてな!これは気分がいい!でもまあ、今日はこのくらいにしておいてやるよ。お前が弱すぎて面白くないね。」

そう言い残して歩き去った。霊夢は気力で立ち上がった。少しでも触れられたら倒れそうだった。

「ちょっと・・・待ち・・なさい・・・・・よ。」

しゃべるのもやっとだった。そんなふらふらな状態でも意志と意識を保っていた。魔理沙は立ち止まって首を横に振った。―霊夢の方を向き八卦炉を構えた。光線が集まっていた。―大きな閃光が辺り一帯を埋め尽くした。霊夢は倒れていなかった。それどころか姿が少し変わっていた。黒髪は紫になり、髪止めの模様が無くなっていた。さらに気迫が高まっていた。

「っ!さすがは博麗の巫女だな。こっちもわくわくしてきたぜ!」

魔理沙は霊夢の姿を見て興奮しているようだ。しかし、先ほど撃った光線が自分の限界を超えていた為、体中に傷があった。霊夢は強い思いと冷たい目線を向けていた。魔理沙が八卦炉を構えた瞬間、結界に囲まれた。

「霊符 夢想封印!」

そう叫ぶと結界がいきなり爆発した。その爆発が大きく森の四分の一が吹き飛んだ。吹き飛んだ魔理沙は立ち上がらなかった。霊夢は木に引っ掛かったわけでもないのに全身に傷があった。倒れている魔理沙の所まで行き霊夢は正常の姿に戻ったとき倒れた。

魔理沙と霊夢は隣で倒れてしまった。木々の間から差す光は二人を優しく照らしていた。

 

 

 

少女は走り続けた。走り続けた先に大きな館があった。湖をはさんでいるので歩きでは通れなかった。力を振り絞り飛び、門の前にたどり着いた。相変わらず門番は寝ているよ

 

 

 

 

うだ。簡単に入る事が出来た。周りをよく見てみると紅い霧が立ち込めていた。もとも

とは一番最初の異変に使った霧だった。中庭を進んでいくといきなり立ち止まった―時間を止められた。この館―紅魔館のメイド長。時間を操る能力を持ちナイフによる投げ攻撃を得意としている。名を十六夜咲夜という。悪者かどうかを時間を止め見極めている。調査が終わった後、妹紅は何事もなかったかのように中に入って行った。

                   *

「お嬢様、藤原妹紅という名の者を入館させましたがよろしいですか?」

薄暗い部屋にこだます声を聞く紅茶をたしなんでいる幼女がいた。紅茶の香りを楽しみ味を楽しんでいた。

ティーカップを置き、にやりと笑った。その口にはとがった歯があった。

「ふ~ん。藤原妹紅ねぇ。まぁ、いいんじゃないの?」

幼女は再び紅茶を飲み始めた。それと同時にメイド長が去った。

「ウフフ、面白くなってきたじゃない。」

 

 

 

館というだけで内部の構造も結構複雑だった。同じ道を行ったり来たりしていた。妹紅はくたくたになってその場所に座りこんだ。

 

 

 

「ちょっと、汚い恰好でそんなところで寝ないでくれる?」

目を開けると目の前には銀髪のメイド服を着た少女が見下ろしていた。はっと目が覚めて勢いよく飛び起きた。どうやら眠ってしまっていたようだ。

「ご、ごめん。少し横になったら寝てしまって・・・。」

咲夜は問答無用といった目つきでこちらを見ていた。ちょっと気まずい感じになった。つかの間の沈黙を破り唐突に話し始めた。

「あ、あの、霊夢と魔理沙が魔法の森で闘っているんだけど止めてきてくれる?」

咲夜の目つきが急に厳しくなった。しばらくの間ずっとこちらを見ていたが後ろに振り返り歩き始めた。立ち去ろうとする咲夜の腕をつかみ、必死に訴えた。それでも結果は変わらなかった。掴まれた腕を振り切り一言残して去って行った。

「あなた、仲間を助ける為に他人を頼る?そうなら帰って頂戴。」

 

 

 

 

                  *

小鳥のさえずりが聞こえる・・・。私はどこにいるのかしら・・・。日の光が眩しい。

戦いが結末を迎えた魔法の森―。二人の少女はそろって倒れたままだった。木々の間から漏れる光が優しく照りつけていた。

ここはどこ・・・?遠くから足音が聞こえる・・・・。誰・・・?

巫女の意識が遠のく中、優しく抱きあげられた。魔法使いも抱き上げられ、紅の霧が立ち込める館へと運ばれていった。

「博麗の巫女ともあろう人がこんな場所で寝ているなんて―。」

二人を抱き上げたメイドの銀色の髪が風にたなびいていた。

 

 

 

大きく広い部屋に二人の少女は寝ていた。体中に傷を覆っていた為、体中包帯にまかれていた。

鳥の羽ばたく音が朝の訪れを伝えた。清々しい朝に巫女が傷の痛みを避けるように起き上がった。

「あれ?まだ朝なのかしら・・・・。っ!こんなに傷がひどいなんて・・・。」

いえなかった戦いの傷を見つめていた。博麗の巫女も妹紅と同じ事とで悔やんでいた。―仲間を助けることに無理やり連れ戻すことしかできない。それはとてつもない力であり、自分を越えた力である。それは限界を超えた力なので自分の体が活性化すると共に滅んでいくいわばもろ刃の剣である。

私は・・・・・。魔理沙を助けるのはもっと別の手段があったはずなのに・・・。

布団を握りしめた。強く、強く握りしめた。後悔の涙が頬を伝った。すると銀髪のメイド服を着た女性と八重歯が鋭くとがっている吸血鬼の少女が近くに現れた。しかしどちらもただ立ってこちらを見つめていた。

「来ないでよ。早く出て行って。」

二人は一歩も引かずにその場にいた。しかし霊夢は早く立ち去って欲しかった。今までこのような醜態を見せた事がなく、見せないからだった。

「早く出て行ってよ!もう、いい加減にしてよ!」

霊夢は叫び続けた。心はすでに折れていた。身体だけでなく精神も深い傷を負っていた。二人は何も言わず扉の近くに行った。その時、吸血鬼の少女が一言話した。

「あの博麗の巫女もすっかり衰えたわね。あなたがそんなになるのだから相当な事だっ

 

 

 

 

たと思うけど、そんな姿はあなたらしくないわ。・・・・それじゃ。」

扉の閉めた音が部屋に響いた。霊夢は布団を握りしめた。

うるさい。うるさい。うるさい!偉そうなこと言って、私の状況を考えなさいよ!私は、私は―。

霊夢は外から聞こえる鳥の声さえもうるさいと思い始めた。自分に対する怒りと憎しみが心に募るばかりだった。そして霊夢は自分が何のためにここに来たのか、という目的を失った。全ての音が、ものが、いやになった。

                   *

咲夜に呼ばれて薄暗い部屋に呼ばれた。奥には吸血鬼が座っていた。テーブルの上には紅茶の入ったティーカップが置かれていた。

「やっと来たようね。あなたに話したい事があるの。聞いてもらえる?」

いきなり質問されて少しためらった。―答えは、はい。だった。いやな予感がした。部屋中に立ち込めた。不安が漂う中固唾を飲んだ。

「霊夢はダメみたいだわ。心が折れているわ。相当深い傷だからこの先の旅は相当厳しくなるわ。しかも、紫の居所にも確実にたどり着けそうにないわ。」

この異変は深刻な事になっていた。あらゆる生物が、妖怪が、妖精が狂いだし、しまいにはこの幻想郷が廃墟となり、月は滅びて無くなってしまう。紫を止める事の出来ない今、妹紅は絶望に落ちた。ふと、いやな事を想像した。

永林や輝夜、慧音に二人の兎、今頃暴れているのではないか。

そんな事を想像しただけで体中が震えた。全身を恐怖が覆った。体がふらつき、その場所で座り込んでしまった。あまりの恐怖で言葉が出なくなった。そんな妹紅のそばに咲夜が寄ってきた。妹紅の背中に手を置いた。

「大丈夫よ。あの人たちはそんなにやわじゃないし、幻想郷にあるものでウイルスの力は抑えられると思うわ。」

奥にいる吸血鬼が唐突に話した。うすら笑いを浮かべながらこちらを見ていた。咲夜がこれからすべき事を聞いた。

「これからどうします?お嬢様。」

少し考えた末に出てきた答えは紅魔館の空いている部屋で休ませておけ、とのことだった。妹紅は一人では立てなかったので咲夜が肩を貸して空いている部屋へと案内した。

二人がいなくなった部屋で吸血鬼は独り言をつぶやいた。

「霊夢が駄目になってしまったんじゃこれからどう対応していけばいいかしら・・・。」

吸血鬼が薄暗く静かな部屋で一人で考え込んでいた。さっきまで晴れていた空に黒い雲が掛かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

痛みが引いた巫女は傷口がまた開かないように静かに立ち上がった。普段着ている服を着て、魔理沙の寝ている部屋へと向かった。あまり顔を合わせたくなかったがお見舞いとして行かなければと責任を感じていた。

とてつもなく長い廊下を歩いていると「魔理沙の病室」と扉に書かれた文字が目に入った。霊夢はその扉の前に立ち止まった。

「私は自分が起こした事に目をそむけるわけにはいかないわ。魔理沙、今行くよ。」

軽くノックすると中から小悪魔ではない声が聞こえた。不思議に思って中に入ると魔理沙の寝ているベットの近くに紫髪でメガネをかけて、本を読んでいる女性がいた。霊夢が入ってきても本を読んだままだった。

「相変わらずね―。・・・魔理沙の様子は・・・どうなの?」

聞いてないように見えた。少しして本を閉じて霊夢がいる方を向いた。霊夢は効く事が少し怖くなった。そんなことも無視して話し始めた。

「魔理沙の容態は大丈夫よ。ただ、『永久白夜』の症状が出ているわ。今は鎮静剤を使っているから落ち着いているけど、近いうちに副作用が出てくるわ。そしたら命に危険が出てくるわ。出来れば早いうちに中和剤が欲しいのだけれど・・・・。」

霊夢は魔理沙に近寄った。霊夢が来た事に気づいたらしく手を差し伸べた。その手を掴んでしっかり抱きしめた。

「魔理沙・・・。」

その先の言葉が出てこなかった。涙が魔理沙の手に落ちて行った。紫髪の女性は気まずく思ったのか、部屋から静かに出て行った。沈黙が続く中、魔理沙が唐突に話し始めた。

「霊夢・・・ごめん。つらい思いをさせたよな。」

霊夢は首を大きく横に振った。魔理沙は悲しそうな目で霊夢を見ていた。

「なんであなたが謝るのよ。悪いのは私なのよ。あなたを傷つけたのも今落ち込んでいるのも全部、全部私が悪いのよ。だから―。」

魔理沙は静かに起き上がり霊夢を抱きしめた。魔理沙も涙が出ていた。

 

 

 

黒い雲から小ぶりの雨が降ってきた。雨が葉にあたる音がいつもより大きく聞こえた。

 

 

 

 

魔理沙は霊夢から静かに離れた。そして霊夢に励ましの言葉を送った。

「私は必ず良くなる。だから心配するな。霊夢はするべき事があるはずだ。それを見失ったらだめだぜ。異変が解決したら必ず私を迎えに来てくれ。約束だぜ。」

霊夢にしっかりと伝わった。霊夢の顔がいつも異変を解決する顔をしていた。後押しするように一言付け加えた。

「それでこそ霊夢だ!」

満面の笑みで魔理沙は言った。霊夢は、ありがとう。と、言い残して部屋を出て行った。その勢いのまま廊下を走りに抜けた。

                   *

土砂降りの雨が降る空を魔法少女は見つめていた。雨と共に涙が頬を伝っていた。

「霊夢、私は嘘をついたんだ。本当は―。」

窓に降る雨を見ながらゆっくり布団に入った。親友に嘘をついたことを悔やみ続けた。雨の降る音さえ嫌に思った。

 

 

 

妹紅はずっとうつむいたままだった。そして時々首を横に振るのだった。

ああ・・・。この先どうなるのだろ・・・。考えたくないのに―。

ノックする音が聞こえて我に返った。扉をあけると霊夢が立っていた。いきなり飛びかかってきて妹紅を押し倒した。

「妹紅、ちゃんと聞いてね。これからしなくてはならない事を話すわ。」

まずは冥界に行く為に行き、意地でも紫に会えるようにしてもらうらしく、その後はその時に考えるようだ。頼りない作戦だがこちらとしては霊夢がいるだけで頼もしかった。それよりも気になったのはさっきまで異常なほど落ち込んでいたのにいきなり元気になっていたことだ。ずっと霊夢を見ていたら怒られてしまった。

「なにじっと見つめているのよ!ちゃんと私の話聞いているの!」

やっちゃった。霊夢は怒りだすと止まんないからなぁ。

そんな事を考えているうちに雨が止んで虹が架かっていた。紅魔館の住民は外を見ていた。たぶん幻想郷中の住民がこの虹を見ているのだろう。この虹は幻想郷をまたいでいるのだろう。そんなに大きな虹だった。

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れが過ぎ空には大きな赤い月が昇っていた。数多のコウモリが飛び交う中、食堂には紅魔館の住民がそろっていた。吸血鬼の姉妹、メイド長、紫髪の少女、小悪魔―。こうして集まっているところを見ると人数が多いことを改めて実感する二人だった

「こうして見るとやっぱり多いわね・・・ハハハッ。」

食事をすすめる中、この館の主、レミリア・スカーレッドが大きな声で話し始めた。

「この先、ウイルスの数が今まで以上に増えると思うわ。この館に襲いかかってくる妖怪も出てくると思う。だから、気を引き締めるように!」

みんな軽くうなずくだけでまた食事を始めた。食事はおいしかったが霊夢は嫌な予感がしていた。霊夢がスプーンを置いた瞬間、爆発音が聞こえ、地震が起きた。起きた方向は魔理沙の寝室からだった。霊夢は急いで立ち上がり、魔理沙の寝室に向かって全力疾走した。妹紅も後に続いて走りだした。

霊夢は嫌な予感がしていたんだ。きっとあいつの仕業だ。今度こそあいつを倒さないと!

二人は風を切りながら走った。吹き抜ける風は赤い霧の色が混ざっていた。

                   *

大きな爆発で壁がなくなっていた。煙とともに現れたのは通称スキマ妖怪の八雲紫だった。傷の付いた体をかばいながら爆発を避けた魔理沙だが紫の姿を見て身体が小刻みに震えた。

「あら、あなたも怖がるのね。意外だわ。霊夢と同じでいきなり攻撃してくるのかと思ったわ。環境は人を変えるとはこのことね。」

冗談じゃない。こんな体で襲いかかったって自分の首を絞めることになるだけなのによ。さらにこの圧倒的な力の差は何なんだ。目の前にいるだけで威圧感がやばいじゃないか。

少しずつ下がって行く魔理沙に紫は少しずつ近づいて行った。肌に触れる空気がたかった。でも、今は逃げるしか出来ない状況であった。魔理沙は緊急時用の煙幕を使って早くこの部屋から出ようと試みた。が、空間移動の能力ですぐに差を詰められてしまった。それどころか紫は魔理沙の首を掴んで上に上げた。

「逃げようなんて甘い考えをしてはいけないわ。霊夢は今どこにいるの。早く教えなさい。さもないと―。」

紫の口調に少し怒りが入っているように聞こえた。首を絞められた魔理沙は掴まれた手をはずそうと必死にもがいたが離してくれる気配は一向に感じられなかった。魔理沙は紫の腹をめがけて思いっきり蹴りを飛ばした。案の定、蹴りは抑えられたが首から手を離してくれた。荒く呼吸する中、魔理沙は唐突に質問し始めた。

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・。なぜそこまで霊夢にこだわるんだ。他の奴じゃダメなのか。」

紫は間をおかずどこか悲しそうな言葉で答えた。

「月へ襲撃するにはあの子の力が必要不可欠なのよ。内なる身に隠されたもろ刃の剣―。あの子はその力を自分の思うように使う事が出来る。だから狙うのよ。」

魔理沙は紫が月へ攻撃を開始する事を聞いて黙ってはいられなかった。むしろ疑問と怒りだけが頭の中をめぐるばかりだった。

「なんでこのウイルスを発明したんだ。もっと他に方法はなかったのか。」

紫は答えに戸惑っていた。―首を横に振ると静かに答え始めた。

「今から十年前にあなたと霊夢がここに来たあの日―。森の中で大泣きしていたあなた達を見てほっておけなかったわ。だから拾ったのよ。あなた達が十歳になった時、私は月の住民に聞いてあなた達の住む場所を聞いて回ったのだけれど人間だからって反抗されたの。それが無性に頭にきたのよ。それで意地でも住民登録をさせてあげたかったから無理やりお願いしたのよ。いきなり攻撃してきたと思ったらたくさんの民を相手に私一人で立ち向かうことになったの。ここまでは分かった?」

魔理沙には衝撃的だった。自分が小さいころに紫がそんなに苦労していたことが分かって、なにも出来ない自分に腹が立った。

「問題はこの先よ・・・。ある日どんなにたっても変わらない差を埋めるためにこの館の学者―。あなたも分かるでしょ?紫髪の女の子―パチュリー・ノーレッジに聞いてみたのよ。そしたら一つのフラスコを渡されたのよ。その中身は『永遠白夜』のウイルスが入っていたのよ。その時私はその病気がどのようなものか知らなかったから使わずにとっておいたのよ。それがついこの間、何者かにそれを割られてしまったのよ。それが今、この現状を表しているわ。・・・・他に質問はないかしら。」

これは紫が起こした事の無い事だと分かった魔理沙だが、最後に引っ掛かる場所が二か所あった。

「なあ、最後に二つだけ聞く。一つ目はなぜ中和剤を作らなかった。二つ目、なぜ妹紅だけ病気にかからなかったんだ。」

二ついっぺんに聞くのは良くなかったかな。と思いつつも返答を待っていた。

「一つ目の質問に関しては材料が月にある素材だったから。二つ目の質問に関しては今、彼女の中で霊夢と同じ内なる力が生まれたからだと思うの。最後に一つ言うけどこの病気は内なる力を無理やり引き出させるものなのよ。・・・・それじゃ、お邪魔したわね。」

魔理沙は次元のはざまに入る紫を引きとめようとしたが言葉も出ず、体も動かなかった。

壊れた壁を見つめながらこれからしなければならない事を考えた。通り抜ける風が異常

 

 

 

 

に冷たかった。少しして、足音が近づいてくるのが分かった。勢いよく開かれた扉の前には息を切らした霊夢と妹紅が立っていた。

 

 

 

温かい日差しが穏やかな朝を告げた。妹紅は昨晩の出来ごとと魔理沙の言っていた事が気になって仕方がなかった。紫が症状も分からぬまま使わずにいた事、この異変は紫が起こしているものではない事、どれも頭の中にもやとして残るだけのものだった。そんな答えが出ない事を考えていたら扉のノックする音が聞こえた。

誰だろう?こんな朝早くに訪ねてくるなんて・・・・。

扉に近づきそっと開けると、目の前には紫髪の学者―パチュリーが立っていた。普段は大図書館にいて、食事、大きな急用が無い限り図書館から出る事の無い人物だ。今回は何かあったのだろう。妹紅は疑問に思い、部屋の中に入れさせた。

しばらくの沈黙が続く中、パチュリーがいきなりしゃべりだした。

「つらい思いをさせてごめんね。本当はあのウイルスは作ってはならないものだったの。私のちょっとした興味本位でこんなことになってしまうなんて―。本当に、ごめんなさい。」パチュリーが頭を下げて謝った。しばらくして頭を上げたが、いつもと変わらない顔でこちらを向いていた。反省の気持ちが感じられないのかと思うほど平然としていた。

まさか・・・またおかしなこと考えているのかしら?・・・いや、今のことは考えなかった事にしよう。

そう心に誓ったがどうしても心のもやが晴れなかった。

「あの・・・私も連れて行ってくれないかしら。私も薬の成分を調べてみるわ。永淋が倒れてしまっては薬は作れないでしょう?」

その言葉に引っ掛かった。パチュリーは永林が倒れている事を知らないはずなのに知っている事が妹紅には不思議でならなかった。

 

 

 

霊夢と紅魔館の入り口で待ち合わせをした。パチュリーが混ざる事に霊夢は木にしてなかった。むしろ戦力が増えたことをうれしく思っていた。妹紅は乗り気ではなかった。

                   *

コウモリの鳴き声が嫌というほど聞こえる館の中で住人達が主の部屋に集まっていた。

 

 

 

 

 

「急に集まってもらったのはパチュリーの言動が近頃おかしいわ。おかしなことをしている可能性がたかいわ。」

住民たちがどよめいた。無理もなかった。身内が異変にかかわっているなど思わないからである。

「よって、図書館内への立ち入りは禁止する!また、異変にかかわっているものが見つかったら早めに処分する事!以上!」

住民たちは解散した。部屋に残った二人は何も話すことなくただ時が過ぎる音を聞くだけだった。

・・・まさか、パチュリーが異変にかかわっているなんて・・・・。

 

   第五章 隠された真実

 

赤い霧に囲まれた館を抜け歩き続ける三人は冥界に侵入することを目標としていた。博麗の巫女と不老不死の少女―紫髪の学者の少女―。妖怪に会う事もないまま空を飛び続けていた。

「確かこの先に冥界の入口があるはずなんだけど・・・・・」

「冥界へは魂の移動を見る事が出来れば分かるはずなんだけどね。」

霊夢とパチュリーが話している中、妹紅は黙ったままだった。永遠亭にいる仲間の事が心配で仕方がなかった。

輝夜たちは大丈夫かしら・・・。私があいつを倒せなかったら・・・・。

そんな事を考えているうちに体の向きが反対になっている事に気が付いた。

魂が集まる場所 冥界―。幻想郷の重力が反対になっていて前に異変で咲かせようとしていた大きな桜の木が高くそびえている。数万段ある階段を上り続ける一行は奥にたたずむ白玉楼に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

階段の頂上から妹紅を見降ろしている庭師は斜め後ろに魂が浮かんでいた。半霊半人の少女―魂魄妖夢。頂上にたどり着いた一行は妖夢を無視して先に進んだ。すると突然後ろから斬撃が飛んできた。妹紅たちは頭を下げかわした。

「あなた達、このまま通らせてもらおうなんて甘い考えしない方がいいわよ。この私があなた達を斬る!」

いきなり襲いかかってきた妖夢に回避するばかりであった。鋭い斬撃と俊敏な動きで隙が見当たらなかった。

「避けてばかりか!ならばこれで終わらせてあげる!スペルカード―。」

「夢想封印!」

七色に輝く爆撃が妖夢にあたった。勢いよく飛んでいく妖夢を無視して先に進む霊夢だったが目の前を斬撃が勢いよく飛んできた。瓦礫の中から妖夢が立ちあがった。いくつもの傷がありとても戦えない体だった。

「ま、まだ・・・終わって・・・・ないわよ。」

「あなたそんな体で私に勝てると思っているの?ちょっとは力の差を考えなさい。」

霊夢はやれやれと首を横に振った。しかし妖夢はあきらめなかった。白玉楼に向かう霊夢は妹紅とパチュリーを置いて先に進んだ。妹紅はいち早く霊夢のもとに駆け付けた。妖夢の斬撃を炎で守ったが斬撃は炎を斬り裂いた。妹紅は霊夢を連れて回避した。

「まだ終わってないって言ったでしょ。」

蔑むような目つきで妹紅を見つめていた。妖夢の周りには桜が舞っていた。

この感じどこかで感じたような・・・。

考える間もなく攻撃してくる妖夢は冷たい空気をまとっていた。パチュリーは離れた場所で研究していた。妹紅は回避しながら思い出した。

この空気と力のあふれ方は霊夢と魔理沙が戦ったときに出ていたものと同じだ。―妖夢も霊夢のような力が出せるなんて・・・。

妹紅には考えられなかった。限界を超えた力を出すには中途半端な力の出し方では出来ない事だからだ。これも紫のやったことに違いないと妹紅は確信した。さらに紫の月侵略計画が冥界にまで広がっている事が分かってぞっとした。

これじゃ霊夢に勝ち目は無い。幻想郷中の力が紫にかかわっている人に注がれているから。こんなときに力になれない私は―。

「さっきから逃げているだけか!博麗の巫女がこんなに劣っているなんてな!」

霊夢は仕方がないと思いながら力を増幅していた。限界突破するつもりでいた。しかし

 

 

 

 

先に限界突破したのは妹紅の方だった。黒炎が妖夢を襲った。回避をされてしまったが妖夢のターゲットが霊夢から妹紅にかわった。

「ほう。お前も使えるようだな。しかしまだ半分の力も使いこなせていないじゃないか。」

妖夢はわざと大きな声で人格が変わった様に妹紅に話しかけた。妹紅は相変わらず何も答えなかった。妖夢めがけて突進を始め、攻撃範囲が大きくなった。霊夢は隙を見計らって階段を駆け降りた。

このままじゃ危険だわ。妹紅、あなたはその力を使ったら―。

霊夢には嫌な予感しかしなかった。妖夢の変動に妹紅の不完全限界突破。さらにこのとき霊夢は考えもしなかった。この争い自体が紫の計画の一つだという事を―。

                   *

階段の踊り場で紫髪の学者は魔法により情報交換をしていた。

「こちらパチュリー、紫はいるかしら?」

電話をしながら研究の結果を分厚い本に書きとめていた。

「あrあ、あなたからかけてくるなんてめずらしいわね。・・・・それで何か分かった?」

高い声で話しかけてきていた。計画に支障は無いようだった。

「例の件なんだけど妖夢は良い働きをしているわ。妹紅はまだ半分の力も出せていない不完全の状態だわ。」

「そうなのね・・・。これから力が完全になるまで私に近づけないようにしてね。」

そういって突然切られた。パチュリーは少しの間、同じ格好をしていた。やがて分厚い本に結果を再び書き始めた。

「あの子の進化はいつになるのかしら・・・・。」

魂の集まる桜の木を見つめながら少女は一人座り込んでいた。

 

 

 

 争いが激しくなる中霊夢は必死に階段を駆け降りた。

「このままじゃこの争いは絶対に終わらないわ。妹紅の力がこのままじゃ妖夢に勝てない。」

こんなときに大傷を負った事を悔やんでいた。パチュリーのいる場所に向かってひたすらおり続けた。

こんなときにパチュリーは名にしているのかしら・・・・。でも、今はパチュリーに頼るしかないわ。

 不安と希望が折り重なるなかパチュリーのもとにたどり着いた霊夢は唐突に問いだした。

 

 

 

 

「妹紅や妖夢の人間離れした力は何なの?」

息を切らしながらも問いだした。少しの間争いの音が大きく聞こえた。

「あの力は限界突破と言って通常の力よりもはるかに大きな力が出せるのよ。だけど体への負担が大きく上手に扱えない者は全身に大きなダメージを受けるのよ。霊夢・・・・あなたはこの世界で唯一この力を使えるはずだった。」

霊夢は自分でも気がつかなかった事を知らされて驚きを隠せなかった。パチュリーは霊夢の様子を見て話を切った。

「ははは、そんなことあるわけないじゃない。こんな貧乏巫女にそんな力があるはずないじゃない。何言っているの。」

「信じられないと思うけどそれが事実なのよ。あなたの髪止めやリボンの模様はその力を常時すぐに発動しないようにさせる為の封印術が書いてあるの。妹紅や妖夢は何かが原因で発動できるようになったらしいけどね・・・。」

パチュリーはあまりしゃべらないように抑制をかけているようだった。霊夢は自分のリボンや髪止め、自分の隠された力の強力さと恐ろしさを聞いてショックだった。しかし他に気になる疑問が出てきた。

「なんであなたが私の秘密を知っているの?おかしいじゃない!」

パチュリーはうっかりしゃべりすぎてしまった事を後悔していた。上手いごまかし考えていた。

「そ、それは・・・巫女はこの世界に二人しかいないから詳しく調べていただけよ。」

しばらくの沈黙が漂った。霊夢はパチュリーをじっと見つめていた。

「あら、そう。ならいいわ。疑ってごめんなさいね。」

案外簡単に信じてくれたことにパチュリーはほっとした。そう言うと霊夢は階段をのぼりはじめた。引き留めるかのようにパチュリーは話し始めた。

「博麗家には代々数多くの巫女が存在したらしいわ。だけどある日突然神社が焼かれる事件が起こったらしいわ。放火犯は不明だったけど第十二代の巫女が復興させたらしいのよ。それが今ある神社の姿と歴史よ。そのあと後継ぎがいなくなって人々の信仰度が低くなっているわ。あなたは第十三代の巫女なのよ。最後になるけどあなたの限界突破した後の姿は博麗家の初代巫女、博麗靈夢の姿よ。」

「そう・・・・なのね。」

そう言い残して飛んで行った霊夢をパチュリーはじっと見つめていた。

「本当の事がばれなくてよかったわ。」

少し間をおいてパチュリーは一歩ずつ階段を上がって行った。

 

 

 

 

                   *

「その程度か!まだまだ甘いな!お前も。」

争いが激化する中、妹紅の力がどんどん膨れていった。黒炎が大きくなり黒さが比べ物にならないほどに黒かった。視線はさらに冷たくなり見つめられるだけで凍ってしまいそうな目つきだった。何も感じられない心が冷たさをより強調しているようだった。

不意を食らった妖夢は吹き飛び追い打ちをかけるように妹紅が襲いかかってきた。

くっ、油断した。まさかこれほどまでとは―。

妖夢は目をつぶった。その瞬間、血が飛び散った。妖夢は目を開けた、その前には博麗の巫女が立っていた。急所はまぬがれていたがそれでも大きな傷を負っていた。

「なぜだ!なぜ私を助けた!」

「うるさいわね。今の妹紅を止めないとこの先が大変になるのよ!だから、今の内にてちょうだい!」

妖夢は刀を振り上げた。斬られたのは妹紅ではなく霊夢だった。

「うそ・・・・・でしょ・・・・・。」

妖夢はにやりと笑っていた。計画にはまったような感じだった。

「残念だったわね、霊夢。あなたはこちらにとって最も大切な存在なのよ。おとなしくして頂戴ね。」

霊夢の目の前は真っ暗になった。立ち上がる気力もなかった。負った傷がただただいたいだけだった。

私はこのあとどうなるのかしら・・・・。このままどこに行くのかしら・・・・。

 

 

 

妹紅はわけもわからずとにかく破壊していった。しかしその目からは涙が出ていた。

 

 

 

やがて限界突破が切れ、正常を取り戻したが自分がした事に全く記憶がなかった。

「ここは冥界で・・・・そういえば!霊夢は!パチュリーは!どこにいるの!」

叫んだものの返答は返ってこなかった。ただこだましただけだった。

「みんなはどこに行ったのかしら。全く見当がつかない。どうしよう―。」

長い沈黙で胸が押し潰れるような責任と苦しさが襲った。妹紅は膝をついて泣き叫んだ。

 

 

 

 

そんな中、明るい炎が妹紅を照らした。

「なんで今なのよ。なんであなたが今出てくるのよ!」

目の前には太陽のような明るさと優しく包んでくれる温かさを持つ鳥―フェニックスがいた。

「すまないな。われも・・・・。」

言いかけた言葉が胸に刺さった。何も出来なかったことの重さと深さが押し寄せてきた。長い沈黙が続いた。何も守れない事のつらさが妹紅の心を折った。

                  *

暗闇の中、博麗の巫女を背負った銀髪の少女が紫の場所へたどり着いた。

「計画通り妹紅の力の増幅と博麗の巫女を連れて来ました。」

「あなた、いい仕事してくれるじゃない。これで私の計画は早く進みそうね。」

高い声が部屋中に鳴り響いた。後ろで何かがうごめいている事が分かった。しかし何ものかまでは分からなかった。

「霊夢が捕まるなんて好都合ですね。紫様。」

冷たい空気をまとったキツネのしっぽを持つ少女が話しかけた。

「そうね、あとはあのこのちからがどこまで完璧に近づくかが問題ね。」

不穏な空気が部屋中を覆っていた。

 

 

 

力の使い過ぎで倒れていた妹紅を紅魔館の住民が運んだ。しばらくして妹紅は起き上がったが限界突破による体の負担があまりにも大きかった為、起き上がるだけでも助けが必要だった。住民たちは妹紅の助けに全力を注いだ。その中で分かった事がいくつかあったらしい。分かった事は主人から会談で全員に知らせた。

「みんなに集まってもらったけど、今現在で分かった事を知らせるわ。まず、霊夢の捕獲。何者かによって捕まってしまったらしいわ。次が大事なんだけど・・・・。」

主人は少し間を開けて話した。動揺と不安が隠せないままでいた。

「みんな、心して聞いて。パチュリーが裏切ったのよ。」

この事を聞いて住民たちは驚きを隠せなかった。一番親しい者が敵だなんて考えてもなかったからだ。それでもどうにか異変を解決する手段を少しずつ探していった。見つかった者は図書室にある本、題名は『博麗の巫女の歴史』。その他にも今回の異変に関係する本が机の上に山積みになっていた。また、地下室には今回の異変で使われたウイルスの土台

 

 

 

 

となっていたものが試験管の中に入っていた。数は数えきれないほどだった。

「まさか地下でこんなものを作っていたとはね。考えたくもなかったわ。・・・・でも図書室にある本の山とこの試験管を見て間違いはないようね。がっかり・・・。」

館の主はため息をつきそう言い残すと階段を上がった。

 

 

 

「私はまた何も守れなかった・・・・。無力すぎる。あまりにも―。」

夕暮れ時になり部屋の中は少しずつ暗くなっていった。妹紅はこのまま霊夢を助けに行っても妖夢に返り討ちにあうだけだと確信していた。人に頼らなければ戦いに勝つ事が出来ない。そんな自分を責めていた。

月が空高く上がり、窓から光が差し込む中、ノックの音が聞こえた。入ってきたのは銀髪のメイドに補助されながら歩いている黄色い髪色をした少女だった。

「・・・・・ずいぶんと落ち込んでいるようだな。」

「・・・・・・。」

長い沈黙が続いた。胸が苦しくなるような空気が漂う中、魔理沙は近くの椅子に座らせてもらった。咲夜は静かにその場から立ち退いた。

「なんで・・・・」

静かな部屋にかすかな声が聞こえた。魔理沙は気が付いて顔を上げたが、その後は何も聞こえなかった。

やがて月の光は雲によって薄れていった。明かりが一つも灯さない部屋には二人の少女と苦しい空気だけがあった。妹紅はゆっくり呟いた。

「なんで霊夢だけが連れて行かなければならないの?なんでみんな霊夢の事ばかり気にするの?なんで霊夢だけ・・・・。」

言葉が涙によって続かなくなった。魔理沙はただ下を向き妹紅の不平不満を聞いているだけだった。しかし、次の言葉を聞いて前を向いた

「なんで魔理沙は霊夢を追いかけるの?教えてよ。」

妹紅は元気の無い声で質問した。しかし、魔理沙は曖昧に口を開けるだけだった。言いかけようとしたが止めて下を向いた。妹紅は移り変わる空の様子を窓からずっと眺めていた。

魔理沙は心の準備が出来たのか、いきなり話し始めた。

「私は霊夢と同じ孤児だったのは聞いただろ?あの時から何をやっても霊夢に負けてい

 

 

 

 

たんだ。私が十歳になったときに霊夢を驚かせようと魔法の学習を紫からもらった本を読みながら始めたんだ。だけど霊夢は紫にワンツーマンで魔法の学習をしているのを見た時とても落ち込んだ。ショックだった。追いつこうとした背中が知らないうちに見えなくなった事に気付いた。その時、霊夢がいなくなれば、と強く思った。霊夢に負けないようにたくさん魔法の練習をした。そして初めての異変が起こったとき、異変を解決したのはやっぱり霊夢だった。あの時はたくさん練習をしてきたから一人で倒せると油断をした。」

ふいと言葉を切った事に妹紅は疑問に思った。魔理沙の方に目線を向けた。部屋がかなりに暗かったのであまり良くは見えなかった。しかし魔理沙が落ち込んでいる事だけははっきりと分かっていた。彼女も霊夢の事が心配なのだ。その様子はごく普通の当たり前の風景だった。

魔理沙も霊夢を心配しているんだ・・・・・。私が守れなかったせいで多くの使途が困るし、迷惑掛かるし、心配するのだろうな。私は何をしたかったんだろう。何が出来たんだろう。何を・・・・・守ればよかったんだろう。

天高く上った月の光が妹紅を包んでいた。長い間見ているとあの日の事を思い出した。

あの日、永林は何を伝えたかったんだろう。私の体には何があるんだろう。・・・・・考えても答えは同じ。〝分からない〟だ。

沈黙もつかの間、魔理沙が再び話し始めた。

「でも・・・・でも、今じゃなんでも語り合える仲になった。あいつについていくことでいろいろな奴に会えた。お前にも会えた。だから・・・・だから私はあいつの背中を追いかける。あいつには人を引き寄せる力がある。また新しい奴に会えるかもしれない。その可能性を毎日信じているからだ。・・・・これが私の霊夢を追いかける理由だ。」

妹紅は深く考え込んだ。自分が輝夜を追いかける理由について考えた。

なぜ、私は輝夜を追いかけるのだろう?・・・・それは心のどこかであいつを思う気持ちが強いからだと思う。自分の力がどこまで活かせているのか、知る為だと思う。でも・・・・・やっぱりあいつの事が好きだからだと思う。

妹紅は確信した。自分がなぜ他人を追いかけるのか。人は常に何を目指しているのか。魔理沙の話を聞いて確信した。

月で照らされた幻想郷の夜は少しずつ深まっていった。

 

 

 

清々しい朝の日差しを浴びて妹紅は起き上がった。辺りを見回すと隣に寄り添ってくれ

 

 

 

 

た魔理沙がいない事に気が付いた。昨日の事を思い出した。胸が苦しくなったけど魔理沙の言葉が勇気づけてくれた。支度をし、食堂に向かった。おいしそうな料理の匂いに胸を躍らせた。妹紅は最後だったけれど、一人を除いてはいつもと変わらなかった。レミリアと隣にいる咲夜。料理をがっつくレミリアの妹。本当に見慣れた景色だった。

食事が終わり、部屋に帰ろうとした時、レミリアに足止めされた。

「妹紅、ちょっと時間取れる?」

話の内容はパチュリーも異変にかかわっている事と妹紅に関する事だった。

「まずは、分かっていると思うけどパチュリーが異変の協力者だった事についてよ。地下に図書館から手当たり次第探しまわったところ、今回の異変の原点となるウイルスに関する事がたくさんあったわ。あなたも気をつけてね。今、地下には絶対に入らないでね。次にあなたの事なんだけど、あなたもどうやら〝隠された力〟を持っているらしいのよ。」

「えっ!」

と思わず声を上げてしまった。まさかそんな事があるはずがないと思っていたからだ。長い間幻想郷にいて、〝隠された力〟については慧音から教えてもらっていたから、ある程度の知識は持っていた。が、初耳の事にア然するばかりだった。

「そんなことあるわけがないでしょう?〝夢幻の力〟は博麗の巫女が代々引き継いだ一子相伝の力であって、私が持っているなんて―。」

「それがあるのよ。今、この現実に―。」

いきなり話を切られたことに対して、レミリアがどれほど本気なのかが分かった。

「咲夜、あとはあなたに任せるわ。この先の話は私、理解できていないのよ。」

レミリアは話のバトンを咲夜に渡した。

「ここからは私が説明します。まず〝隠された力〟なのですがこれは全ての人が持っています。なので、どのように力が解放されるかが問題になります。博麗の巫女は代々より解放の仕方を知っているのでいつでもどこでも使えます。しかし一般の人間や妖怪などは存在自体知らないので引き出そうと考える事もありません。例外としては〝火事場の馬鹿力〟と言ったところでしょうか。」

「分かった?つまりあなたは無意識に〝隠された力〟を使っているってわけ。まだ信じられないかしら?」

本当の所はまだ信じられでいた。でも、つじつまは合っていた。無意識なら突然記憶が無くなるのも分かったからだ。そのとき、自分が何を引き金にその状態になるのか、という疑問が生まれた。

「あ、あの―。」

 

 

 

 

「言いたい事は分かるわ。何が引き金でその状態になるかってことでしょ?咲夜、分かっているわね。」

「もちろんです、お嬢様。」

言いかけた言葉を切られ、話が勝手に進んでいった。あまりにも早い切り返しだったのでついていけなくなった。

「引き金について、の前に話す事があります。まず、〝隠された力〟は通称、限界突破と呼ばれています。また、この力を使うことにより体の負担がいつもの力よりも何倍にもかかるので使い方次第では〝死〟に至る事があります。人によって能力が違います。馬鹿力の人もいれば異常な冷気を使える人もいる。そして、引き金として一番手っ取り早いのは〝一番親しい者の死〟です。その他にもあるらしいのですが幻想郷のデータで一番多かったのはこれなのです。しかし、それを覆したのは博麗一家なのです。博麗一家は〝過酷な状態で生き延びなければならない事〟が出来なければ限界突破する事が出来ないのです。紅と白は博麗の象徴。陰陽玉は一家の秘宝なのです。ちょっと話が脱線してしまいましたね。すいません。」

「まぁ、この通りよ。私にはわからなかったけど、あなたにはわかったでしょ。」

こちらにとっては分かる分からないの話ではなかった。霊夢がどれだけつらい思いをしたのか今わかった。そして、自分の能力の引き出し方、代償となる負担などあらゆることが分かった。

話が終わり、部屋を出ようとした時、痛い言葉をもらった。

「あなた不死身らしいけど、限界突破して力尽きてしまえば死ぬからね。注意しなよ。」

「付け加えて、限界突破をしているときは〝自分の一番すぐれた能力〟が代償となって削られていくのでもし限界突破した状態で力尽きてしまったら、確実に誰でも死にます。」ぎくりとした。でも思い返したらそうだと思った。記憶が飛んだあと筋肉痛のような痛みが腕、足、さらには腹にもあった。今の現状を考えて永林が言いたい事が分かったような気がした。

たぶん永林は私の体の事の事をしっていただろう。だから、あの時私の事を思って話さなかったんだ。・・・・ひどい事言っちゃったなぁ。異変を解決してから謝らなくちゃ。

心に強く決心した。朝日が妹紅の背中を押していた。

あの朝からしばらくして、妹紅はある決意をした。

レミリアや咲夜は幻想郷ではトップテンに入るほどの強さだから、私をもっと強くしてくれそう。頼めば修行させてくれるかな?でも、今は行動に起こす事が大切だから―。

長い廊下を走りぬけた妹紅を魔理沙は微笑んで背中を見ていた。

 

 

 

 

                   *

薄暗い部屋の中、ある装置が起動していた。寄り添うように倒れていたのは霊夢だった。部屋の扉が開き、紫が入ってきた。霊夢に近づき、耳元でそっと囁いた。

「霊夢、これはしょうがない事よ。分かっているでしょう?」

「・・・・・。」

霊夢は紫をにらみつけるだけだった。扉が再び閉められ再び暗くなった。暗くなった部屋の中で機械音だけが鳴り響いていた。

 

 

 

扉をノックして中に入った。いつも通りの光景だった。レミリアの後ろに咲夜が立っていた。レミリアは待ち望んでいたような顔をしていた。

「やっと来たわね。決意を教えてちょうだい。」

妹紅はため息をつき、きりっとした表情になって話した。

「私に限界突破の上手な使い方を教えてちょうだい。決意はちゃんとしているわ。・・・・仲間を守りたいからよ。」

その言葉を聞いてレミリアはにやりと笑った。そして、手を挙げ、指を鳴らした。すると咲夜はどこかへ行ってしまった。少しして、咲夜が戻ってきた。手元には古ぼけた髪を持っていた。その紙を受け取ったレミリアは妹紅に言った。

「あなたこれからこの計画通り、トレーニングをこなしなさい。私たちはこれを行って強くなって行ったのよ。簡単だけど長い時間がかかるわ。期間は半年、けれど続けた分効果は大きく出てくるわ。はいこれ。」

渡された紙には『朝 読書→ヴワル図書館の本を一日十冊読み続ける事 本の厚さは十五センチ程度の物  昼 自分の力を九〇パーセントから九五パーセント出し続ける事  夜 実戦でも使える攻撃方法を小悪魔とともに行動する事→朝、本で見に付けた知識をフルで活用する事』と書いてあった。最後には『この事を約六カ月行う事』と書いてあった。妹紅は慄然とした。このようなメニューをこなした紅魔館の住民は自分よりもどれだけ強いのか、考えただけで想像がついた。しかし自分が決めた事だからやるしかなかった。

 妹紅に新たな希望が生まれた。仲間を守る意思がどれほど大切なのか分かった。

 

   第六章 本当の気持ち

 

 あれから半年たった。季節は冬になっていた。半年間ずっと同じことをやりとおしてきた少女は、確実に強くなっていた。今までとは全く違う風格をまとっていた。降り積もる雪の中、異変の影響は今までずっと変わらず続いていた。

「早く終わらせないとね。」

少女は自信に満ち溢れていた。少しの間、庭に出ていると後ろから声をかけられた。

「あまり外に出ていると風邪ひきますよ。」

後ろを振り返るとそこに立っていたのは銀髪のメイドだった。彼女の姿を見て外が寒い事が一目でわかった。首にはマフラーをかけ、手袋をはめていた。息も白かった。振り返り、館に入ろうとすると一言伝えられた。

「お嬢様からの伝言です。最終調整をする、とのことです。」

「分かったわ。」

そのまま通り過ぎた少女を見つめていたメイドはそっと呟いた。

「まさか本当に成し遂げるとは思いませんでしたよ。妹紅さん。」

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い廊下を進み、大きな扉を開けようとしたとき、勝手に開いた。

「まったく、あなたから開けてくるなんて珍しいわね。」

机に肘をつき、如何にも待っていたという座りかただった。隣には先ほど庭で話をしたメイドが紅茶の入った銀のポットを持っていた。たぶん時間を止め、この部屋に来たのだろう。

「あなた、ここに来たからには覚悟は出来ているわね。」

「あたりまえよ。覚悟がなければここには来ていないわ。」

少女は本に書いてあった事を行動にあらわしていた。『戦う前の気持ち パート一』に書いてあった。〝戦う前は感情的にならず常に冷静でいるべし〟と―。

「ここでやったんじゃ大変なことになるから、場所を変えるわよ。ついて来なさい。」

すると突然窓が開き、吸血鬼は外に出て行った。続いてメイドが外に出ていった。追いかけるように少女も追いかけていった。そこにはいた事の無い景色が広がっていた。赤い月にコウモリがそこら辺を飛び回っていた。赤い月をバックに吸血鬼が浮いていた。

「さあ、始めようじゃないの。」

いきなり突進してきたが上手く受け止めて上に投げた。その後、黒炎をまとい突進して行った。

「いきなり使ってくるのね。それじゃぁ私も本気で行くわよ。」

紅い色をした長い剣が現れた。その瞬間大きな爆発が起きた。

「なかなかやるわね。半年って怖いわね。」

「あなたのおかげよ。感謝しているわ。」

レミリアが一番気になった事は、限界突破状態で平常な意識が保たれている事だった。いつもなら、なりふり構わず攻撃していた。また、体が限界突破の負担に耐えている事も驚きだった。

「しょうがないわね。禁忌 レーヴァテイン!」

「獄炎符 不死鳥―鳳凰陽翼―。」

黒い炎の鳥がレミリアに向かって飛んでいった。今までに見た事の無い大きさだった。レーヴァテインを振り回したが黒い鳥は避けていた。そして、爆発と共にレミリアは飛ばされた。追いかけるように妹紅は飛んでいった。レミリアは追いかけてきた妹紅を見てにやりと笑った。

「神槍 グングニル。」

 

 

 

 

小さくつぶやくと、大きな槍が現れた。そして、妹紅めがけて飛ばした。妹紅は回避したが腹をかすめた。しかし、そのまま追いかけ、黒炎を出した瞬間、時間が止まった。時が動いているのは妹紅と咲夜だけだった。

「お嬢様はもう動けません。なので少し待って下さい。」

そういうと、レミリアを連れ、館のベットに寝かせた。

「お待たせしました。次は私が相手します。」

目を閉じると背中に薄く時計の針が動いている事が分かった。目を開けると赤い目になっていた。

「始めから本気でいかせてもらいます。」

妹紅は冷たい視線で見つめていた。

 

 

 

数多のナイフが地面に落ちていた。

(ここまでやってもかすり傷一つないなんて・・・。強すぎる。)

時間を止めつつもナイフで攻撃するが妹紅は全て叩き落としていた。

「仕方がありませんね・・・。妖奇 操りドール!」

すると時が止まった空間に今までにない数のナイフが現れた。時間を戻すと、妹紅めがけてナイフが襲いかかってきた。しかし、全てのナイフを黒炎で打ちはらった。咲夜は恐怖を感じた。攻撃が全く通じないことなど今までなかったからだ。

(うそでしょ。私の攻撃が一つも当たらないなんて・・・・。)

妹紅はかまわず攻撃してきた。咲夜は諦めていた。目をつぶったそのとき妹紅は目の前で止まっていた。咲夜は驚いた。妹紅が肩に手を置いていた。

「怖かった?ちょっとやりすぎちゃったみたいね。さあ、帰りましょう。」

妹紅は先に館に入っていた。咲夜は少し考えていた。

(私が目をつぶる前、妹紅は確実に私に攻撃しようとしていた。殺気も強かった。なのに、なぜいきなりやめる事が出来たのかしら。私でもすぐに解除する事は出来ないのに―。もしかして、彼女自身この地で狙われるかもしれない。)

 

 

 

雪が朝日に照らされて眩しく光っていた。少し肌寒かったが昨日よりは暖かった。朝早

 

 

 

 

く妹紅は誰にも気づかれない様に庭をあるっていた。門をくぐろうとしたとき呼び止められた。

「まったく、みんなこっそり出ていくのが好きなのね。」

妹紅は立ち止まった。声の主は分かっていた。咲夜が心配して来てくれたらしい。

「私は私なりのけりをつけに行くわ。・・・大丈夫よ。絶対帰ってくるから。」

「・・・・分かったわ。必ず帰ってきてよね。帰ってこなかったら連れ戻しに行くから。」

妹紅は鼻で笑い、飛びだって行った。咲夜は見守っていった。

                   *

「どうやら行ったようね。」

「はい、お嬢様。」

真っ暗な部屋で二人は話していた。

「計画通りに進んでいるようね。まざ、あとはあっちの人たちが上手くやってくれるわよ。」

 

 

 

死者が集まる世界―冥界では魂魄妖夢が長い階段の頂上に立っていた。妹紅を見つけたとき今までとは違う風格をまとっていた事に気付いた。

(空気が違うわね。始めから本気でいかないと―。)

階段を登り切った妹紅の目の前には妖夢が立っていた。

「半年間、姿を見せなかったから心が折れたのかと思いましたよ。」

妹紅は答えなかった。妖夢は刀を構え、限界突破をしようとしたが妹紅が張り手で吹き飛ばした。黒炎を手から出しながら妖夢に近づいてきた。妖夢は危険を察知して遠くに逃げた。

(まさか、こんなにも差が付いているとは―。さらにあの状態になるのに時間がかかっていないなんて・・・・。)

妖夢も限界突破の状態に入ったが、あまりの差で手も足も出なかった。挙句の果てには頭を片手でつかまれていた。

「くっ、離せ!」

妹紅は離さなかった。妖夢が刀で斬ろうとしても炎が彼女の身を守っていた。するとい空間から紫と操られている霊夢、パチュリーが現れた。妹紅は掴んでいる手を離した。

「紫様!」

 

 

 

 

妖夢の甲高い声が響いた。妹紅は紫の方に向いた。紫はうすら笑いを浮かべていた。妹紅は紫めがけて突進した。しかし、攻撃を防いだのは霊夢だった。

「あなた、大切なこの子に攻撃できるの?」

妹紅は霊夢の攻撃を受け止めることしかできなかった。妹紅は霊夢から遠く離れ、懐に入っていたものを取り出した。『夢札』だった。妹紅はそれを天に掲げた。すると、自分の体から今までに感じる事の無かった力があふれ出ている事に気が付いた。

(これは・・・・霊夢の力?)

妹紅が炎を出すと黒から白に変わった、白い炎から七色の光が出ていた。

(これは、夢の力?)

追いかけてくる霊夢にあてると霊夢は正気を取り戻した。どうやら、異変に侵された人々を根本的に治す炎へと変わったようだ。紫はその炎を見て歓喜に震えた。

「妹紅!あなた、やっと私の思い通りになってくれたわね!」

妹紅は不思議に思った。狙っていたのが霊夢ではなくて自分だった事について―。

「私が直々に相手してあげるわ。あなたのその力、私にちょうだい!」

このとき、紫はついに本性を表した。

肌に触れる空気が異常に痛く感じた。

 

 


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