新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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コノ小説ハ、KENZEN、デス。

弥生可愛イヨ、弥生。


八話 新人提督と弥生がウサギと出会ったりする話

 

 

「ぷっぷくぷぅ~」

 目の前でクルクルと踊る脳内ハッピーを前に、思わず呆然とする。

 艦娘というのは、随分個性的なやつがいるんだな、などと半分逃避気味な思考をしていると。

「司令官、逃げないで、ください」

 思わず思考同様に体も逃げ出そうとしていたのを、弥生が上着の裾を掴んで止める。

 ダメ? と目で尋ねると、ダメ、と首を振られた。

「…………おい、弥生、アレはなんだ?」

 波止場で踊る謎の生き物を見ながら尋ねると、弥生が一つため息をつきながら答える。

「卯月、です…………弥生の、姉妹艦の」

 腰まで伸びた長く赤い髪を兎の髪留めでくくった、なんとも表情豊かな少女がそこにいた。

 あれが、弥生の姉妹? いや、確かに着ている服は弥生と同じものだが。

「……………………随分と、その…………個性的だな」

「………………気遣い、ありがとう、ございます」

 なんとも言えない空気が自身と弥生の間を漂う。その視線の先では、相変わらず楽しそうに波止場で踊る、謎の生き物、改め卯月がいた。

 

 時間を少し遡る。

 

「は? 今日ですか? いえ、出撃の予定はありませんが…………分かりました、話は通しておきますのでこちらの執務室まで、ええ、はい」

 朝から上官から電話があった。曰く、転属希望の艦娘が今日そちらに行くのでよろしく頼んだ、と。

 今日は出撃の予定も無く、昨日弥生に言った通り、軽巡洋艦の建造を行う予定だったのだが。

 切れてしまった電話を見つめながら、目をぱちくり、とさせる。

「昨日の今日だぞ、早過ぎないか?」

 転属の話を聞いたのが昨日なのに、翌日の今日にもうやって来るというのは、いくらなんでも早すぎないだろうか?

「艦娘たっての希望って言ってたが、随分と気が早いな」

 さてはて、本当に誰が来るのやら。気の早い、せっかちなやつじゃないか、と言うのが自身の意見だが。

 と、その時、コンコンと扉がノックされる。どうぞ、と声をかけると扉が開き、弥生が入ってくる。

「おはよう、ございます…………司令官」

「あ…………ああ、おはよう、弥生」

 秘書官の弥生が入ってくる、すでに何度と入った部屋だ、慣れた様子で壁際の椅子を持ってきて自身と対面するように座る。一方の自身としては、多少緊張してしまう。昨日、面と向かってあんなこと言われてしまったのだから、仕方ないと思うのだ。

「今日は建造、でしたか?」

「いや、その前に一つ用事ができた」

 用事? と首を傾げる弥生に、ああ、と頷き先ほどの電話の内容を伝える。

 さすがに昨日の今日だと言うこともあって、弥生も僅かに眉根をひそめる。

「随分と……急……ですね」

「ああ、と言っても新しい仲間だ、歓迎はしようじゃないか」

 そんな自身の言葉に、はい、と柔らかい雰囲気で頷く弥生。

 その声音に、昨日のことを思い出してしまい、僅かに赤面する。

「司令……官……?」

「いや、なんでもない、気にするな」

 左手で顔を覆い、顔を赤らみを隠す。

 深く息を吸い込み、吐く。多少熱の冷めた顔から手を退け、一つ目を閉じ、意識を切り替える。

「建造は明日にしよう、転属してくる艦娘がいつ来るかわからない以上、工廠で待たせることになってしまうからな」

 それは可哀想だし、今日転属してくる艦娘の種類によっては建造しなくてもよくなるかもしれないので、それまで待つことにする。

 それを伝えると、弥生が了解です、と頷いた。

 そうして執務室で弥生と二人、仕事をこなしていき、二時間ほど経った頃。

 

 Trrrr

 

 執務室の電話が鳴った。

 電話に出ると、鎮守府の職員からだった。

 

 あの、波止場で踊ってる少女がいるんですが?

 

 そんな頓珍漢な電話に、目を丸くし、弥生を伴い波止場へと向かい。

 

 そうして先ほどの場面へと戻る。

 

 

 * * *

 

 

「で、どうすればいいんだ、アレは?」

 波止場で踊る脳内ハッピーを見ながら、隣に佇む弥生に尋ねる。

「取り合えず…………声をかけて、みては?」

 つぅ、と弥生が視線を反らしながらそう答える。

「弥生の姉妹艦だろ、弥生が行ったらどうだ?」

 あまり関わり合いになりたくない手合いだったので、姉妹の弥生に押し付けてみる。

「弥生の姉妹に、波止場で踊る人は、いません」

 だが自身も関わり合いたくないがために自身の姉妹をいなかったことにする弥生に。

「ひどい言い草だぴょん」

 少女がぷくーと頬を膨らませながら抗議すr…………。

「………………………………」

「………………………………」

 弥生と二人、声のしたほう、自身たちの背後に視線を向ける。そこに、先ほどまで踊っていた少女がいて、頬をぷくーと膨らませていて。

「うわああああ?!」

「っ?!」

 自身は思い切り声を上げ、弥生は声こそ上げなかったが、目を見開いて後ずさった。

「むー、そんな反応されたらうーちゃん傷つくぴょん!」

 そんなことを言うが、どうやったらあの一瞬で自身たちの背後に回れるのだ、しかも艦娘である弥生すら出し抜いて。

「う、卯月…………?」

「そうだぴょん、久しぶりだぴょん、弥生!」

 珍しくうろたえた様子の弥生に、卯月ががばっ、と抱きつく。

「えっと…………久しぶり」

 僅かに頬を緩めた非常に珍しい弥生の表情に、なるほど、弥生も満更でもないのかもしれない、と思う。

「ぷっぷくぷぅ~! 弥生だぴょん! 弥生だぴょん!」

 弥生に抱きついた状態の卯月がそのまま弥生の腰に両手を回し、ぎゅっと抱きしめたまま、徐々にその手を下げ始める。

「う、卯月、ちょっと、話し、って、ちょっと、どこ触って」

 自身の見ている目の前で段々と妖しい雰囲気になっていくのだが、どうにも触れがたい空気を感じ思わず静観してしまう。

「ふふー、弥生はここがいいのかぴょん? それともこっちかぴょん?」

「だから、どこ触って…………や、止めて、そ、そっちは、ダメ」

 身をよじり、卯月から逃げ出そうとする弥生だったが、卯月にがっちりと掴まれ逃げ出すことができない。

 まあ、なんと言うか、実に眼福な光景なのだが。

「し、司令……官……た、助け、て」

 弥生が半分涙目でそう頼んでくるので、さすがに静観しているわけにもいかず。

「そろそろ話を進めたいのだが、うちの秘書とのスキンシップはその辺りにしてもらえないか?」

 ぐわし、と卯月の頭を掴んで、その動きを止める。

「ぴょん? あなたが司令官? 睦月型駆逐艦四番艦の『卯月』でっす、うーちゃんって呼ばれてまっす」

 ぴし、と頭を掴まれたまま器用に敬礼し、卯月がそう告げるその姿に、疲れたため息しか出ないのはどうしてだろう。

 それでも、溌剌と笑う目の前の少女の存在は、弥生にとってはとても大事らしい。それは先ほどの邂逅で分かった。確か弥生と卯月は、第30駆逐隊と言う艦隊の仲間だったこともあったはずである。その頃の縁と考えるなら仲が良いのも納得できる。

「と言うか、なんで波止場で踊ってたんだ…………? 到着したら執務室に来るように上官には頼んでおいたはずなんだが」

「うーちゃん早く着き過ぎちゃったから、ちょっと時間を潰してたんだぴょん」

「…………到着時刻なんて聞いていないんだが」

 そんな自身の言葉に、あれ? と言った様子の卯月。それから納得したように頷き。

「司令官、忘れてたみたいだぴょん…………それとも卯月が言うの忘れてたぴょん?」

「いや、知らないんだが…………と言うかその違いは非常に大きいんだが」

 場合によっては責任問題になりかねない、程度には大きな違いなのだが。まあ、問うつもりは無いが。

「まあそんなことどうでもいいから、中に入るぴょん!」

 そう言って、先々と鎮守府の中へ消えていくその背中を見て、思わずため息をつく。

「えっと……司令……官……」

 自身の姉妹艦の行動に、なんと言っていいのかわからず戸惑う弥生に、さてなんと言ったものかと、こちらも考えてしまい。

「随分と、まあ…………個性的なやつだな」

 上手い言い回しが見つからず、言葉を濁すことしかできなかった。

 弥生は、そんな自身の言葉に、無表情に、けれどどこか乾いたような雰囲気で、頬が引き攣っていた。

 

 

 

「あっらためてー! 今日よりこの鎮守府に転属してきました、睦月型駆逐艦四番艦の『卯月』でっす! 敬礼、びしっ!」

 効果音まで自分の口で言わなくても良い、とも思うが、これがこの少女の個性、と言うことなのだろう。上官も電話で、個性的な子だが仲良くやってくれ、と言っていたし…………これ、個性的で済ませていいのか?

 弥生を建造のため工廠に行かせているため、現在この執務室にいるのは、自身と卯月の二人だけ。本当はこの脳内ハッピーと二人だけとか勘弁して欲しいのだが、それでも時間が有限だ、まだ多少猶予はあるとは言え、自身たちに無駄にできる時間など無い。朝から待っていた卯月が転属してきたからには、早くこちらの予定を推し進める必要があった。

「あー…………ようこそ、私の鎮守府へ。貴君の着任を歓迎する」

 なし崩し的な形式的挨拶になった感は否めない、が、彼女がわざわざこちらへの転属を希望してくれたのも事実であり、そして自身の鎮守府にとってそれが非常にありがたいことも事実である。

 そして多少気になっていたこともあったので、ところで、と接続詞をつけて尋ねてみることにする。

「どうしてわざわざこちらに転属を? 聞いた話によると、卯月、キミはあちらで第二艦隊に所属していたらしいが?」

 第四艦隊まで解禁されている上官の鎮守府で、第二艦隊二番艦を勤めていた実績のある卯月。第一艦隊ではないとは言え、上官は遠征による資源供給路の確保を非常に重視していたはずだ、その鎮守府で第二艦隊所属となれば、かなりの重鎮にあたるのではないだろうか?

 

「弥生がいたから……………………だ、ぴょん」

 

 一瞬、空気が冷えたかと錯覚した。

 とってつけたような最後の語尾は、何の誤魔化しにもならないほどに、一瞬で空気が重くなった。

 その質問は、目の前の少女にとっての琴線だったのか、それとも、地雷だったのか。

 だが、直後。

 

「なーんて、弥生は姉妹艦だぴょん、あっちの鎮守府って卯月の姉妹がいなかったら、こっちにやってきたんだぴょん」

 

 重たい空気が霧散した。繕うようにこちらも笑みを見せ、そうか、と呟く。

 それでも先ほどの重苦しい押し潰されそうな空気は忘れられそうにない。

 どうやらまあ…………目の前の頭の中で花が咲き誇ったような少女にも、色々あるのは良く分かった。

 艦娘には過去の…………大戦時の艦としての記憶が焼きついている。それを忘れて生きる艦娘も入れば、新しい生を手に入れてもその記憶に引き摺られる艦娘もいる。卯月はどうやら後者らしい。いや、本当に忘れて生きられる艦娘なんていないのかもしれない。

 前世だろうがなんだろうが、自身の経験で、自身の体験で、自身の思い出で、自身の記憶だ。忘れるはずが無い、気にしないように心がけてでも、それでもふとした拍子にその思いは溢れ出す。目の前の卯月のように。

 だから、結局。

 

「そうか…………まあ、卯月と話している弥生はいつもより表情が柔らかかったからな、その調子でもっと感情表現が得意になるように相手してやってくれ」

 

 そんなことを言うと、卯月が少しだけ目を丸くして。

 

「任せるぴょん!」

 

 そう言って……………………微笑んだ。

 

 

 

 コンコン、と扉がノックされる。

 入れ、と告げると扉が開かれ弥生が入ってくる。

 慣れた様子でいつものようにやってきて、けれどそのままきょろきょろと少しだけ周囲を見渡した。

「卯月ならもう割り当てた部屋に戻ったぞ」

「…………そう、ですか」

「なに、これからは同じ鎮守府の所属だ、いくらでも話す機会はあるだろ」

 そんな自身の言葉に、そうですね、と呟く弥生。やはり、弥生にとっても卯月は特別なのかもしれない。

 それが感情的なものなのか、感傷的なものなのかは分からない……………………その違いは、良い方向に転ぶか悪い方向に転ぶかの瀬戸際でもあるのだが、まだ区別はつかないので、様子見、と言ったところだろうか。

「それで、工廠に建造するように言って来たのか?」

「はい…………指示通り、オール30で回すように、言ってきました」

 そうか、と呟き、目を細める。オール30で出来るのは大概が駆逐艦か軽巡洋艦だ。さすがにまた潜水艦が着たりはしないだろうし、重巡洋艦が来たならそれはそれで使い道がある。

「まあ駆逐艦が来ても、軽巡洋艦が来ても、第二艦隊に回ってもらうつもりなんだがな」

 そんな自身の言葉に、弥生がふと尋ねる。

「卯月は…………どちらに?」

 第一艦隊か、第二艦隊か、と言うその質問に、少しだけ言葉に詰まる。

 多分、言ったら無表情に見つめられるんだろうな、と思いつつも。

「両方だ」

「…………え?」

 目をぱちくり、とさせながら弥生がそう漏らす。

「だから、両方だ。普段は遠征隊として第二艦隊に所属してもらって、必要に応じて第一艦隊にも参加してもらう」

 そんな自身言葉に、じーっと弥生が自身を見つめる、まあ予想通りだ。

「司令官が、そう、決めたんですか?」

「ああ、そう決めた…………元々第二艦隊の結成は必須だったが、卯月の錬度で第一艦隊に所属させないのは勿体無いからな」

 さすがに遠征を延々とこなし続けるあの鎮守府だけあり、けっこうな錬度の持ち主だった。

 今の自身の艦隊にとって、駆逐艦と言えど、大きな戦力であり、そして消費が少ないと言う意味では、ある意味、戦艦が来るよりもありがたいかもしれなかった。

「だから第一艦隊4番艦と第二艦隊旗艦を同時に勤めてもらうことにした」

「旗艦…………じゃあ、第一艦隊が、出撃してる時、第二艦隊は?」

「休みだ、第一艦隊が動かない時は延々と動いてもらうことになるからな」

「卯月は、ずっと働きっぱなしに、なりませんか?」

 艦娘にだってコンディションと言うものがある。毎日毎日出撃していれば疲労が溜まる。疲労が溜まれば性能を存分に発揮することが難しくなる。だから出撃にはある程度間をおいてやる必要がある、そんなのは提督としての常識である…………だから、その辺も考えてある。

「遠征は出撃ほど疲労しないからな、出撃前に一日間を開けるようにはするさ」

 大よそ一日ゆっくりと休んでいれば、遠征の疲労くらいならすぐに取れるだろう。

 最終手段として、高速修復剤…………バケツを被せる手もあるが、どんなブラック鎮守府だと言いたくなるので、それは文字通り最終手段だ。

「と、言うわけでだ…………これからは卯月も加わって、今建造してる艦が来れば小規模ながらも遠征隊も結成される」

 それはつまり、配給と任務報酬以外の資源供給源が出来ると言うことだ。

「上手く軌道に乗せるまで、まだまだ大変だろうがな」

「大丈夫、です」

 多少の不安を口にすると、それを跳ね除けるようにして弥生が口を開く。

 無表情、だがその目はいつもより力強く感じられた。

 

「大丈夫、です…………卯月も…………弥生たちも、頑張りますから」

 

 そんな弥生の言葉に、一瞬目を丸くするが、ニィっと笑って。

 

「そうか…………頼んだぞ、旗艦殿」

 

 そう告げる。そして、弥生も。

 

「はい…………任せて、ください。司令官」

 

 珍しく、笑った。

 

 




【戦果】

旗艦  弥生   Lv3   頑張ります、から。だから、大丈夫、です!
二番艦 伊168 Lv2   元気が良すぎるのも困り物ね。
三番艦 瑞鳳   Lv2   あの、私は隼鷹さんじゃないですよ?
四番艦 卯月改  Lv45   うーちゃんです着任しました~、ぷっくぷく~!
五番艦 None
六番艦 None


うーちゃんレベルたけえええええええええええええって思った人。
一年ぐらいずっと遠征やってれば、そりゃあがるよ。しかも第二艦隊なのでかなり初期からずっと遠征してるんだぜ? そりゃあがるよ。

一応言っておくと、作者はうーちゃん大好きです。可愛い、あざと可愛い。でも脳内ハッピーだとも思ってる。

毎回毎回、プロットも立てずにフィーリングだけで話書いてるけど、この調子でやってると、弥生とケッコンできるのいつになるんだろう。
最近ちょっとこの小説の趣旨忘れかけてる感があるからなあ、主に作者が。

そういえばてんぞーさんが新しく艦これ二次書いてましたね。
某所で服装について悩んでたので「巨乳には着崩した着物だろ常識的に考えて!」って言ったみた。即決で「採用」って返ってきた(
さすが巨乳信者。

因みに水代は貧乳派。いや、別にロリコンじゃないよ? 好きになった子がたまたま弥生だっただけで。弥生のケッコン台詞聞いた時は、もうロリコンでいいや、と思ったが(

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