新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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十九話 新人提督と弥生が沖ノ島を攻略したりする話

 接敵から僅か十秒。

 

 互いが攻撃に入った時間である。

 

 視認した敵の数は六。暗さのせいでその艦種までははっきりとは分からないが、それでも最低三隻、戦艦がいることは分かっている。

 距離は近い、雷撃戦が出来るほどの距離。

 

「全艦、撃て!!」

 夜間故、艦載機の出せない瑞鳳と武装に損害が大きい卯月を除いた全艦が一斉に砲撃を開始する。

「うーちゃんだって、魚雷はまだ使えるんだから!」

 次いで駆逐艦の魚雷を一斉に発射。返すように敵からも砲弾が飛んでくる。

「足を止めないで…………止めたら、終わりです」

 敵戦艦は電探を装備していると言う話もある、その狙いの正確性を考えれば、足を止めれば砲弾の集中砲火を浴びて一瞬で沈むことは明白だった。

「あと少し…………あと少し…………」

 この状況は確かに司令官の思い描いた通りの図ではある。

 だが夜が明け、日が顔を出すまでのあと少しの時間。

 この砲弾の雨の中をしのぎ続けなければならないと考えれば。

 

 今となってはそれが永遠にも感じられた。

 

 

 * * *

 

 

『日取りが決まった』

 電話越しに上官殿が告げるその言葉に意味を自身の中で反芻する。

「それで…………いつに?」

『二週間後だ…………編成自体は十日前に始まるからな、もう後四日しかない』

「……………………」

 

 サーモン諸島付近での深海棲艦の大規模な集結。

 その報を受けた大本営からの大規模作戦発令の知らせ。

 

「確か半年かそれくらい前にもありましたね」

『ああ…………嫌な思い出だな』

 

 白池襲撃を目的とした大規模作戦が以前にもあったが、あの時初めてその存在を確認されたのが。

 

『…………今回もいると思われる』

「…………同じ、じゃないんですよね?」

『ああ、別の儀装を持った個体と思われる』

 

 鬼、そして姫。そう呼ばれる深海棲艦の中でも上位と思われる存在である。

 その固体の持つ強さ、そして数の少なさから、深海棲艦の中でも命令を下す側なのでは無いか、と推測される怪物。

 少なくとも、艦娘が単体で勝てるような相手ではないことは確かだ。

 

「…………しかし、因果な場所ですね」

『…………言うな、この報を受けた誰もが思っていることだ』

 

 南方海域サーモン諸島。

 この辺りではかつで旧日本軍と某国との大規模な海戦があり、その戦いで沈んで行った船の余りの多さにこう呼ばれる。

 

鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)…………ですか」

 

 艦娘たちからすれば、まさに悪夢の海域だろう。

 

 

 * * *

 

 

 被害甚大、と言ったところか。

 戦艦の砲撃を再度鈴谷から庇った卯月が早々に大破。

 お返しとばかりに鈴谷が敵戦艦を一隻沈め。

 イムヤが敵半数の攻撃をひきつけながら翻弄する。どうやら半数は水雷戦隊らしい。

 弥生が魚雷で敵駆逐艦一隻を落とし。

 そして飛んできた砲弾を避け損ね駆動機関が損傷、中破となる。

 イムヤが魚雷でもう一隻の駆逐艦を沈め。

 けれど偶然にも飛んできた爆雷が直撃し、中破。実質これで戦力外となる。

 そして残った戦艦二隻の砲撃に晒され、鈴谷もまた大破。

 

 こちらの残りは中破した弥生と無傷の瑞鳳だけ。

 

 対して敵は戦艦二隻、そして雷巡一隻。

 

 厳しい、と言わざるを得ない。

 

 それでも、もう後が無い。

 

「もうすぐ夜が明ける…………やるなら…………今、だけ」

 

 空が明るさを帯び始めている。

 エンジンはやられているが、移動できなくは無いし、武装は無事だ。

 距離もそう離れていないし、先ほどより少しだけ視認もできる。

 それは逆に視認されている、と言うことでもあるが。

 

 逡巡は一秒にも満たない。

 

「弥生、行きます」

 

 呟きと共に、ぬらり、と動き出す。

 エンジンが使えないために、逆に音が消えた今はむしろ奇襲するのは良いのかもしれない。

 

「…………後は、頼みます…………瑞鳳さん」

「や、弥生?」

 

 自身の呟きを聞いた瑞鳳が何事かと目を丸くし、そして。

 ゆっくりと、敵へと近づく。

 敵も味方も今は小休止、互いに様子を伺っているところだ。

 もうすぐ朝になる。そうなれば互いをはっきりと視認し、また砲撃戦が始まるだろう。

 

 敵戦艦二隻に対してこちらの火力と呼べるのは瑞鳳だけ。

 瑞鳳がやられればもうどうにもならない。ここまで深入りした以上、無事に帰れるかどうかさえ分からない。

 故に、生き残るのならここで攻めなければならない。

 

 距離はもうそう無い。最初から無かったのもある。

 

 ゆらり、ゆらりとゆっくりと近づく。

 

 敵は動かない。

 あと少し、あと少しでこちらの距離だ。

 そして。

 

 敵がこちらを向いた、それを瞬間的に察知する。

 

 距離は…………微妙。当たるかもしれないし、当たらないかもしれない。

 撃つか、撃たざるか。

 逡巡の間に敵の砲撃は飛んでくる。

 不味い、そう思った瞬間、体ががくん、と引っ張られる。

 驚きと共にそちらを見れば、海面から手を伸ばすイムヤの姿。

「こっち!」

 言葉と共に、体が引っ張られる。

 直後に砲弾が先ほどまで自身が居た場所へと着弾、海面を揺らす。

 引っ張られながら少しずつ敵との距離を詰めていくのが分かる。

 どうやら彼女もこの賭けの乗るらしい。

 

 あと少し、当たるか?

 

 考えたその時、急に空が明るさを帯びた。

 

「…………あ…………朝…………」

 

 日が顔を出した海は急激に明るさを帯び始める。

 距離は多少ある、だがこの明るさなら外さない。

 

「行って…………行って!」

 

 いつもの自分らしくもない、感情的な声。

 それでも、願うように、縋るように、その雷跡を目で追う。

 真っ直ぐ敵へと伸びた雷跡、そして直後、轟音と共に水柱が巻き起こる。

 

「戻って!」

 

 命中、それだけを確認し、すぐさまイムヤにそう告げる。

 損害など見ても見ていなくても変わらない。今のでどちらか沈んでいたとしてももう片方がいることには変わらない。

 今の自身たちが非常に危険な状況なのは変わらないのだ。

 

 そう判断し…………直後。

 

 ダダダダダダダァァァァ、と背後で爆撃音。

 

 驚き、振り返れば。

 

「任せなさい…………数は少ないけど、私の自慢の精鋭たちなんだから!!!」

 

 上空の舞う爆撃機。

 

 そして。

 

「行って!!!」

 

 海面を飛ぶ艦攻隊から放たれる魚雷。

 

 二重、三重の攻撃の嵐が敵を襲う。

 

 

 そして――――――――

 

 

 * * *

 

 

「…………以上……です……」

 戦闘経過をまとめた出撃報告を渡し、それを(そら)んじると、司令官が一つ頷く。

「…………そうか」

 一つ呟き…………それから、ふう、とため息。

「…………良くやってくれた、本当に…………良くやってくれたよ」

 少しだけ肩の力を抜いた司令官が呟き、微笑む。

 その笑顔に少しだけ胸の奥に温かいものを感じながら、頷く。

「…………あんな隠し玉、知りませんでした」

「ああ…………俺自身艦載機の違いってのがどれくらいの差を生むのか未知数だったしな、悪いがそこまで期待してなかった部分もある」

 隠し玉も隠し玉だろう。まさか“流星改”なんて物を瑞鳳に載せているなんて。

「いつ作ったんですか?」

 まさしくあの艦攻隊の雷撃で敵が一瞬で壊滅したのだから、驚きもする。

「あの一週間の間に用意しておいたものだよ」

「…………ああ」

 一週間ずっと考えてたわけでなく、そのために色々やっていたらしい。まあその辺りの抜かりなさは司令官らしいと言えばらしいかもしれない。

 

 そこまでするならもう一隻建造すれば良かった、と思われるかもしれないが、これが存外難しい。

 一度編成を決定し、艦隊の面子を固定したなら、実はそう容易くは変えられない。

 一人の所属を変えるなら、その抜けた穴に誰を入れるのか、そして抜いた一人をどこに入れるのか、など考えることは多い上に、それを一つ一つ上官などに報告したりしなければならない。

 今日は誰々はここ、誰々はあっち、などとそんな気軽に変えれるようなものではないのだ。

 今の第一艦隊の面子は五隻。艦隊は六隻以内で編成されるようにするのが基本なので、後一隻しか枠は無い。

 そこに一体誰を入れるのか、そう簡単に決定できるようなことではない…………本来は。

 

「…………驚いたと言えば、私のほうが驚いたぞ」

 その言葉が何を指しているのか、すぐに察する。

「…………出てきたものは…………仕方ない、かと…………」

「いや、別に責めているわけではないんだ。むしろ良くやってくれたと思っている」

 そんな司令官の言葉に少しだけ安堵する。

 だがまだ完全に安心しきるのも無理だろう。

「それで」

 聞いておかなければならない。

「…………どうするつもり…………ですか? 司令官」

 彼女たちの配属を。

 

 

 * * *

 

 

 艦娘は建造によって生み出される。

 それが海軍が公式に表にしている大原則だ。

 だが提督たちは知っている、それ以外によって艦娘が手に入ることもあることを。

 そしてそれによって生まれた彼女たち。

 

 ()(もの)。と呼ばれることもある。

 

 だが基本的にみんなこう呼ぶ。

 

 “ドロップ”と。

 

 

「長門型戦艦二番艦の陸奥よ、よろしくね、提督」

 そう言って腕を組みながらその大きな胸を張る女性と。

「あ、あの、こんにちわあ、潜水母艦大鯨です。不束者ですが、よろしくお願いします。提督」

 少し自信が無さそうな表情の胸に鯨のイラストの描かれたセーラー服を着た少女。

 戦艦陸奥と潜水母艦大鯨。沖ノ島海域最奥の敵中枢艦隊を倒した後に“沸いて”出てきた二隻。

 知っている、存在自体は知っている。

 

 稀と言われれば極めて稀に。

 

 それでも日常的に戦い続ける提督たちからすればそれほど珍しくも無く。

 

 海の中から生まれる少女たちの存在。

 

 通称落ち物(ドロップ)艦と呼ばれる発祥不明の艦娘。

 

 大本営はそれを表に出して肯定していない。つまり、ドロップ艦の扱いとしては存在しないことになるため、その鎮守府で建造したその鎮守府の艦、と見なされる。

「…………まあ難しく考える必要も無いか」

 要はタダで戦艦と潜水母艦が手に入ったと考えれば良いのだ。

 気を取り直し顔を上げ、自身の前に佇む二人の艦娘を見る。

「良く来てくれた、歓迎しよう。取り合えず所属について考えておくから、今日はゆっくり休んでくれ。部屋は他の艦娘たちに言って寮に作ってあるはず…………だよな?」

 視線を横に向けると、弥生がこくり、と頷く。

「すまんが弥生、彼女たちを案内してもらえるか?」

「…………了解、です」

 ぺこり、と弥生が一礼し、二人を伴って出て行く。

 

 どさり、と椅子に深く腰掛け、思考を回す。

 

 戦艦、そう戦艦だ。

 しかも長門型。あのビッグセブンの片割れ。

 こちらは第一艦隊以外に考えられないだろう。

 砲撃戦火力の不足は一応鈴谷と瑞鳳の二人によって補われている。だが戦艦はその二人をして一線を隔す強さを持っている。

 ただそうなると…………。

 

「…………旗艦が駆逐艦で、納得するか?」

 

 そこが分からない。幸いこれまでの艦娘たちは皆その辺りが寛容だったためやってこれたが、名高い長門型戦艦の片割れをそこを許容してくれるだろうか?

 

「それに、もう片方もなあ」

 

 潜水母艦。簡単に言えば潜水艦の補給を担当する艦であり、決して戦闘用に向いた艦種ではない。

 潜水艦と言えば一応イムヤがいるものの、言ってしまえばそれだけ、一隻だけなのだ。

 潜水艦隊を作るのならば、せめて三隻、無いし四隻は欲しい。

 

 他のところではどうやって運用しているのか…………後で上官や同期に聞いておくか。

 

 少しだけげんなりしながら、電話を片手に取る。

 

 取り合えずやらなければならないのは陸奥を含めた第一艦隊の早急な練度の向上だろう。

 北方海域への進撃が認められたなら…………。

 

「キス島…………行くか」

 

 そのためにもモーレイ海域の早急な攻略が必要となるのだが…………。

 後十四日。今日を抜けば十三日。もう作戦まで二週間を切った。

 

「考えることは多いな」

 

 机に突っ伏して、そう呟いた。

 

 

 * * *

 

 

「第一艦隊の準備は?」

「万全です」

 不知火から渡された名簿を見ながら、男は頷く。

「第二艦隊は?」

「抜かりなく」

 次いで電から渡された名簿を見て、もう一度頷く。

「第三艦隊と第四艦隊は遠征続行だ」

「…………ふむ?」

 使わないのか? と言った様子の不知火に、男が一枚の用紙を渡す。

「…………支援艦隊、ですか」

「ああ、それと夜間作戦も検討されている、なら露払いの先行部隊も出すつもりだ」

「…………なるほど、彼らにそれを頼む、と言うことですね」

「今回の作戦は戦闘の激化が予想される。どこまで頼れるかは分からないが…………」

 そんな男の言葉に、不知火がくすり、と笑う。

「嘘ですね、どこまで頼れるか、ちゃんと想定しているのに」

「…………いや、こればっかりは分からん」

 だがそんな男の言葉に、不知火が僅かにきょとんとした様子で目を瞬かせる。

「アイツは本当に俺の予想の上を行くからな、もしかすると期待を軽々と越えてくれるかもしれん」

 そして続く男の言葉にくすりと笑みを浮かばせる。

「…………親馬鹿ならぬ、師馬鹿ですか?」

「…………そんなんじゃねえよ」

 つい、と視線を反らす男に、不知火がまた笑う。

 

 そして二人のそんな様子を見ながら電は唾を吐き捨てていた。

 




【戦果】

『第一艦隊』

旗艦  弥生改  Lv25
なんとか…………勝ちました、司令官

二番艦 伊168 Lv24
弥生も無茶するわねえ

三番艦 瑞鳳   Lv23 MVP
ここまで守ってくれたみんなのためにも頑張ったんだから!

四番艦 卯月改  Lv50
なんとか全員無事だぴょん

五番艦 鈴谷   Lv21
せ、戦艦一隻落としたし(震え声

六番艦 陸奥   Lv1
長門型戦艦二番艦の陸奥よ、よろしくね



第二艦隊

旗艦 卯月改   lv50

二番艦 夕張   Lv16
第一艦隊は大変だったみたいね


未所属 大鯨   lv1
潜水母艦大鯨です、よろしくお願いします。





ゲームじゃ出来ないことでも小説ならできるその②複数同時ドロップ。

ということで戦艦補強。鯨ちゃんは将来空母となって大空を舞うことでしょう。

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