新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話 作:水代
「………………今何時だ?」
「ヒトハチマルマル…………六時、です」
執務室で弥生と二人、終わってしまった仕事の書類を手持ち無沙汰に眺めながら佇む。
時間を見る、弥生の言った通りすでに夕方六時。もう一時間もすれば食堂で夕食を取る姿がちらほらと見え始める頃だ。
「私が建造に行かせたのは?」
「ヒトフタマルマル…………十二時、です」
時間にしてすでに六時間。空母レシピで六時間と言えば翔鶴型と言う建造報告の少ない希少な艦がいるのだが、生憎戦艦レシピの最長は長門型の五時間だ。今のところそれ以外の報告は無い。オール30レシピの潜水艦と違って報告が希少過ぎるとか言うのではなく、皆無なのだ。
一応大和型と言うのが八時間の建造時間を要するため、存在しないわけではないのだが、大和型はまたレシピが違う、と言うか建造方法自体が異なる。現在やっている通常建造では絶対に出ない艦なので、その可能性はあり得ない。
つまり、どういうことかと言うと。
「すでに終わっているはずだよな?」
「…………そのはず、ですけど」
弥生もやや困惑したように頷く。すでに建造が完了したはずの艦娘がやって来ない。
もう一度時計を見る、時間は確かに六時を告げている。
「………………探してくるか」
何かあったのか、何も無いのか、さてはて、一体どちらかはわからないが、このままいつ来るかも分からない新造艦を待つよりは探しに行くほうが賢明と言うものだろう。
「悪いが弥生、もう少しここで待っててくれ、三十分ほどで戻るから、その間に誰か来たら待たせておいてくれ」
「了解、しました」
こくり、と弥生が頷いたのを確認し、執務室から出る。
まず最初に向かったのは工廠。
重い鉄製扉を開く、と相変わらず暗い室内。
奥まで見通せない、飲み込まれそうなほどに深く闇が広がる空間。
実を言えばこの奥に入ったことは無い。と言うか提督と言えど最重要機密であるこの奥に入ることはできない。
だから。
「どーかしましたか?」
妖精と呼ばれる彼女たちが気づけば自身の足元にいた。
身長十センチ前後と言った彼女たちはあらゆる鎮守府にいて、鎮守府内の数多くの仕事に従事している。
彼女たちは艦娘同様、最重要機密の一つであり、自身たち提督は彼女たちをそう言った存在であると認識している。否、そうしなければならない。
改めて考えると、鎮守府と言うのは闇が深いと思うが、けれど軍隊なんてそのくらいの理不尽は当たり前にあるものなので、あまり気にはならない。
まあ話は戻すが、入り口に入ればすぐに彼女たち妖精がやってくる。建造を行ったのは彼女たちだ、その彼女たちに新しく建造された艦娘のことを聞く。
「え? もう四時間以上前に出て行きましたよ?」
そして返ってきた答えがこれである。
新しく建造された艦についての詳細を妖精から聞き、工廠を後にする。
話をまとめると、気性の問題ではなく、性格の問題のようだ。
「…………さて、どこを探すかな」
と言っても、この鎮守府はそれほど広くない。
母港拡張するほど艦娘たちもいないので、ほぼ初期状態のままだ。
必然的に広さもお察しである。
弥生に三十分と言ったが、マジメに言って三十分あれば艦娘たちが寝泊りする寮まで含めて全て回れる、まあ本当に回るだけならだが。
それはともかく、探す候補はそれほどない。まだ着任の挨拶すらしていないので、寮などはまだ部屋を割り振ってないし、出撃したわけでもないので、入居施設や補給所は無いだろう。
と、なると可能性としては…………。
「波止場か…………あとは食堂くらいか?」
ただ工廠を出たのが四時間も前である。あまりうろちょろしていれば職員の誰かが見ているだろうし、となれば一箇所にいる可能性は高い。四時間前、つまり十四時ごろだ。波止場にいる、となればすぐに見つかるだろうが、逆に食堂なら…………。
「全員昼食終えてすでに仕事に戻ってるだろうしな、可能性としては十分あり得る」
と言うかもうそれくらいしか思い浮かばない。
まあ違ったなら誰かに聞きながら探すか、と思いつつ食堂へと向かう。
今日も間宮さんの作る美味しそうな料理の匂いが…………。
「………………何?」
まだ六時だ。まだ六時である。軍隊である以上終業時間と言うのは無いが、休憩時間を各部署ごとに割り振ってある。だがその一番最初が七時だ。特に今日は出撃から艦娘たちが帰ってきたばかりなのでどこの部署もそれなりに忙しいはずである。
だと言うのに、こんな早い時間に誰が間宮さんに料理を注文しているのか。
「…………やはりここか?」
疑い半分、食堂の扉に手をかけ…………開く。
「いやー、美味しいわ。マジ美味しいわ、間宮さん、これ追加ねー」
机の上にどん、と置かれたカレー皿。
盛られたカレーライスにスプーンを突っ込みながら、合間合間にアイスティーをストロー口に飲みながらはしゃぐ少女がいた。
錆青磁と言うのだろうか? 青と緑の中間色に灰色を足したような少しくすんだ色の髪と瞳をした少女。
「………………何をしている?」
あまりの乱痴気振りに頭が痛くなりそうだったが、少女の後ろに立ちそう尋ねる。
自身の存在にようやく気づいたのか、少女が振り返り…………。
「あ…………忘れてた」
そんなことを口にした。
「チーッス、最上型重巡鈴谷でーす。よろしく~」
場所を変えて執務室。連れて来た少女に紹介を求めると、笑顔で少女がそう告げる。
まるでこれまでの一幕が無かったかのような晴れ晴れな笑顔。
自身はおろか、弥生までもため息を吐く。
「…………それで、釈明を聞こうか」
「え? 何の?」
冗談なのか、それとも本気なのか。本気なら
「いやー、建造終わって工廠から出たらちょうど二時前でさー。で、二時くらいってちょうど眠くなる時間帯じゃん? で、ちょっと食堂あったんで昼寝してたらさ、気づいたら五時過ぎてるわけ、で、そしたら私、昼御飯も食べてないわけじゃん? お腹空いちゃってさー。んで、ちょっと間宮さんに頼んでカレー作ってもらったらこれが美味しくてさ、気づいたらあんな時間で、提督のとこ行くのすっかり忘れちゃってたわ」
あっけからん、と言う少女…………鈴谷に、自身も、弥生も、また一つため息を吐く。
「いやーごめんごめん、まあ出撃するなら任せてよ、ガンガン働くからさ」
ニヒヒ、と笑いながらそう続けた鈴谷。まあ性格に難ありだが、やる気はあるようなので、良しとしておく。
「…………はあ、まあいい。今この鎮守府の第一艦隊は駆逐艦二隻、軽空母一隻、潜水艦一隻の計四隻だけだ。必然的に鈴谷、貴君には第一艦隊に入ってもらう」
「ほぉー。第一艦隊か、それは光栄だねぇ。っていうかさぁ、四隻しかいないのに、そのうちの一隻が潜水艦ってマジあり得なくない?」
そんなことは言われなくても分かっている、そう返すと、まあそうだよねぇ、と笑う。
先ほどから思っていたが、どうやらかなり陽気な性格をしているようだ。まあ暗いよりはずっと良いので、微妙に評価プラスである。
「これで空母と重巡…………航空戦と砲撃戦の要が揃ったな。弥生、今度こそ…………勝つぞ」
隣に佇む秘書艦の少女にそっと呟き…………弥生が、頷いた。
* * *
視界の中に、敵の姿を収める。
前回この距離で敵は撃ってきた。油断はできない。
「全艦隊警戒態勢。敵との交戦に入ります」
前回の敗北が身に染みている鈴谷以外は鋭い目つきで前方を見据える。
「…………さてさて、突撃いたしましょう」
くすり、と鈴谷が笑い、前方へと砲を向ける。戦艦ならまだしも、重巡洋艦が撃てる距離ではない。
そのことに疑問を思うよりも先に。
ドォォォォン
響く砲撃音。空気を切り裂き、飛来する敵の砲撃…………けれど。
「うりゃー」
ドォォンパァァァァァァン
鈴谷が放った砲撃が、敵の砲撃と中空で激突し、爆発を起こす。
「ふっふーん、どーんなもんよ」
目を丸くする。砲撃を砲撃で撃ち落す、などと言う芸当を見せた目の前の仲間を見る。
けれどすぐに前を向く。
行ける。
そう思った。
「全艦、攻撃開始、です!」
いつもより少しだけ声に篭った感情。それは前回の敗北による士気の低下を払拭するだけの熱があった。
それに中てられたかのように、イムヤも、卯月も、瑞鳳も意気揚々と前進を開始する。
「ふふーん、んじゃ、一発目は鈴谷にまっかせなさーい!」
まだ僅かに遠い敵へと向けて鈴谷が砲を構える。と、同時。
ドォォォォォ
砲が火を噴き、砲撃を放つ。放たれた砲撃は、狙いを過たず、敵の戦艦へと直撃する。
戦艦ル級の右肩部分が吹き飛ぶ。そこに取り付けられていた砲がまとめて吹き飛ばされ、右側の武装がその腕ごと沈んでいく。
一気にその武装の半分近くをごっそりと失った戦艦ル級に、次いで瑞鳳の艦載機が襲い掛かる。
「さあ、行きなさい!」
戦艦ル級が対空火砲を放つが、片側しかないその火砲は過日よりも大幅に効果を減少させ、八割以上の艦載機がル級たちの傍まで飛んできていた。
「アウトレンジ……………………決めます!!」
艦載機から次々と放たれる爆弾と魚雷が三艦二列で密集していた敵へと襲いかかる。
ドドドドドドドドドォォォォォォォ
航空攻撃特有の轟音が鳴り響き、敵の戦艦ル級に追撃のダメージを与え大破させ、敵の水雷戦隊にも大きなダメージを与えその身を中破や小破させる。
「今度は………………貫く、ぴょん!」
すでに半壊しかけた敵に対し、さらに接近していくのは自身……弥生と、卯月だ。
前回は戦艦に全て弾かれた単装砲だが。
「第30駆逐隊を、なめないで!」
卯月と二人、敵の装甲の薄い部分を狙い、放つ。単装砲が火を噴き、戦艦ル級の体に致命的な一撃が突き刺さる。
崩れ落ち、沈むル級。だが油断はしない、前回はこの敵たちに完敗した。
だから今度は、完全勝利で持って、その汚名を返上しなければならない。
「卯月」
「弥生!」
卯月の名を呼ぶ、分かっているとばかりに卯月も自身を呼ぶ。
さっと二手に散開する。そうして出来たのは、敵艦隊と…………そして鈴谷の向けた砲との射線。
「ほら、次行っちゃうよ!」
そうして放たれる火砲。けれどその砲撃は敵の僅か手前で着水し、飛沫を跳ね上げる。
外れた、そう自身が思った瞬間。
ブゥゥゥゥン、と聞こえるエンジン音。
ふと空を見れば、そこにいたのは鈴谷の装備だった水上偵察機。
「着弾観測…………今度は外さないよ! っと」
そうして砲身を僅かに上へと向け、再度火砲を放つ。
水上偵察機によって着弾の観測を行い、目標とのズレを修正させた砲撃は、今度こそ敵の雷巡へと直撃し、一撃で轟沈させる。
凄い、と思う間も無く、上空から急降下してきた艦載機…………九九式艦爆が敵軽巡の真上へと爆弾を落とし、敵軽巡を轟沈させる。
「数は少なくても、精鋭なんだから!」
遠くで、ぐっ、と拳を握る瑞鳳。そして笑う鈴谷。
ああ、負けてられない、と。
単装砲を発射。敵の駆逐艦を中破させる。
「…………やっぱり、火力、足りない、かも?」
駆逐艦だから仕方ないとは言え、いや、だからこそ、こちらが使えるのだが。
魚雷発射管に搭載された標準装備の魚雷を放とうとし…………。
直後、敵の駆逐艦二隻が爆発する。
「…………え…………?」
「おりょ?」
どうやら卯月ではないようで、驚いた顔をしている。
では誰が? と思った瞬間、海底から浮き上がってくる赤色。
それを見た瞬間、先ほどの攻撃が誰のものか、理解した。
「わお、大量、大量!」
一発の魚雷で二隻の駆逐艦をし止めたイムヤが満足気に呟き、こちらを見る。
「敵全機撃沈完了、ね!」
「………………はい」
少しだけ、トドメを持っていかれたな、と思ったが…………けれど全員無事で、カスリ傷を負うことも無く無事済んだと、ほっとし。
まあ、いいか。
そう思った。
* * *
「暇だ」
男がそう呟く。
男の座る椅子の前に置かれた机には、書類のようなものが山積みになっている。
にも関わらず男は呟く、
「暇だな」
サボり、ではない…………何故ならこの山のような書類はすでに男が目を通し、必要事項を書いている、つまり終わった仕事だからだ。
だから男の言うことは別に的外れでもなければ、非難されるようなことでもない。
「…………鬱陶しいですね、司令官。死にますか?」
けれど、そんな理屈は男の秘書艦には通じない。敬っていないわけでもないし、軽んじているわけでもない。だが、それでも男の態度は女にとって目に余った。
「だって暇だぜ」
「では、これをどうぞ」
そうして女が一枚の便箋を男へと渡す。
男がきょとん、とした表情でそれを見て、陽光にかざし、表へ裏へと返しながらその便箋を見つめる。
「これは?」
「大本営からです」
女の端的な言葉に、訝しげな男は、やがて便箋を破り中に入っていた用紙を取り出す。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
数秒、あるいは十数秒の沈黙。やがて男が口を開く。
「…………なんだこりゃ」
「何が書いてあったのですか?」
そう尋ねる女に、男が用紙を投げ渡す。その行動に一瞬、女が眉目を潜めるが、けれど口を開くことなく用紙へと視線を落とし…………。
「っ!? これは」
すぐに男へと視線をやる。女の視線を受けて、けれど男は動かない。
「司令官」
女が男を呼ぶ。男がちらり、と自身の秘書艦を見る。
「…………………………不知火、第二艦隊に出撃の準備をさせろ」
男の視線を受け、言葉を受け、女が頷く。
「了解しました、司令官」
部屋から出て行く女を見送り、一人残された男はぽつり、呟く。
「きなくさいな…………………………アイツは大丈夫か?」
近くの鎮守府にいる自身の元部下を思い出し、そう呟いた。
【戦果】
『第一艦隊』
旗艦 弥生 Lv5 ちょっと残念だったけど、みんな無事で、良かった。
二番艦 伊168 Lv4 海のスナイパーイムヤにお任せ!
三番艦 瑞鳳 Lv4 しれいかぁん、ちゃんとした艦載機開発しようよぉ。
四番艦 卯月改 Lv45 やっとメイン火力が来たぴょん!
五番艦 鈴谷 Lv3 MVP ちーっす、砲撃戦なら鈴谷に任せてよ。
六番艦 None
弥生のデレが近づいてきた。
多分だけど、1-4海域やったら、遠征隊の話一話やって、そしたら2-1~2-3までカットします。
正直、作者としても、すごくスロウペースなのは自覚してるので。
そしてようやく鈴谷出せた、本当なら瑞鳳より先に出す予定だったのに、なかなかこいつがうちの鎮守府にやってこないから、出せなかった。
ようやく出せましたよ、本当に。
そしてようやくイベントに必要な艦娘が揃いました。
これでいつでも弥生のイベントに入れます。
いつにしようかなあ。
そういえば、この小説の推薦文あったんですけど、ふと見たら消えてましたね。
うーん、取り消されるほど酷い内容書いたつもりなかったんですけど、好みに合わなかったんですかね。ちょっと残念。