新人提督が弥生とケッコンカッコカリしたりするまでの話   作:水代

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弥生可愛いよ、弥生。


十一話 新人提督が火力不足に悩んだりする話

 

 ズドォォォォォ

 

「……………………え?」

 

 遠くに視認できた敵の姿。まだ魚雷どころか、瑞鳳が艦載機を発艦させるより尚遠いその距離で。

 唐突に響いた砲撃音。そして、直後に感じた衝撃。

「「「弥生っ?!」」」

 駆逐艦の脆い装甲などあっさりと突き破り、腹部に走る鈍痛。

 それでも崩れ落ちることはせず、左手で腹部を押さえて前方を睨み付ける。

「弥生は…………大丈夫、だから…………砲雷撃戦…………始めて、ください」

 自身のその言葉に、三人が僅かに躊躇し、けれど頷いて進撃する。

 けれど、まだ先にいる敵の姿は遠い。

 

 そう…………悲しくなるほどに、遠かった。

 

「全艦載機発艦!」

「よくも弥生を…………許さないぴょん!」

 瑞鳳の艦載機が空へと飛び立つ。卯月がまだ駆逐艦の間合いより一つ遠いその距離でけれど敵へと狙いを定める。

 けれど、それでも。

 

 ズドァァァン

 

 ソレの主砲から放たれる砲撃一発で、艦載機の半数が落ちる。

 

 カキンカキン

 

 確かにソレへと直撃したはずの卯月の砲撃は、けれどソレの表面を軽快を音で打つだけに止まり、傷一つ与えない。

 そしてこちらの攻撃が止められたと同時に、反撃とばかりに放たれる三発目の砲撃。

 

 スドォォォォォォン

 

「きゃああああああああ!!」

 砲撃が瑞鳳に直撃し、その機能を半分以上一度に停止に追い込む。完全なる大破だ。

 けれどそれで終わったのは、ソレの攻撃だけだ、まだ他にも敵は四体もいる。

 雷巡チ級、軽巡ヘ級、駆逐イ級、駆逐イ級。

 決して砲撃戦に強い艦種とは言えない、だが逆に…………。

 

 シュゥゥゥゥゥ…………ダァァァァン

 

「きゃっ! 被弾?! 急速潜行、急いで!」

 潜水艦には滅法強い艦種たちである。四隻もの相手からの集中攻撃に、イムヤが被弾、中破する。

 段々近づく敵の姿…………判断は一瞬だった。

「全艦、反転…………撤退します」

 雷撃戦を行う余裕はすでに無い。そもそも、現状、こちらで雷撃をできるのが卯月単艦であり、敵は四隻…………しかも雷装に特化した雷巡までいると言う時点でもう勝負にならない。

 反転、逃走する自身たちを、けれど敵は追ってこない。深海棲艦は基本的に自分たちの縄張りから動くことは無い。だからきっと、次にまたここにやってくる時もソレらはいるのだろう。

 ギリッ、と僅かに食いしばった歯を軋らせる。仲間を見れば自身…………弥生が中破、瑞鳳が大破、イムヤが中破、卯月もここに来るまでにいくらか被弾して小破寸前。対して敵中枢艦隊の被害らしい被害は零…………完全なる敗北である。

「……………………どうすれば」

 思うのは、一つ。どうすれば、あの敵たちを倒せるのか…………司令官に勝利の報告を届けることができるのか。

「……………………負けね。私たちの、完敗」

 イムヤが体を重そうに引きずりながらそう呟く。そしてイムヤのその呟きに、全員が黙り込む。

 分かっていた、完敗だ。完全に負けた。歯が立たなかった。

 分かっているから、こんなにも悔しい。

 そして考える、どうしてこれほどまでに一方的に負けたのか。

 そしてすぐに理由に思い当たる。

「…………アイツさえいなければ」

 瑞鳳がそう呟く、失った艦載機の数を数えれば、両手の指の数でも足りない。空母にとっての艦載機とは生命線である。空母が空母であることの最大の理由。それをあんなにも一方的に蹴散らされた彼女の心境は、駆逐艦の自分では計り知れない。

 

 戦艦ル級。

 

 たった一隻で、こちらの艦隊をここまで打ちのめした最大の敵の名だ。

 駆逐艦の砲撃程度ではびくともしない装甲と、軽空母よりもさらに遠い所から撃ってくる射程、そして全艦種の中で最強と呼ばれる砲撃戦時の火力。そこにさらに、対空能力までをも兼ね備えた最強の艦種。唯一の欠点は雷撃戦能力が無いこと、正確には雷撃戦能力の全てを砲撃戦へと特化させてしまった艦。

 撃たれる前に撃ち敵を殲滅する、そんな戦術の理想のようなことが本当にできてしまう艦。

 もしアレの装甲を貫ける攻撃があるとすれば、瑞鳳の航空爆撃か、自分たち駆逐艦の魚雷だけだろう。

 それもただの魚雷ではダメだ…………至近距離から直撃させる、つまり夜戦だ。だが魚雷をそんな距離から当てるということは必然的に敵に肉薄している必要がある。

 あの距離から撃たれて中破するようなあの砲撃を放つ敵を相手に…………近接しなければならないのだ。

 しかも敵は戦艦ル級だけではないのだ、そんなことをすれば敵の水雷戦隊に囲まれてこちらがやられるだけだろう。

 

 つまるところ、こちらの弱点は明白だった。

 

 

 * * *

 

「…………戦艦か、重巡が必要、です」

 第一艦隊の帰投、そして入渠が完了してからやってきた弥生の出してきた報告書を見て、思わず唸る。

 小破一隻、中破二隻、大破一隻。敵中枢艦隊撃破数零。

 控えめに言って惨敗。はっきり言えば、完敗だ。

 まだ錬度も高くないとは言え、序盤と言われるこの海域…………製油所地帯沿岸がこの結果。

 もっと根本的な間違っている…………足りていないと言わざるを得ない。

 そして何が足りていないのかは自分にも、そして弥生たちにも分かっていた。

「…………砲戦火力、か」

 今回の場合、見るべきは先制攻撃による弥生の中破…………ではない。それは最早事故のようなものだ。艦載機を発艦する間合いよりさらに遠くから撃ってきた一撃など早々当たるものではない。今回は偶然当たっただけだし、錬度があがればそれすらも回避するだけの技術を身に付けれるだろう。

 だがその後が問題だ、互いが砲撃戦の射程に入った後、敵の戦艦にまともなダメージを与えられていない。戦艦が盾になったせいで、随伴艦である他の水雷戦隊も倒せていない。

 それは全て戦艦を好き放題させていることによる悪循環だ。

 本来なら艦載機で敵が足止めを食らっている隙にでも随伴艦を落とし、接近して雷撃、これで戦艦だろうと駆逐艦でも倒せたはずだ。

 ならば何故本来の結果に至らなかったか。

 

 問題点は二つある。

 

 一つは瑞鳳が使う艦載機。

 本来空母の航空攻撃とは、一撃で戦艦を中破、ないし大破に追い込むほどの強力なものだ。

 だがそれは空母の錬度を上げ、さらに性能の良い艦載機を使ってこそ、である。

 瑞鳳が今使っている艦載機は、瑞鳳が初期装備として持っている九九式艦爆と九七式艦攻の二種類だけだ。

 これまで戦って来た敵は皆、対空能力の低い敵ばかりであった故に問題はなかった。

 だが戦艦は艦戦を載せた空母を除けば、最強の対空能力を持つ艦だ。

 故にこれまで通りの航空攻撃は期待できない。

 火力だけで言えば、我が艦隊最強のはずの瑞鳳が封じられてしまっている、それはつまり。

 

「問題二つ目…………砲撃戦火力の圧倒的な不足、か」

 

 駆逐艦と潜水艦は魚雷こそが主武装だ。その最大の威力を発揮するのは近距離戦闘である。

 だがそこまで接近する間に、当然ながら敵からは砲火を浴びせられることになる。

 それを少しでも減らすのが瑞鳳の役目だった。開幕の航空戦での先制攻撃、そして砲撃戦時に航空攻撃によって敵に数を減らし、少しでも駆逐艦が敵に近づくのを援護する。戦艦も重巡洋艦もいない我が鎮守府では敵を殲滅するためには魚雷を敵に撃ち込むしかない。最大火力が瑞鳳とは言え、初期装備の艦載機二種に加え単艦では数の暴力には勝てない。敵を倒しきる前に相手の水雷戦隊の魚雷で大破してしまうだけだ。

 だからこれまでの攻撃パターンとしては、砲撃戦で一隻でも多く相手の水雷戦隊を魚雷発射不可能…………つまり、中破以上に追い込みながら、こちらの駆逐艦、潜水艦を無傷で相手に接近させるか、と言うものだった。

 

 だがそこに戦艦が現れた。

 

 こちらの砲撃戦の間合いよりさらに遠くから駆逐艦どころか、軽空母すら一撃で大破に追い込み、こちらの最大火力である瑞鳳の艦載機をあっさりと封じてしまう敵。

 故にこちらも戦術を変える必要があった。

「個人的に、大艦巨砲主義ってのは性に合わないんだがな」

 火力の高いほうが勝つ…………そんなもの、戦術の意味が無いではないか。と言うか、そんなものが絶対では、うちの鎮守府はやっていけない。

 だから、考えなくてはならない。あくまで今のメインは駆逐艦と潜水艦の雷撃。

 だが同時に、主義主張に拘って、選択肢を狭めるようなバカらしいことはしたくない。

「……………………やっぱり、回す必要があるな、戦艦レシピ」

 

 敵戦艦に対して対抗するには二つ方法がある。

 

 一つは艦載機の質を上げること。開発によって質の高い艦載機、彗星や天山などを作り、瑞鳳に持たせる。

 対空が高いとは言え、敵に空母がいない以上制空権は簡単に確保できるのだ、艦載機の質が上がればいかようにも攻撃を届かせる方法はある。

 メリットは装備を変えるだけなので、現状維持のまま戦力の底上げをできること。つまり、艦が増えないので消費も増えない。ある意味、現在の自身の鎮守府の財布事情には優しいかもしれない。

 デメリットは何が出るか分からないこと。開発と言うのは建造と違って失敗が存在する。失敗すれば資源だけを無駄に浪費するし、仮に成功したとしても質の高い装備は基本的に出にくい、それこそ現状を同じ最低レベルの装備ができるかもしれない。もし質の高い装備が出るまで粘れば、この鎮守府の乏しい資源などあっと言う間に枯渇する。つまり開発できる回数の少なさに対して、開発で出る装備の品質が保証できない。最悪、低レベルな装備だけ無駄に増え、資源だけ無くなると言う目も当てられない状況になるかもしれない。

 

 一つは戦艦レシピを回し、高火力な艦を建造すること。

 そもそも瑞鳳単艦に砲撃戦を任せているような状況に問題があるのだ、だったらこれは抜本的な改善策と言えるかもしれない。

 メリットは開発と違い、確実性が高いこと。戦艦レシピで出てくるのは戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦の三種類。割合はそれぞれ三割以上、六割以上、一割未満と言われている。つまり、戦艦が重巡、目的の艦が出る確率は9割を超えるかなり確実性の高いものだ。

 デメリットは、戦艦レシピは非常に高コストだと言うことだ。現在我が鎮守府の資源備蓄は燃料1000、弾薬900、鋼材700、ボーキサイト600。遠征と任務達成によりかき集めた現状の精一杯だ。対して戦艦レシピは燃料400、弾薬30、鋼材600、ボーキサイト30。つまり一度回せば、燃料は半分近くに減り、鋼材に至ってはほぼ枯渇する。

 しかも建造しただけで終わりではない、戦艦、重巡は一戦ごとの消費も非常に高コストだ。大破などしようものなら、鋼材が賄い切れない可能性だってある。

 

 つまり、どちらも一長一短なリスクを背負っている。

 

 どちらを選ぶ、と言うのに正解の選択肢は無い。

 だが、今回の場合、どちらを選ぶのかは決まっている。

 

「…………建造するぞ、弥生。戦艦レシピだ」

「…………了解、です」

 

 先ほども言ったがやることは建造だ。

 どちらにも正解は無いが、もう一つ遠いところから考えれば分かる。

 第一艦隊の数だ。装備を開発するのは、第一艦隊が埋まり、簡単に入れ替えができなくなってからで十分だ。

 敵の数は戦艦を入れて五隻、こちらは四隻。まずこの不利から解消していくのは火力以前の問題である。

「…………これで鋼材の残量が心もとないな」

 残り100、入渠の際に必要な分だけの鋼材は確保しておきたい、これから戦艦か重巡と言う高コスト艦が増えるのならば、尚更だ。

「夕張と卯月に頑張ってもらうか…………」

 すでに四度の遠征を経験し、旗艦としても大分頼りになってきた夕張。その夕張を補佐しつつ、肝心なところでミスを犯さないように立ち回ってくれている卯月。二人の息も大分合って、遠征もそろそろ合同でやる必要もなくなってきた。

「…………第二艦隊に組み込む艦の建造もそろそろ視野に入れるべきだな」

 とは思いつつ、今はまだ無理だろう、建造するほどの資源が余っていない。

「やれやれ…………まだしばらく厳しい運営が続きそうだな」

 弥生のいなくなった部屋で、弥生の出て行った扉をぼんやりと見つめる。

 秘書として共に仕事をこなしながら、旗艦として艦隊を率いる弥生には大分苦労をかけているな、と思う。

 だからと言って加減したりはしない。

 こんなペーペーの新人提督を、信じると、そう言ってくれたのは彼女だ。

 だからこそ、全力で運営する。そのために秘書艦である彼女には苦労をかけるかもしれないが。

 

 それが、彼女の信頼に応える、そのための自分の中でのたった一つの答えだ。

 

 




【戦果】

『第一艦隊』

旗艦  弥生   Lv5    司令官の……ために、頑張り……ます!   
二番艦 伊168 Lv4    数の暴力って怖いわね…………。
三番艦 瑞鳳   Lv4    わ、私の艦載機が、そんなぁ…………。
四番艦 卯月改  Lv45 MVP 味方の数が少なすぎだぴょん!
五番艦 None
六番艦 None

『第二艦隊』

【戦果】

旗艦  夕張   LV3   私、少しは旗艦として信頼してもらえているかしら?
二番艦 卯月改  Lv45   夕張さんとはもう仲良しだぴょん!
三番艦 None
四番艦 None
五番艦 None
六番艦 None




冷やし大和始めました。
と言うわけで、この小説の提督さんの鎮守府とは違って燃料6万、弾薬12万、鋼材11万、ボーキ5万と割と溜まってるうちの鎮守府では一昨日大和レシピを三回もイベント前に回すという暴挙に走りました。
活動報告にも書きましたが、うっかり大和さん出ちゃったりなんかしたせいで、レベリングして昨日Lv60で改造完了です。火力199とかパネェ。
あと5-2やってたらくまりんこ出ました。アイェェェェ?! ナンデ?! ミクマナンデェェェ?!と軽くびびった。

響二次のほうがさっぱり筆が乗らないので、気分転換にこっち書きました。

あと、告知です。

来週金曜日。7月11日は駆逐艦弥生の進水日です。作者的解釈だと進水日=誕生日なので、弥生二次で特別編書きます。せっかくのイベントだしね☆
何にしようかと前から迷ってたんですけど、昨日のアプデでビニールプールとビートセットが追加されてたので、水着回にします。

弥生ちゃんに水着きせたかったんだ!!!!!!!!!!!!!

仕方ないよね。
イメージしたのは、フリルついたセパレートタイプの薄紫色の水着。
可愛いね。イムヤとか考える必要ないけど、他の艦娘の水着何にしようかな。
そして提督の水着は何にしよう(待て

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