だからアタシは鬼じゃねぇっつってんだろうが!? 作:七日 八月
想定よりお気に入り登録数が多くてビックリ。
ありがとうございます。
あとここまで遅れた言い訳ですが……
自分PC無いと書けないマンなのに体調崩し気味で長時間PCの前に座れなかったもので……
以前ケータイでどうにか書こうとして途中で全滅したのが地味にトラウマなのです……
言い訳はここまでで、本編をどうぞ。
――走る、走る、森の中を、どこまでも速く、早く、眼前の
「ク、クソォッ! な、何で同族が俺の命を狙うんだよぉっ!?」
アタシから逃げ続けている
だってアタシ、お前らの同族じゃねぇし。
大体テメェは命乞いをした人間を見逃したりしたか? 折角のエサを逃がすワケねぇよなぁ、だってテメェは人喰い鬼だもんなぁ。
「そ、そうだ! 俺と組まねぇか!? あ、アンタの下にならついてやってもいいっ!! あの位の村なら、アンタとなら鬼狩りにバレる前に一網打尽だぜぇっ!?」
「………………ハァ……」
素晴らしい提案をしよう、とでも言わんばかりに戯言を抜かす
アタシは鬼が群れない事もその理由も知ってるし、隙を見せたアタシを喰うつもりなのも、その憎悪に野心たっぷりの目を見りゃ判る。
「チッ……」
……あぁ、胸糞が悪い、とっとと消えろ、
「――――……グレンテッセン」
疾走から更に加速し、高速で滑るように接近して抜刀し、鬼の両足を叩き斬りつつ背後に回り、足を失い落ちて来た鬼の体に追撃の一閃を叩き込み首を落とす、それで終わりだ。
「……お、前、その姿で、鬼じゃない……のか?」
「今際の際に気付けただけ褒めてやる……来世は屑に堕ちるんじゃねぇぞ」
塵になって消えていく鬼に背を向けつつそう呟きながらその場を去る、少し前に狩った雑魚鬼は気付かれる間もなく背後からアサギリで切り刻んで終わりだったが、今回は少し手間取った。
そこそこ人間を食っていたせいで実力がついていたらしい、アタシの奇襲がバレてしまった……とはいえ、奇襲に気付けただけで結果はご覧の通りだが。
……この世界に来てから早ふた月、定期的に奴らの同族と勘違いされるのは、もう慣れた……
いや、鬼狩りの連中に間違えられるのは半分仕方ないと思うが、鬼にまで勘違いされる事があるのは何なんだ。
そのうち半分くらいは匂いで気付いて「姿を真似て誤魔化せる訳無いだろ」と馬鹿にした上で襲い掛かって来やがった、別にコレはテメェらの真似じゃねぇし生まれつきだクソが!
さて、そんなアタシが今居る場所はとある農村の近くにある裏山だ。
鬼狩りから逃げつつ情報収集をしている最中、どうも鬼の被害に遭い始めている雰囲気を感じたので鬼狩りの代わりに奴らを狩ろうと思い立ち、今しがた終えた所だ。
鬼狩り……鬼殺隊の情報収集能力を侮っているわけじゃないが、どうしてもその性質上後手に回らざるをえないからな。
恐らくアイツらがこの村の状況に気付くのはもっと被害が酷くなってからだったろう、うちの
ま、ともかくコレで一件落着だ、今後ヨソから
ちなみに今のアタシの格好は『ケンランバカマ紅』、PSO2の和装シリーズの一つだ。一応この世界の時代に合った服装をチョイスした。
今は外していたが、日中は『自由惑星……なんちゃらベレー帽*2』を頭に被って角をどうにか誤魔化している。
ぶっちゃけ他の手持ちの和装は『ヒメナギセイカイ紅*3』ぐらいしか無かったからな。
まっ、現状を考えれば十分及第点だろ。
ただ、服装は問題ない筈なんだが、結構視線が集中するんだよなぁ……髪色が明るめの青みがかったグレーに緋色と山吹色のオッドアイの時点でもうどうしようもねぇか。
正直言うと普段任務中に着てた『アドミラマリーネ曜*4』とか着たいトコだったんだけどな。
……この時代の軍やら警察やらに目を付けられるのはマジで面倒だからなぁ……我慢我慢。
「はぁ……メンドくさ……」
あぁ、あの頃が懐かしい、服装にケチをつけられる心配もないどころか、周りのオモシロコーデで笑っていたり、ビシッとキメたコーデでクエストに行ったり……まぁ、それは
「……思えば随分遠くへ来たモンだ」
元々アタシはただの人間だった、それがある時気付けば着の身着のままで見知らぬ土地に放り出され、そこで仲間と共に世界を元に戻す戦いに身を投じたりして……全てを終えたと思えば、今度はアークスシップの中。
前の世界でどうにか日銭を稼いでネカフェ暮らしをしてる最中、元の世界のPSO2のアカウントが何故か使えた時から嫌な予感はしていたが、まさか本当にオラクルに飛ばされるとは思わなかったな、それも今度はプレイヤーキャラクターに転生と来たもんだ。
そう、この『セキレイ』という身体は手塩にかけて育て上げた自キャラだった。装備品もアイテムもまるっと引継ぎだ、至れり尽くせりだ、世界が世界じゃなけりゃな!!
ちなみに名前の由来は鳥の『鶺鴒』じゃなくてアタシの本名が『
大丈夫だ、(誰だろうと鳥の方しか連想しないから何も)問題ない。
いやぁそれにしてもあの時は参ったね、立場がゲーム時代でいう
本当に、一歩間違えりゃどうなってた事か……そこら辺を実はこっそりフォローしてくれてたらしいシオン*7には、絶対に足を向けて寝れないね。
結果的に、プレイヤーキャラが二人に増えたような状況を生かして救えなかった筈の命を救えたりしたからな。
そう、死ぬはずだったヤツをいっぱい救って来た、オラクルでも、その前の世界でも。
とにかく必死だった。死んでしまうキャラがかわいそうだったからとか、もしこのキャラがこの時も生きていればどんな
アタシ自身が今のこういう状況に置かれる事になる前、
そうやって誰かを救おうと、必死に抗い続けてきた、だから――――
「――怜さん、どうかしたの? なんだか少し黄昏れていたみたいだけれど……」
「ん? あぁ、昔の事を思い出してただけさ、大した事ぁねぇよ
――――
――胡蝶カナエ、原作『鬼滅の刃』で蟲柱・胡蝶しのぶの姉で、花柱
作中、主人公の物語が始まった時点で既に故人、回想等に出てくるだけだったが、それでも十分に印象を残したキャラクターだった。
漫画の時点であれだったんだ、実物に会っちまえばそりゃあますます印象深くなる。出会い方にしても、他の鬼狩りの連中と比べるまでもなくずいぶんと穏やかだったからな。
因みにアタシはカナエに『セキレイ』ではなく『関 怜』で名乗っている、今でもこっちがアタシの名前だって思ってるし、此処は日本だからな。
「ていうか、何でここに……あぁ、さっき
ニヤリと笑いつつそう言って、少し皮肉が過ぎたかな、と反省しつつカナエを見やると驚いたような顔をした後に目を伏せてしまった。あっ……
「……そう、あの村も既に鬼の被害に遭っていたのね……」
……そんな顔をさせるつもりはなかったんだけどな……言葉選び、間違えちまった。
「悪い、皮肉を言うつもりじゃなかったんだ……」
「……ううん、良いの、間に合わなかった事実は変わらないもの」
あークソ! 口は災いの元とは言うが、どうしてこうアタシは「クスクス……」あン……?
「……おい、カナエ? お前まさか……」
「ごめんなさいね? でも先に皮肉を言ったのは怜さんよ?」
どうやらアタシはカナエに弄ばれたらしい……まぁ、全く気にしていないワケじゃなさそうだが、切り替えって大事だしな、うん。
……別に騙された事なんざ気にしてねぇし。
「もう、そんな拗ねたような顔をしないで? からかったのは私が悪かったから」
「別に気にしてないったら気にしてないしィッ!! ……で!? 用件は何なんだよ!?」
そうだよ!! 気にしてないったら無いんだよ!! 何度でも言ってやる! 気にしてないっ!!
「あらあら……すっかりご機嫌斜めね、これじゃあ交渉どころじゃないわね」
「あン? 交渉? ……あぁ、あの件か」
「そうよ、どう? 考えてくれたかしら?」
あの件、アタシはずっとカナエから鬼殺隊へ勧誘され続けている。どうやらコイツの独断ではなく鬼殺隊の当主からの密命のようなのだが、アタシの答えは決まっている。
「悪いけどその話は断ったはずだ。アタシが鬼じゃないのはありとあらゆる手段で証明したが、未だに鬼狩りに襲われる件も気に入らないしねぇ」
「それは、本当に申し訳ないと思ってるわ……でも怜さんが「あのな」……?」
そろそろアタシの立場をはっきりとさせるべきなんだろう、半端な回答で避けてきたから変に期待させちまったみたいだが、その期待に応える事は絶対に無い。
「悪いが、アタシもこれでとあるデカい組織に身を置いてる身なんだ、鞍替えは出来んし、する気もない」
――だってアタシは、アークスだから。
水と油とまでは言わない、だが相容れることは決して無い、日本ってのはそういう国だ、アタシがかつて生きていた時代も、この時代も変わりはしない。
自分達と違うものを極端に嫌う、嫌悪する、排他する。曖昧な表現が得意だから外から見たら気付きにくいだけ、お客様なら丁寧に招くが、そうでなけりゃ村八分だ。
「ついでに言うと、アタシの肩書きもお前らで言う所の柱みたいなモンなんでね、後は判るだろう?」
「……!? そう、だったのね。道理で強い筈だわ……」
アタシは本来居る筈の無かった存在、居る筈の無かった
お陰さまで気付けば英雄の一角だ、アタシは英雄とは程遠い存在なのに。
それでもオラクルの皆は、そんなアタシを大事な仲間だと、友だと言ってくれる。そんな仲間達が、戦友達が、アタシにとっちゃ掛け替えのない大事なモンなんだ。
だからアタシは、鬼を狩る事はすれど鬼殺隊に所属する気は欠片も無い、二束の草鞋を履く気は無い。気持ちの問題と言われるかもしれないが、これって結構大事な事なんだ、自分が何者かを見失わない為に。
大体、
だが、アタシと鬼殺隊じゃ鬼に対する感情が違いすぎる。
あいつらは『鬼』に対して強い気持ちを持っている、熱量を持っている。これ以上被害を増やさない為とか、同じ思いをする人を増やさない為とか、鬼への復讐心とか、色々あるが、アタシには『鬼』に対するソレが無い。そういう熱量の違いは、いずれ大きな軋轢を生む。
アタシは、アークスだ。現地の危険生物の排除による生態系の保護・維持が
仕事に対する使命感とかやる気、熱意はあれど、鬼に対するスタンスはどちらかと言えば
そして、アタシ自身の『理不尽な死に対する抵抗の意思』が『全ての鬼』に向く事は無い。アタシが救いたいと思っても救えないヤツは居る、それを嫌というほど経験して、理解しているから。
だから、
「ま、そういうわけで、だ――」
「残念、ふられちゃったわね……」
「――外部協力者って形なら、手を貸してやれるぜ?」
コイツらとしっかりと足並みを揃えるのは、最後の最後だけだ。
「……えっ?」
アタシの言葉を聞いて呆けるカナエを見て、思わず盛大に笑ってしまった。
……別にさっきからかわれた仕返しじゃねぇぞ?
意外とセキレイちゃんは経験豊富です。
次回は恐らくカナエさん視点になる予定です。
ではまた。