IS〈インフィニット・ストラトス〉-IaI   作:SDデバイス

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 ▽▼▽

 

 夜が戻ってくる。

 

 風景が塗り変わったのは、ほんの僅かな間だけだ。

 陽色の光も、陽色の騎士剣も、まるで幻だったかのように溶けて消えていく。

 がしゃぁんと音を立てながらラファール・リヴァイヴが地面に崩れた。その装甲からは黒が一片残らず消失している。動き出す気配も予感も感じない。無力化できた、と判断していいだろう。

 白式の装甲が一斉にがばっと開いて、内部から蒸気が盛大に吹き出た。

 同時に機能は停止して、鋼鉄製の四肢が手足から重しに成り下がる。握るという動作すら保てなくなって、右手の先に握られていた欠けだらけでヒビだらけの雪片弐型が地面に落ち――る前に光に溶けた。続くように白式本体も消失する。今度こそ本当にエネルギー切れだろう。たぶん

 ところで白式が消えるということは、手足にくっついている鋼鉄の塊が消える訳で。

 そうなると俺の手足は本来の長さに戻る訳で。要するに落ちる落ちた痛い。

 ただ俺の口から悲鳴も文句も出なかった。

 出る余裕をまだ取り戻していなかった。

 一方で夜のアリーナはすっかり元の静けさを取り戻していたが。

 上を見上げれば空を隔てていた遮断シールドは何時の間にか消えていた。右を向けば何事もなかったかのように元通り開いている隔壁が見えた。

 左を向いて――目が合った。

 

「…………あ、あの、えと、あ、う」

 

 顔面蒼白なそいつは口をぱくぱくと開けて、何か喋ろうとしている事が伺える。

 けど聞こえてくるのは言葉に組み上がり損ねた声だけ。

 極度の緊張から解放されて放心状態真っ最中なんだろう。何せさっきまでほぼ生身で銃弾飛び交う中を振り回されていたんだし。むしろそんだけ致命的な綱渡りしといてこの程度で済む辺り、やっぱ根っこに芯がちゃんとあるんじゃねーか。

 さあて。

 今夜の騒ぎがこれで終わりという保証は何処にも無い。そもそもこいつの訳の判らん事情に関しては解決どころか進展すらしていないし。少なくともこの場でぼけっとしてても良いことなんざ一つもありゃしないだろう。当初の目的地である寮長室へとさっさと移動しておくに越したことはない。

「文句なら後で聞いてやっから、とりあえず立て。今の内に寮というか寮長室に転がり込ん、」

 立ち上がろうとしたら服の裾を思いっきり引っ張られた。

 すごく普通にコケそうになった。

 いつもの俺なら何しやがるてめえと怒鳴るとこであるが。つか怒鳴る気しか無かったが。そいつが顔を猛然と左右に振って、息を深く吸い込んで、吸い込んで――どうにもその様子が必死で、懸命だったから。文句は勝手に引っ込んだ。

 

「シャルロット」

 

 俺が思っていたよりずっと短く、そいつの決意は固まった。口から出たのは声じゃなくてちゃんと言葉で、単語の一文字では表せない何かが篭っている。

 

「名前、本当の。お母さんが付けてくれた私の名前。はじめまして織斑一夏くん。私はシャルロット・ルクレールです」

 

 絶え絶えで、ぎこちなく、あちこち色々ぼろぼろで、服は土埃まみれで、くしゃくしゃに歪んでいて、今にも泣き出しそうな、泣いていないのが不思議なくらいな有様。

 でも目の前に居るのは本物の、本当の――自分自身の笑顔を浮かべる女の子だった。

 

「じゃあ、改めてよろしくな」

「うん。よろしく、一夏」

 

 薄暗いアリーナの真ん中で互いにぼろぼろのまま。

 出会い直す様に、笑い合う。

 

 

 ▽▽▽

 

 彼女は世界規模での失踪者で、逃亡者。

 

 だから彼女が”どこに”いるのか誰も知らない。

 だから彼女は”どこにでも”いるかもしれない。

 

 木々が茂る山奥や、光すら届かぬ海の底かもしれない。寂れた廃墟の一角か、文明の光であふれた街の一角かもしれない。果てには地球の唯一の衛星の裏側かもしれない。

 どこにいてもおかしくない。けれども誰もどこに居るのか知らないから、何処に居るとも言い切れない。知っているのは当の本人たった一人だから。

 

 IS学園の学生寮の屋上だった。

 

 本来は転落を防ぐために設けられた柵の上に腰掛けている。

 ぽつんと”居る”彼女を、数多に配置された監視カメラは捉えない。”機械の目”でも”人の目”でも佇む彼女を見つけられない。認識できない。

 

「んー…………」

 

 その場には彼女だけ。周りに機材もウインドウも何もない。

 情報は直接脳髄に随時送られ続けて処理され続けている。柵に腰掛けて脚をぶらりぶらりと揺らしているだけに見えるも、彼女の中では膨大なデータの奔流で荒れ狂っている。

 彼女の脳髄の視界が陽色に輝く剣を捉えた。

 彼女の生身の視界の端で一瞬の夜明けが瞬いた。

 その輝きがまるで合図だったかのように。

 

 今回の『わるだくみ』は終わりを告げる。

 

 データの処理も同じく終わる。

 頭の中には端から端まで総て白式のステータス。コア侵食型簡易式無人機との接敵から戦闘終了までの、蓄積経験値の推移――端的に言えば『白式がどれだけ成長したか』。

 

「いまいち」

 

 結果を脳髄から飲み干して、結論。

 あくまでの事実確認のためだけに発された声に感情は一欠片もなく。確かに肉声であるのに、機械の音声と等しいほどに、もしくはそれ以下に味気無く。

 

「ちょこっとギリギリ狙いすぎたかなぁ。いやー失敗失敗」

 

 わかりやすい敵。

 逃げ出せない理由。

 容易く粉砕できてはいけない。

 圧倒的に蹂躙しても意味が無い。

 精神的な『必死』を引き出すために枷を適度にくくりつける。

 今のままでは力の限りを尽くしても最後のひと押しで”ほんの少し”だけ足りなくして。

 

 打倒するためにはもう一つ『先』へ行かねばならない”

 特殊な状況下での戦闘による蓄積経験値の増加――否、爆発。

 

「まいったなあ。予定ではとっくに二次移行(セカンド・シフト)までいってるはずなのに。全然足りないや……ダメな方向に想定の範囲外を行かれても困るよう」

 

 数値の増加は無い訳ではない。むしろ”これまで”に比べれば単純な数値では圧倒的に上回っている。が、予定よりは大幅に下回っている。正確にはあくまでも徹底的に予想通りで、『予想を超える』という目的には全く届いていない。

 唯一予想外といえば最後の現象。だがそれはこのタイミングで発露した事が『予想外』。結局は白式が元から(・・・)持っている機能の一つがオンになっただけに過ぎない。

 

「今回は”シチュエーション”にこだわってみたけど……結局『仲間割れ』に変わりはないからかな、あんま変わんなかったや。セッティングの手間を考えたらむしろマイナス。あーあー面倒だったのになあ」

 

 原因には明確な心当たりがあった。元々当初から影響を懸念していた事でもある。

 ならばそれを解決して臨んだのかというと、違う。わかっていても”どうしようもない”問題だった。自身では絶対に解決不可能だと既に自分自身が証明している。

 

 ならば他を変えればいいのだ。

 

 好き勝手に動かして引っ掻き回した出来上がったものがまともであるはずはなく。シナリオも登場人物も何もかもが不自然でちぐはぐで馬鹿げていた。無理矢理作り上げたから当たり前で、特殊性を優先したので狙い通りでもあった。

 とはいえ発端は彼女自身ではないのだ。

 そこまでは彼女に非は無い。発端”だけ”は。それから後は全部何もかも、

 

「もういーらない」

 

 ひょいと指先が持ち上がったのと同時に、宙にウインドウが一つ現れる。上から下へと指先がすーっと流れ、併せて項目の表示が切り替わっていく。

 ただの停止命令である。”支え”の総てを一斉に停止させただけ。成立している事がおかしい状況を力尽くで通していた、通すために用意していた総ての絡繰りを止めただけ。

 指先一つの行為がどれだけの影響を及ぼすか、彼女は考えたら推測できるし理解できる。

 けれども推測するという発想が無くて理解という事象に辿り着くこともない。

 だから呆気無く遂行されて。

 ここではないどこかで、恐慌が始まるのだ。

 

「ちーちゃんの足止めに送った方も全部やられちゃったみたいだし、今回はここまでだね。次は――月末の学年別トーナメントかな。その頃なら機体も治ってるし」

 

 でもそれはもう彼女の中ではもう終わってしまった事で。

 思考はただただ”次”のためだけにしか費やされない。

 彼女の脳髄の中で組み上げられていく予定の進行に追従して、誰も知らない遠い場所で無数のパーツが瞬く間に組み上がって形作られていく。

 尖ったフォルムの人型が一機、二機と増えていき、更にシルエットを肥大化させるように多種多様な装備が加えられていく。

 呟きながら考えながら生み出しながら、彼女の視線はずっと一点を向いている。

 より正しくはアリーナの内部の一つを恐ろしい精度で追従し続けている。だから厳密には彼女の視線は固定されておらず、常に微小に移動している。

 

 今までずっとそうしてきたように。

 遠く遠くに居るたった一人を追い続けている。

 

「またね。ばいばい」

 

 消える。

 酷く恐ろしく唐突に。速さを感じさせず、幻想的でもなく。違和感の類を植え付けるような光景。編集された映像が現実に適用されたかのように。フィルムを切って別のフォルムに繋げ直したかのように。

 

 ”居る”と”居ない”――事象そのものが切り替わったかのように。

 

 

 ▽▼▽

 

 誰とも会わず、何も起こらず。いっそ不気味なまでに静まり返った夜の学園を全速力で駆け抜けて寮へと帰ってきた。

 

 白式が力尽きているので帰りは当然徒歩、走り。だが飛ばないのにも関わらず俺の小脇には相変わらず人間が一人ぶら下がっている。

 何で抱えたままなのかって――シャルロットさんが腰が抜けて立てないって言いやがったからである。普通に全速力ならともかく、人間一人を小脇に抱えた状態での全速力なので心肺が深刻に辛い。かつてない酸素不足に地球外生命体みたいな呼吸で息を整えていると、小脇からか細い声。

「あの、本当にごめんね……一夏…………」

「心配すんな後できっちり取り立てるから。絶対取り立てるから、元はとってやるから覚悟しとけよてめえ…………!」

 辿り着いたはいいが、消灯時間はとっくに過ぎている。だもんで玄関から堂々と入る訳にはいかない。そりゃ入ろうと思えば入れるが、もし騒ぎになったら困る。なんで外からぐるーっと回って。ジャージ姿の女の子を小脇に抱えつつ寮長室に飛び込んだ。

 窓から。

 

「おりむーらせーんせ! こーんばんはぶぁっ!」

 

 迎撃された。

 落ちる先がベッドだったのが不幸中の幸いであろうか。

 

「そうか」

 

 部屋着代わりの教員ジャージ姿の織斑先生に、俺とシャルロットは知っている事とあった事をそっくりそのまんま話し終えた。正座で。

 無人機関連では千冬さんの表情に微かに変化があった。完全に機能停止した機体が再起動した事はさすがに想定外だったのか、また別に引っかかる点があったのか。どっちかは正直全然わからん。

 ただその他の部分は呆れも驚きも全くなくてすこぶるニュートラル。

「って事はやっぱ千冬ちゃん最初からこいつの性別は気付いてたんじゃねーか!」

「今の分は怪我が治った後にしてやる。ちゃんと覚えておけよ? なんなら指きりげんまんでもするか?」

「声がすっごく低い……ものすっごい怖い…………!」

 あと言ってないのに怪我してる事がばれてーら。血も止まってるし身体も問題なく動くから、パッと見じゃわからないと思うんだけど。理由を聞いたら『動作にコンマ台の遅れがある』とか理解できない類の答えが返って来そうである。

「ルクレールの問題はこちらであずかる。織斑、お前は保健室だ」

「今思いっきり夜中ですけど」

「問題ない。IS学園の保健室は24時間営業だからな」

「コンビニかよ……」

 いやIS学園は各国からIS操縦者の候補生を集めているのだから、そのくらいの備えは当然っちゃ当然なのかもしれねーが。

 とはいえ無理にこの場に残っている意味も理由も無いのだ。出来る事なんざ織斑先生が上手いこと問題を解決してくれるのを信じるくらいだし。むしろそんな当たり前のこと信じるまでもねーし。あれ本当にもう何もする事ねーな。

「全く。どいつもこいつも窓から出入りする……」

 入ってきた窓から再び外に出ると、後ろから千冬さんのぼやきの様な呟きが聞こえてきた。うん。出てから気付いたけど、帰りは普通にドアから出ても良かったな。

 てかその言い方だと俺達以前にも窓から入って出てった奴が居、

 

「一夏!」

 

 呼び止められて、振り返る。窓枠に手をかけて身を乗り出しているシャルロットと目が合った。言葉は続かない。迷うように、躊躇っている。何か言おうと呼び止めたけど何を言うかまで考えて無かったのか。

「…………」

「…………」

 互いに無言で、少し間。

 俺は織斑先生が今回の件を解決してくれると思っている。ただどう解決するのか知らない。聞いても教えてもらえるか微妙だし、聞いたからって何か出来る訳でもない。

 そして問題が解決したら、眼前のこいつはきっと学園から居なくなっている。『シャルル・ルクレール』なんて人間は本来存在しないから。

 だから、もしかしなくとも。

 こいつと直に顔を突き合わせて話すのは、これで最後かもしれない。

 

「ありがとう。私、一夏と会えてよかった……本当に、ありがとう」

「俺は散々だったけどな」

「私、君のそういうとこだけはやっぱり大っ嫌い!」

 

 言葉にそぐわぬ笑顔で言い切って、シャルロットは部屋の中に引っ込んだ。

 何か光ったけどきっとたぶんおそらく気のせい。部屋の中は見えないし、だから中に居るシャルロットがどんな顔で何してるかなんてわかんない。そーゆーことにしておく。

「お前の言うとおり。私を含め何人かは事態の異常さに気付いていたよ。『対策』もしていたんだがな、思った以上に動きが早く、異質だった」

 代わるように今度は千冬さんが身を乗り出してくる。

 一転して真面目な顔で真面目な話題。

 

「結局言い訳にしかならないが。わかっていても、わかっていたからこそ事前に止めなければいけなかった。今回の事は全面的にこちらの落ち度だよ。だから織斑、その――よくやった」

 

 と思ったら、珍しい顔で珍しい言葉。

 直後に話は終わりだと言わんばかりにぴしゃりと窓が閉められたが。

 うん。二人連続で言い逃げされたのが何か気に喰わない。俺ももうちょっと何か言――鍵かかってる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室に戻るのでもなく校舎に向かうのでもなく。人気のない夜道を進む。数分くらいあてもなく歩いてから、何もない場所で止まる。首を上に向けて見上げた空に雲は少なく、中途半端に欠けた月が視界に入った。

 

「よくは、やれてねえよ」

 

 呟きが意図せず勝手に漏れた。視線を落として右手に向ける。ぐーに握って、ぱーに開く。何の支障もなく動く。そりゃ無事なんだから当たり前だ。

 無人機の放ったビームは俺の身体を焼かなかったんだから。

 何故焼かなかったのかは、零落白夜が届いたからだ。

 零落白夜が届いたのは、シャルロットの助力があったからだ。

 つまり。

 

 俺一人だったら――届かなかった。

 

 あんだけかっこつけといて。

 あんだけ偉そうにのたまっといて――結局俺一人じゃ勝てなかった。最後の一押し。あの時、確かに、あと一歩は届いていなかった。届かないという確信があった。単純な事実として俺はあの時点で確かに敗北していた。傍らからエネルギーが流れてこなければ、零落白夜は消滅し、俺も白式もシャルロットもビームに飲み込まれて呆気無く、

 

 ぶるりと震えた。

 

 夜の寒さのせいではない。大体もう夜だからってそんな寒い季節でもない。

 手を握る。更に握る。強く握る。ぎりぎりと音がした。それでも力を込め続けて。けれども何も変わらない。

 俺が届かなかったという事実はもう、塗り変えられない。

 

「――――くそがッ!!」

 

 がしがしと頭をかきむしる。渦巻く感情を直接かき混ぜたいのに頭蓋が邪魔でしょうがない。仮に頭の中に指が届いても何の解決にもならないが、内側から溢れてくる衝動に突き動かされて止められない。

 わかってる、わかってるんだ。

 無敵とか全能とか万能とかなんて物語の中にしかありゃしない。どう足掻いてもどうしようもない事なんざいくらでもあるし起こりうる。生きてりゃ絶対巡ってくる。

 今までだって何度も何度もあった。文句を言っても悔しがっても時間の無駄で、それだけじゃ何の役にもたたないって体験して理解してる。

 だけどそれでも悔しい物は悔しいし、納得なんか出来ないしたくもない。心がそう感じるのは間違いじゃないし当たり前なんだよ。それに感情自体は絶対に必要なんだ。でなければ、きっとその場でずっと立ち止まってしまうから。

 

「…………だったら」

 

 ぴたりと、止まる。頭の中で一つの疑問が顔を出す。思考がその一つに瞬く前に塗り替えられる。さっきまでの激情は消えず、消えていないからこそ、出てきた疑問に意識の総てが釘付けになっている。

 

 ”だったら――――どんな(白式)なら勝てたんだ?”

 

 答えはない。他に誰もいないから当たり前だ。普段ならばシロが何かしらのリアクションを返してくれそうだが、復旧に専念しているのか音沙汰なし。

 立ち尽くして考える。自分で思っているよりもずっと多くずっと速く頭の中が荒れ狂って駆け巡っている不思議な感覚があった。脳細胞が軋みを上げるほど回転して、ねじ切れそうで。頭痛がする。視界が霞む。意識がぶつ切れになっている。それでも答えは見つからない。でも見つけようとする道程の途中で色んな物を拾い上げて噛みあうような組み上が、て――

 

 

 

「無様だな、織斑一夏」

 

 聞きなれぬ誰かの声で、感覚が一気に戻ってきた。目は景色を映して、耳は音を拾う。今までそれらが切れていた事に戻ってきて初めて気付く。慌てて首を巡らせて声の主を探す。少しだけ離れた位置にそいつは居て、”それら”があった。

 

「貴様は、今までどこで何をしていた……ッ!」

 

 ”山頂”に陣取った少女の言葉には明確な敵意と怒りが滲み出ているどころか、感情が固まって言葉になっているようだ。

 恐らく、三機分。その残骸。執拗なまでに徹底的に破壊された打鉄やラファールの残骸と思しき鉄屑。それらが折り重なって築かれた屍の山。

 IS学園内で騒ぎを起こすとして。最も厄介な人間が誰かといえば――間違いなく織斑千冬だろう。目的が何であれ、事が終わるまで織斑千冬に出てきてもらっては困る筈だ。だから”こいつら”は寮にある彼女の自室へ向かってここまで来た。

 相手が相手だからあの黒いラファールが目的を達するまでの、あくまで『足止め』程度だったのだろうけど。しかしそれでも彼女に害を及ぼす事に変わりはなく、億が一が起こらなかったとも言い切れない。

 結果的には足止めすら叶わなかったようだが。

 立ち塞がった、たった一人に敵わなかったから。

 

「確信したぞ。貴様も有象無象の一つでしか無い、消えろ。貴様程度には教官の側に在る資格は無い」

 

 すっと声から感情が消えた。鋭利なまでに冷たくなった声と態度で、少女が言葉を続ける。月の光に照らされた銀髪が揺れてきらめく一方で、片方だけの赤い瞳が俺を睨めつけて――

 

「私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

 見下して、いる。

 

 






半年以上控室で待機だったボーデヴィッヒさん

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