IS〈インフィニット・ストラトス〉-IaI   作:SDデバイス

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 ▼▼▼

 

 『人は一人では生きていけない』

 

 昔、そう言われた事がある。けれども当時の俺はその言葉を一ミリたりとも信じなかった。何故ならば。その言葉を吐いた俺のじいちゃんは、若い頃は自分がいかに優秀な”ヒモ”であったかを孫に自慢気に語る輩だったからである。ばあちゃんと出会った後は大分”物理的”に矯正されたようだが、それでもそんな過去をすげー胸張って話す辺り相当駄目だと思う。ていうか駄目だった。

 正直あの人は俺の人生で出会った中で最高の反面教師だと思う。いやまあ色々と学んだというか盗んだモノ()も多いので、感謝はしているのだが。

 なあ、じーちゃん。

 今なら理解できるわ。本当に、じいちゃんの言った通りだった。

 一人ぼっちって、あんなにも辛いんだな。

 誰も『俺』を知らない。

 誰も『俺』を認めてくれない。

 それどころか、誰もが『俺』に俺以外の他人を強いる。

 でも非があるのは『俺』の方だから、それを跳ね除ける事も出来ない。

 情けない話だが――世界の何もかもが苦痛同然だった。

 でも俺の足場は、存在の存続の証明は、在るのか無いのかすらも判別できない。だから奇跡的に続いている今を無駄にしないようにと、後悔しないよう生きると決めた。

 そうして決めてしまったら、やり遂げようとしてしまう。出来る出来ないを考えられる性質だったら、もうちょっと楽に生きられたよーな気がせんでもない。少なくとも心が軋む感じの苦痛のいくらかは感じずに済んだろう。

 声を掛けたのは本当に偶然だ。

 見過ごせないものが目に止まったら首を突っ込む、そう決めていた。とはいえ世界は広いから、目に入った事は完全な偶然だった。

 深入りする気も、させる気も無かったんだ。適当に悪意の矛先を散らして、連れ出して、駆けずり回って、溶けこませて。もう大丈夫だろうと思えたら、手を引くつもりだった。

 ”名前を呼ばれた”。

 君は本物の『織斑一夏』を知らなかった。

 だから君が俺を呼ぶ時、その言葉は間違いなく『俺』に向いていた。名前が偽りでも、それは間違いなく俺を示して求める言葉だった。

 名前を呼んでくれる、ただそれだけの事が。

 笑顔と併せた、その言葉が。

 

 それが、どれだけ『俺』にとって救いだったか。

 

 

 ――■■■

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 ――夢か。

 

 篠ノ之箒がベッドから起き上がって発した第一声がそれであった。

 それにしても変な夢であった。箒の想い人である織斑一夏が道のど真ん中で小柄な少女に背骨を力一杯反対方向に折り曲げられかけていたと思えば、そのまま起き上がって肩車に移行して談笑しながら何処かへ爆走していく。実に面妖な夢である。そうだ夢だ。こんなの夢であるに決まっている。夢以外の何だというのだ。

 

 しかし朝食の場、一夏の隣にはツインテール頭の小柄な少女が。

 

 ▽▼▽

 

「…………夢を、信じていたかった」

 

 何か箒が突然虚空を見つめて呟き出した。何だこれ怖い。

 今度は突然フフフ……とか笑い出した。何だこれ凄い怖い。

「相変わらず朝から容赦なく食うわねー……」

「成長期だからな!」

「それで済ませるには量が多すぎるってのよ。あんた常に最低二人分は食べてない?」

 箒の様子にこっそり怯えていたら、反対方向から声がかかる。そこには同年代女子に比べ、のびてないふくらんでない小柄なボディとツインテールのヘッドを持つ少女が一人。

 

 名前を鳳鈴音(ファン・リンイン)。

 

 響きでわかるがこいつは日本人ではなく中国人(チャイニーズ)。通称愛称は『鈴(りん)』。奇妙な『今』が始まって少し経ってから知り合い、以降何だかんだで今日まで友達な娘――それが鈴だ。

 もし俺が真っ当に『織斑一夏』だったのなら、鈴とは『幼馴染』である。いや鈴側からすれば俺も『幼馴染』なのだろうが、俺としては『幼い』と言える期間はとうの昔に過ぎ去っている。なので俺としちゃ普通の『馴染み』という感覚の方が強い。

 ちなみに鈴は中学の三学年が始まる辺りで突然引越し――自国である中国に帰国――してしまったので、大体一年ぶりの再会だったりする。

 

 一年。

 

 この期間が人によって長いか短いかは意見が別れるところだが、再会がこんなにも嬉しい辺り俺は鈴の居ない一年を思いの外長く感じていたらしい。食が進むのもテンションがやたら上がってるからである。いや食事量が多いのは『今』の俺の仕様でもあるが。

「やはり伸びるためには食事量なのかしらね……!」

「信じて頑張れば、きっとなんとかなるってー」

「私の目見て今の言葉もう一回言ってみなさいよ」

「わーいきょうもごはんがおいしいなー」

 それにしてもこいつ本当全然変わってねー。

 昨日は見た目に対する感想だが、こうやって話してみると改めてそう思う。まあ見た目も本当にそのまんまなんだが。身長もその他”色々”も見事に一年前と変化が無い。

 いや、一年程度で劇的に変わったら怖いか。しかし身長は伸びて欲しいと思うが――個人的には他のというかある部分は成長しない方が嬉しいです。そこだけはそのままの君でいて。その方がきっといい絶対いい。

「――情け無用!」

「ピンポイントで俺の好物を!?」

 可能な限り大盛りにした俺の朝飯から、鈴は的確に俺の好物を奪い去っていく。付き合いの年月が長いせいか俺の好みを理解してやがるのだ。

「うわーなんて事をするんだー。こうなるだろうと思って激辛にしておいたベーコンを的確に奪い去っていくなんてー」

「ごフぅッ!?」

 理解が深いのが、お前だけだと思うなよ。

 味覚的な意味の爆発の直撃を食らい、鈴は目を白黒させながら口を押さえてもがき苦しむ。気のせいか頭の両側のリボンも力なく垂れているように見える。とりあえず水の入ったコップを押しやっておいた。

 

「いちかー、ちょっと口開けてー?」

 

 数十秒程経って復活した鈴が猫撫で声と花咲くような笑顔でそう言った。

 手に、フタを取り去った醤油の瓶を持ちながら。

「直!? せめて何かに仕込むとかいう発想をしろよ!!」

「あ、け、てっ」

 流しこむ気だ! こいつ流しこむ気だよ!!

「いいからさっさと開けなさいよ! あんたの口の中を淡口(うすくち)で染め上げてあげるから!!」

「それ絶対淡口で済まねーだろ濃口を超えた何かになるだろ!」

「大丈夫よ。淡口の方が濃口より塩分濃度高い別物らしいから」

「余計駄目じゃねーか!?」

 血走った目で醤油の瓶を俺の口へと突き出す鈴。だが純粋な腕力は俺の方が強――あれ何かこいつ滅茶苦茶力強くなってる!? 

 

「――――いい加減、に、したら、どうだ……?」

 

 大きくはない。しかし何処か凄みを感じさせるその声に、俺も鈴も思わず動きを止める。ブツ切りの発音がまた怖い。

 恐る恐る振り返――わー羅刹。迸り、もはや物質化して視認できそうな勢いの殺気を放つ篠ノ之箒がそこに居た。

「「ご、ごめんなさい……」」

 醜い争いをしていた事も忘れ、さっきまで押し合っていた手と手を取り合いながら無条件降伏の意思を提示する俺と鈴。謝った筈なのに、殺気が増してるように感じるのはきっと俺の気のせいだよね。気のせいであってくれ。

 箒が礼儀作法に厳しい人間であることをすっかり失念していた。どうにも鈴と居ると食事中――に限らず、隙あらば騒いでしまう。

「一夏」

 羅刹をどうなだめたものかと思考をフル回転させていると、横からひそひそ声で呼びかけられる。何事かと耳を鈴の口元に寄せ――また増したよ殺気。

「気になってたんだけど、そっちのポニテの人あんたの知り合い?」

「……まー、な」

 少し考えてからその質問を肯定する。箒とは知り合って一週間程過ぎたのだから、もう『知り合い』と言っても良いだろう。

 鈴は俺と箒を交互に見やると、小首を傾げて一言。

「もしかして彼女?」

 人は物を喉に詰まらせた時、声で訴えることは叶わない。だって気管塞がっているから。そして気管が塞がるという事は、すなわち呼吸を阻害する事である。そうなったら大変だ。だって呼吸というのは、人間の生命維持において重要な行為の一つであるから。

 

 何が言いたいかというと焼き魚を喉に詰まらせた箒がやばい。

 

 ▽▼▽

 

「やあ織斑くん、おはよう」

「おはよー」

 

 朝の教室。隣の席の娘と挨拶を交わしながら席に着いた。席が近いせいか、この娘とは割とよく話すようになった気がする。

「聞いたかな、二組に来るっていう転校生の噂」

「ああ、それなら聞くまでも無くもう会ってる」

「おや手が早い」

「凄まじく誤解を招く言い方はやめてくださいませんか。単に元から知り合いってだけだよ」

 転校生とは間違いなく鈴の事だろ――って、あいつ二組なのか。同じクラスが良かったなぁ……うう、上がりっぱだったテンションがちょっと下がった。

 しっかし学校始まって直ぐ転入してくるのなら最初から入学しとけよと思わんでもない。いや向こうにも事情があるんだろーが。それにしたってこっちに戻ってくるんなら連絡の一つで寄越してくれればいいものを。

「へえ。中国の代表候補生と知り合いだったんだ」

「え、ちょっ、あいつ代表候補生なの!?」

 

「その通りよ!!」

 

 まさかの当の本人から肯定の言葉が飛んできた。視線の先には食事の後いつの間にか姿を消していた筈の鈴が、俺を見下ろしながらふんぞり返っている。

 ”見下ろし”ながら。

 何故教卓の上に立っているんだこいつ。

 ……でも上履きをちゃんと脱いでいる辺り俺の知る鈴である。

「あーっはっはっは! 出会い頭に驚かせるのは失敗したけども、こっちは目論見通り運んだわね! その驚くマヌケ顔こそが見たかったのよ!!」

 ずびしと俺に指を突きつけた鈴は凄い嬉しそうな顔で言い放つ。してやったりなその表情がひどく癇に障る事この上ない。ちくしょうめ、何か凄い悔しい。

「――貴女も代表候補生だそうですわね」

 出た! 一組のプライド代表セシリア・オルコット!! カツカツと足音を鳴らしながら前へと歩み寄ると、流れるように腰に手を当ててふんぞり返る例のポーズ。

「わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

「あなた”も”って事は、あんたも……?」

 鈴が教卓からオルコットの眼前に降り立ちながら問いかける。どうでもいいけどこの二人、腕組みと腰に手を当てているという違いはあるが、ふんぞり返り加減が地味にえらい似てる。

 

「セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

「中国代表候補生、鳳鈴音!」

 

 二人の中心で、ぶつかった視線がばちりと音を立てたような気がした。朝の喧騒で包まれていたはずの一組は、今や向かい合う二人の一挙手一投足に注目して静まり返っている。

 不敵に笑った二人が握手を交わす。

「同じ代表候補生同士――なんて事は言わないわ、競い合って削り合いましょ。これからよろしくね、セシリア! 私は絶対負けないわよ!!」

「望むところですわ」

 何か二人が握った手の辺りから凄いギリギリ聞こえてくるんだけどこれ何の音?

 後お前ら何時まで握手してんだ。

 

「何を騒いでいる」

 

 研ぎ澄まされた刃の様に鋭利な声。出席簿片手に教室に入ってきた千冬さんが、教卓の前で無言の争いを続ける鈴とオルコットに言い放った。

「もうSHRの時間だ。さっさと教室に戻れ」

「千冬姉……?」

「織斑先生と呼、」

 

「千冬姉だ――――!!」

 

 パッと見では。小柄な少女が再会の嬉しさの余り満面の笑みで駆け寄った、という風に見える。だが鈴の場合その勢いが問題なのだ。

 故に駆け寄る等という生易しい表現はこの場では不適切である。

 正しく言うなら、それは突撃(チャージ)

 しかしそこはさすが千冬さんと言うべきか。かつて『ブルドーザーウリ坊』の名を欲しいままにした鈴の突撃(チャージ)を片手で難なく押さえ込み、出席簿で一叩き。

「織斑先生、だ。いいからさっさと戻れ」

「はーい!」

 叩かれた鈴はというと、痛む頭を押さえつつも元気よく返事をして教室の出口へ向かう。

 あいつ千冬さんに懐いてたからなあ。俺の言う事にはしょっちゅう噛み付いてくる癖に、千冬さんの言う事は素直に聞くんだよなー…………って!

 

「おい鈴! 上履き!! 上履き忘れてるぞお前――――!!」

 

 

 ▽▽▽

 

 朝食の場でも、朝の教室でも。その視線は隙を縫うように別の方向へ注がれていた。見ていたのはポニーテールの少女である。

 会話の端から察するに、箒という名らしいその少女を、鈴は見ていた。

 ”何か”を探るように。

 

 ▽▼▽

 

「連絡も無しに帰ってきたと思ったら、まさか代表候補生になってたとは……」

「ふっふーん。びっくりしたでしょ?」

 

 俺のため息混じりの言葉に鈴は得意げに顔を輝かせた。昼休みの学食、四人がけのテーブルは三つまで埋まっている。俺と鈴と、箒の三人だ。

 ちなみに通りがかったオルコットを誘ったらサックリ断られた。でもこっちがアッサリ退いたら何か残念そうだった。どっちなんだお前は。

 どうでもいいけど豚肉の生姜焼きってえらいご飯がすすむ。

「……一夏、そろそろどういう相手か、説明して欲しいのだが」

 咳払いをしつつ箒。そうか、鈴が転校してきたのは箒が引っ越した少し後だった筈だから、面識が無いのか。説明の要求は尤もだが――しかし食事へ伸ばしかけた手は今更止められない。

 俺の箸は鈴のラーメンからチャーシューを奪い取り、鈴の箸は俺の定食から豚肉の生姜焼きを一枚奪い去った。

 

 もぐもぐ×2

 ごっくん×2

 

「「何をするか貴様ァ――!!」」

 二組に上履きを届けたせいで遅刻扱いになって千冬さんに怒られた仕返しをしようと思ったら見事に読まれていた。しかもサイズ的に俺の方が被害でけーじゃねーか!!

「ええいお前達は一々騒がんと食事ができんのか!?」

 普段ならこのまま互いの食事(主にメインディッシュ狙い)争奪戦に発展するところだが、今回は箒の一喝によって吹き飛ばされた。

「私が説明するからあんたは黙って食ってなさい」

「えー」

「食事中のあんたが口に物含んでない瞬間なんてほとんど無いでしょーが」

 そう言われると返す言葉があんまり無い。

 呆れた顔で俺に言い捨てた後、鈴は箒に向き直る。

「朝も言った気がするけど――私は鳳鈴音(ファン・リンイン)、中国の代表候補生よ。あなたは?」

「篠ノ之箒だ」

「よろしくね箒! あ、私は鈴でいいからね、鈴音(リンイン)じゃ呼びにくいでしょ?」

「あ、ああ。よろしく」

 鈴が笑顔で差し出した手を箒が握る。良かった。今度はギリギリとか聞こえてこない。

 どうでもいいけどここの学食ってポークカレーは今一つなのにチキンカレーは美味い。

「こいつとは小五始まってちょっと後から友達なのよ」

「これで統が居りゃ中学時代お馴染みのメンバーになるんだけどな」

「だから喋んな。口の中見えるでしょーが、行儀悪い」

 このツインテ酷い。

「箒は? 一夏と何時知り合ったの? 私が越した後? それともまさか入学してから? どっちにしろ私びっくりしちゃったわよ。一夏に仲よさそうな相手が居た事に。こいつ昔っから友達全然居ないのよね!!」

 ずいずいと身体を前に出しながら鈴は箒に問いまくる。何気に俺酷い言われよう。

 どうでもいいけど安定と信頼のカツ丼。

「い、いや、私は一夏の幼馴染だ……!」

「幼馴染……?」

 ちょっと押されつつ、しかしそこは譲らないと箒は答えた。うん、本当この娘にはその事実が大切なんだろうな。

 一方鈴は目を丸くする。まあ確かに子供の頃から鈴とはずっとつるんできたから、面識のない相手が幼馴染と名乗ったら混乱もするか。

「説明しよう」

「だからしゃべ――完食してる!?」

「箒は小四の終わり頃に引っ越したんだよ。ちょうど鈴とは入れ違いな訳だな」

「小四の終わり……?」

 鈴は口を閉じると、前に出していた身体を席に戻した。

 それから俯いてしばし何かを考え込み始めた。

 

 

 

「――――――――――ああ、だからか」

 

 

 

 聞き取れないほどに小さく言葉をボソリと呟く鈴は、ほんの一瞬だが、確かに俺の”知らない”表情をしていた。様子の変わった鈴に俺も箒も困惑し言葉につまる。

「ああ、いたいた織斑くん」

 不意に声をかけられる。

 ひらひらと手を振りながらこちらに歩いて来るのは教室で隣の席の子だ。

「白式の事で呼び出しだって。はい地図」

 そう言って俺に一枚の紙を押し付けると、さっさと去っていく隣席の子。渡された紙には学園の中にある施設の場所が記されている。

「行ってきなさいよ。呼び出しなんでしょ?」

 そう言う鈴はいつも通り。だからこそ引っかかる。指定された場所は少し距離がある。用事が何でどれだけかかるかは知らないが、帰りの時間を考えると急いで損はないだろう。

 先に席を立つ事を二人に断って、指定された場所に向かう事にした。

 

 

 ▽▽▽

 

「ちょっといい? 話があるんだけど」

「私には無いな」

 

 無言のまま食事が終わり、席を立とうとした箒を鈴は呼び止める。返事の声は自然と堅いものになった。そして態度もまた堅く、鈴の提案を跳ね除けるように箒は立ち上がる。

 元々箒は喋り方も態度も堅苦しい――そういう性分なのだ。が、今はそこに敵意すら含まれている。何せ鈴は一夏との距離が異様に近い。それは物理的にも精神的にも、正に一目瞭然な程に。一夏を思う箒としては、それがどうにも気に入らない。

 

「あんたにゃ無くても、私にはあんのよねー……?」

 

 みしり、と。鈴の手中にあった割り箸が無残な形に握り折られた。今の箒は不機嫌さ故に全身から威圧感を発している。大抵の人間は声をかけるのに間違いなく躊躇うであろう。

 しかし鈴は両の瞳で箒を真正面から見据えてみせた。脅える様子も、気圧された様子もまるで無い。むしろ逆。箒の気を押し潰してくれる――そんな思いが見て取れる、強い眼光がその瞳には灯っていた。

 

「――――いいから、座れ」

 

 


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