めだかボックス?知ってる、主人公チートの漫画だろ? 作:慧都
「……」
「……」
無言で向かい合う二人
しかし、その感情は全くの正反対であった
女、安心院なじみにしてみれば今回の行動は初めは『勝てない存在に勝つこと』を実現する為だったが、彼という存在を深く知ってからは善意からなるものであった
世界は皆等しく平等に無価値だと知る彼女は、同じように世界を識り、同じ価値観を持つ者に己の考えを伝えてやろうという思い
確かにそこから玲が喜んで自分を褒めてくれるかもしれないという打算もあったのだが
しかし、向けられた感情は喜びではなく怒り
それも一瞬で殺されると錯覚するほどの強烈な殺意を向けられて、己の頭に浮かぶものは感じたことのない恐怖、そして疑問であった
世界を無価値と識る球磨川玲が、何故あの程度のことで怒り狂うのか
だから、一時間の間を空けて考えたのだ
己の持ち得る能力の全て使い、一時間全てをかけてようやく辿り着いた答え
それは時間である、と
安心院なじみは長い時を生きてきた
宇宙が生まれる前から、それこそ誰よりも長く生き、色々なことを経験してきた
だが、球磨川玲は知識はあれど生きてきた時は自分の1%にも満たない
認識の齟齬が発生しない方がおかしいのだ
だから、自分の考えを言葉にして伝えるという手段をとった
これがどう転ぶかどうかは当に、神(作者)のみが知る
対して彼、球磨川玲の抱く思いは悪意であった
世界が無価値であることは識っていた、だがその世界の中で一つだけ、己と血の繋がった存在だけは無価値ではないと思い、全てをかけて愛してきた
それをぶち壊し、世界を改変したのは目の前の安心院なじみである
敵意を抱かない理由はなかった
だが、
確かにまた、安心院なじみは自分の世界において無価値ではないモノのひとつであった
自身と同じ超常の力を持ち、世界を無価値と知る安心院なじみは自分にとって同じ感情を共有出来るかもしれないと思う存在であるからだ
そして行動理由を聞いて、安心院なじみに対する球磨川玲の怒りは急速に冷めて行く
手段は違えど、彼女もまた自身と感情を共有しようとしたのではないかと
そう考えれば、ああ確かに彼女は歩み寄って来たのだろう
以前から近づいてくることはあったが内面に踏み込んで来ることはなかった
初めてにしては過激であるが、彼女にしてみれば対したことではなかったのだろう
この少女は外見こそ幼いが、自分とは違い長い時を生きている
夢で聞いた時は半信半疑だったが、今となっては真実なのだとわかる
世界が無価値だという点は一致していても、時という概念に対しては違ったということか
そこまで思考して、完全に怒りは消えた
アプローチが下手だったにしろ、やったとこは自分がしようとした事と同じだったのだから
そして思った
これから自分はどう生きて行こうかと
こうして、人外の少女と人外の少年は道を同じくする
この先に続くは無数の石が転がる荒野
その先で何を見るかは、今だ知れず