めだかボックス?知ってる、主人公チートの漫画だろ?   作:慧都

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『絶望』と希望

 

 

「ーーー落ち着いたかい?」

 

なじみと半纏が教室を出て一時間後、二人が帰ってきてすぐの言葉がそれである

 

何をしてきたのか、されたのかは知らないが出て行く前は黒髪で有ったはずのなじみは、真っ白な白髪になっていた

 

………脱色でもしたかったのだろうか

 

「ああ、十分落ち着いたよ。安心院なじみ」

 

先ほどとは打って変わって冷静にものを考えられるようになった玲は、しかし変わらず殺意を込めて返答する

理由は言わずともがなである

 

「僕のことは『安心院さん』って、……呼んでくれないよね」

 

「当然。」

 

シリアスな空気をどうにかしようとなじみは軽口を言ってみるが、反応は芳しくなかった

 

当然である

玲をあそこまで追い込んだのは紛れもなく安心院なじみであり、それを玲は冷静になった頭で確信していた

 

玲からすれば安心院なじみは恨むべき対象であり、敵対は当然、殺戮に至らないのはなじみから話を聞こうと思っているからである

 

絶対的な力の壁

 

そう言うべきものを両者は強く感じていた

 

なじみは経験則から、玲は感覚から

 

不確かなものでありながら確実に存在するその差はどう足掻いても埋めることのできない絶対的なものであった

 

「………それで」

 

強者が口を開き、その体から発せられる威圧感がなじみを襲う

卒倒してもおかしくないようなプレッシャーに耐えながら、なじみは何時ものように皮肉げな笑みを浮かべる

 

まるで対等であることを示すかのように

 

「なんだい?僕に聞きたいことがあるのならなんでも聞いてくれよ。せっかくの同類なんだから遠慮しなくていいんだぜ?」

 

本心はガタガタと恐怖に怯えながら、しかしそれを表に出さずなじみは尋ねた

 

もしこの行為を数あるスキルの一つでも使っていたとしたら、玲はなじみを殺しその脳から直接思考を読み取っていただろう

それほど玲はなじみに対して殺意を、敵対心を、緊張感を持っていた

どのようなスキルであれ使う素振りがあれば命を刈り取るつもりでいたのだ

 

なじみはそこまで考えていたわけではない、運良くその時ばかりはスキルを使わなかっただけである

 

後にそのことを知ったなじみはこの判断を信じてもいない神に感謝したのは別の話

 

 

「……何故あんな風に手を回してまで俺を孤立させようとした?スキルの使い方でも教えるつもりだったか、それとも別の考えがあってのことか?」

 

意味が分からない

 

玲の思いはその一言に尽きる

 

夢に出てきたことも、現実世界で接触してきたことも、玲の世界を壊したことも

全てなじみの益になることはないだろう

 

ましてや自分を超える力を持つ玲の怒りを買うとわかっていながら益もない行動を起こすとは思えない

 

玲が冷静かつ客観的に考えた末の結論、それが理解不能であった

 

その問いになじみは無理して保っていた笑みを崩していた

 

嘘をつけば死ぬであろう状況で、ありのままを話さなければ許されない状況で、なじみは躊躇していた

 

ちらり

 

と上目遣いで玲を見るが、その顔は真剣そのもの

 

観念してなじみは口を開いた

 

「そ、それはね………

 

 

 

 

 

 

僕と同じ存在がいると知って仲良くなろうと思ったんだ

この世界が創作物であることを知っていて、自分以上の力を持ち、同じ立場に立つことのできる君とね」

 

顔を真っ赤にしながら最後は大声で叫ぶなじみ

 

 

考えても見て欲しい

宇宙創造の前から生きていた彼女、人間をモノとしてしか見ることの出来ない少女

 

そんな彼女が自分から友達になろうとした唯一の少年(半纏は気がついたらそこにいた)

 

簡単に言えば何十億年もののコミュ障が声を掛け間違った

それだけの話であった

 


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