二次元街道迷走中   作:A。

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第九話

満月の夜の影時間。駅の前で待ち合わせている時間に少々遅れながら美鶴は皆の前に姿を現した。岳羽と伊織がバイクに驚いている。普段ならば多少は時間に融通が利くため、雑談へと縺(もつ)れ込んでいただろうが生憎、今回は余裕が無かった。早急に本題へと入り、作戦を開始する。「皆の物、出動だ!」という何とも有里らしい言葉で場の空気を和ませたのに対し、頼もしいなと薄く口元に笑みを湛えながら見送った美鶴は、気持ちを切り替え索敵能力を使った。

 

 丁度、三人が目的のモノレール付近へと到着したのを見計らい通信を入れる。まず反応したのは岳羽であり、注意して進むよう促した。美鶴はここからが正念場で油断は禁物だと更に集中力を高める。そもそもペンテシレアは戦闘型なため向いてはいないのだ。

所がメンバー内に適性のある者が居らず、美鶴が引き受けている。自分も一緒に戦いたい気持ちを抑制しなくてはならないため、それに随分と気力を必要として予想以上に苦労していた。

 それもシャドウの位置を朧気に感じるだけで音声での通信である。とても心許ない。にも関わらず自分は安全な場所から作戦の成功を待つしかない。敵の場所を完全に知る事が出来ない不甲斐なさを悔やむものの、自分でもどうしようもないと理解していた。

 

 いつもの通り深呼吸をし、湧き出る気持ちを押し殺していたその時、何かに驚く声が聞こえ慌てて美鶴は尋ねる。モノレールのドアが全て閉じてしまったようだ。心配する気持ちが募る。車両の先へと進む三人からの通信によると未だにシャドウの姿すら見えないらしい。それも距離を稼いでも同様にだ。それに焦れた伊織が話を聞かず先走る行動に出たため、二人で追うと有里が主張した。各個撃破の的になるので美鶴も同意見だったが、予想以上にメンバー内の雰囲気が悪くなっているのが気にかかる。

 反応では何両か先の様だが、敵が存在しないため阻まれる事も無く直ぐに追いついたらしい。全力疾走をして疲れ果て座り込んでいた伊織と再度口喧嘩に発展している。合流してもこれではなと美鶴は溜息をつく。さっきから感じる一番強い反応は恐らく本体だ。この調子ではチームワークに支障が生じるのは目に見えている。そのまま容易く乗り切れるとは思えなかった。

 

 その後、列車がシャドウに支配され動き出したため一旦は終息をみせる。制限時間は七分。一秒たりとも無駄には出来ない。

 

『でも桐条先輩、やっぱり変ですよ。気配はあるのに出くわさないなんて』

『んだよ、俺の実力を見せつける大チャンスだってのに』

『またアンタはそんな事言って! さっきも言ったけど一人で相手出来る訳ないじゃない!?』

『見てもねーのにんなのどーして言い切れるんだよ!』

『二人共、落ちついて。……美鶴先輩、何か分かりませんか?』

「少し時間をくれないか?」

 

 時間が無い中、貴重なそれを割いて欲しいと主張するのは心苦しい。しかしシャドウの気配が乱れ急速に変化しているのだ。最初は分からなかったこの現象は三人が本体方面へと近づいた事により発覚したのだが、余りに異常だった。より慎重にならなくてはいけない。

 複数のシャドウがある地点へと次々向かっていっては一方的に消失している。何かの罠に違いない。消えたといっても完全に消滅したとは考えられないからだ。気配をなくす特殊能力を有しているかもしれない。モノレールを支配するだけの能力があるのなら不思議はないだろう。もう一度、確認していみるとその地点は次のドアの先だ。シャドウに待ち伏せをされている可能性を告げてから暫くして皆が息を飲むのが伝わって来た。

 

『……え?』

『嘘……信じられない』

『ま、マジかよ……』

「一体どうしたんだ?」

 

 危機を感じさせる物ではなかったため今度はゆとりを持って通信を入れる事が出来た。返事が誰一人なく同じ言葉を繰り返そうかと考えた時、漸く声が届く。

 

『誰かがシャドウを倒しているんです。…―それもペルソナを一切使わないで』

『つーか、何だよアレ。スゲーって。いや格が違うっつーの?お、おおお俺だって』

『殆ど一撃。ううん、違う。シャドウの攻撃を完璧に見切っているからこそ確実なタイミングで迎撃してる。一回も攻撃は受けてない』

 

 得た情報は瞬時に美鶴を興奮状態へと導いた。心臓が煩い。その人物が皆に害を与えないと保証はないのだが、物凄い戦力である。未だ人員不足な特別課外活動部においてペルソナの適合者は喉から手が出る程に欲しい! それも武器を使用してでの実力ならばペルソナを召喚した時の実力は計り知れない……。が、美鶴は責任ある立場の人間として逸るのを抑える。

 何とか落ちついた美鶴だったがその代わりに記憶に引っかかる物を感じた。そう、連想したワードとは″滅茶苦茶強い奴″とやらだった。そして覚えがあるその単語は数珠つなぎに頭の中の引き出しを開けた。伊織が仲間に入った夜。黒をメインとしたTシャツにジーンズの男。顔があやふやで見当がつかず、頼まれても結局は探せなかった仲間候補者。該当する件に美鶴は喰いついた。

 

「何! それは本当か? もしかすると前に伊織が言っていた奴ではないのか?」

 

 実際に目の当たりにしていないため、美鶴は三人よりも幾分か冷静に思考する事が可能だった。それを踏まえての発言に三人も同じく思い出せたようだった。

 

『うおおお! 流石、俺が見込んだ男!』

『別人かもしれないでしょ。うーん、後ろ姿じゃ判断がつかないです。あ! そっか。もっと近づいてみればいいんだ』

『へ? ゆかりッチ、まだ戦闘中よ。危ないじゃんか』

『何言ってんのよ。こーゆー時こそ、思い切らないでどうすんの。見た感じ正面じゃなくて窓際に追い詰めているから、向こう側のドア付近から寄れば……』

『おーい……って、せめて反応して下さーい』

 

 勇気と無謀は違う。無茶はするなと告げたかったのだが、その前に岳羽は動いた様だった。伊織も行きたそうな素振りがあったものの、それは有里が何とか止めに入る。どうして俺だけという叫びにゆかりの時は謎の男の動向に集中していたらしく、懸命に戦い方を分析していたのだと言う。

 それでもしつこく粘る伊織についには有里も折れ、ならば自分も一緒に行くからという事で一応は和解が成立する。

 

『あ、こっち向いた。えっと、教室で会ったんだけど私の事分かるかな?』

 

 一方で岳羽は無事に反対側のドアの元へ到着していた様子で接触を試みていた。だとするとドアの向こうのシャドウ以外は倒し終えたという事だ。三人は戦っておらず時間にも余裕がみられる。先を急ぎたいが協力を仰げるならば同行して貰えるかもしれない。

 

『師匠おおぉおおぉお』

『…………』

『順平。話してたのに割り込まないでよね。ってか師匠って何?』

『ほら迷惑だからさっさと離れて』

『公子手伝うよ』

 

 行き成り伊織が大声を上げたかと思えば、美鶴の希望を台無しにした。岳羽の行動が無意味に終わってしまうとは落胆が大きい。あれだけ褒め讃えていた尊敬する人間と再会したならば突拍子の無い伊織の行動も理解出来るがTPOを考えて貰いたいものだ。美鶴自身もお父様と会うときは己を律しているというのに。

 伊織を引き離すまでゴタゴタしている緊張感に欠ける空間を想像し、脱力しそうになってしまった。


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