僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第14話 男たちの思惑 後編

 

 

 

「なにもされていない? 」

 

「ええ、ラッキースターのシステムを探ったけど、何も異常は確認できなかったわ」

 

 

ラクレットは、ルシャーティーの背中を見送るとすぐに格納庫へ急行し、それなりの理由をつけてラッキースターのシステムをチェックしてもらった。若干不審そうな顔を浮かべつつもすぐに承諾し実行してくれたクレータには、今度お礼の品でも持っていくかと考えながら待っているラクレットが、異常なしという言葉とともに現実に戻されたのだ。

 

 

「そう……ですか。ありがとうございます」

 

「いえ、搭乗者が最善の状態で戦えるようにするのが、私たちの仕事だからね」

 

 

にこやかにそう会話しつつも、ラクレットはわざわざ誘導されたのに、一切のアクションがなかったことについて、自分の中で様々な推論を立てていた。客観的に考えているかれのヴァル・ファスクとしての部分が、人間が気付けないような、または起動してみて初めて作動する類の書き換えかという仮説を呈示し、それを支持することにした。要するに警戒するしかないというわけだ。

 

 

「まあ、どうしても感謝したいなら、この戦争の後、リッキー君と会う機会を作ってくれれば、いいかなーなんて……」

 

「あはは……ま、まあ考えておきますね」

 

 

急に間の伸びた空気になったため、曖昧な笑みを浮かべて、場をごまかそうとするラクレット。しかしこちらのほうが食いつきが良かったのか、耳聡くクレータの要望を感知した、彼女の部下であるクルー達は即座に話に割り込んできた。

 

 

「私! ミニライブがいいです!! 」

 

「握手会でもいいでーす!! 」

 

「ハグしてもらえるなら死んでもいい!! 」

 

「あはは……死なれたら困りますから、ハグは無しの方向で一つ……」

 

 

一気に騒がしくなった格納庫をラクレットは、少しずつ理由をつけて後退し、退出するのであった。シリアスが続かないのは、きっと彼の特性なのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

「本軍が到着するまで待機って言われても暇だよねー」

 

「おいおい、さっきまで何か気になることを探っていたんじゃないのか? 」

 

「そうなんだけどねー、オレの勘がさぁ……いつもの違うんだよね、胸騒ぎはするんだけど、期待感もあるっていうか……」

 

「そんな主観……いや、体感でものを話されても困るんだが……」

 

 

先ほどまで、ヴァインについての聞き込みをしていたタクトだが、それに飽きたのか、今はブリッジでレスターに絡んでいる。まるで飼い主にじゃれつく犬のような仕草だが、レスターからすれば鬱陶しいだけである。

なぜタクトがブリッジにいるのかと言えば、レスターに相談しようと自室に戻れば、まだレスターのシフトの時間であり、ブリッジまで来たという寸法だ。

 

 

「まーなんにせよ、前例はあるとはいえ、オカルトチックな勘で動くのは当てにはならんな」

 

「まあね……それにしてもこれから待機かー」

 

 

白き月が来たら、そのまま一気呵成にEDEN解放!! とは、さすがに単騎では無理なわけである。頭では分かっていたが、実際に命令を受けると一掃したとはいえ敵地でしばらく待機と言う普通ならば精神的な疲労が大きい現実が見えてくるわけだ。先ほどルフトから、正式に組織したEDEN解放軍がすでに出発しているから、それを待てといった旨の命令が来たのでそれまでの辛抱である。

完全に気を抜けるわけでもないが、気を張りすぎる必要もない。そんな微妙な状況である。

 

 

「まあ、2週間もかからないんだ。それに白き月が来れば、シールドもあるしそれなりに息抜きはできる。それまでの辛抱だ」

 

 

そんなフラグのような言葉をレスターは呟く。

ブリッジはまだ平穏の中にあった。

 

 

 

 

 

「まさか、こんな簡単な手で大丈夫だなんて……今まで深く考えすぎていたのか? 」

 

 

目的を終え、何食わぬ顔で格納庫を後にしながら、ヴァインはそう呟く。何せ今まで散々妨害されてきたこちらの策だが、少しアプローチの方法を変えただけで、ただ水が流れるように滞りなく成功したのだから。

彼からしてみれば、此方の策を意識的なのか無意識的になのかはわからないが悉く潰してきた、ラクレット・ヴァルターや『エルシオール』のクルーたちを初めて出し抜けた(侵入の時点でかなり出し抜いているのだがそれは別)とあって、むしろ自分が泳がされているような錯覚に陥りそうな位である。

 

 

「ただ時間をずらしただけだというのに……」

 

 

ヴァインが用いた策は至極簡単。単純にずっと見張っていたラクレットが、その場を離れた後、ルシャーティーの陽動に気付き格納庫に急行する。その後ラクレットが異常なしを確認した後、見張りに戻らず、自室に戻った間に細工を仕掛けるという事だ。ヴァイン自身、まさかここまでスムーズに、自分の企て通り進むとは思わなかった。一回持ち場を離れて隙を作った間に、何事もなかったなら、「もう問題ないであろう」「ただの思い過ごしか」「別の要因があったのか」などと結論付けて、一度部屋に戻ってしまうかもしれない。そんなあやふやな、人間の心理を突いてみたのだが、今までの綿密な作戦よりも他人の心理とやらを顧みた策を投じてみれば、ここまで見事に事を運ぶとは。投じた本人が一番驚いている。

 

 

「一番のエース機体ラッキースターと、スペックと撃墜の比率が最も高いエタニティーソードの二機……まあ、エタニティーソードはすぐに破られてしまうだろうけどね」

 

 

ヴァインが仕込んだ仕掛けは、コントロールを受け付けなくし、自動的に周囲の最も大きい敵正反応を持った艦に突撃していくといったものだ。ヴァル・ファスクならば、Vチップを制御に置けば解除は容易い。しかしコントロール権を他のヴァル・ファスクと競り合ったことのないラクレットならばそれなりの妨害にはなるであろう。

Vチップは基本的に元々設定してある人物と絶対的な距離の二つによってだれの管制下にあるかが決まる。同じ段階の権利を有しているのならば単純に距離が近い方が扱えるわけだ。しかし無理やりそれに割り込む方法もないわけではない。

だからこそ、数年後に建造される最新鋭の艦にVチップを搭載すると言い出したタクトの意見に当初大きな反対が出たのだ。

閑話休題、ともかくヴァインはあっさり行きすぎた自分の行動を振り返りつつ、その場を何食わぬ顔で後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、ブリッジはいきなりの急転直下な事態に見舞われる。

 

 

 

 

「周囲に敵影!! 囲まれています!! 」

 

「突然現れただと!! 」

 

 

あと少しで白き月と合流できるであろう、クルーの心の緩みが生まれたその時、周囲のアステロイド帯や、惑星の裏側からわらわらと敵の集団が現れた。その多くが、今までこちらとの戦闘データがない未確認艦であり、レーダーを確認した時の驚きは相当なものだったと言える。

 

 

「うーん……やっぱり罠だったのかぁ。この前の戦いからして主力を温存していてもおかしくは無いと思ったからねー」

 

「そんなのんきに言っている場合か!! 」

 

「わかってるって、エンジェル隊、ラクレット、出動準備!! 」

 

「お前も早くブリッジまで来い!! 」

 

 

タクトのいつも通りの作戦開始の指示に、艦内の各所から各々の言葉で了解の旨を示す言葉が返ってくる。全員の位置を確認すると、数分で全機エルシオールの周りに展開できるようで、一安心だ。むしろ、通信で指示を飛ばしながらこちらに向かってきている、タクトの方が、到着に時間がかかるかも知れない。

 

 

「今のうちにデータの解析を頼む」

 

「了解……未確認艦は大きく分けて2種類。装甲の厚さから考えて、母艦タイプと突撃艦タイプかと……」

 

 

瞬時に解析を始めるココ。見たことはない艦だが、敵の今までの艦の傾向からして、トランスバール軍の正規艦よりも重装甲なのである。とくに母艦は相当堅い耐久を誇っているのが、その巨大な外観からも分かる。

 

 

「副指令!! 敵母艦から、中型の戦闘機が3機発進しました!! 」

 

「戦闘機だと? 」

 

 

レスターの怪訝な声と同時に、ココはスクリーンに出す。その戦闘機は三角形の隊列を組んで高速でこちらに接近していた。その速度は紋章機に匹敵するモノであり、ひたすらに脅威なのだが、問題なのは、その造形であった。

 

 

 

「エタニティーソードだと……」

 

 

エルシオールのクルーからすれば見慣れた機体。エタニティーソードと瓜二つの形をしていたのだ。

 


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