僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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Eternal Lovers 突入


Eternal Lovers
第1話 過去と未来


 

ある青年にとっての理は、周囲の一般のそれとは大きく逸脱したものであった。

 

しかし、それは別段大きな問題ではなかった。なぜならば、それは数少ない個性の一つであり、大きな視点、そう種として見るのならば、そう言った非主流の思想と言うものも、ある程度は必要だ。

 

されど、その異端が突き抜けていれば、排除の対象になる。種の繁栄を真っ向から否定したのならばそれは当然の帰結。

 

理想に燃えた彼は、そんな逆境であっても挫けなかったが、結局の所時代の力と言うものに殺されたのだ。

 

だが、その彼は偶然が重なり、命を長らえていた。ただそれだけの話だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練学校での日々はラクレットにとって大変心地の良いものだった。

カトフェル達との訓練とまではいかないが、決められたスケジュールで体と頭を苛め抜くという行為は、別段それによるリターンが約束されているのならば苦痛には至らないのだ。鍛えて身につく実感があるのならば、人は努力できる。彼が訓練すべきことは、教官は直接関与できないこともあった。しかしそれでも白兵戦時の体の使い方、銃の扱い方、ナイフの扱い方。戦術的な思考や、戦略的な思考。そういったものを詰め込むのは彼にとって悪くない経験だった。そもそも今までのように、ほぼオートで体が動く素人が戦闘に介入して戦果をある程度立てたところで。本人に自信がつくわけなどなかった。こういった積み重ねのようなものが彼に必要だった訳だ。

 

しかし、彼にとってよくわからなかったこと腑に落ちなかったこともある。なぜか訓練校なのに、空軍学校なのに近隣で起こった事件の解決に奔走されられたりしたという事だ。良くわからない悪の組織のような戦闘員の制服を着たような奴等が夜な夜な現れ町の平和を脅かしているので、なぜか生身で出撃して行って鎮圧したりと、ビルほどの大きさもある怪物が出てきたので戦ったりと、全く持ってわけのわからないことを睡眠時間を削ってやらなくてはいけなかったのが、彼には終始理解することができなかった。

ギャラクシーエンジェル隊がいなくなったので、お願いしますねー。と上官が市長から言われているのを見て、彼は何となく理由を察したのだが、深く突っ込むと恐ろしい事が起こりそうなので思いとどまった。

 

さて、そんな充実した日々にも週に1日程度の暇はできる。彼はその日を兄の命令でCMの撮影に行ったり、インタビューを受けたりとしていたのだが、ようやく来る日が来た。

 

 

兄と、ある人物による対談だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、来たか、ラクレット」

 

「時間前だし、遅刻じゃないだろ? 」

 

 

ラクレットは本星に位置する、チーズ商会のオフィスビル最上階の応接間に通された。本星から出ることは難しかったため、わざわざ兄やその人物に、来てもらったのである。既に訓練学校に入学して数か月たっているわけだ。兄はその間妻の出産に立ち会っていたりと、いろいろ忙しかったわけである。ラクレットはとりあえず、兄とその人物に向かい合うようにソファーに腰かけることにした。

 

 

「ひさしいのぅ、ラクレット」

 

「ダイゴの爺ちゃん、相変わらず老けないね」

 

「これでも10は生きているからのう」

 

 

この場合の単位は年ではない、世紀だ。そう、ダイゴはすでに1,000を超える年月を生きている、そう言う存在。人間ではない、人間を超越したなにかだ。

 

 

「さて、時間もないわけだし、とっとと話してもらうよ、兄さんもダイゴの爺ちゃんも」

 

「ああ、それについては全く構わないが……」

 

「まずは、ワシの半生について話そうかのぅ……」

 

 

そういって彼は語りだす、彼の長い、長い物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ゲルン!! 貴様のそれは傲慢を通り過ぎて、慢心だ!! 」

 

「ふん。誰かと思えば、ヴァル・ファスクでは臆病者の代名詞のダイゴではないか……」

 

 

黒と紫を中心に構成された、近未来的な空間、それが彼ら二人の鉢合わせた場所だった。とはいっても、彼らは別段、空間の色などにこだわりなどしない、せいぜい目の疲労を抑えられるかどうかを気にする程度で色の好みなどはない。文字の解読も別段、文字を読むのではなく、読み取るのだから明るさも大きな問題ではない。

故に、どこもかしこもこのようなやや薄暗さを感じる場所だ。彼らは想定すらしないレベルの懸念でしかないが、万が一敵が侵入したのならば、この方が地形の把握が困難であろうからでもあるのかもしれない。

 

 

「ヴァル・ファスクは優れた種族だ!! 故に、ここの人間を家畜のように扱うのではない!! 導いてしかるべきだ!! 」

 

「何を言う、奴等の先祖は大罪を犯し流刑された身。遺伝子として過去の人類種としても最下層、劣っているそれだ。家畜こそが相応しい待遇よ」

 

「その傲慢さが、我らの流刑を生んだのではないか!! 」

 

 

ヒートアップしていく会話。いや、白熱しているのは片方だけ、それを軽く受け流し侮蔑の視線を投げかけているのがもう片方なのだから。彼らは二人とも、このヴァル・ファスクの中でも重要な位置にいる。元老院を率いるゲルンと、外務省の長官であるダイゴ。二人は、過去に起こった大粛清と流刑により大幅に失われた上層部の穴を埋めるかのように、その役に就任した。種族としての寿命は数千年とも言われているヴァル・ファスクの、千年以上生きている者すべてが殺され、齢900年程度の若手である二人は、ヴァル・ファスクとして古参となってしまったのだから。

 

 

「だからこそだ、だからこそ手始めに、この銀河のEDENとかいう野蛮な獣を従え、足元を固めてからの侵略とするのだ」

 

「彼らは、野蛮人なんかじゃない!! 文明を持ち、文化を持った生命体だ。我らの導きがあれば、より高位な次元に発展することだって可能だ」

 

「ふん……なにを言う……まあよい。次期王は私だ、そうすれば今開発させている兵器であの害獣共を間引く」

 

「馬鹿な……!! あれは、先代の王が使用後の他勢力の敵意が増強されるという理由で、使用すらしなかったものだぞ!! 」

 

 

二人が話しているのは、彼等の最終兵器だ。過去の研究者が数十世紀以上かけて開発したものを、数世紀かけて改良しているものであり、効果は絶大とされているが、そのぶんその効果によっておこる惨状により、使用された側の戦意(彼らはそれを感情と定義しないが、敵対されやすくなるものとしている)が上がってしまう難点があったのだ。改良の結果、その出力時間を1年から200年に伸ばすことにより、使われた側を弱体化させればいいという結論に至ったのである。

 

 

「貴様は……我が王になった後、危険分子として処刑する」

 

「お前が、王になれるとでも? 」

 

「思考すら停止したか臆病者。すでに元老院の過半数、各省庁の長の8割、議員の7割は余を支持しておる。そのような情報すら入手できないのか? 」

 

 

その言葉に、ダイゴはもう黙るしかない。事実後が無い彼は冷静な分析すらできなくなっているのだ。それは、それだけ彼が追いつめられている事の証左であり、種族として、彼が目の前の次期王候補に劣るという事の証明だからだ。結局、路傍の石ころを見る様な目でゲルンは、彼を見てからその場を後にした。ダイゴはすぐに自分のすべきことを見据えて、動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

「ダイゴ長官、どのような用件で? 」

 

「学生の訓練用を見学するついでに、後継者でも見繕うとね」

 

「そうですか、ではご自由に」

 

 

彼が訪れたのは、彼が前まで教授を務めていた学校の校舎だ。彼の教え子には彼の考えに賛同する人物が多く、今後の身の振り方を考えるうえで、ここに来る必要があったのだ。

 

 

「先生 お久しぶりです」

 

「ああ、君達か……」

 

 

しばらく歩いていると、なじみのある顔ぶれが揃った教室に到達する。十数人ほどの若いヴァル・ファスクがモニターに向かって何らかの操作をしている部屋だ。これは彼らの能力である、Vチップを介した電子機器の操作の特訓である。

この場でモニターを眺めながら、衛星軌道上にある演習場で、演習用の機体を動かしているのだ。この訓練に使われる機体は、古来好事家が、馬上試合のような感覚で、ヴァル・ファスクと人間を乗せて競わせていたころに使われていたもので、武装などまともについていない。中に人間をのせ、エネルギーを供給させ、それをヴァル・ファスクが遠隔で動かすと言ったものである。ヴァル・ファスクだけだと、動かすことにかなりの能力が必要であり、練習の教材としてちょうど良いのである。

 

 

「君たちに話しておかなければいけないことがある……私はもうすぐ処刑される。なので、ヴァル・ランダルを……いやヴァル・ヴァロス星系を離れ、逃げる」

 

「そうですか、それで?」

 

 

人間には、あまりにも淡白すぎる会話に見えるかもしれないが、これが、彼らの普通なのだ。彼等の思考では、師が考え実行したのならば、自分たちが止める必要なく彼には正しい判断なのであろう。とまで一瞬で帰結するのである。

 

 

「私の考えは、今後ゲルン王政権の下では異端となる。しかし、己の身を危険に冒さない段階で持ち続けてほしい」

 

「承知しました。我らは優秀であり最良だが、完璧でも絶対でもない。先生の言葉ですね」

 

「そういうことだ。それでは……大劫の向こうにまた会えることを」

 

 

ダイゴは簡潔にそう告げて、その場を後にする。この後は超時空弦推進機関を搭載した、超光速航法可能な艦を購入する必要がある。幸い目星はついているのであまり問題は無い。校舎を後にして、いったん自宅へと戻ると、庭先に一機の練習用の機体が1機着陸していた。そして、彼が自宅に入った途端、計算されていたかのようにメッセージが届いた。

 

『今月末廃棄予定の機体 予備の兵装は僅か 旅費の足しに』

 

 

「まったく、私に似たのか、生徒も愚かだな……」

 

 

 

その四日後、ゲルンの王就任と同時刻、彼はヴァル・ランダル星系を後にした、彼の小型の宇宙船には、食料と水、そして1機の機体が格納されていた。この小型船は、超時空弦推進機関だけではなく、旧式の航行方法と数十年単位のコールドスリープを可能としており、万が一にも『かの兵器』が始動した場合でも近隣の星に降りる程度はできる算段であった。

 

 

「さて、出たはいいが……どこを目指すか……」

 

 

広大な銀河の地図を前に彼はひとまず、敵対しているEDEN国家を迂回するように、その向こう側に行くことを決意する。敵国の向こうまで行けば、さすがに数百年は追ってはこないであろうから、そもそも死んだと思っているであろう奴らが、自分なんかを追うとも考え難いわけだが。

 

 

「まあいい、いけるところまで行こうじゃないか……ゲルンがアレを使う前にな……」

 

 

 

そうして彼は、EDENよりも先の未開の星にたどり着いた。彼は彼の思想の通り、到達後に起きた災厄が文明を衰退させる中、復活までの200年間、その星の再開発および指導に尽力を尽くした。星間移動が可能になると彼は、その場を退き、宇宙船を売ると、機体に乗り移住した近隣の星の一つで、その金を元手に星の開拓を始めた。結局星系の政府からは、総督に命じられたのだが、その頃にできた息子をその役に置くと彼は表舞台から姿を消したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お察しの通り、その星の名前は第11星だ」

 

「なるほどね……ダイゴの爺ちゃんは、本当に爺さんだったわけだ」

 

 

兄の捕捉により、ラクレットは納得する。最近自覚して以来、異常なまでに上がった理解力と分析力は彼にとって結構大きな武器となっている。真面目に頭をつかおうと思えばどこまでも答えてくれるのだから。それもこれもこのダイゴから届いた

『自分がヴァル・ファスクと意識して能力をつかえ』

というアドバイスの元、彼が訓練学校で培ってきたスキルだ。

 

ヴァル・ファスクとしての自覚ができた今、『エタニティーソード』のエネルギー量は跳ね上がっている。エネルギーの最適化を無意識に行ってきたのが、意識的にきちんとした段階を踏んで、自発的に起こしているのだから。

そんなことを考えていると、神妙な表情でいままでゆっくりと語っていたダイゴが、二人に語りかける。

 

 

「お主らで7代目じゃがの……いままでワシの息子以外、あの機体を動かせるものはなかった、昔ワシはあの機体を売ろうとしたのだがの、頭の中に声が響いたのじゃ、じゃから代わりに宇宙船を売った」

 

「声? ああ、あの言い伝え? 」

 

「そうじゃ……あの通り、ラクレット、お前が動かして以来、エメンタールは未来を予知し、カマンベールはクーデターに加わった。歴史が動いている証拠じゃ」

 

 

ダイゴからしてみれば、ここ10年の激流のような時代は、兆しはあったものの、あまりにも性急だった。エメンタールの口車に乗るような形でここまで来てみれば、結局彼の言うとおりヴァル・ファスクとの戦争が始まる勢いだ。

 

 

「まあ、爺さんはそう思うかもしれないが、俺とこいつはそんなこと生まれたときからわかっていたことさ」

 

「うん、だから心配しないで。この兄が言うとおりにしていればたぶん問題ない」

 

「……ああ、それではそろそろ行くか……」

 

 

ダイゴは、そう言ってソファーから立つと、部屋の扉に向かって歩き出す。二人もそれに付き添うように後に続く。

 

 

目指す行き先は、トランスバール皇国、皇都の王宮

今日の午後、そこには先の戦いで出会った、月の少女と、女皇、そして宰相がいる。

彼等の足に迷いなどなかった。皇国に生きるヴァル・ファスクとその末裔たちは、既に彼ら独自の目的を持って動いているのだから。

 


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