僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第3話 逆に考えるんだ!ちとせはアニメでもゲームでも2度おいしいと!!

 

 

 

 

「『エタニティーソード』発進準備スタンバイOK! ラクレット君どうぞ!」

 

「はい!! 『エタニティーソード』積極的自衛権の行使の為に『エルシオール』並びにエンジェル隊に加勢してきます!! 」

 

 

その言葉と同時に、ラクレットは、『エタニティーソード』の出力を上昇させる。『ケーゼクーヘン』の業務用のシャトルや船の搬入口は艦の前方下部にあり、そこから勢いよく飛び出す。エルシオールまでの距離はおおよそ20000強、急げば直ぐに到達する範囲だ。(ちなみに、ゲームでの戦闘画面は約40万四方)

 

 

 

「移動形態に移行!! これより全速力で、戦闘宙域に向かいます!! 」

 

『エタニティーソード』の移動形態は、最高速はカンフーファイターにやや劣るものの、旋回性能では上回っている。最も今の状況において旋回性能はあまりは関係ないのだが、それでもまあ、現行の戦闘機に分類されるものの中では、最速クラスである。

圧倒的な加速で、一気にフルスピードまで達した『エタニティーソード』はそのまま避難中のシャトルに接近している敵駆逐艦に突っ込んでいった。

 

 

 

 

「司令!!『ケーゼクーヘン』から小型機が発進しました!! ものすごい速度です! 『クロノストリング』の反応あり! 」

 

「ああ、さっき向こうの言っていた自衛権の行使か……モニターに出せ」

 

「了解!! 」

 

 

現在『エルシオール』を指揮しているレスターは、避難シャトルの誘導、並びに紋章機の指揮、艦のダメージコントロールとかなり多忙であったが、その程度ならばと優秀である彼は見事にこなしていた。余裕はないし、表情も硬いが特に危険な橋を渡る作業でもないために、マニュアル通り的確な指示を出している。こういったことができる軍人と言うのは少なくないが、レスターほど同時に複数の作業を正確にこなせる人物は皇国にもそうとはいない。彼と同年代に絞るならば皆無に等しい。それだけ優秀な人材がレスター・クールダラスなのだ。

 

レスターの指示で、モニターに映し出されたのは、彼らにとってもなじみ深い……と言うよりも、何度も見たことのある機体『エタニティーソード』だった。半場予想はしていたため、特に驚きもないレスターだが、ココとアルモの二人はそうはいかなかったらしく、驚きの声を上げた。

 

 

「冷静に考えてみろ、チーズ商会がこの状況で出せる援軍なんて傭兵でも雇っていない限り存在しないし、雇っていたなら最初から配置しているはずだ。となればあの船に収まるレベルで、なおかつ戦力になるレベルに限られる。そうすると、あそこの会長の弟直々に出てくるのが普通ではないか? 」

 

「そうかもしれませんけど……」

 

「ふつう驚きますよ……」

 

「そうか……まあいい、とりあえず、接近している駆逐艦を目標にしているみたいだから、そのまま攻撃しろと伝えてくれ。聞いたなフォルテ、心強い援軍様が来てくれたぞ」

 

 

レスターは、とりあえずここの通信をそのままエンジェル隊に流しているので、聞こえているだろうフォルテにそう伝えた。わかる人は少ないが、その口元は微妙に緩んでおり、機嫌がやや回復したことがうかがい知れた。

 

 

「それは有難いね。まあ頼れるかどうかは別にしてだがね!! ちとせ、アンタは駆逐艦を後回しにしていいから、ミサイル艦の相手をしておいてくれよ!! 」

 

「了解です、フォルテ先輩!! でも本当に大丈夫ですか? 」

 

「ああ、あいつならたぶん何とかすると思うさね」

 

 

そう言って、フォルテはサブモニターに映した、こちらに高速で接近している機体を横目で見ながら自分の目標に向けた。

 

 

 

 

「ターゲット選択これより攻げ「こちら『エルシオール』ラクレット君、久しぶり」お久しぶりですアルモさん」

 

 

ラクレットが今まさに攻撃に転じようと、戦闘形態に機体を移行したところで、『エルシオール』通信担当であるアルモから通信が入った。これにより、微妙に出鼻をくじかれてしまうものの、命がかかっているためなのか、体が覚えているのか敵駆逐艦からの攻撃をよけつつ接近を続けていた。

 

 

「とりあえず、その駆逐艦を倒したら、シャトルの護衛をしつつ、敵を撃破して基本的に人命救助優先だから……あ、『ケーゼクーヘン』から通信入ります!! 」

 

 

何とか駆逐艦に張り付いき、砲門をつぶすための旋回を開始、相変わらず速度と旋回、回避が高いこの機体には殆ど有効打を持ちえないようで、敵の火力を順調に割いてゆく。滑り出しは順調、しかし気を引き締めようと集中すると、どーやら『エルシオール』に通信が入ったようで、アルモがそういったことを伝えてきた。

 

ラクレットはこれから起きる大声のリアクションを予想して、さらに意識を研ぎ澄ませることにした。

 

 

 

「よぉ、レスター久しぶり」

 

「はぁ!? おま、タクト!! どーしてここに!! 」

 

「え~!! マイヤーズ司令!? 」

 

「そんな、なんでこんなところに……」

 

 

とまあ、こうなるであろう、なにせ、普通に平和で軍とは無縁の生活をしているだろう彼が、戦闘宙域にある船の中にいたのである。驚くのは当然であろう。タクトは右手で頭をかきながら、レスターたちに向かって苦笑しながら言い放つ。

 

 

「いやー、俺たちが住んでいるのはコノ星系だしね、今日はラクレットの招待でプレオープンできてという訳」

 

「なるほど……確かにそうだが、なんという偶然だ……」

 

 

レスターは頭を抱えながらそう呟く、頭の悪いような確率で起こるよーな出来事が、久々に起こったからだ。『エルシオール』の中で随一の常識人を自負する彼は、こういったことがなかなか認められないのである。

 

 

「さて、レスター……オレが手伝えることはあるかい? 」

 

「ああ、普通なら頼めないが、まあ非常事態だ。エンジェル隊の指揮を頼む。こちらはシャトルの誘導で手いっぱいだ」

 

 

本当なら、そういったことはないレスターだが、より任務の成功率を上げるためなら常識的な手ならば何でも使うのだ。非常識な手まで使うのがタクトであるが。ともかく、レスターは、タクトにエンジェル隊の指揮を要請した。

 

 

「わかった、今出ている紋章機は? 」

 

「ああ、現在エルシオールに搭載されている紋章機3機の内出ているのは2機『ハッピートリガー』と」

 

 

レスターがそう言いかけた時、後続のシャトルに向かって急接近をかけ始めたミサイル艦が発見された。どうやら自爆特攻を行うようで、すべての行為を前進の為に割いていた。タクトの表情が一瞬強張る、そのミサイル艦は最前線にいるラクレットからはかなり遠く、他の紋章機からも5000以上開いている。しかしレスターは冷静に一言指示を出しただけだった。

 

 

「ちとせ、撃て」

 

「了解」

 

 

鈴の音のような声が通信越しから響き、次の瞬間その艦の反応が消えた。遠方から光の矢が襲来し、敵ミサイル艦のど真ん中を貫いたのである。その光景にタクトは一新言葉を失ってしまう。

 

 

「先週新しくエンジェル隊に配属された烏丸ちとせだ。彼女が乗る『シャープシューター』は同じく新しく発見された機体でな、遠距離からの狙撃とそれを行うための高性能なレーダーを搭載している機体だ」

 

「烏丸ちとせです。マイヤーズ司令お噂はかねがね」

 

「……ああ、こちらこそよろしく、今は司令じゃないけどね」

 

「失礼しました、ご支持のほどをよろしくお願いいたします」

 

 

タクトは一瞬彼女の存在に驚くものの、かわいい女の子だったために冷静になることができたのか、普通に対応する。どっかの誰かとは真逆だが、それは言わないでおこう。

 

 

「どうだいタクト? ちとせのコレは大したものだろ? 」

 

「フォルテ!! 久しぶりだね。さて、時間もないし、そろそろはじめようか?」

 

 

タクトは、フォルテの顔を見て表情をほころばせるものの、いつまでも再会を喜んでいられないと、気を引き締めた。敵は目の前にいるのだ。ないがしろにするわけにはいかないのである。

 

 

「フォルテ、ちとせ、ラクレット三人とも俺の指示通りに動いてくれ、ちとせは実戦初めてかい? 」

 

「はい、司令」

 

「そうか、大丈夫、シミュレーション通りにやれば、問題ないよ」

 

 

タクトは、実戦が初めてであるという、ちとせに対してそう優しく声をかけた。ちとせは尊敬するタクトからそういった声をかけられて、心の奥底があたたかくなり力が湧いてくるのを感じた。まあ、そんな尊敬の念もあと1時間もしたら砕けるのであろうが。

 

 

「それじゃ、はじめようか、最優先目標はシャトルの保護!! ちとせは射程圏に入った敵をこちらに近い足の速い艦から狙撃してくれ、フォルテはちとせの削りきれなかった艦の止めを、ラクレットは今の駆逐艦が片付くと同時に先行して叩いてきてくれ!! 」

 

「「「了解!! 」」」

 

 

気持ちよくそろう三人の声、守るべき目標もいるために全員テンションは高い。これなら大丈夫そうだとタクトは内心ほっとする。ちとせは命令に答えるべく操縦桿をきつく握りなおす。弓道の修練を行う時のように集中し遠くの目標を見据えた。口の中が少しばかり渇き、不快感を得るものの、決して意識はぶれなかった。

フォルテはそのちとせの様子をウィンドウ越しにちらりと確認し、前方の敵に意識を移す。この戦場において一番のベテランは自分であり気を配ろうとしたのだが、どうやらその心配は必要なかったようで、新人はきちんと自分の仕事をこなそうとしている。彼女は安心して、前進するのだった。

 

 

「行くよ!! まずは一発ぶちかましてやる!! 」

 

 

気分的に特殊兵装のストライクバーストをお見舞いしてやりたかったものの、どうやらそこまで同調しきってないようで、武装のミサイルを一斉に発射する。数ダースのミサイルが独自の軌道で単一の目標に向かい飛んでゆく、彼女なりの狼煙の上げ方であった。それらは見事に敵に命中し、さらに運よく敵の機関部に直撃したのか、一瞬光ると爆発四散した。

 

 

「よし、これでお終い!! 『エタニティーソード』次の目標に向かいます!! 」

 

 

ラクレットもとりあえず相手にしていた駆逐艦を落とす。彼と彼の機体はもともと、撃墜数が優れる機体ではない。どちらかと言えば囮や機関の足止めに向いているのだ。ちなみに現在 『駆動部操作装置停止操作』《Engine Control Unit Disabled Maneuver Drive》をカットしているものの中々の性能だ。というかECUDMDはすでに彼の技術が円熟してきたため、今後は頼る必要が無いと言える。ちなみに翼を出していない理由は単純にあの戦闘の後彼がシャトヤーンに頼んで封印をかけて貰ったのだ。エンジェル隊の紋章機がそうしたから、彼もつられてである。リミッターは解除されているので、白き月に行く前の翼を出していたころとほぼ同じ出力が出ている。要するに紋章機と同じ条件である。

 

 

「うん、頼んだ。ちとせ、次は敵Nを頼むよ、そいつは最後尾のシャトルに近いからね。そいつを倒せばあとは殲滅戦だ」

 

「了解です、退きなさい!! フェイタルアロー!! 」

 

 

ちとせは、『シャープシューター』の特殊兵装を発動させて、タクトの指示した目標を打ち抜く。彼女の特殊兵装は名の通り特殊で、距離が離れていればより多くの弾連続してを発射できるといったものだ。これはさながら敵の位置が離れていれば、離れているほど有利な、戦場での弓兵を表しているようで、それがまた彼女に適している。

 

その後、ちとせの活躍により、無事一人もの被害を出さずに、敵の殲滅を確認した。ラクレットの『エタニティーソード』は『エルシオール』に収容され、ミルフィーとタクトも同じく、『エルシオール』にシャトルで向かった。二人が『ケーゼクーヘン』を出るとき乗務員一堂に感謝され送り出されたが、二人とも笑顔でそれに答え、彼の英雄的名声が上がったのはまた別の話である。

 

 

戦闘後の確認のため、やや収容が遅れたラクレットと、戦闘終了後直ぐに向かったタクトたちが『エルシオール』についたのはほぼ同時だった。タクトたちを送ってきた『ケーゼクーヘン』の乗務員は、ラクレットのシャトルから運んできた荷物一式を下ろすと、すぐに戻って行く。二人は格納庫の隅のシャトル発着場で、フォルテとちとせに出迎えられていた。

 

 

「やぁ!! タクト、さっきも言ったが久しぶりだね!! ミルフィーは、本当に久しぶりだ」

 

「フォルテさん、お久しぶりです。元気していましたか? 」

 

「ああ、皇国に戻ってから忙しくて休みが取れないぐらいだけどね」

 

 

にこにこと満面の笑顔を浮かべるミルフィーを久しぶりに顔を合わせた妹を見るかのような優しい目で、見つめるフォルテ。なんだかんだ言って群を離れた彼女を一番気にしていたのである。その言葉が途切れると自然に視線はちとせに向いた。彼女は一歩前に踏み出すと整った背筋をさらに限界まで伸ばし敬礼する。

 

 

「烏丸ちとせ少尉です。マイヤーズ司令、かの英雄にお会いできて光栄です」

 

 

模範的な皇国軍の敬礼には一部の隙もなく、腰まで伸びた彼女の見事な艶がある黒い髪と後頭部から少しのぞかせる大きな赤いリボンがとても特徴的で、凛とした鈴の音のような声が彼女によくあっていた。タクトは今までにないタイプの美人だな~と思いつつ、あいさつを返す。

 

 

「さっきは見事な戦いだったよ、ちとせ」

 

「いえ、指示が的確でしたので、私はそれをしただけです。」

 

「おいおい、謙遜すんなよ、ちとせ」

 

 

謙虚であるちとせはタクトの賛辞をやはり否定する者の、フォルテにも褒められ、顔を赤らめさせるがどこか誇らしげな表情だ。

 

 

「さて、ちとせ、俺のことはタクトでいいから、もう呼んじゃっているけどオレもちとせって呼ぶし」

 

「……え?」

 

 

これが、後にマイヤーズ流と呼ばれる人心掌握術である。

 

 

 

 

 

 

 


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