僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第2話 物語序盤のデートは事件が起こる法則

 

『本日は、当商会の新型船、『ケーゼクーヘン』のプレオープンにご来場いただき、誠にありがとうございます。本客船は皇国最大の船型遊園地をコンセプトに作られた最新船です。今日という日が皆様にとって最高のものになるように、我々も尽力させていただきます。それでは、開場です。どうぞお楽しみください』

 

 

 

 

「わーすごい!! こんなに大きい遊園地が本当に船の中にあるんですね!! 」

 

「ミルフィー、あんまり先に行くとはぐれ……る程人はいないけど、おいてかないでくれよ」

 

タクトとミルフィーは今日、チーズ商会の最新船型遊園地である、『ケーゼクーヘン』に来ていた。話は数日前に遡る。

 

タクトとミルフィーは、エオニアとの戦いを終えて、軍から離れて生活していた。二人が暮らしているのは、皇国全体では少々外れに位置するものの、快適に生活できることで有名な、『コノ星系』である。その星系内の本星都市部で、小さなアパートメントを2つ隣同士の部屋になるように借りて、お隣さんとして生活していた。

先の大戦から半年、ミルフィーはケーキ屋、タクトはチェスの教室の先生のアルバイトを始めて、のんびりとした、しかしながらも幸せな生活を送っていたのである。

 

 

「いやぁ、毎日すまないね。こんなにおいしいお昼ご飯を食べられるなんて、オレは幸せ者だよ」

 

「そんな……でも、食費は半分出していただいていますし、気にしないでください」

 

 

今日の二人の昼食は、タクトの好物のひとつである、ツナサンドと、ミルフィー特製コーンスープである。タクトは昼過ぎに起きたばかりなので、朝食と言えるかもしれない、そして当然のように、タクトを起こしたのはミルフィーである、玄関の鍵が開いていたので、そのままお邪魔したという、こう何とも言えなくなるような関係である。

しかし、二人とも恋人らしいことなんてデートくらいしかしていないと上に、キスもまだ。その上二人ともそれで満足という大変プラトニックな関係で、ギャルゲーにするには都合のいい状態だ。美(?)男美女が楽しそうに笑いながら、買い物帰りに夕暮れの街を歩いているという事で、実はご近所で地味に評判になっているのだが、それは二人の知るところではない。

 

 

「にしても、もうエルシオールから離れて半年か……」

 

「そうですねー……あれが、半年も前だなんて、全然思えませんよ」

 

 

この平和な日々を噛み締めている二人は、ふとなんとなしにつけっぱなしにしてあったテレビに目を向ける。そこではニュース番組が流れており、アナウンサーが真剣な表情でレナ星系を中心に頻発している、資源の輸送船を襲う事件を報道している。今月に入って3件目にもなるその事件は強奪船団の仕業かと言われており、軍による調査が、資源不足になりつつあるレナ星系の支援とともに行われているとのことだ。

 

 

「物騒だな……せっかく平和になったというのに」

 

「ですねー……でも、きっと軍の人が何とかしてくれますよね? 」

 

「そうだね……そういえば、軍と言えばみんな元気かな? 」

 

 

タクトが気になるのは当然、あの戦乱の日々を共に駆けた仲間たちである。と言ってもまず頭に浮かんでくるのは、親友であるレスターと、エンジェル隊の隊員、それから飛び入りで参加した少年のことだ。

 

 

「みんな忙しいみたいですよ、ランファなんかこの前、『休みを取る暇がない~!! 』ってメールで送ってきました」

 

「そうか、元気そうなら何よりだね」

 

「あ、そうだタクトさん、明後日のこと、覚えていますか? 」

 

「当然だよ、なんせ、久しぶりのデートだもの」

 

 

タクトと、ミルフィーは数日前に、とあるメールを受け取っていた。差出人はラクレット・ヴァルター。エルシオールには救難信号をキャッチしたという理由で入ってきた民間人だ。彼は合流した際にエルシオールの窮地を救ったが、その後もその持前の戦闘機の腕と、愛機『エタニティーソード』を駆使して戦闘要員として最後まで戦ったという戦友の一人だ。

 

 

「にしても、すごいコネだよな……ミントといい、ラクレットいい」

 

「ですよね、なんせチーズ商会って言ったら『子供の積み木、若者の音楽、夫婦の演劇鑑賞、老後のボードゲームまで手広く娯楽を提供する、チーズ商会』ってCM毎日のように見ますよ」

 

「ミントの実家のブラマンシュ商会と提携して以来、急速に成長しているらしいからね、その最新の成果がこれっていう……」

 

 

ラクレットからのメールに書かれていたのは、簡単に言うならば招待だ。『僕の兄が経営する商会の船型遊園地のプレオープンがもうすぐあります。その場所がちょうどお二人の住む、コノ星系でやるそうなので、良かったらどうでしょうか? 招待状を添付しましたので、良かったら参加してください。────ラクレット』そういったことが書いてあった。ちょうどその日は、ミルフィーも休みがとれそうで、タクトのチェス教室の休みの日だった。もしかしたら、失ってしまった幸運が戻ってきたのかもなどと笑い合いながら、二人は諸手を挙げて参加を決めたのだ。

 

 

「楽しみですねー、あ、私お弁当作りますから、楽しみにしていてくださいね!! 」

 

「うん、楽しみにしてるよ、なんせミルフィーのお弁当は宇宙一だもの」

 

 

そういうわけで冒頭に戻るのだ。

 

 

「わーすごい、あの観覧車、半分船の外に出てますよ!! 」

 

「艦のシールドを歪曲させているらしいからね、万が一攻撃をくらっても、あれが1周する時間は持つ設計らしいよ 」

 

 

二人は、適度に空いている最新の遊園地という理想的な場所でデートしているのだ。そしてこの『ケーゼクーヘン』移動遊園地と舐めてもらっては困る。全2000M、全高1600M、全幅1600Mの卵のような形をしたこの船は、そこいらの遊園地にも負けない施設がある。確かに面積という面では劣るものの、それでも、移動型の遊園地としては破格の広さを持っている。加えて、遊園地としての機能を果たす際は、艦の上部の部分が開かれ、折り

たたまれて収納されていた、アトラクションが、シールドを歪曲させて、艦の外に出るといった形で展開するので、その狭さを感じさせない吹き抜け構造になる。欠点を上手い形でバーしているのだ。

さらに、この船にあるのは遊園地だけではない。カジノ、プール、映画館、ボーリング場と、現代社会における豪華客船を、信じられない大きさまで巨大化して、宇宙区間を進めるようにしたというものなのだ。

この馬鹿みたいにでかい船を動かすにあたって、搭載している『クロノストリングエンジン』の数も『エルシオール』の倍以上という頭の悪い数だ。こうでもしないと動かないのだからしょうがないが、そのため一部からは警戒されていたものの、武装を一切持たず、ただただ強固なシールドを作るという方面での運用にしているので、最終的には許可が下りたのである。船速はクロノドライブさえできれば良いであろうといった物しか出ないが。

 

そんな多機能にして、エンターテインメントの真髄ともいえるケーゼクーヘンだが、今日はあくまで遊園地のプレオープンであって、他の部分は立ち入り禁止となっているが。

 

 

「それじゃあ、ミルフィーは何に乗りたい? 」

 

「いっぱい乗りたいのがあるので、タクトさんが決めてください!! 」

 

「え? オレが決めちゃっていいの? 」

 

「はい、タクトさんと一緒なら、きっと何に乗っても楽しいですから」

 

 

とまあ、このように、甘くてスィーティーな上にとってもしゅがぁ☆なあま~い会話をしているので、きっと彼らも楽しんでいるのだろう。結局最初はメリーゴーランドに決めたようで、二人はそちらに向けて足を進めた。

 

 

 

 

 

天地を裂くような爆発音と、わずかな揺れを『ケーゼクーヘン』を襲ったとき、二人は目玉である大宇宙観覧車内で、ミルフィーの作ってきたとくせい愛情たっぷりなお弁当を、二人であ~んと、食べさせあった後である。おおよそ80パーセント回った後で、比較的すぐに、降りることができた。

そんな二人が、とりあえず周りを見渡すと、多くの乗客が、やや不安そうに開かれている天井部から外の様子をうかがっていた。彼らが避難しないのは単に先ほどから流れているアナウンスが、避難を促すものではなく、シールドが強力なので、避難した方が危険です。と繰り返しているからだ。

 

事実、音に対して、この船に起こる振動はかなり微弱なものであり、シールドの強度がうかがえる。二人が周りにならって上を見上げて感心していると、後ろから二人に近づく影があった。この遊園地のクルー、つまりはスタッフの一人である。

 

 

「お客様、少々よろしいでしょうか?」

 

「なんですか? 」

 

「失礼、タクト・マイヤーズ様とミルフィーユ・桜葉様ですね。私は、この船のクルーをしている、ブレッドと申します」

 

 

二人に話しかけたブレッドと名乗る執事風の青年は、この船において接客担当の人員だ。そんな彼のことを、なぜ今話しかけてきたのか?といった疑問を持ちながらもタクトは応対する。

 

 

「知っていると思うけが、名乗られたからには名乗っとくと、オレはタクト、こっちがミルフィー。それで何の用? 」

 

「はい、実は現在この船は最近活発に活動している強奪船団に遭遇しています。直接的な目標でなく、戦闘宙域が重なってしまったという所でしょう。すでに軍が殲滅に当たっており、推移は良好だそうで、あまり問題ではないのですが……」

 

「それはよかった。でも、それだけではないんだろ?」

 

「ええ、ですが話をする間にお二人についてきてほしい場所があるのですが、来ていただけますか?」

 

 

ブレッドはタクトと話しながらも視線をミルフィーに向けていた。それは彼女の了承を待っているというポーズで、その意図を理解した彼女はタクトに向かって頷く。この頷きは、『タクトさんに任せます』ではなく、『行きましょう、タクトさん』だと一瞬で理解したタクトは、迷わずにその言葉を了承し、ブレッドの案内で歩き始めた。

 

 

 

「まずはこのような形でお呼びしてしまい申し訳ございません。手短に説明させていただきますと、我々は最近レナ星系を中心に活動している強奪船団が、徐々にコノ星系に近づきつつあることに気付きました。しかしながら、すでに大々的にプレオープンの広告を打った後で有り、遠距離からいらっしゃるお客様はすでに出立した後でした」

 

 

ブレッドの案内で、二人は『ケーゼクーヘン』のブリッジに向かって歩を進めていた。上の大部分が遊園地となっているこの船のブリッジは、船前方の中心より少し上と言った所にある。そこに行くまで、ブレッドの話だと4分少々かかるそうだ。

敵襲があるかもしれないのに、なぜ強行で行ったのかは疑問だが、恐らく一種のプレゼンテーションも兼ねていたのであろう。言い方はおかしいが、シールド出力のコンバットプルーフが目的とタクトは見ていた。

 

 

「ですが、この近辺は軍の警戒も厳しい上に、この船事態も、強力なシールドを持っている。軍が来るまで持てば問題ないのですから、そこまで深刻に考える必要はなかったのですが、会長が念には念を入れてとのことで、少々手を講じたのです」

 

「手? それはいったいなんですか? 」

 

 

ミルフィーがブレッドに向かって訪ねる。やや速足で歩いているので、女性が話すのは辛いかもしれないと考えていたブレッドは、彼女も軍人だったと思い直し、質問に答える。

 

 

「現在皇国本星に向かっている途中の商会の船の経路を少々変更して、コノ星系を経由するように変えられたのです。その結果、このプレオープンの期間中、その船は『ケーゼクーヘン』で補給を受けるといった形で搭載されています、そしてその船は春から軍人になる為に本星にいる知人へと尋ねていく途中だった会長の弟をのせています。彼の愛機と共

に」

 

「え、それじゃあ」

 

「もしかして……」

 

「はい、ラクレット・ヴァルター。あなた方もご存じの人物です。貴方方に逢ってみてはどうですかと、私どもも申し上げたのですが、デートの邪魔をするのは悪いとのことで、客室におられましたが、つい今しがた出撃されたようです」

 

 

そう、本日『ケーゼクーヘン』は扱いは宇宙ヨットと同じである小型の民間機を搭載した、商会の船を収容していたのだ。万が一何かあった場合は、積極的自衛権の行使をするつもりだったのだが、その万が一が実際に起こってしまったので、大慌てで出撃していたのである。

 

 

「なんだー、来てたんだラクレット君も」

 

「そうみたいだね、遠慮しないで言ってくれればいいのに。でもこれでたぶん安心だ」

 

 

ブレッドの話を聞き、ラクレットがいるという事で、タクトとミルフィーの表情がほころぶ。デートと言う名目で来ているものの、久々に仲間に会えるのならば、あまりそういったことを気にしない二人は、ラクレットが顔を出さかったことに微妙に首をかしげている。だからこそ、ラクレットは内密にしていたのだが。

旧交を深めるくらいなら、愛でも深めててくださいと、彼本人は美味いこと言ったつもりである。

 

 

「もう2つほど、申し上げることがあります。強奪船団の正体は、無人艦隊……それも先の内乱で使われたタイプに近しいものです」

 

「なんだって!! 」

 

「そんな、黒き月はもうなくなったはずなのに……」

 

 

二人が驚くのも無理はない、あれだけのレベルの無人艦を作れるのは、『黒き月』だけなのだ。そしてその『黒き月』こそ先の内乱の元凶でもあり、エンジェル隊とエルシオールで戦い、エルシオールの『クロノブレイクキャノン』で破壊したのである。

 

 

「それじゃあ、少し危ないかもな……敵の数にもよるけど」

 

「そんな……」

 

「いえ、おそらく心配はいらないでしょう……」

 

 

ブレッドがそこまで言うと、ちょうど、ブリッジのドア目の前まで来ていた。彼はコンソールを操作して、ドアを開けて二人に背を向けて言い放った。

 

 

「なぜなら、対応に当たっている艦の名前は『エルシオール』……あなた方がいた艦なのですから」

 

 

タクトとミルフィーが通されたブリッジは、エルシオールのそれに比べれば幾分か劣るものの、最新鋭の船であることがわかるような、清潔で整然とした機材だった。民間の船では珍しく、周囲の状況を確認することができる、巨大なエリアマップが中央に設置されており、それが普通なら目を引くであろうが、二人がまず目にしたのは、メインモニターに

映る懐かしの艦だった。

 

 

「エルシオール!! 」

 

「わぁ! すごい偶然ですね!! 」

 

 

目を輝かせるミルフィーと、驚きで叫ぶタクト。二人ともまさかここにエルシオールが来ているなんて予想にもしなかったのであろう。

 

 

「……ラクレットがいて、エルシオールまでいるなら安心だ。それにしても急に同窓会みたいになったな」

 

「ですね~」

 

「…………さて、タクト・マイヤーズ様。この船に高速指揮リンクシステムは搭載されておりませんが、通常の指揮運用システム、ならびに高精度エリアマップがございます。そして現在通信士が対応していますがエルシオールと通信を行っています。エルシオールは現在、近隣の起動ステーションからの避難シャトルの誘導に忙しいようで、こちらもある程度の受け入れが可能なので、こちらに誘導するようにしております」

 

 

そこまで言って、ブレッドはタクトに向き直る。彼の眼は期待に溢れており、先ほどまでの仕事人といった雰囲気よりも、好奇心に動かされている少年のそれに近い。

 

 

「オレにエンジェル隊の指揮をするようにエルシオールに要請するのかい? 」

 

「端的に言えばそうですね、そうした方が、お客様の安全がより確実なものになるので……なにより、我々も見てみたいのですよ、先のエオニア戦役を最前線で駆け抜けた人物の指揮を」

 

「……それはなかなか、ハードルの高いお願いだね。わかった、期待に応えてみるよ」

 

 

 

 

こうして、タクトはエルシオールとの通信繋いだ。

これが、皇国……いや銀河を巻き込む巨大な戦乱の幕開けであった。

 

 

 

 

 





ケーゼクーヘンは大きいですが、ブラマンシュ商会はこれより巨大なデパートシップ(全高4000M)を所持しています。5年後にはそれがもう一つできるわけで、そこまで無理があるわけではないかと思い、こういった形になりました。


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