僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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前後編をまとめあげ


第十一話 これが僕らの全力全開

……さて来ましたよ。最難関の戦闘といわれているミッションがある章に。現在この僕、ラクレット・ヴァルターは精神統一中です。今回の戦闘ばかりは本当にかなりきつくなると思う。初回プレイの時には4回以上やり直したから。ただ今回は、一回のミスも許されないんだ。やるしかない。そんな悲壮感溢れる覚悟を決める僕ってカッコいいかも。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

その日、エルシオールは久しぶりの吉報に沸いていた。味方からの連絡が入ったのだ。合流ポイントが明記されていたそれは、エルシオールスタッフの顔を綻ばせるに値するそれであった。しかし、艦長であり司令でもあるタクトは、自分の直感が何かあると告げていたため手放しに喜べないでいた。

同じく彼の副官のレスターも相棒の直感が良く当たるのを今までの経験で知っていたので、密かに警戒をしていた。今まで幾度となく彼らの危機を救ってきた直感だ。そもそも人間の勘と言うのはなにもオカルト的な運命論で語るようなものだけではない。今までの経験に基づく違和感や既視感を無意識レベルで感じ取り通達するといったものだという説もある。『これは何か変だ、いやな感じがする』新たな状況に対する、そういった感覚と言うのは、無意識下での警報、統計的なメカニズムでもあるともいえる。事実、確実な危機が彼等にはせまっていた。

 

 

 

 

 

 

現在はクロノドライブで、指定された合流ポイントに向かっているところだ。もうすぐクロノドライブが終了するというところであり、30分ほど前に警戒態勢をしいてエンジェル隊の面々とラクレットに待機命令を出したところである。

 

 

「で、だ。タクト実際のところ襲撃はあると思うのか?」

 

「ああ、俺の勘だと十中八九あるって言ってる」

 

「そうか……アルモ、ドライブアウトまで後どれくらいだ?」

 

「およそ150秒です」

 

 

レスターはタクトに最終確認をした後に、いつもよりも険しい顔付きでアルモに尋ねる。アルモはその問いに対して一瞬だけウィンドウに目線を送った後にあくまでも事務的に答えた。

 

 

「レスター」

 

「……なんだ?」

 

「……なんでもない」

 

「そうか」

 

 

それだけのやり取りの後沈黙がブリッジを支配した。

 

 

「ドライブアウトまであと10秒」

 

 

アルモのカウントダウンを聞いて二人は、さらに体を身構える。カウントが読み上げられていく中、二人は前方のスクリーンに意識を集中した。

 

 

「1,0.ドライブアウト。周辺の宙域をスキャンします」

 

「……スキャン完了! 周辺にガスを確認しました! 戦闘が行われていた形跡があります!」

 

「なっ! ……いや、ここは良く皇国軍の訓練に使われる場所だ。まだ決まったわけではない」

 

「……アルモ、正面前方のポイントをサーチしてくれないか?」

 

「了解しました」

 

 

タクトと、レスターはひとまず、出た瞬間に狙われることがないと安堵し、溜息をついた。しかしいまだに警戒を緩めてよい状況ではないことは二人とも重々承知していた。古来より、戦争においては、味方と合流するなどによって、気が緩んでいる時が一番危険であるからだ。

しかしながら、彼らの緊張は一本の通信によって、壊されることになる。それも、味方からのものによって。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

ラクレットですが、通信内の空気が最悪です。要約すると、エンジェル隊が、襲撃来ないなら早く解散にして欲しい、それぞれに用事があるから。

と、文句をつけたからだ。にしても、眠いとか、パンが発酵しちゃうなどの理由で、上官に戦闘態勢を解除しろというのはどうなんだろう?

ここだけ疑問なんだよね。特にミルフィーなんて、士官学校の首席なのに。わがままが過ぎる。設定的におかしいでしょ?

 

 

「しっかりしてくれよ、みんな」

 

 

ああ、タクトそんな言い方したら……皆が反発するよ。一応この後すぐに襲撃があってやっぱり彼が正しかった、みたいになるからいいけど。さすがに好感度が下がるようなイベントをそのままにしとくのはとも思う。だから……できる僕はフォローに回る。これが自己犠牲ってやつだね

 

 

「そうですよ、みなさんは職業軍人なんですから、きちんと即応体制をとるべきでしょう。それにアッシュ少尉を除いては僕より年上なのですから、模範となるような行動をしていただきたいものです。十中八九敵の襲撃はあると見て間違いないのですから」

 

「えー、私はちゃんとやってるもん」

 

「そうよ、私だって、この通り待機しているじゃない!」

 

「模範となる行動と仰りましたが、それは私達の普段の行動が模範ではないと?」

 

「なんだいなんだい、二人ともこちとら真面目にやってるのに、その言い方はないだろう」

 

「……」

 

 

あれ? なんか余計怒った? うーん、まあ、いいか、アルモのサーチももう終わるみたいだし。

 

 

「司令!! 前方より敵艦隊が!」

 

「っく! エンジェル隊!! 出動してくれ!!」

 

 

ほら、予想通り、確か乗ってるのはシェリーだっけ? ここでの戦闘は飽く迄ブラフみたいなもので、ココからいける、クロノドライブ先に敵の本陣が待ち構えているとかそういう話だったはずだ。嫌らしいけど有効な手段だよね。いや、いやらしいから有効な手段なのか。

 

 

 

────了解!!

「了解!! 」

 

 

「司令、敵艦からの通信です」

 

「スクリーンに出してくれ」

 

タクトがそう言うと、スクリーンに出てきたのは、シェリーであった。5年前にエオニアと兄さんと一緒に写っていた時の顔とほとんど変わりがない。そういえばこの人って、シャトヤーンと同じで年齢がわからない数少ない女性キャラの一人だった気がする。ギャルゲーで年齢でないキャラって30代と思うんだけどどうよ?

 

 

「こちら、正統トランスバール皇国、シェリー・ブリストル。エルシオールクルーの皆さん、御機嫌よう」

 

「艦長、タクト・マイヤーズだ。いやいや、エオニア軍にも貴方の様な美しい女性がいたとは」

 

「あら、ありがとう。それで、こちらの用件はわかってるわね? シヴァ皇子を渡しなさい」

 

「だってさ、レスター」

 

「俺に、振るな!! そして断れ!!」

 

「だそうです。残念ながら、いくら美人のお願いとはいえ、聞けません」

 

 

おお、ナチュラルに漫才をやってるよ。タクトはこういう通信で、相手を挑発する心理戦に強いんだよね。にしても、この一連のやり取りの間ずっと表情を変えないシェリースゲー、立絵がないとか、そういう理由じゃないわけだから、本当にタクトに対して全く興味がないのかな?

 

「それじゃあ、力尽くでお願いするしかないわね」

 

「オレとしては、宇宙空間での戦闘(デート)よりもむしろ、豪華なディナーを綺麗な夜景を見ながら食べるほうがいいんだけどね」

 

「そんな余裕もここで終わりよ。それじゃあ次の通信は降伏宣言かしらね?」

 

 

その言葉を最後に、通信が切られた。うーん、こっちには全く興味はなさそうだね。なんというか、エオニア一筋?

 

 

「通信切れました」

 

「よし、コレより作戦を説明する。タクトいいな」

 

「ああ、皆! 頼んだぞ!」

 

 

さて、頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何とかしのぎきったか……。アルモ損害報告を頼む」

 

「了解しました」

 

 

何とか、シェリーの率いる敵戦艦を退けつつ、クロノドライブのポイントまでついたのはいいけど。この後、ドライブアウトした時に挟み撃ちで、今迄で最多の戦艦を相手にしなければいけない。タクトはそれが十中八九来るという考えで行動をしているはずだ。僕もさっきの戦闘で疲れているから、なるべく休む感じで行動しよう。なーんか疲れるんだよね戦闘機の操縦って。

 

そう思って、ティーラウンジに行ってホットチョコレートを飲んでいたんだが。

『エンジェル隊が……来ない』

うーん、なんか、前々から思ってたんだけど、僕エンジェル隊との接点薄い気がする。戦闘の時と、ミルフィーに料理を教わる時。主にその二つでしか会わない。なんか食事は時間が違うみたいだし。たまにティーラウンジに行くと居るけど。近づいても挨拶して終わりだし。まあ、気にしてもしょうがないか。まだ恋愛イベの時期じゃないしねー。とか、適当に考えてると、蘭花が来た。なにやらキョロキョロしている。そして、こっちに気付くと、近寄ってきた。

 

 

「ねえ、タクト知らない?」

 

「いえ、見てませんが……。タクトさんに何か用ですか? フランボワーズ少尉」

 

「あ、いや、知らないならいいのよ。それじゃあ」

 

 

そして、去っていった。あまりの自然な身のこなしに、全く反応できなかった。僕は、少し冷めてしまった、ホットチョコレートを一気に飲んで、そろそろあると思う、イベントを見にクジラルームに向かうのであった。

 

 

 

 

しかし、クジラルームが閉まっていて、ショックを受けたのは余談だ。そういえば、誰もいないから平気だって、言っていたね。まあ仕方ないか。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

「わかったよ、フォルテ。ありがとう」

 

タクトは、フォルテにそう言って、クジラルームを後にした。彼の心の中は、まだ完全に不安が消えたわけでは無い、しかしながら、先ほどまでフォルテと背中合わせに座って、語り合っていたタクトは、クジラルームに入る前のような、思いつめた顔はしていなかった。

 

 

「敵の策略とか、奇襲とか色々あるけれど、司令官のオレがきちんとしないと。皆も支えてくれてるんだから」

 

 

彼は基本的に、かなり前向きな人間だ。しかしながら、想定している以上の困難な状況に陥るといきなりネガティブになってしまう傾向がある。あと数年すればそのようなことも無くなり、海千山千と呼ぶに相応しい司令官になるのだが。それまで、やや後ろ向きになってしまった彼は、毎回仲間に支えられて再び前を向いて、進みだしていくのだ。そして、きっと今回のは、その始まりなのであろう。彼が仲間と支え合って前を向くという事の。

 

 

「あ…………タクト」

 

「あれ? ランファ?」

 

 

そんなフォルテによって、幾分が気分が軽くなったタクトが早速後のことを皆に伝える為にブリッジに向かう途中、ランファに出会った。彼女の様子は、どこか、何かにたして躊躇っている感じであり、何時もの竹を割ったような彼女らしさというものはなぜか鳴りを潜めていた。

 

 

「あのね……タクト」

 

「なんだい?」

 

「…………ううん、なんでもない」

 

 

ランファは何かを言いかけたかが、タクトの顔を見て、言葉を濁した。二人の間に微妙な沈黙が流れる。周囲に人もいないし、時計も無いので、ほぼ無音だ。そんな中、タクトは、ふとなにかに気付いたような表情をする。

 

 

「もしかして、励ましに来てくれたのかい?」

 

「────っな!!」

 

「ハハ、まさかね、でもありがとうランファ、オレはもう大丈夫だから」

 

 

タクトは、ランファの顔を見ながら何時ものように笑ってそう言った。

 

 

「これから、通信で言うつもりだったけど先に言うと、これから皆に待機してもらう。何がきても大丈夫な用にね」

 

「つまり敵がいると、タクトはそう考えているのね?」

 

「うん、だけど、ランファ達を信じてるから」

 

「な……当たり前じゃないの!私に任せておけば大丈夫よ!」

 

「はは、本当に頼りにしてるよ。それじゃあ」

 

 

 

 

それだけ言うと、タクトは右手を肩越しに上げて去っていった。その場に残されたランファは、タクトの後姿をやや呆然と見送っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

「…………ウチの司令官も困った女たらしだね」

 

そう、呟きながらフォルテは、ランファを通路の影から見つめていたのであった。

 

 

 

 

「余の名はエオニア・トランスバール」

 

「おや、総大将さんのお出ましかな?」

 

 

ドライブアウトした後、いきなりエオニアからの通信が入った。ブリッジの人達は騒然としている、まあ当然かな、いきなり敵のトップが出てきたんだ。僕は適当にそれを『エタニティーソード』から眺めていた。

にしても、兄貴どうしてるかな? 喧嘩ばっかしてた様な気もするけど、なんだかんだで僕の『エタニティーソード』弄ってくれてたしな。

 

 

 

 

そんなくだらない思考を続けているうちに通信はどんどんヒートアップしていた。さらに、後ろから追ってきた艦隊も到着したみたいだ。なんか、シヴァを渡せとか、断るとか。そんな感じの。

いきなり、こっちの警護対象を渡せとか言われても断るのは当たり前だよね。まあ、向こうも断られて当然見たいな感じな反応だけど。余裕たっぷり。みたいな?

 

 

「まあ、今断ろうと結局のところ変わるのは死ぬ人数だけだ。それもこの逆賊を打つ戦争では誤差でしかないがな」

 

「たいした自信をお持ちですね、皇子」

 

「貴様もな。……ふむ、その少年か?……確かに面影があるな」

 

 

あれ、なんかいきなり僕のほうに視線を向けてきたぞこの人は。いきなりそんなこと言わないで欲しいのだが。

 

 

「ではな、タクト・マイヤーズ。次に会うときにも同じ口が利けると良いがな」

 

「通信切れました。旗艦、撤退していきます」

 

 

アルモが通信が切れたことを報告している。レスターはとりあえずこの宙域の情報処理をさせるために忙しそうに指示を出していたが、タクトはこっちを見ている。疑っているのかな? ここは一応言っておくか。

 

 

「エオニア……あれが僕達の敵ですか」

 

「……そうだね」

 

「まあ、敵がわかろうと僕にできることなんてせいぜい敵の船を沈めることぐらいですがね」

 

「……頼んだよ。ラクレット」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、作戦を説明するよ」

 

 

そう言って、タクトはウィンドウを投影する。そこにはこの辺の宙域の、詳細な地図が書かれていて、1秒後に敵艦の配置が表示される。すごい数だ、紋章機を戦艦2隻分の戦力としても戦力比が……10倍は堅いね! これはひどい。

 

 

「とりあえず、今回の戦闘で敵の全滅をさせるのは難しい。そこで、最速でクロノドライブ可能なポイントまで移動する。アルモ、航路のデータを出してくれ」

 

「了解……あれ?」

 

「どうした?」

 

「いえ、変な重力反応があるみたいなんですが……」

 

「規模は?」

 

「すごく微弱なものです」

 

 

重力反応? そんなのあったっけ? 僕が、原作知識を思い出そうとしている間に、レスターが急かしたみたいで、話が先に進んでいた。にしても、原作知識ノートとか作っておくべきだったかな? なぜか、作る気がしなかったから作らなかったけど。実際面倒だったわけで。細かい話は案外忘れてるかもしれない。

 

 

「このポイントに行く事を作戦目標とする」

 

「上下からはさまれているが、エルシオール後方の艦隊の方が若干弱いために、そちらから回り込む」

 

 

現在のエルシオールは、タクトの言うとおり、前後を敵艦隊に、左右を小惑星帯に挟まれている。目標の地点は、エルシオールの右前方だけど、右の小惑星体に沿って目指すみたいだ。

 

 

「紋章機の部隊は二つに分ける。片方が進行ルートを作るために後方に、もう片方が、時間稼ぎのために前方のやや狭くなっている部分で戦ってもらう前方の部隊は、フォルテと、ラクレットに、後方の殲滅は、ミルフィー、ランファ、ミント、ヴァニラに頼む」

 

 

この辺の宙域は解りやすく言うと障害物があって縦3列に別れてるといった感じだ。現在エルシオールは真ん中の列に少しはいった所で、敵は同列前方にひしめいている。だから、後退した後右の列を進むという事らしい。んで、僕は中央列の前方の敵艦を細くなってる所でフォルテと足止めである。

 

 

「敵を倒すことを優先するな! エルシオールの被害を最小限にするように心がけてくれ」

 

────了解!!

「了解」

 

 

僕の『エタニティーソード』はこういう時の時間稼ぎにはちょうどいい。それにフォルテの『ハッピートリガー』は攻撃力防御力ともに高い。少数で攻めるならば、この二機の編成は最適だと思う。

そして、ミントの『トリックマスター』、ミルフィーの『ラッキースター』、ランファの『カンフーファイター』、ヴァニラの『ハーベスター』はそれぞれ遠距離、中距離、近距離、回復と、バランスが取れていて、進行方向の敵を倒すのには向いているであろう。きっと、ドライブアウト先の地図を見ながら、いろいろなケースを想定した上で、レスターとタクトが二人で考えたのであろう。隙がなく、この状況ではベストな作戦だと思う。

そして、僕は頭を戦闘用に切り替える。

 

さあ、ショータイムの始まりだ。

 

 

「作戦通りに行くよ、私達は時間稼ぎだ。後から追いかけるから、先に行ってぶった切ってやりな!」

 

「了解!! 移動形態に変更……『エタニティーソード』行きます!!」

 

 

僕のその言葉に、いきなり最高速度まで加速する。Gキャンセラーがあるからこそ、出来ることだ。敵の高速突撃艦の中でも、先頭にいる奴に狙いを定める。この戦闘には敵戦闘機がいないために、僕も全力で戦える。

敵との距離が、ぐんぐんと縮まっていく。まだ移動形態のままだ。今戦闘形態にしたら、敵のレーザーに捕捉されてしまうからだ。なにせ直線に飛んでる。最短距離を最効率で進むに今は、そうするしかないのだ。

 

 

「今だ!! 戦闘形態に移行!!」

 

 

僕がそう言うと、両翼が左右にスライドして、腕の形になる。その過程で加速が落ちるが、気にせずにレバーを握り敵艦の右下に回り込む。そのまま勢いを殺さずに、真後ろに回りこんで急旋回。敵の後方から、敵上部を切りつけつつ、もう一度前方に向かう。

攻撃が当たったことを確認しつつ、再び急旋回、今度は右にいるミサイル艦だ。比較的小さくて狙いがつけにくいが、それでも……

 

「一太刀浴びせる分には、問題ないんだよ!!」

 

エタニティーソードに、敵のシールドが今の攻撃で30%ほど削れたことが表示されるが、それよりも重要なのは、敵の狙いの優先度を僕に向ける事だ。一撃浴びせて、次の敵へを繰り返さなければ。

 

 

「それが……僕の……役割だからぁ!!!」

 

 

僕の役目は所謂壁役(タンク)。ヘイトを稼いで攻撃を集中させる。まあ、受けるんじゃなくて躱すんだけどね。勢い殺さず、そのまま敵巡洋艦の密集しているやや後方に向かう、途中後ろからミサイルによる攻撃を受けるが、今は気にしていられない。まだ、シールドは8割以上ある。敵しか攻撃できない距離が長いから、一々気を使ってたら、ずっと補給に行き続けなければ行けなくなる。敵の駆逐艦5隻が綺麗に陣形を組んだままこちらに向かってくる。

僕はいきなり『エタニティーソード』を急上昇させる。いい具合に追尾しきれなかったミサイルと、直進しかできないレーザーが機体下方を通過する。ミサイルがすぐさま捕捉しなおしたのか、そのまま進まず後ろで反転するのをレーダーで捕らえながらも次の行動に。敵との距離が1500を切ったので、急降下して上から強襲を仕掛けるのだ! 左右の剣に供給するエネルギーを最大にして、そのまま、敵に叩き付けるようにぶつける。

 

 

「こちら、『ハッピートリガー』コレより攻撃に移る。行くよ!!」

 

 

フォルテが、交戦可能域に到達したみたいだ。丁度僕のほうを向いてるミサイル艦と、突撃艦を後方より攻撃する。大量の重火器による攻撃で、ミサイル艦は、沈んだが、突撃艦はかろうじて耐え切ったみたいだ。内部のエアーに引火して爆発する、ということが無人艦故に無いからか?

 

 

「シュトーレン中尉!! 敵の巡洋艦が近寄ってきましたので、そこに向かいます」

 

「わかった、タクト!!」

 

「ああ!! フォルテは、そこのちょうど狭くなっている宙域で足止めを続けてくれ、それ以外は基本的にそちらに任せるよ」

 

「ずいぶん、信頼してるじゃないか?」

 

「当たり前だろ? エンジェル隊のリーダーは、銀河最強の部隊のリーダーなんだぜ?」

 

「解ってるじゃないかい!!」

 

 

巡洋艦の攻撃を、出来るだけ回避しながら近寄っていると、『H.A.L.Oシステム』とのシンクロ率が、MAXに成った。僕の飛んだ軌跡に羽が流れる。そのまま、並んでいる巡洋艦にめがけて僕は突撃する。両手の剣を一つに合わせ強く念じる。そんな音はしないけど、頭の奥でカチリと歯車が合わさる様な音がした。そして、エネルギー部分の大きさが、先ほどとは比較にならないほど大きくなる。

片手だけの状態で、10mほどの実剣の先に40mほどのエネルギー剣があったけど、1つになると100m近くの大剣にまで伸びる。実は、この特殊兵装は、何回も発動してるわけじゃない、でもすごく……

 

 

「馴染むんだよ!! ……行くぞ……コレが僕の全力全壊!! コネクッテドゥ……ウィル!!」

 

 

僕の剣が敵を一刀両断にし、そのまま次の艦に突撃して、真横に切りつける。すると、剣に供給されるエネルギー減少して元の大きさに戻った。僕はすかさず剣を二つに戻して、回避行動を取りつつその場から移動する。

 

 

「くそ! 空が狭い!」

 

「焦るんじゃないよ! 私達はただ、敵をここに引き付ければ良いだけさ。足の速い艦を優先的につぶしな!」

 

「了解!!」

 

 

フォルテからの指示を受けて、今度は、ミサイル艦の残りを破壊しに行く。

 

 

「もっと速く!! 僕より速いものは存在しないんだから!!」

 

 

飛来するミサイルなど、完全に無視してそのまま僕は飛び続ける。レーザーは常に僕の後ろ通過しいている。あっという間に、攻撃可能範囲に到達。

 

 

「機械風情には、もったいない墓場だろ!!」

 

 

そのまま、再びすれ違いざまに一閃する。今度は、一撃で沈めることに成功したみたいだ。だけど、『エタニティーソード』のシールドが残り38%に、エネルギーが47%になってしまった。タクトからの指示はまだ無い、

 

 

「ここは、踏ん張り所だな……いいだろう、我が漆黒の剣 エタニティーソードの力を見るがいい、そして、恐れ戦くのだ!!」

 

「…………敵に眼は無いよ」

 

 

その後僕は、戦闘宙域を飛び回り、エルシオールが後方の敵をある程度振り切るまで、時間稼ぎを続けたのであった。『ハッピートリガー』の方が、足が遅いために先に離脱していたので、結構な集中砲火を受けてしまい、シールドギリギリになって、ようやくたどり着いたのであった。

 

 

「補給お願いします。あと、修理も!!」

 

 

 

 

 

 

 

現在、戦闘は激化し、エンジェル隊の紋章機と『エタニティーソード』は『エルシオール』を護衛しつつ、移動中……逃走中だ。この状況だと、射程に優れる『トリックマスター』を中心に、ひたすら、補給と回復をしつつ、進んでいる。ゲームみたいに、一瞬で補給が出来る訳ではないのだが、さすがに6人で固まっていれば、それなりにもつ……と思っていたけど。

 

 

「クソ! 敵が減らない……どうするタクト、このままじゃまずいぞ」

 

 

状況はそんなによくない。戦闘中の応急処置では直せないような、ダメージが増えてきているのだ。現に、『トリックマスター』のフライヤーは、微妙に連動して動くタイミングがずれてきている。『ハーベスター』のナノマシンも今ある分を使い切ってしまえば、次の補給までの時間まで、回復無しでもたせなければいけなくなる。

 

でも

 

 

 

「信じるんだ、レスター」

 

 

タクトはまだ諦めていない。僕みたいに、この後味方の艦隊が増援に来る可能性が高いということを知っている訳でもないのに、笑いながら指揮を続けている。

 

 

「どうしてそんなことが言えるんだ!?」

 

「だって、この艦はシヴァ皇子を乗せているんだぜ? 味方の艦隊がいるのならば、きっと俺達を探している。さっきから、アルモに指示して救難信号を出力全開にさせたのはレスターだろ?」

 

「それはそうだ、現状エルシオールは完全に敵に補足されてしまっている、この状況では隠密行動を優先するよりも味方の増援にかけた方が良い」

 

「そう、士官学校首席のレスターがそう考えている。オレはその味方が合流するまで指揮をすればいい。そして、俺が指揮しているのはエンジェル隊だ」

 

 

そういう会話をしながらも、タクトは指揮をしているみたいだ。僕は指示されたポイントの敵に特殊兵装を使うために進路を変更する。目標は敵の母艦。シェリーが乗っているのとは別のみたいだけど。

 

 

「これで、無理なら皇国は滅んでしまうかもしれない。でも俺は皆を信じている。エンジェル隊にブリッジクルーはもちろん。このエルシオールに乗るすべての人を」

 

 

よし、正面に補足、特殊兵装を発動、両手の剣を一つに……ってくそ!! 加速しやがった。食らいついてやる!! クロノストリングの決定的な性能差を見せてやる!!

 

 

「だから、きっと大丈夫さ。そうだろミルフィー?」

 

「はい! タクトさんがいうなら、きっと」

 

「ちょっとタクト!! アタシは信じてないわけ!?」

 

「そうですわ。私達だって、必死に動いてますわ」

 

「そうそう、敵を落とした数なら、アタシのほうが多いはずさ」

 

「私もナノマシンで治療してます」

 

「捕らえた!! くたばれっ!! コネクティドゥウィル!!」

 

「「「「「「………」」」」」」」

 

 

ふう、沈んだ。いやーなかなかに強敵だったぜ。ってあれ?

 

 

「あのー……皆さんどうかしましたか?」

 

 

なんか、皆が微妙な目でこっちを見てる。

 

 

「いや、なんでもないよ……ともかく、皆もう一頑張りだ。頼んだぞ!!」

 

────了解!!

「了解!! 」

 

 

僕が、そう返事して、再び敵に意識を集中させようとしたら、突然敵の一部が爆発した。

 

 

「司令!! 敵艦隊の一部に致命的なダメージ、今の攻撃で敵の2割が戦闘不能に!!」

 

「決意を新たにしているところ悪いが……援軍の到着じゃ。どうやら間に合ったようじゃな」

 

「ルフト先生!!」

 

 

どうやら、味方の援軍が間に合ってくれたらしい。よかった。一安心だぜ。

 

 

「エンジェル隊の皆、お疲れ様、帰艦してくれ」

 

「ラクレットももう戻ってかまわないぞ。今日は書類の整理はいいから、ゆっくり休んでくれ」

 

 

────了解!!

「了解……ありがとうございます。レスターさん」

 

 

ああ、今日は、ぐっすり寝よう。疲れたよ。

 

 

 

────────

 

 

 

タクトは戦闘が終了し、後の細かい作業や、合流艦隊との調整をレスターに任せて、エンジェル隊とラクレットをねぎらった後、自室である司令官室にいた。レスターには、仮眠をとると言ってきたが、彼は今珍しく自分のデスクについていた。

 

 

「うーん、いままで疑ってきたけど、今日の通信を含めると……」

 

 

彼の目の前に表示されているウィンドウには、この前ブラマンシュ商会が補給に来たときに、調べた情報でラクレットについてのことが書いてあった。

 

 

「個人の情報はさすがになかったけど、モッツァレラ・ヴァルター……彼の話どおりクリオム星系の第11惑星の総督の名前だ」

 

 

と言っても、どちらかと言えばそれは表面的なものばかりであった。クリオム星系の本星データベースか、皇国本星のデータベースに繋げるのならばそれなりにそろったであろうが。

 

 

「彼が、仮にエオニアのスパイならば、絶対にあの場面で話しかけられるということは無かったはず」

 

「加えて、彼の言動は正直工作員のそれじゃない。今日の戦闘だって、集中しすぎて会話を聞いてなかったくらいだ」

 

「でも、オレの勘は彼が何かを隠している、って言ってる。しかもすごく重要なことのような気がする……」

 

 

一人でぶつぶつ呟きながら、タクトは思考を深める。顔は何時もよりやや真面目な相貌であり、普段のにやけた面影は見受けられない。しばらくそれを続けた後、彼の中で結論が出たのか立ち上がり、一枚のドアで隔てられた、私室に向けて歩を進めた。

 

 

「いいさ、オレが見極めればいいだけだ。エンジェル隊を信じるって決めたんだ、彼だって、信じて見せるさ、何にも無いのなら」

 

 

彼の表情は、先ほどフォルテと会話した時のそれよりもさらに清々しいものであった。決意を固めた彼は、レスターに任せて限界まで何時間寝れるかを計算しつつ仮眠を取るのであった。

 


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