仮面ライダー-the world-   作:しおこんぶ

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天の道と3つのメダル

 「ッチ、何よあの変な男……」

 「若菜、お客様の前で失礼でしょう」

 園崎邸の大広間、その長テーブルの向かいにどっかりと腰掛けたカイに舌打ちをした妹の園崎若菜を、姉の園崎冴子が注意する。しかし、冴子もカイを氷のような視線で睨んでいた。

 

 「まあまあ、落ち着き給え2人とも。ここはお客様の話を聞こうじゃないか」

 そんな2人を笑みをたたえた園崎霧彦が、楽しそうにたしなめる。

 

 「すまないねカイとやら、まあ悪気はないから気にしないでくれたまえ」

 琉兵衛は、手にしたコーヒーカップをゆらゆらと揺らしながら余裕を持った所作でカイに詫びた、しかし、カイはつまらなさそうに3人を見やるとフンッと息を吐く。

 「なあ、もうつまんないからこの家ぶっ壊していいか?」

 「何ですって!」

 「若菜」

 カイの暴言に思わず立ち上がった若菜を一声で御すと、琉兵衛は懐から1つのガイアメモリを取り出して見せた。

 

 「これが何か分かるかね?」

 「あ? 知る訳ないだろそんなおもちゃ」

 「おもちゃとは失礼な……それはガイアメモリ、無限の可能性を秘めた禁断の箱さ」

 眉を潜めているカイに、霧彦がニヒルな笑みを崩さず口を挟んだ。

 

 「で、そのガイア何とかがどうしたんだよ」

 「お父様に向かって随分な口の効き方ね」

 「冴子。カイとやら、これは地球の記憶を元に作られたものだ」

 「記憶……」

 記憶という言葉に反応したカイの様子に、琉兵衛はニヤリと笑うとメモリを仕舞った。

 

 「君達イマジン……とやらは人の記憶に潜り、その人間の時間を手にする……ではもし人間ではなく、地球の記憶に潜りこむことができたら……?」

 琉兵衛の言葉に、冴子、若菜、切彦が同時にハッとしたようにカイを見やった。

 「クフフ……おもしれェ、あんた面白ェよ。俺、そういう顔してるよな?」

 

 カイは、それまでとは一転して楽しそうに両手を広げて高笑いしていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「ここ、どこだ?」

 倉庫街のような場所に佇んでポリポリと頭を掻くと、火野映司は肩に抱えた木の棒を傍の箱に立て掛けた。その先端には1枚のパンツが括り付けられているだけで、その他にこれといって目ぼしいものを持っている様子はない。

 「確か旅を続けてる時に、いきなり黒い渦に呑まれてそれから……」

 映司は顎に手を当てて考え込むような素振りをしたが、すぐにまあいいかという様子で背伸びをした。

 

 「今日はここらへんで野宿といくかあ」

 そう言って彼が歩き出そうとした次の瞬間。

 

 「グシュルルルルル……」

 突如として倉庫のあちこちから出現した緑色の怪物、“サナギワーム”に包囲された映司。だが、少し驚いた表情はしたものの、映司はすぐにベルトを取り出すと、腰に装着する。

 「何だこいつら、グリード……にしては違うような」

 「グシュウウウウウウ!!」

 そんな映司の声などおかまいなしに突っ込んできたサナギワームの攻撃を躱すと、映司は赤・黄・緑のメダルを取り出した。

 

 「何か分からないけど、とりあえずやるしかないか! アンク!」

 何もない空間に手を差し出した映司は、ハッとした顔でばつの悪そうに笑んだ。

 「あっ、ついまた癖が出て……」

 映司は差し出した手を引っ込めると、懐から3枚のメダルをベルトに装着し、顔を上げた。腰のオースキャナーを取るとベルトの前で滑らせていく。

 

 “タカ! トラ! バッタ!”

 “タトバ、タトバ、タトバ!”

 突如現れた赤・黄・緑に配色された体を持つ“仮面ライダーOOO”の姿に、サナギワームは一瞬怯んだように動きを止めたが、すぐさま集団で襲い掛かってくる。 

 

 「そらっ!」

 「ギシャアア!」

 両腕のトラクローでサナギワームを次々に切り裂きながら、オーズはワームを蹴散らしていく。緑色の光を放って爆発四散していくサナギワーム達だが、その内の何体かの体が、高熱を帯びて赤くなっていくことに戦闘中の映司は気付いていなかった。

 

 「よし、あと少しだ!」

 残り数体となったサナギワームに向かって、映司は一気呵成に突っ込むとトラクローでとどめを刺そうと腕を振りかぶる。しかし、そこで予期せぬ事態が起きた。

 「ギジイイイイイイ!!」

 サナギワームの内の2体が突如脱皮すると、蜘蛛の姿をした“アラクネワーム”へと姿を変え、次の瞬間クロックアップが発動しその姿を瞬時に消してしまう。

 

 「なっ……どわあっ!」

 目にも止まらぬアラクネワームの攻撃にオーズは吹き飛ばされると、倉庫に積まれていた鉄骨に叩き付けられる。

 

 「痛てててて……何だ今の、全然見えなかった」

 驚きを隠せないまま、オーズはメダジャリバーを構えて辺りを警戒する。

 

 「っ、後ろかっ!」

 幾つもの戦闘を積んできたオーズは、背後の気配に反応してメダジャリバーを横薙ぎに振るった。しかし、僅かに届かなかったのか剣は虚しく空を切るとアラクネワームはオーズの横面から攻撃を加えた。

 

 「うわあっ!!」

 またしても吹き飛ばされながら、オーズは何とか体勢を立て直す。

 「グルルルルル……」

 クロックオーバーして姿を晒した2体のアラクネワームに、オーズが後ずさる。

 「あぁもう、困ったなぁ」

 映司が思わずそう声を漏らした時、突如として1つの赤い物体が高速で飛来しアラクネワームを吹き飛ばした。

 

 「なっ!」

 カブトムシのような形をした機械は、そのままの勢いで旋回すると倉庫の入り口に戻っていく。それを、後光を受けた1人の人物がキャッチした。

 

 「全く、まだ味噌汁の下ごしらえが終わってないというのに、無粋なワーム達だ」

 余裕のある声でそう呟き、“カブトゼクター”を手にした青年はふうっと息を吐いた。

 

 「君は一体……」

 立ち上がったオーズが尋ねる。その言葉に、青年はゆっくりと人差し指を上げた。

 「俺は天の道を往き、総てを司る男、天道総司。覚えておけ、変身」

 

 “HENSHIN”

 カブトゼクターをベルトにセットした天道総司が、“仮面ライダーカブト”へと姿を変える。

 「キャストオフ」

 “Cast(キャスト) off(オフ)”

 “Change(チェンジ) Beetle(ビートル)”

 紅く光り輝くカブトムシの形をした鎧に身を包んだカブトの姿に、オーズがその場で拍手する。

 

 「うわぁ、格好いい! やっぱ俺も変身前とかに決め台詞作ろっかなぁ」

 「馬鹿な話は後にしろ、来るぞ」

 カブトが身構えると、オーズも慌ててその横に並んで2体のアラクネワームに対峙した。

 

 「ギシャアアアア!!」

 “Clock(クロック) Up(アップ)”

 アラクネワーム達とカブトが同時にクロックアップすると、またしてもその姿が消える。

 「あぁもう、ずるいよみんなだけ!」

 オーズの目には見えないものの、恐らくクロックアップしている中では激しい打ち合いが繰り広げられているのだろう。

 

 “Clock(クロック) Over(オーバー)”

 そんなオーズの目の前に、クロックオーバーしたカブトと2体のアラクネワームが現れる。

 「ねぇ、俺どうすればいいの!?」

 しがみついてきたオーズを振り払うと、カブトはクナイを構えたままの体勢でオーズを一瞥した。

 

 「おばあちゃんが言っていた、初めから人に教えを請う人間は結局自分で考えるのが面倒くさいだけなんだってな」

 「そんなぁ……」

 ガクリと肩を落としたオーズに、カブトは続けた。

 「ワームは所詮ただの虫。虫がどれだけ足掻こうと、太陽には届かない」

 そう言い残して、再びカブトとワームは姿を消した。

 

 「いや太陽って言われても……太陽……あっ、そっか!」

 カブトの言葉にヒントを得たのか、オーズは2枚の黄色のメダルを取り出した。それをベルトにセットし直すと、再びスキャナーを通す。

 

 “ライオン!”“トラ!”“チーター!”

 “ラタラタ、ラトラーター!”

 ラトラータにフォームチェンジしたオーズは、その顔から目映いばかりの光を放った。

 

 「はぁあああああ!!」

 「ギギッ!?」

 その輝きに怯んだアラクネワーム2体が、堪らずといったように動きを止めて姿を現した。その瞬間を見逃さず姿を現したカブトが2体をまとめて切り裂く。

 「ほう……」

 カブトはオーズを振り返ると少し感心したように声を漏らした。

 

 「どこにいても太陽の輝きからは逃げられないってね!」

 “スキャニングチャージ!!”

 再びメダルをスキャンしたオーズの目の前に、3枚の光輪が重なる。その1つひとつを通り抜けながら、オーズは加速してアラクネワームへと突進していく。

 

 “One(ワン) Two(トゥー) Three(スリー)”

 カブトもオーズと向かい合うように立つとゼクターのスイッチを順に押した。

 

 「はぁぁぁぁぁ! セイヤァァ!!」

 ガッシュクロスを発動したオーズのそれぞれの鉤爪で切り裂かれた2体のアラクネワームが、カブトへと吹き飛ばされていく。

 

 「ライダー……キック」

 “Rider(ライダー) kick(キック)”

 飛来するアラクネワームを視界に捉えたカブトが、カブトゼクターの角を引くと、カブトのマスクに集約されたエネルギーが一気に右足に蓄積された。

 

 「はあっ!」

 「ギジャアアアア!!」

 カブトの蹴りの直撃を受けたアラクネワーム達は爆発四散して消滅する。

 

 「やったぁぁぁ!」

 駆け寄ってきたオーズに肩を抱かれたカブトは、鬱陶しそうに腕を払った。

 「いやーすごかったよ天丼君!」

 「天道だ」

 「ヒントありがとう! それにしても太陽なんて格好いいこと言うなぁ」

 「ヒント……? あ、あぁ、まぁな」

 まさか映司が太陽からヒントを得るとは思っていなかった天道は、まぁいいかとばかりに腕組みする。

 

 「お前の太陽の輝き、まぁ褒めておいてやるくらいのものではあった」

 「ありがとう!」

 映司は子犬のように嬉しそうに笑うと総司に微笑んだ。

 

 「まぁ、俺は太陽そのもの。常に輝いているがな」

 「いやぁ、俺も決め台詞作ろうかなぁ。火の野原を往き、映画の主役を司る者! とか、どうかな!?」

 「俺の話を聞いているか?」

 総司は思わず映司にツッコミを入れた。


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