「で、あんた達はそのデンライナー……とかいうやつに乗ってる途中にあの変な黒い霧に巻き込まれたって訳か」
「うん。こんなおとぎ話みたいなこと、急には信じられないと思うけど……。私達もデンライナーでなんとかこの世界まで逃げて来たの」
「僕はその途中で電車から落ちちゃって、それであの木に引っ掛かってたんだ」
鳴海探偵事務所のオフィスでテーブルを囲みながら、翔太郎とフィリップは電王の世界の住人達と面していた。ハナは、翔太郎から出されたコーヒーを手にこれまでのいきさつを簡単に説明するとカップを口に運び一口啜る。
「時を駆ける電車、デンライナー……興味深い、実に興味深いねえ」
フィリップは右腕に本を抱えたまま、ハナ達の話を瞳を輝かせながら聞き入っている。そして良太郎の後ろでそれぞれ椅子に腰掛けているイマジン達を順番に眺めた。
「まあそういう訳でよ、急にデンライナーが墜落するわ敵は出てくるわで俺達は大慌てだったって訳だ」
全身赤色の体で桃太郎に出てくる鬼のような顔をした、“モモタロス”がカップを片手にやれやれと首を振る。
「まあその次元の歪みとやらのおかげで、何故か僕達も実体化できている訳だけど。というか、墜落の原因は先輩とリュウタが喧嘩してたせいでデンライナーがレールを外れたせいでもあるよね?」
「ぐぬっ! ば、バカそれを言うなっ! 鼻クソ女にばれないように隠すの大変だったんだぞ!」
顎に指を押し当てて鋭い指摘をしてきた青色のイマジン、“ウラタロス”にギクリと肩を震わせ、モモタロスは背後に感じた殺気に恐る恐る振り向いた。
「アンタ、それどういうことよっ!」
拳を握り締めたハナに胸倉を掴まれ、モモタロスはグエッと呻きながら締め上げられる。
「やーい、怒られてる!」
「元はと言えばてめえが俺のプリン食べるからだろうが! 大体なあ……グフッ!!」
「うわぁ、ちょっ!」
ハナの後ろからこちらをからかってきた紫色のイマジン、“リュウタロス”に向かって、ハナがモモタロスを放り投げると、二人はそのまま床に叩き付けられて気を失った。
「グゴォォォ……ハッ、なっ、なんやなんや!」
その衝撃で一人いびきをかきながら寝ていた黄色のイマジン“キンタロス”がハッとしたように顔を上げるが、ものの数秒で再び眠りにつく。
「やれやれ」
「ちょっとみんな、人の家で暴れちゃだめえ!」
あたふたと立ち上がった良太郎が、何とかハナを諌めてウラタロスの隣に座らせた。
「ま、まあ、にわかには信じがてえけど、ここ最近の風都での異変を考えるとそれも頷けるな」
電王一行のコントのような立ち振る舞いに少し戸惑いながらも、翔太郎は帽子を壁に掛けて最近の風都の様子を思い出す。ある日突然黒いオーラに覆われた風都。そして同時に次元の歪みから突如出現したイマジンと呼ばれる化物は、未だドーパントの犯罪が絶えない風都の街を脅かしていた。
おかげで翔太郎たちは、ここ最近毎日戦いっぱなしで疲れが溜まっていたのである。
「それにしても翔太郎、僕はこのハナさんとかいう女性を見ているとある女の子を思い出してしまうんだけど」
フィリップが床に倒れたまま伸びているモモタロスの角を興味深そうに触りながら、翔太郎にニヤリと顔を向ける。
「やっぱそう思うかフィリップ。この力強さ、おやっさん譲りの亜希子の性格にそっくりだよなぁ」
「亜希子って?」
良太郎とハナが首を傾げて翔太郎に尋ねる。
ああ、と言って翔太郎はカップを持ち上げコーヒーを一口啜った。
「この鳴海探偵事務所の、まあ一応所長みたいなやつさ」
「その亜希子ちゃんっていう子は、今どこにいるの?」
ハナの問い掛けに、翔太郎とフィリップは少し暗い顔で俯いた。
「アキちゃんは、この町が黒いオーラに覆われた時に次元の亀裂に飲まれてしまったんだ。照井竜と呼ばれる男が彼女を追ってそれに飛び込んでいって……それっきり連絡はなしさ」
フィリップが簡単にそう説明して、フッと息を吐く。
「そう……だったんだ……」
同じく俯いてしまうハナだったが、良太郎はぐっと拳を握って強く頷いた。
「大丈夫だよ、次元の亀裂は別の世界に繋がっているみたいだし、きっと亜希子ちゃんと照井さんって人もそこにいる」
「ああ、ありがとうな良太郎。お前に言われると何だか不思議とそんな気がしてくるぜ」
ニコリと微笑む良太郎の笑顔は頼りないのに、どこか見る人に安心感を与える力があった。ハナも強く頷くと、よしっと言って立ち上がった。
「良太郎、とりあえずこの町を見て回ろう。イマジンの手がかりも何かあるかもしれない」
「そうだね、翔太郎さん、良かったら僕達にこの町のこと案内してもらえますか?」
良太郎がその答えを聞く前に、翔太郎は既に帽子を被り準備を完了していた。
「もちろんだ。この町は俺の庭みてえなもんだからな。おいフィリップ、出掛ける準備だ」
「僕としてはこのモモタロス達をもっとよく調べたいんだが……まあ、後のお楽しみにしようかな」
フィリップが少し残念そうに言って本を手に立ち上がる。
「とりあえず情報屋の奴らに会ってイマジンとか言う奴らのことを……」
「キャアアアアアーー!!」
事務所のドアを開けた途端、飛び込んできた悲鳴に翔太郎とフィリップは目を見合わせて外へと飛び出していく。
「ハナさん、僕達も!」
「うん!」
良太郎とハナも頷き合うと、二人の後に続いた。
「ぐはっ!」
「いてっ!」
叫び声に目を覚ました瞬間良太郎とハナに踏みつけられたモモタロスとリュウタロスも腰を摩りながら、外へと繰り出した。
◆
「ウオオオオオオオ!!」
鎌状の武器に高エネルギーを纏わせて、“デスイマジン” は周囲の建物を破壊しながら広場で暴れていた。その一撃はビルを簡単に切り裂き、近くにある噴水を粉々に破壊していく。
「ははははは! 知らない町壊すのって面白え!」
その傍らで楽しそうに手を叩きながら、“カイ”は黒いローブを揺らして風都のシンボルである風車に目を止めた。
「アレぶっ壊したらもっと面白くなりそうだな」
カイがニヤリと笑ってエネルギーを手に纏わせたその時。
「待ちやがれこの悪党ども!」
「はあ?」
怒りに燃えた翔太郎の声に、カイとデスイマジンが声のした方を振り向く。
「ったくどいつもこいつも町を泣かせやがって、今大人しくさせてやるから覚悟しな」
帽子を直しながら言い放つ翔太郎の隣で、フィリップはデスイマジンを率いるカイを見つめている。
「やはり検索には引っ掛からないか……君、何者だい?」
指を刺されたカイは少しイラついたような顔で拳を握るが、すぐに笑顔になった。
「決めた、俺おまえらぶっ飛ばす。なあ、俺そういう顔してるよなあ?」
「フィリップ、話は後だ。いくぜ」
「やれやれ、仕方ないね」
二人がそれぞれサイクロンメモリとジョーカーメモリを手にする。
「カイ! あんた何でこの町に!」
そこに合流したハナが、カイの姿に驚いて立ち竦む。カイは興味なさそうにハナを一瞥した。
「まあいいや、全部やっちゃえ」
「ウオオオオオオオオオオ!!」
デスイマジンがカイの前に躍り出て鎌を構える。
「ハナさん、とりあえず安全な場所に」
追い付いた良太郎が、ハナを庇うように立つとベルトを巻いてパスを取り出した。
「モモタロス、いくよ」
「おう、やっぱり俺だよな!」
少し遅れてこちらに向かってくるイマジン達の先頭にいたモモタロスが、赤い光を纏ってこちらに飛んでくる。
「翔太郎、こっちもいこう」
「よっしゃ」
翔太郎とフィリップは同時にメモリを押した。
“サイクロン!”、“ジョーカー!”
良太郎も続いてベルトにパスを翳す。翔太郎もフィリップから転送されたメモリをダブルドライバーに差し込むと、ジョーカーメモリを差し込んだ。
「「「変身」」」
“Sword(ソード) form(フォーム)”
“サイクロン!”“ジョーカー!”
「俺、参上!」
「さあ、お前の罪を数えろ!」
同時に変身した“仮面ライダー電王”と“仮面ライダーW”が、姿を現す。
「えっ、ちょっと!」
変身直後に倒れたフィリップをハナが何とか抱えると、Wの中にいる翔太郎がサンキューと声を掛けた。
「いくぜ? 怪人ど」よっしゃあああああああ! 久しぶりに思いっきり戦えるぜえ!」
「だーっ、びっくりしたあ! お前どうしたんだ急に!」
「おそらく一連の現象から考えるに、モモタロスというイマジンが戦闘時に憑依したんだろう。戦闘形態が先程と異なるのもそのためさ」
「す、すごい、一目で見抜かれた」
驚く良太郎に構わず、電王は手にしたデンガッシャーを剣の形に変える。
「ああん? 細かいことはどうでもいいんだよ。いくぜいくぜいくぜえ!!」
「ああ、おい! ったく、俺達もいくぜ!」
電王を慌てて呼び止めようとしたWだったが、やれやれと首を掻くと、その後に続いて駆け出した。