仮面ライダー-the world-   作:しおこんぶ

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旅の始まり

 「痛っっ、一体何が起きたってんだ?」

 気を失っていた巧が目を開けると、そこにはいつものクリーニング屋の光景が広がっていた。台の上に置かれたアイロンに、クリーニングされて綺麗に皺の伸びたシャツの掛かったラックと、変わったところは見受けられない。

 

 「ん、うーん」

 「あいてて、な、何が起きたの?」

 やがて、真理と啓太郎も頭を摩りながらゆっくりと起き上がる。幸い頭を打っただけで怪我はしていないようだ。

 

 「とにかく、外に出てみるか」

 ドアノブに手を掛け外へと踏み出す巧に続いて、真理と啓太郎も外へと踏み出した。

 「なんだこりゃあ……」

 3人が目にしたのは、赤黒いオーラに包まれた空と、所々が歪んだ空間によって不安定になっている町の姿だった。

 

 「何だってんだこりゃあ」

 「どうなっちゃったのこれ」

 「はわわわ……」

 あまりにも現実離れした光景に、3人はただ呆然と立ち竦む。歪んだ空間には亀裂が走りまるでどこか別の空間と繋がっているかのように、こちらとは異なる向こうの景色が見えていた。

 

 「向こうに何か見えるな……学園みたいな建物か……?」

 「ちょっと巧、危ないよ!」

 不用意に歪んだ空間に近付いてしげしげとそれを眺める巧を、真理が慌てて引き留める。

 「大丈夫だよこれぐらい、別に死ぬわけじゃ……っ!」

 

 その時、何かの気配を感じた巧が、真理と啓太郎を庇うように回り込むと、一つの歪みの前で身構えた。

 「えっ、どうしたの巧」

 「たっくん、何か見えるの?」

 

 『ほう、俺様の殺気に気が付くとは……人間にしては少しやるようだ』

 地の底から響くようなその声と共に、歪みの中から一つの影がゆっくりと現れる。

 

 「てめえ、何者だ」

 『俺か? まあ、名乗る必要はない。どうせ貴様はここで死ぬのだからな』

 現れたその怪人は、ライオンの顔に鋭い爪を持ち、黒いローブを纏った“レオ・ゾディアーツ”だった。

 

 「た、たたたっくん、オル、オルフェノクだよっ」

 「巧、これ使って!」

 震える啓太郎の後ろからファイズギアを持った真理が現れ、レオゾディアーツと対峙する巧に向かってそれを放り投げる。

 「サンキュー真理!」

 難なくそれをキャッチして腰にベルトを装着すると、巧はファイズフォンを握り締めたまま555と三回連続でボタンを押した。

 

 『Standing by』

 電子音声と共に待機音が辺りに響き渡る。

 「ほう、貴様仮面ライダーか。その力見せて見ろ」

 

 腕組みしたまま余裕を見せるレオゾディアーツにニヤリと笑い、巧はファイズフォンをベルトに差し込んだ。

 

 「後悔すんぜ? 変身!!」

 『Complete』

 

 全身にフォトンブラッドの流線型が描かれ、それが鎧の形に発光すると、やがてそこに円を描いたマスクに赤と黒のボディの“仮面ライダー555”が現れた。片手を振って、巧はゆっくりと戦闘の構えを取る。

 

 「フン、それではいくぞ!!」

 レオゾディアーツは二本の強靭な腕に鋭い爪を纏わせてこちらに突進してくる。

 「こっちもいくぜ」

 ファイズは腰からファイズショットを取り右腕に装着する。そしてファイズフォンを開くとエンターキーを押した。

 『Exceed charge』

 ベルト部分のファイズフォンから放たれた赤い線が、スーツを伝ってファイズショットに流れ込む。それを構えたまま、巧は接近してきたレオゾディアーツの放った爪攻撃に合わせるようにパンチを繰り出した。

 

 「むっ!」

 「ぐあっ!」

 衝撃に少しよろけたレオゾディアーツだったが、一方のファイズは吹き飛ばされると民家の壁に衝突した。

 

 「巧!」

 「た、たっくん!」

 心配そうに駆け寄ってきた真理と啓太郎に大丈夫といった様子で片手を振ったファイズが、2人に支えられながら起き上がる。

 

 「ふん、少しはやるようだ」

 「痛てて、こいつなんて怪力だ」

 未だに余裕を見せるレオゾディアーツは、纏っていたコートを脱ぐと一気に戦闘態勢に入った。

 

 「やべえ、2人とも離れてろ!」

 ファイズが真理と啓太郎を突き放した瞬間、目にも止まらぬ速さで一気に距離を詰めて来たレオゾディアーツの爪がファイズを何度も切り裂く。

 

 「ぐわあああっ!」

 堪らずその場から距離を取った巧は、怯みながらも右足にエナジーホルスターをセットする。

 「どうした、その程度か!」

 立て続けに攻撃を加えてくるレオゾディアーツの猛攻を何とかいなしながら、ファイズはファイズフォンのエンターキーを押す。

 

 『Exceed charge』

 今度は右足に向かってフォトンブラッドの塊が流れ込み、エナジーホルスターに充填されていく。

 「畜生、調子に乗ってんじゃ……」

 一瞬の隙を付いて左足で攻撃を裁いたファイズが、右足を直接レオゾディアーツの体に叩き込む。

 

 「何っ!」

 「ねえぞ!」

 次の瞬間、右足から発せられたポインターが赤く輝くと同時に円錐状に展開した。

 「だああああああ!」

 その場で飛び上がったファイズが、レオゾディアーツに必殺の“クリムゾンスマッシュ”を叩き込む。

 

 しかし。

 「なっ!」

 「グオオオオオオ……」

 レオゾディアーツは寸での所でその蹴りを受け止めると、その場に踏みとどまる。

 「我望様の右腕であるこの私を……舐めるなよ!!」

 気合を込めた声でそう叫ぶと、レオゾディアーツはポインターごとファイズを吹き飛ばす。

 

 「ぐあっ!」

 爪の一撃を喰らったファイズは吹き飛ばされながらも地上で何とか受け身を取り、よろよろと立ち上がる。

 

 「こ、こいつ、何て奴だ」

 「フーッ、フーッ」

 血走った眼のレオゾディアーツは、益々闘気を漲らせこちらに近付いてくる。

 

 「巧っ!」

 「たっくん! あわわわ、まずいよお……」

 その様子を遠くから見守っていた真理と啓太郎は、青ざめた顔でレオゾディアーツの強さに震える。

 「お願い、誰か巧を救って……」

 真理が胸の前で手を合わせ祈った、その時である。

 

 「うおおおおおお!!」

 突然空間の歪みから飛び出して来た白い影が、レオゾディアーツの頭上に現れた。

 

 「何っ、貴様は!」

 『Rocket Drill on』

 右腕にロケット、左腕にドリルのような武器を纏ったその戦士、“仮面ライダーフォーゼ”は、その勢いのままレオゾディアーツに突進していく。

 『Limit break』

 「ライダーロケットドリルキーッツク!!」

 「ぐぬうううううっ!」

 その一撃を辛うじて受け止めたレオゾディアーツに向かって、今度は体勢を立て直したファイズが再びポインターをレオゾディアーツに打ち込んだ。助走を付けたファイズが、更に追い打ちを掛けるように蹴りを入れる。

 

 「もういっちょ!!」

 リミットブレイクとクリムゾンスマッシュの攻撃を受けたレオゾディアーツは堪らずといった様子で吹き飛ばされる。

 

 「ガハアアアッ!! くそ、貴様ら、よくも!」

 「こ、こいつまだ生きてんのかよ」

 ボロボロになりながらもまだ立ち上がるレオゾディアーツ。そのタフさにファイズが驚きと呆れを入り混じった声で驚いた。

 

 「ウオオオオオオオ!!」

 咆哮したレオゾディアーツにフォーゼとファイズが身構えた、その時。

 『レオ、引き揚げろ』

 「が、我望様! しかし、私はまだ」

 歪みの先から響く威厳のある声に、レオゾディアーツが抗議する。しかし、声の主はフッと笑んだように息を吐くとたしなめるように優しい口調で続けた。

 

 『勘違いするな、貴様を信じない訳ではない。少しこちらにお前の力が必要になったのでな』

 「ハッ、分かりました……」

 納得したように頷くと、レオゾディアーツは踵を返し高速で歪みの中へと消えていった。

 

 「あっ、おい待ちやがれ!」

 「ふいーっ、何とか逃げたか」

 追おうとするフォーゼと対照的に、ファイズはその場に座り込むとホッと息を吐いた。

 

 「ちょっ、追わないんすか仮面ライダーの先輩!」

 「あん? 何か疲れたし、また来るだろ。今はゆっくりしようぜ」

 「えええーっ、何かやる気のない先輩だぜ……」

 そう言って変身を解除すると、仮面ライダーフォーゼこと、如月弦太郎はリーゼントを直しながらふっと息を吐いた。

 「それにしても助かったぜ、お前は……なんて言うんだ?」

 同じく変身を解いた巧が立ち上がって尋ねる。

 

 その問いかけに満面の笑みになると、弦太郎は胸を強く叩くと拳を前に突き出した。

 「ウッス、俺は如月弦太郎! 全てのライダーと友だちになる男ッス!」

 「お、おう、そうか」

 「何か変な人だねたっくん」

 「そして変な髪型だわ……」

 いつの間にか駆け付けた真理と啓太郎と共に、3人は顔を見合わせて弦太郎を見やった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「……あなたは?」

 「突然のご無礼、お許しを。オルフェノク……とかいったかね。」 

 スマートブレイン本社社長室。空間を割ってデスク越しに現れた天の川学園理事長“我望光明”に向かって、社長である“村上峡児”は訝しげな顔で問いかけた。

 

 「この世界に起きた異変について、あなたに意見を聞きたくてね」

 「なるほど……あなたはただの人間ではないようだ」

 一瞬で我望の中身を見抜いた村上は、立ち上がると全身にバラの花を纏いながら“ローズオルフェノク”へと変化する。

 

 「ほう……では私も」

 対する我望も、手にしたホロスコープスイッチを押し“サジタリウスゾディアーツ”へと姿を変える。

 

 「なるほど、それがあなたの力ですか。上の上、それも特上のようです」

 「あなたこそ、話が分かるようだ。それに力も……申し分ない」

 

 ここに、ライダー以外でも新たな勢力が動きつつあった。


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