仮面ライダー-the world-   作:しおこんぶ

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世界の融合

 「さあ、目覚めよ私の最高傑作よ」

 そこら中に薬品や機器が散乱した薄暗い研究室で、一人の初老の男がガラス張りの装置の前で両手を広げ呟いていた。彼の目の前の装置の中は、緑色の液体に包まれてる。

 

 「おおっ」

 やがて、その液体にいくつかの気泡が発生すると、一気にその数が増す。それを合図に老人がレバーを引くと、液体が流れだすと共に一人の青年が現れた。

 「やった、やったぞ!」

 無機質な表情でこちらを見る青年と対照的に、老人は身に付けた白衣を揺らしながら狂喜乱舞する。

 

 「さあ、その力で世界を全て破壊しつくせえ!!」

 まるで機械に命令するかのように片手を上げて、青年に命じる老人。しかし、その口から次の言葉が飛び出す事は無かった。

 

 「……あ、がふっ……」

 いつの間にガラスから飛び出した青年が、その右腕で老人の心臓を一突きで貫いていたのだ。

 「き、きさま……生みの……親に向かって……」

 次の瞬間、爆炎に包まれた老人が声を上げる間もなく消し炭になると、青年は腕に付いた血をじっと眺める。

 

 「私は、世界の敵なのか……」

 初めて口を開いた青年から、苦痛に埋もれた声が漏れる。

 「教えてくれ、誰か……」

 やがて、その身体がどす黒いオーラに包まれ始める。

 「オ、オオオ……」

 益々質量を増していくオーラは、やがて室内を埋め尽くしたかと思うと、急激に一点に凝縮した。

 

 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 青年の叫び声と共に解き放たれた黒いオーラは、やがて世界を覆い尽くすように広がっていく。

 

 そして、世界の融合が始まる。

 無数に存在する世界の、幾人もの仮面ライダー達。

 

 ここから、全ては始まる。

 

 あるはずのなかった出会い、戦い、そして物語。

 ライダー達の新しい冒険が幕を開ける――

 

 

 

 ◆

 

 

  

 「たーくーみ!! また仕事サボったでしょう!!」

 「あーもう、うるせえなあ。ちょっとおばあちゃんが道に迷ってたんだよ」

 アイロンを片手に持ちこちらを睨みつける園田真理に向かって、乾巧はポリポリと頭を掻きながらうっとうしそうに手を振った。

 

 今日もこのクリーニング屋にはのどかな時間が流れていた。

 

 「どうやったら道に迷ったあばあちゃん案内して、3時間も配達から帰ってこないのよ!」

 「だから、おばあちゃんの家が遠くてだな」

 「ま、まあまあ真理ちゃん。たっくんにもきっと事情が……」

 「おっ、さすがだぜ啓太郎。やっぱりお前はいい奴だ」

 二人の間に入ってきた啓太郎の頭をがしがし撫でて、巧は嬉しそうに笑う。啓太郎もまんざらでもなさそうにえへへと微笑んだ。

 「全く、啓太郎は巧に甘いんだから。そんなんじゃお店の売り上げも……」

 溜息を付いた真理が、頬を膨らませて更に何か文句を言おうとした、その時。

 

 辺りを揺るがすような衝撃と共に、一瞬で空を覆った黒いオーラが、やがて地上に降り注ぎ巧達のいるクリーニング屋を包み込む。

 「きゃっ」

 「真理!」

 大地を揺るがすそのオーラの衝撃に、よろめいた真理を巧が慌てて抱き止める。

 「あ、ありがと、巧……」

 「こいつは一体……」

 赤面してもじもじする真理を抱いたまま、巧が周囲を見回す。

 

 「わわわ、たたたた、たっくん、こっちにくるよお!」    

 慌ててしがみついてきた啓太郎は、半泣きで巧の服を引く。やがてこちらまで押し寄せてきたオーラは、巧達のいる“555の世界”を包み込んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「た、大変だよおみんなー!」

 「Oops(ウップス)! ちょっとユウキ、ネイルがずれちゃったじゃない」

 「あっ、ごめんなさい美羽先輩」

 バタバタと慌ただしい様子で仮面ライダー部の部室に駆けこんできた城島ユウキを、学園のクイーンこと風城美羽がネイルを直しながらたしなめる。慌ててこちらに来たのか、ユウキはオリジナルキャラクターである“はやぶさくん”のコスプレをしたままであった。

 

 「どうしたユウキ、何かあったのか?」

 「あっ、そうだった! 大変大変大変なんだよ!」

 デスクに座ってアストロスイッチを開発していた歌星健吾が、顔を上げてユウキの方を向く。

 

 「健吾君あのね、何かいきなり黒いやつがグウァーッてきてね、そんでもって、バーンってなっていやー!って逃げてきて……」

 「意味が分からないわ……」

 美羽は訳が分からないといった様子で、アメリカ人のするように両手を肩の横に広げてみせる。

 

 「黒い奴……ダスタードのことか?」

 対してまじめな健吾は右手で顎を押さえて何かを考え込むように俯く。

 

 「あっ、違うの。何だか黒い霧っていうのかな、オーロラみたいなのがこっちに来て……」

 「大変っすよ先輩達ー!!」

 「今度は何よ?」

 ユウキが必死に何かを訴えようとしたその言葉を遮るように、今度は学園の情報屋ジェイクが部室に駆けこんでくる。

 

 「学園に変な黒い霧みたいなのが押し寄せて、どんどん辺りを飲み込んでいってるみたいなんス!」 

 「何!?」

 「何ですって!?」

 ジェイクの言葉に驚いた健吾と美羽は、同時にユウキを見やる。

 「そうそう、それを言いたかったんだよぉ」

 

 半泣きのユウキを美羽がなだめている間に、健吾が急いで手元のキーボードをいじり天の川学園をモニターに表示する。

 続いて3人もモニターの前に集まると、そこに映し出された様子に愕然とした。

 「何だこれは……」

 

 そこに映っていたのは、空から飛来して学園を飲み込んでいくドス黒いオーラの姿だった。逃げ惑う生徒をあざ笑うかのように、どんどんそれは広がっていく。

 「そうだ、弦太郎やみんなは!?」

 ハッとした健吾が、ユウキを振り返る。

 

 「弦ちゃんと流星君は生徒を守るって言って変身して出ていったきり……大文字先輩と友子ちゃんも二人に付いて行くって……私も行こうとしたんだけど、弦ちゃんが健吾達にこのことを伝えてくれって……」

 目に涙を溜めたユウキは、美羽に支えられながら必死に説明する。それで先程はあのように息も切れ切れだったのかと、健吾は納得したように頷いた。

 

 「とにかく、今は俺達はここで待つしかない」

 「助けに行かなくていいんすか?」

 「今俺達まで出てしまったら、外部に助けを呼ぶ人間がいなくなる。悔しいが、待つしかない」

 「そうね、私もそれに賛成よ」

 拳を握ってモニターを見つめる健吾の気持ちを代弁するかのように美羽が二人を見ながら呟く。

 ユウキとジェイクも、神妙な面持ちで頷いた。

 

 「弦太郎、みんな、無事でいてくれよ……」

 健吾は、祈るように窓から見える地球、“フォーゼの世界”を見つめた。


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