提督の憂鬱   作:sognathus

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風邪が治った提督は、艦娘達の勧めで半日程休む事にしたそうです。
因みに当初は1日休む予定でした。
残り半日は前回出撃した艦娘達の報酬を用意するのに使うそうです。
休めよ。


第6話 「釣り」

足柄が基地の外を歩いていると、前方に堤防の上に座って釣りをしている提督を見つけた。

確か今日は彼は非番の筈だったが、着ている服は何故か制服だった。

 

「大佐、今日は休みなんじゃなかったの?」

 

「謂わば心の安らぎというやつだ。魚が釣れなくてもにこうして波を見ているだけでも気が休まる」

 

「そういうものなの? ふーん」

 

「そういうお前はどうした? お前だって今日は非番のはずだろう?」

 

「暇なのよ。今日はお酒が呑める人たちは軒並み演習と遠征だから」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

短いやりとりの後おもむろに足柄がポケットを弄ってあるモノを出した。

提督は足柄が出したソレを見て無意識にその物の名前を口にした。

 

「煙草か」

 

「吸う?」

 

「病み上がりに吸う気にはなれないな。それよりよかったら――」

 

「なにそれ。お酒?」

 

水筒にしては小さくて平たい特徴的な形をした入れ物を見て足柄は直ぐに中身を察した。

 

「ああ。スキットルだから回し飲みしかできないが、どうだ?」

 

「……頂くわ」

 

「? どうかしたか?」

 

「ん……くはっ……いやね? 何だか大佐、前と比べて優しく?なったみたいだなって」

 

「ああ、そのことか」

 

足柄の意見に提督は、返してもらったスキットルから一口酒を呷りながら呟くように言った。

その様子に足柄は興味を覚え、上半身を堤防に預けながら提督を見上げて訊いた。

 

「何かあったの?」

 

「島風たちにせがまれてな」

 

「えぇ? ……ぷっ、あはは。あの子達らしいわね」

 

足柄は、島風がいつものように親に絡む子供の様な態度で提督にまとわりつきながらそんな事をせがむ様子を想像して、つい吹き出してしまった。

だがそんな愉快な話題も、提督が次に話した意外な話題で直ぐに何処か行ってしまった。

 

「……それと加賀にもな」

 

「え?」

 

意外な人物の名に足柄は目を丸くする。

だが提督は、それが偽りのない事実である事を証明する様に、特に訂正をすることなく一言で断言した。

 

「事実だ」

 

「へ、へぇ、そう……」(加賀さんが大佐と友達になってくれって言ったての? なかなか想像し難いわね)

 

「まぁ何を考えているかは解る」

 

「意外だわ」

 

「だろう?」

 

「ええ、ホントに。あ、そういえば大佐。加賀さんから伝言があるの」

 

「ん?」

 

「『秘書艦としての事務の仕事、何で黙っていたんですか? これからは私もやりますからね』だって」

 

「……」

 

加賀からの伝言が余程意表を突いたのか、提督はつい持っていた釣竿を握る手の力を緩めてしまい、それを取り落としそうになった。

それを機敏に察知した足柄は艦娘らしい運動能力で片手をヘりに付けながら一瞬で堤防の上に飛び乗ると、その竿を見事にキャッチした。

 

「っと、危ないわね。危うく竿落とすところだったわよ」

 

「すまない」(しまった、油断した。そういえば書類全て出したままだった)

 

提督のバツが悪そうな顔を見て足柄は何故彼がそんな顔をしているのか察した。

そして少し問い詰めるような顔をしながらも心配も窺わせる声で訊いた。

 

「……ねぇ、全部一人でやってたの?」

 

「ああ」

 

「前の出撃の時も?」

 

「ああ」

 

「何でよ? 体壊して当然じゃない。そんなに私たちのこと信用できないの?」

 

「そうじゃない。接し方に悩んでいたんだ」

 

「あたしたちが兵器だから?」

 

「見た目が人間で意思疎通もできるのに兵器と言われてもな……」

 

「そう。大佐も人間らしいとこあったのね」

 

「え?」

 

足柄の言葉に提督は本当に、本当に驚いた顔をした。

自分が人間故に、他人から見てもそれが当然であると無意識に決めつけていたのだ。

だがそれも、不愛想で誰の力も借りずに一人だけで淡々と仕事をしていれば、人間より機械に近い印象を与えるだろう。

提督はその事実を今、自分が今まで接し方に悩んでいた艦娘によって気付かされたのだ。

対して足柄は、彼女は彼女で提督の驚いた顔を初めて見た事もあって、その事に内心動揺していた。

 

「な、何よハトが豆鉄砲食らったような顔をして」

 

「いや……ふっ……はは、そうだな。言われてみれば俺の方がよっぽど人間らしくなかったかもな」

 

「そうよ……」(あ、大佐が笑ってるとこ初めて見たかも)

 

驚いた顔に続いて笑った顔、短い間で提督が初めて見せる面を二つも見た足柄はそれを密かに嬉しく思った。

そしていつの間にか寄り添うように彼の隣に座る形を取っていた彼女は、自分なりに一番優しい顔と声で提督に言った。

 

「ねぇ?」

 

「ん?」

 

「今も悩んでるの?」

 

「……そうだな。まだ完全に吹っ切れたとは言えないな」

 

「そう。でもね、それは普通のことだと思うの。だから、ね?」

 

「ああ」

 

「人間は貴方一人で寂しいかもしれないけど、そういう時は相談くらいしなさいよ?」

 

「……」

 

足柄の言葉に提督は深く考える様に目を瞑って潮風を浴びる。

そんな提督に足柄は彼の方に手置きながら続けた。

 

「わたしたちだってそういう事くらい判るのよ?」

 

「……ありがとう」

 

「心底から感謝してるみたいね」

 

「解るのか?」

 

「ええ。今大佐凄くそういう顔してるもの」

 

「そうか」

 

「そうよ」

 

「……なんか酒が美味くなった気がするな」

 

「ふふ、奇遇ね。わたしもよ」

 

再び酒を呷ってスキットルを見ながら言った提督のそんな一言に、足柄も笑顔で同意を示した。




はい、釣り殆どしてないですね。
リア充爆発しろ。
やっぱり足柄さんは素敵だと思います。

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