提督の憂鬱   作:sognathus

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一時混乱した提督ですが、今は落ち着きを取り戻して食事を摂っています。
この時は執務室で食事をしており、傍らには叢雲と、彼女に呼ばれた初春も一緒にいました。


第6話 「感情」

叢雲「全くしっかりしないさよ。あれくらいで動揺しちゃってさ」

 

初春「ふふ。なかなかに見応えのある事態じゃったな」

 

叢雲「他人事のように言わないでよ。ホント焦ったわ」

 

提督「すまない。久しぶりに自分を見失った」

 

叢雲「気を付けてよね。古参だからってあまり出張りたくないのよ」

 

初春「うむ。被褐懐玉というやつじゃな」

 

叢雲「失礼ね。私は普段も普通よ」

 

提督「ふぅ......」ギシ

 

叢雲「あ......疲れてるのに悪かったわね」

 

提督「ん? ああ、いい。気にするな。それよりお前たちに訊きたい事があるんだが」

 

初春「なんじゃ?」

 

提督「お前たち艦娘の提督に対する愛情についてだ」

 

叢雲「ああ、その事」

 

初春「ま、大佐なら気になって当然じゃな」

 

提督「分かる範囲でいい。教えてくれ」

 

提督「いくら提督とは言え、ここまで無条件に好かれるものなのか? 鎮守府にいる男が俺一人だからとかそういう理由じゃないのか?」

 

叢雲「まず、無条件っていうのは大佐本人にもちょっとは考えて欲しいわね」

 

初春「そうじゃな。大佐、お主無自覚のようじゃが結構、妾たちに好かれるような事をしてるのじゃぞ? 今回が良い例じゃ」

 

提督「だとしてもあまりに予想外の事が続けて起きるのは勘弁してほしいものだが」

 

叢雲「そうね......じゃぁ何から話そうかしら」

 

初春「艦娘と人間との違いからでよかろう」

 

叢雲「分かったわ。じゃぁ大佐、大佐が思いつく限り人間と私達との違いを挙げてみて」

 

提督「ふむ......。身体能力、深海棲艦に干渉できる力、あとは......最初から成長した姿をしている事くらいか」

 

叢雲「そうね。大体そんな感じかしら」

 

初春「では大佐、その中で一番今のお主の質問の根底に近いものはなんだと思うかの?」

 

提督「成長した姿......か」

 

叢雲「正解。私達は人間と違って最初からある程度成長した姿をしているわ」

 

初春「おまけに生まれながらにして提督の下で問題なく働けるように最低限の知識まで与えられておる」

 

提督「生まれながらにして優れた力と知性を持ち、姿も成長してるとはまるで......」

 

叢雲「そうね。ある意味完成された、完璧なモノであると言っていいと思うわ」

 

初春「しかしのそんな完璧な妾達であるが、一つだけ生まれたて時には未熟な所があるのじゃ。それが何かわかるかの?」

 

提督「......心だ」

 

叢雲「流石大佐ね。そう。心だけは人間と同じで経験を積まないと育まれない。だから人間と一緒に経験を積む必要がある」

 

初春「妾達の場合、その人間とは最も身近にいる提督となるわけじゃ」

 

提督「だから好かれ易いと?」

 

叢雲「答を焦らないでよ。まぁ、当たらずとも遠からずと言ったところね」

 

初春「妾達はな大佐、提督と一緒に過ごす事によって経験を積み心を育む」

 

叢雲「そしてそれと同時に提督との信頼関係を構築し理解する」

 

初春「重要なのは、信頼関係が出来た瞬間じゃな。どうやら妾達艦娘はその信頼関係が提督への好意に繋がり易い仕組みになっているらしい」

 

叢雲「強い信頼関係で結ばれ、優れた戦果を挙げる艦隊は、それだけそこの提督が艦娘達に慕われいる証拠と言えるわけね」

 

提督「仕組み......か。何やら作為的なものを感じるな」

 

初春「まぁ十中八九、提督が艦隊を運用し易くするために仕組まれたナニカじゃろうな」

 

提督「お前たちはそれを自覚しつつも俺に、提督に付き従うのか?」

 

叢雲「他の艦隊の子の事はよく分からないけど、私は取り敢えずそれを自覚した時点で確かめたわ」

 

提督「確かめた? 何を?」

 

叢雲「大佐、貴方への愛情を、よ」

 

提督「......」

 

初春「右に同じく。妾もこの気持ちが偽りかどうか確認した」

 

提督「因みに訊くが、どうやってだ?」

 

叢雲「貴方、ずっとその事を疑問に感じて私達に対して壁を作ってたでしょ?」

 

初春「妾達はそれが不思議じゃった。何故兵器である妾達をもっと容易く扱わないのか」

 

叢雲「そんな姿をずっと見ている内にね、貴方が私達の事を心では悩みながらも大事にしていてくれてる事に気付いたの」

 

初春「その時にな。仕組まれた感情とは別に純粋に其方を愛おしく感じるようになったのじゃ」

 

叢雲「自我に目覚めるってやつかしら」

 

提督「......それすらも仕組まれたモノだと疑ったりはしないのか?」

 

叢雲「......大佐、見て」

 

叢雲はそう言って静かに提督に近寄り、胸元を少し広げて見せた。

そこには小さな傷痕があった。

 

提督(入渠すれば、どんな傷でも完治するはずの艦娘に傷痕が......)

 

叢雲「自我に目覚めた時にね、この辺りに何か違和感を感じたの。まるでその感情を否定するようなナニカを」

 

初春「試しに抉ってみたら小さなチップが出てきおった。恐らくこれで感情をある程度制御しておったのじゃな」

 

叢雲「チップが入っていた部分は治癒能力を司る組織に少し重なっていたみたいで、これを取り出したらその部分だけは完全に治癒しないでこうやって痕が残ったわ」

 

初春「因みにここの艦娘は全てそのチップを外してある」

 

提督「なに?」

 

叢雲「艦娘が生まれて目覚める前に全部私達が取り除いているのよ」

 

初春「因みにその事を知っているのはここにいる3人だけじゃ」

 

叢雲「何れは皆に話すつもりだけど、どいう風に打ち明けるかは全部大佐に任せるわ」

 

提督「......他の奴らが傷痕に気付いてないのは?」

 

叢雲「証拠は残さないわ。私と初春の後は全てその組織を傷つけないように細心の注意を払うようにしたから」

 

初春「当然じゃな」

 

提督「......全く、お前たちは......」

 

叢雲「あの......ごめんね。黙ってて」

 

初春「これがどれだけ重大な事かは妾達も理解しておる......しかしそれでも妾達は其方へのこの気持ちが偽りでないと信じたかったのじゃ......」

 

提督「......2人とも」

 

叢雲・初春「はい」ビクッ

 

提督「よく打ち明けてくれた。これで俺の疑問は晴れた。もうお前たちからの愛情は疑わない」

 

提督「平然としているが、打ち明ける時は不安で仕方なかっただろう。だが、もういい。我慢するな」

 

叢雲「馬鹿......そういう言葉って卑怯よ......涙が止まら......ないわ」ウル

 

初春「らしくもない......妾も止まらぬ......」グス

 

提督「2人とも、来い」

 

提督はそういうと2人に向かって腕を広げた。

叢雲と初春は堰を切ったかのように泣きながら提督の腕に飛び込んだ。

そんな2人を提督は、我が子の様に抱きしめた。

 

叢雲「ねぇ......分かってると思うけど私達の事も......」

 

初春「恋人として......受け入れてくれるかの?」

 

提督「お前たちとは特に長い付き合いだったのに待たせてしまってすまなかった」

 

提督「快諾だ、勿論」

 

叢雲「っ......大佐ぁ!」ギュ

 

初春「大事にしてたもれ」ギュ

 

 

――数分後

 

提督「もう、いいだろう? さぁ、離れて仕事の続きだ」

 

叢雲「ねぇ......もうヤっちゃわない? 私はいいわよ?」

 

初春「いきなり3人でか? 贅沢、もとい淫乱じゃのお♪」

 

提督「馬鹿者共が。さぁ、さっさと日常に戻れ」ポカカ

 

叢雲「痛っ。もう、雰囲気台無しよ」

 

初春「大佐はほんに律儀じゃの。結婚するまではお預けというやつかえ?」

 

提督「お前たちはチップを外しのは間違いだったかもしれんな。もう少し倫理というものを学べ」

 

初春「なるほど、そういう使い道もあったか」

 

叢雲「チップを外した私達が淫乱になったって言いたいの?」

 

提督「そうやって自問自答できるならまだ救いはあるな。さぁ仕事だ」

 

叢雲「それ褒めてるの?......ふぅ、仕方ないわね」(絶対、落として見せるわ!)

 

初春「ふふ、今日は特別に妾も手伝ってやろうかの」(落とし難いほど攻め甲斐があるというものじゃ)




ちょっとシリアスでしたかね。
提督はリアルスケコマシにランクアップしそうです。
個人的に考えた艦娘の設定の根幹の一部です。
賛否両論は勿論当然ですよ!

回を追うごとに文字の平均数が多くなっていますね。
もう少し減らすようにしないと。

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