提督の転勤騒動の榛名との一場面
「ふぅ……」
「煙草ですか? って思ったら吸っていませんね」
「ん? ああ、最近は何故か特に吸いたい気分にもならなくてな」
「それは良いことです。榛名も嬉しいです」
「ん……」
「隣、宜しいですか?」
「何処でも」
「ありがとうございます」
「……」
「……」
二人してやる事がなかったので石の階段に座っているだけだったが、それだけでも目の前に広がる海の風景が二人の気分を癒やした。
「……なんか」
「はい?」
「いや、こうしてのんびりするのが久しぶりな気がするな」
「そうですね。お休み自体はちゃんと貰っている筈ですが、こうして落ち着いてみると何かそういう気分になりそうですね」
「ふっ、やる事がなくて心に余裕があると人はこういう気分になり易いのかもな」
「ふふ、そうですね」
「…………」
「…………」
再び耳に心地良い漣の音が二人を優しく包む。
雰囲気に流されて何となく喋り難い空間となっていたが、別にそれさえ気にしなければ居心地はとても良かった。
そんな時ではあったのだが、榛名は丁度思い出したとある事を確かめたくて提督に話しかけた。
「大佐……」
「うん?」
「不躾なことをお訊きして申し訳なく思うのですが……」
「いい、なんだ?」
「転勤、されるのですか……?」
「……一応辞令は来ているが、俺はできれば現在の配置のままを願い出てみるつもりだ」
「えっ、それは本当ですか?」
「今回は俺個人の意思を示すくらいはしないとどうにも承服しかねくてな。軍人にはあるまじき身勝手だが」
「そんな……! そうして頂けるだけでも榛名は嬉しいです!」
「ありがとう」
「それもこちらの台詞です」
「……」
「……」
再び気不味い沈黙が間が訪れたのだが、今度もその雰囲気を破ったのは榛名だった。
「……差し支えなければ」
「ん?」
「差し支えなければ、そうして大佐が残りたいと思われたのかお教え頂けますか?」
「……自分にもお前たちにも解り易く言ってしまえば、俺が去った後の此処がただただ気にかかったからだ」
「……なるほどですね」
それは提督の偽りのない答だったのだが、それを聞いた榛名は何処となくそれ以外にも他の言葉を求めてそうな瞳で提督を見る。
提督も彼女たちは長い付き合いである。
彼はその時彼女にどういった事を言えば良いのかくらいには気を利かせられるようになっていた。
「勿論、お前たちへの好意もある」
「むぅ……そこは、今だけでも『たち』は外して欲しかったです」
「え? っ、ははっ。すまん」
「ふふふ、いいえ。でも惜しかったですね」
「次はぬからないようにしよう」
「期待してますね」
それから更に小一時間ほど二人は取り留めのない会話をした。
そして提督がそろそろお暇しようかと立ち上がり、榛名に手を貸そうとした時だった。
「大佐」と俯き目を伏せながら遠慮がちに発せられた榛名のか細い声を提督は聞き逃さなかった。
「なんだ?」
「できれば……」
「ああ」
「もしできれば、いよいよ転勤せざるを得なくなった時は……」
「……」
「榛名も貴方に着いて行きたいと思います」
それは無理だと、叶わない事とは二人は解っていた。
それでも言葉に出さずにはいられなかった榛名の気持ちを理解した提督は、ただただ鼻をすすってぐずる彼女の柔な肩を黙って抱きしめるのだった。
ゲームに対するモチベは下がる一方ですが、依然としてプレイは続いてます
いつサービス終了しても構わないのですが、運営が変わればこの気持も変わる……のかな?