居る時は秘書艦でも許可がないと入れません。
提督の執務室の前に一人の駆逐艦の艦娘がいた。
「あ、今大佐いないんだ」
「あ、島風ちゃん」
近くを通りかかった雪風が島風に声を掛けてきた。
「あ、雪ちゃん。大佐は今部屋に居ないからちょっと入ってみようかなぁって」
「勝手に入っていいの?」
「うん。大佐が自分が居ない時は好きに使っていいて言ってた」
「ね、雪ちゃん、入ってみようよ」
「そうだね。問題がないなら雪風も大佐の部屋見てみたいな」
二人はお互いに意思の合致を確認すると、ドアを開けた。
「うん。誰も居ないね」
「机と椅子だね」
「つまんないなぁ。何か面白い物があったらいいなと思ったのに」
「あ、でも机にサボテンが置いてある」
雪風が指す方向を見ると確かに鉢に入った小さなサボテンが机の隅に置いてあった。
「え?あ、ホントだ。ちっさくて可愛い♪」
「でも触ったら痛そ」
「大佐、サボテンしか友達がいないのかな」
島風が悪意のない素朴な疑問を口にした。
普通の人が聞いたら思わず提督に同情してしまうかもしれない。
「そういえば命令以外で大佐が誰かと話しているところって、あまり見た事がないね」
「誰も居ないなら島風が艦娘の中で最初の友達になれるチャンスかも!」
「あ、雪風もお友達になりたい! 大佐あまり喋らないけど優しいし」
「そうなの? わたし命令している大佐しか知らないよ?」
「この前の演習で殊勲艦に選ばれた時に『よくやった』て褒めてくれたんだよ」
「何それズルーい!」
島風は間髪入れずに反応した。
島風は自他ともに認められている優秀な駆逐艦だったが、未だに本人は提督から褒められたことがなく、彼女自身もそれを以前から気にしていたらだ。
「島風ちゃん強いけど、いつも真っ先に突貫して被弾ちゃうから……」
「でもでも、わたし凄く頑張ってるんだよ!」
「うーん、雪風はいつも周りの状況を見て行動を判断してから……島風ちゃんも同じようにしてみれば?」
「えー、でもそれだと速くない……」
「速くないかもしれないけど殊勲艦には選ばれるかもしれないよ?」
「そうかなー?」
「そうだよ!行動は速くなくても戦果が1番なら良くない?」
「1番かぁ……。うん、それも悪くないかも! よーし、そうと決まれば次の演習で出番が来たとき頑張ろうっと!」
「ハイです!お互いに頑張ろうね!」
生来負けず嫌いの島風は新たなる目的を胸に演習へと闘志を燃やすのだった。
――そして程なく演習があり、島風は見事に1番の戦果を挙げて殊勲艦に選ばれた。
「島風、今回の演習、動きが良かったな」
「えへへ。そうでしょー? わたし頑張ったよ!」
「ああ。いつものように突貫すると思っていたら周りの状況に即した素早い動きだった」
「速かった!? 本当!? やったぁ♪」
『速い』この言葉は島風にとって最上の褒め言葉だった。
歳相応の子供の様に無邪気な笑顔で嬉しそうにはしゃぐ。
「ああ、よくやったぞ。島風」
ポンっ
頭に乗せられた提督の手を少し驚いた目でみる島風。
「あ」
「どうした?」
「わたし、大佐に初めて褒められた!」
「そうだったか?」
「うん! わたし今すっごく嬉しい!」
「そうか。よかったな」
「うん!あ、それとね大佐」
「ん?」
「わたし、大佐が笑ったところも初めて見たよ!」
「……」
予想外な事を言われて不意を突かれたのか、提督は一瞬言葉をなくした。
「どうしたの? 大佐」
「いや、そんなに俺は笑ってなかったのかと思ってな」
「わたしは初めて見たよ! だからその事も今凄く嬉しいの!」
「そうか。偶には笑わないと可笑しいよな」
島風の言葉に軽く笑みを浮かべながら提督は答えた。
それは島風が本当に初めて見た提督の笑顔だった。
「うん! 島風は難しい顔してる大佐より笑ってる大佐の方が好きだよ!」
島風可愛いですね。
でも潮の方がもっと可愛いと俺は思います。