ケッコンボイスを聞いても何か半端な感じだったので、実際にどういう反応しそうか軽く悩みましたw
「大和、夕立の練度が99になったって?」
「はい。旗艦を務めた午前の演習の折に達したようです」
「そうか……思えばあいつは古参だから、本人は『やっとか』と思われたりしたかもな」
「ふふっ、そうですね。でしたらその想いに報いてあげるのが宜しいかと」
「……うん、まぁ呼んでくれ、夕立を」
夕立は提督麾下の駆逐艦の中でも古参の存在である。
加えて彼女の戦闘力とこれまでの実績はエースと呼ぶに相応しいものであり、そんな彼女が何故ケッコンできるレベルに達するまでここまで時間がかかったのかは不思議とも言えた。
それは提督が特別夕立を大事にしたくてあまり戦闘に出さなかったとかそういうわけではない。
単純に最も在籍数の多い駆逐艦の均一的な育成で時間がかかった故というだけであった。
その目的の目処が大体立ったので、今度は対潜能力において優秀な娘のそれを伸ばす育成の段階に移ったところ、その対象に夕立もふくまれており、おかげでようやくこの機会が訪れたのだった。
「提督っ! 夕立を呼んだっぽい?!」
駆逐艦の中でも元気な子供という性格の向きが強い夕立だが、執務室に入る時はちゃんとノックをするくらいは礼儀はちゃんとしていた。
だがこの時ばかりは提督に『何か』を期待する気持ちが強い所為か興奮した様子で鼻息荒く勢いよく入ってきたのだった。
「夕立、ノック」
「あっ……ご、ごめんなさい……入り直すね?」
「いや、まぁいいさ。さて、ところで夕立」
「したい!」
「……ん」
「夕立、大佐とケッコンしたいっぽい!」
「ただ能力が向上した優秀な艦娘が欲しいかもしれないぞ?」
「それでも構わない! それに夕立知ってるもん!」
「うん?」
「大佐は私たちの気持ちを大事にして指輪を贈ってくれてる事っ。だから夕立は大佐から指輪を貰って、ついでに今よりもっと強くなれるのが凄く嬉しいの!」
「なるほど、そこまで心待ちにしていたのならこれ以上無駄に確認する必要はないな」
「!!」
提督が机から小さな箱を取り出すと、夕立の特徴的な跳ねた髪が犬用の尻尾が喜びを表すように一瞬ピコンと跳ねたように見えた気がした。
夕立はキラキラした瞳でその箱を見つめ、早く欲しいと無言で犬の『待て』をしているようだった。
「よく頑張ったな夕立。お前にこれを贈る」
「っ……! ありがとう大佐! 夕立、夕立……凄く嬉しいっぽい!!」
いつもは天真爛漫としているが、実は密かに自分は古参であるという自負はあった。
それは決して後輩たちにそれを誇示する類のものではなかったが、やはりその自覚はあっただけに自分より後にやって来た艦娘が先に提督とケッコンしていいく姿を目にした時は、その度に彼女は焦りと不安を覚えた。
(大佐は贔屓とかっはしない人っていうのは解ってる。でも、でも……やっぱり早く夕立もしたいよ……)
そんな中でやっと巡ってきた機会だ。
それに対する夕立の嬉しさは果たして如何ばかりのものであったか。
彼女は指輪が入った箱をギュッと胸に抱きしめ、箱の重みからその存在を十分に堪能すると、いつもの子供っぽさは潜めて少女らしいしおらしい態度でそっと左手を提督に差し出してきた。
提督は夕立の意外な仕草に内心驚くも、解ったと言う言葉の代わりに小さく頷いて夕立から箱を受け取ると、そこから指輪を取り出してゆっくりと彼女の左手の薬指にはめていた。
「はぁー……っ、ふふっ♪」
指輪がはまった指を改めて感慨深げな表情で嬉しそうに見つめる夕立。
その微笑ましい姿に提督もつい頬が緩み、自分も笑顔で見つめているのを提督は感じた。
「夕立、これからも宜しく頼む」
「うん、任せて! 夕立、きっと今まで以上に大佐の頼りになる艦娘になるよ!」
先程までの少女らしい雰囲気は何処へやら、今はすっかり子供のようにピョンピョンと小さく跳ねて嬉しさを表現する夕立。
「ああ、頼りにしてるぞ。よし、要件はそれだけだからもう部屋に戻って良し」
「はーい。あ……」
提督の許可を得て部屋を出て行きかけた夕立は唐突に止まって振り返る。
彼女の姿を見送る前に机の上の書類に視線を戻しかけていた提督はそれに気付きどうしかしたかと尋ねると、夕立はまたさっき見たような少女らしい雰囲気で少し恥ずかしそうに提督に訊いた。
「ね、ね……大佐?」
「ん?」
「い、一応ケッコンしたんだから……夕立も嫌じゃないから、ソレっぽい事したいな……?」
「……今、か?」
「ううん、今やり難い事」
「……ソレは誰かに教えてもらった事か?」
「う、うん。加賀さんとか金剛さんに……」
心の何処かでキスくらいのソフトな愛情表現で済むことを期待していた提督は、夕立の口から出た二人の名前を聞いてそうもいかないだろう事を確信した。
決して夕立のことを疎んでいたというわけではなかったが、『そう』いう事を駆逐艦にする事がどうしても最初に抵抗を覚えてしまうのだ。
だが本人が心から望んでいるのなら仕方なし。
お互い同意済みとはちょっとズレがあるが、提督も今までに何人かはその上で駆逐艦との経験はあったので下手を打ってしまいそうな不安はなかった。
「解った。夜、なるべく遅くならないようにするから、俺が向かいに来るまで待っていてくれ」
「えっ、大佐が迎えに来てくれるの?」
「うん、まぁな」(呼び出すのは何か後ろめたさを感じるんだよな)
「分かった! じゃあ夕立待ってる……あ……えっと、待ってます」
自分が提督の求めていることに対して普段と同じ調子で喜んでいる自分に恥じらいを感じたのか、夕立の言葉は最後は耳を済ませないと聞こえない小さな声でそう言った。
半端な終わり方ですね。
裏の方もすっかり更新してないので、何かやらないとですね。
まだこの作品に愛着のようなモノを持ってくれている方がいらっしゃって驚き半分嬉しさ半分の気持ちになりました。
あー、手直しをドンドンと調子良くできたらなぁ。