提督の憂鬱   作:sognathus

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タイトル通り独立した思いつきの話です


閑話

「大佐が酔っているですって?」

 

その日は泊地の総力を上げての花見の日だった。

提督が勤務している国には桜はなかったが、どうしてもやりたいとう一部の酒好きの艦娘による訴えが実ったのである。

花見は当初大盛り上がりで肝心の桜が無いにも関わらず、参加した娘全員の心の中には懐かしい故郷の桜が咲き誇っていた。

つまり雰囲気と気分が重視されていたのだ。

 

加賀が提督の異変を知ったのはそんな最中。

宴もたけなわ、皆の盛り上がり様も最高潮から心地良い余韻や酔いが冷めてきた頃。

提督が酒に酔って不安定な状態であるという報告を大和から受けて加賀は外面こそ冷静を保っていたが、その実、心中では意外な驚きの感情に満ちていた。

 

「それで、今大佐はどうしているのかしら?」

 

「何か……その、急に甘え癖が生まれたようで、今は神通さんの膝枕の感触に凄く酔いしれた顔を……」

 

「は?」

 

その一言で加賀の機嫌は一気に悪くなった。

 

 

「大佐、何をしているのです?」

 

「……放っておいてくれ。今俺は神通の太腿の感触を楽しんでいるんだ」

 

「た、大佐……」

 

言葉では拒否のニュアンスを醸し出していたが、明らかに神通の表情は幸福に満ちているように見えた。

加賀はそれを察した上で提督を彼女から引き剥がそうと試みる。

 

「大佐、貴方は酔っているわ。感触を楽しみたいなら私のを楽しみなさい」

 

「……加賀さん?」

 

てっきり加賀に提督を譲るものと思われたが、予想外にも神通は提督が自分から引き離されようとしている事を明らかに不満を感じているようだ。

いつもの謙虚で大人しい性格からは驚くほどハッキリと内心の不満を言葉で表し、提督を加賀に奪われまいとしている。

 

「神通、無理はしなくていいのよ」

 

「いえ、神通は大丈夫です」

 

 

「……!」

 

ビクン、と何処かで酔い潰れていた金剛姉妹の誰かが無意識に神通の言葉に反応した気がしたが加賀は気にしないことにした。

 

「神通、提督は酔っているわ。私が休ませるから彼を私に預けてくれない?」

 

「お言葉ですが加賀さん。大佐は今極めて心穏やかな様子です。提督に仕える艦娘としてはこの状態を維持することが何よりの忠誠心の証明だと考えるのですが」

 

「でしたら私が責任を持って大佐の安らぎを維持することを誓います。だから大佐を……」

 

「……」

 

神通はその言葉に反して提督を加賀預けるどころかより渡すまいと彼を抱きしめる。

その目は加賀に挑戦しようとする意志がありありと見て取れた。

 

「……分かりました。じゃあ取り敢えず部屋までお運びして。そこから先はお互い話にし合って妥当な落とし所を見つけましょう。それでどうですか?」

 

「……異論はありません。それで良いと思います」

 

普段は落ち着いて頼りになる二人だが、その時の姿は提督に恋慕する女だった。

この様子を傍から固唾を飲んで見守っていたそれぞれの親しい者はあわや修羅場になるのではと恐れていたのだが、どうやらそこまでに至ることも無く落ち着いたようだったので安堵を息を吐いていた。

 

「いやぁ、神通も女になったねぇ」

 

「いや、あれ割と危なかったよ? 下手をしたら私達の生活にも影響がでるような勝負事になっていたかも……」

 

「というとやっぱり……食糧難?」

 

「うんまぁ、でも神通が自分に不利な勝負に乗るとも思えないしなぁ」

 

「安心して二人共。その時は私が代理になるわ」

 

「なるほど! ……と言いたいけど、神通真面目だしね。真剣勝負に代理を頼む事は多分ないんじゃないかな?」

 

「那珂もそう思う」

 

「むぅ……確かに」

 

「あはは、残念だったね」

 

 

という会話の一部始終が本人達は声を抑えて話しているつもりのようだったが、二人はその内容をバッチリと耳聡く捉えていた。

 

「……」

 

「……」

 

「な、何かごめんなさい」

 

「……いえ、気にしないで。私も今のでちょっと頭が冷えたわ」

 

「と、取り敢えず大佐を運びましょうか。加賀さんは大佐の左腕を」

 

「いいの?」

 

「元々一人でお運びするつもりはありませんでした……というのは実は嘘ですけどね。私もさっきの会話で落ち着きました」

 

「ふ……ありがとう」

 

「じゃあ大佐を寝かした後もお互い平等に、お互いがなっと……得をする方法を話し合いましょう」

 

「いいでしょう」

 

先程までピリピリしていた雰囲気はすっかりなりを潜め、加賀と神通は小さく笑い合うと二人で提督を支えて彼を部屋に運び始めた。

そんな中で提督が途中から意識を回復し、同時に泥酔していた時の醜態を思い出して羞恥心に悶えていた事は幸運にも二人に気付かれずに済んだのであった。

 

(……これは何処まで意識を失った振りができるかだな)

 

提督はこれから待ち受けているであろうある意味での苦行に気合を入れるのでった。




もうこの作品は消してもいいかなぁと思うこの頃。
しかしネタ(面白いかは別として)が浮かんで書けるくらいには、まだモチベがあると言えるのではと悶々とした気持ちです。
うーん……。

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