提督の憂鬱   作:sognathus

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ある日の演習の後、ついに響はレベル99になったようです。


第17話 「駆逐艦一番」

「え? 響、練度が最高になったの?」

 

「うん」

 

「おめでとう! これでしれーかんとケッコンできるわね!」

 

「ありがと。早速行ってくるよ」

 

「頑張るのよ!」

 

提督麾下の駆逐艦の中でも最古参に近い響ことヴェールヌイ(本人の希望により以下は響)はこの日念願だった最高練度に達した。

提督は特に駆逐艦を冷遇したりはしていなかったが、普段は遠征か敵潜水艦の警官任務くらいしか割り当てられる事がない駆逐艦が彼の下でこの域に達するのは容易ではなかった。

提督からしたら単に効率を優先しての事、だが駆逐艦達にとっては少々歯痒い環境と言えた。

まあそのお陰で駆逐艦たちは基地内での仕事に関しては大抵をこなせるようになり、艦隊のお留守番にして基地の顔になったわけだが。

そんな中で響がここまでこれたのは駆逐艦の中でも対潜能力に長けていたからであった。

元々対潜能力が高い者が多い軽巡に混じって敵潜水艦の警戒任務をよくこなし、半ばレギュラーといえるほど常にこの任務には率先して立候補したのである。

そんな地道な努力の積み重ねでやっと今、こうして“ここ”にたどり着いた。

同じ特対潜駆逐艦として朝霜という妹分のライバルもいたが、なんとか彼女より先にここまで来れた。

そして響は意気揚々と提督が居る執務室の扉を叩いたのだった。

 

 

コンコンッ

 

「入っていいぞ」

 

「失礼します」

 

提督の承諾を受けて馴染みのある少女が部屋に入って来た。

提督はそれを認めると手に持っていた筆を置き、彼女を迎えた。

 

「ん、響か」

 

「うん」

 

「どうした?」

 

「なんだと思う?」

 

「ん?」

 

なにやら響らからぬ返しだった。

彼女はいつも青い真っ直ぐな瞳で言いたい事はハッキリ言う事が常だった。

だがこの時に限っては少々違うようだった。

この時の彼女は何かを期待しているような、喜んでいるように僅かに頬を紅潮させ、気分が高揚しているようだった。

どうやら今は自分から要件を言うよりそれを当てて欲しいらしい。

提督はそんな響の子供らしさを内心ほほえましく思いながら、少し間を置いて考えて口を開いた。

 

「ケッコンか」

 

「正解。流石だね」

 

「何となくな。本当に」

 

「でも解ったね」

 

「ああ、何故かな」

 

「してくれる?」

 

「……」

 

意外にも提督は即答をしなかった。

響はそれを見ると途端に耳を垂れる犬のように落ち込み、それでも諦めることなく健気に提督をじっと見つめて待つ事を選んだ。

 

提督が響の問いに即答しなかったのには彼なりの理由があった。

艦娘には年齢という概念がない。

故に一見少女にしか見えない駆逐艦にもその定義は一応当たらず、例えケッコンしたとしても現代の日本の法的に違法というわけでもなかった。

だがそれでも見た目が幼女なのは歴然とした事実である。

要は提督はそこに道徳的な背徳感を感じ、即答ができなかったのである。

 

彼は過去に希望する者には全てケッコンには応じると艦娘たちの前で公言した事があった。

それは勿論駆逐艦も対象であったが、それでもまだその時は彼の中で彼女たちに対してだけは応える決意ができないでいた。

そして今、ついにそれに対して態度を示す時が来たのである。

 

「……」

 

提督は重苦しい雰囲気のまま口を開こうとしたがなかなか言葉が出ない。

内心は既に響の気持ちに応えるつもりであったが、行動に移すのが難しかった。

 

「大佐」

 

そうこうしている内に響の方から話掛けてきた。

 

「ん……」

 

「叢雲や初春とは良くて。私とはダメなの? あの二人とはケッコンしてないのに抱く事はあるのに響では、ダメなの?」

 

「む……」

 

痛いところを疲れて呻き似た声が提督の口から漏れた。

確かに彼女の言う通りだった。

響と同じ駆逐艦にして最古参の中の最古参、最初部下のその二人に対しては、提督はこれまでの付き合いもあってケッコンこそまだできていなかったが、身体を重ねる事があった。

勿論お互い同意の上で。

響はその例を出した上で時部ではいけないのかと懇願してきたのだ。

 

(これ以上渋ると不味いな)

 

元より断るつもりで渋っていたわけではなかったが、女としてここまで真摯にに好意を伝えてきた響の想いを提督はそれ以上無碍にする事はできなかった。

提督は引き出しから紙を一枚出して机の上に、正面にいる響に見える位置に置いた。

響はそれを見て目を輝かして走り寄る距離でもなかったのに本当に嬉しそうに小走りで近付き、その紙に見入った。

 

「ケッコン最初の駆逐艦はお前だな」

 

「叢雲や初春には今まで負けてたけど、これで勝ったね。ありがとう大佐!」

 

そう言うと響は紙を握りしめて机を乗り越え、勢いのまま提督に抱きついた。

その目尻には涙の雫が浮かび、彼女の喜びの大きさを表していた。




文字数少ないですが、かと言ってこれ以上書く内容も浮かばず、これで丁度良いのではないかという事で投稿と相成りました。
決して手抜きというわけではありません、多分。

かなり時間を置いて投降したというのにそれでも感想があると嬉しいですね。
現金ですが、それでも勢いで書けたのはただ感謝です。

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