提督の憂鬱   作:sognathus

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その日は大きなハリケーンが提督の基地がある地域を直撃した日だった。
嵐の影響で出撃や遠征と言った任務はこなせず、その日に限っては基地は警戒に必要な人員だけを割いて残りは各自室で待機の任務に就いていた。

*性的描写はありませんが、それでもとても人を選ぶ内容です。


第10話 「トイレ」R-15

夜、基地は窓を叩く暴雨と雷の音以外何の音もなく静まり返っていた。

時間自体はまだそれほど遅い時刻とは言えなかったが、天候の所為か敢えて部屋から出る者も殆どなく、皆は自室で思い思いの時を過ごしている様だった。

 

出撃任務が出来ない事もあってその日は執務に集中でき、いつもより早く仕事を終える事ができた提督は、基地の外を警戒している艦娘の事を気に掛けて、自らは内部の見回りをしていた。

そんな時に彼の向かい側から歩いてい来る者がいた。

 

「大佐、こんばんは」

 

「明石か、どうした?」

 

「ええ、ちょっと」

 

明石は提督の問いには性格に応えず少し言いよどむ態度を見せた。

提督はそれを見てなんとなく彼女の用を察した。

女性が直接言うには躊躇してしまう、奥ゆかしい日本らしさから導かれる答はそう多くは無かった。

つまりはそういう事だろう。

 

「そうか、じゃあな」

 

「あ、はい」

 

何の問題もなければその時お互いは軽い挨拶を交わしてすれ違うだけで事なきを終えるはずだった。

だがその時……。

 

ピシャッ、ゴロロ……!

 

ブツッ

 

「ひっ」

 

眩しさで思はず目を瞑ってしまうほどの雷が鳴ったかと思うと、同時に基地の照明が全て消えた。

明石はもわず小さな悲鳴をあげた。

 

「停電か。今日は荒れてるからな」

 

「て、停電ですか」

 

「ああ、だが大丈夫だ。ここは一応軍事施設だからな。電気の動力源は他にもある。少し待てば復旧するはずだ」

 

「あ、そうでしたね。うん、大丈夫な筈、うん……」

 

薄暗闇の中何か心細そうにしていた明石だったが、提督は特には気にしなかった。

突然暗闇に襲われれば誰でも多少は動揺するものだろう。

ならここは敢えてその事に気付かないふりをするというのも気遣いというものだと考えたのだ。

だが何故か直ぐに復旧するはずの電気は二人が暫くその場に佇んでいても復旧する様子がなかった。

 

「ん? ここだけ電気がきていないみたいだな」

 

「えっ」

 

明石がショックを受けたような小さな声を出すなか、提督が窓から他の建物を見てみると、今自分達が居る場所以外の個所は明かりが点いているのが確認できた。

 

「送電線に何か異常があったのかもしれん。少し様子を見てく――」

 

「あ、あの!」

 

「ん? ああ、そうか。こういうのはお前に行ってもらった方が良さそうだからな」

 

「え?!」

 

「悪いが、頼む」

 

提督がそう言って明石の肩を叩きその場を去ろうとすると、予想外にも逆にその肩を明石に掴まれて歩みを止められた。

その力は思いの外強く、提督は危うく彼女の力に逆らった影響で転びそうになった。

 

「明石?」

 

「……」

 

提督が後ろを振り向くとそこには薄暗闇の所為でよくは判らなかったが、肩を震わせていつもより心なしか小さく見える明石の姿があった。

明石は何かを恥じらうように目を逸らしているような素振りを見せながら、提督に小さく言った。

 

「あ、あの、笑わないで下さいね?」

 

「? ああ」

 

「私、暗いのが、私、苦手で……」

 

「なに? そうなのか?」

 

「は、はい。だ、だから……一人でトイレまで行くのが怖くて……」

 

「……」

 

意外であった。

誰しもがそうというわけではなかろうが、工務に強く、それ以外でも結構頼りになる事が多い明石に対して、提督はその関係から明石に頼もしい印象を持っていたのだ。

故に彼女に意外にもこんな苦手があるとは小さな驚きだった。

 

「夜戦とかするだろう? 暗闇にもある程度慣れてるんじゃないのか?」

 

「い、今は艦装何も持ってないので……」

 

「なるほど、戦闘とは根本的に比べられないか。元々暗闇が苦手だったんだな」

 

「は、はい……情けない話ですが。あと、それとかみな――」

 

ピカッゴロゴロゴロ!

 

「ひあうっ!」

 

「……雷も苦手か」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「謝る事はない。しかしトイレか……誰か起きてるの奴をよん……」

 

「いや! 一人にしないで!」

 

今度は肩ではなく服の裾を掴まれた。

先程より幼さを感じる仕草から明石の余裕の無さがよく分った。

 

「む……」

 

「あ……ご、ごめんなさいっ」

 

「分った、行こう」

 

「ほ、本当にすいません……」

 

「いや、俺もここまでとは苦手だとは思わなかった。気にするな」

 

「は、はい。ありがとうございます……」

 

「手ではだめか?」

 

「え?」

 

明石は提督の言葉を一瞬理解できてい無い様だった。

提督はキョトンとする明石が掴んでいる自分の服を指しながら空いている方の手を彼女に差し出した。

 

「このままだと少し歩き難いしな、それに手を握った方が安心すると思うが?」

 

「あっ、そ、それでいいです! お願いします!」

 

「よし、行こう」

 

 

程なくして二人はトイレの前に着いた。

ここでは運が良いのか悪いのか、人がいる気配はなく、その所為か暗所で見るトイレは思いの外その手の雰囲気があるように見えた。

これには提督も少し寒気を覚え、明石に至ってはもう言葉すら出無い様だった。

 

「……」(見事に真っ暗だな。状況が状況なだけにこう言ってはなんだが雰囲気も割とあるな)

 

「あ……あ……」

 

「一人では行けないな?」

 

明石の恐怖に震える様を見て提督は気を利かせて訊いた。

明石はそれに対して即答。

無言ながら必死の形相で何度もコクコクと頷いた。

 

「……!」

 

「仕方ない。見えないようにするからドアの隙間から俺の服を掴んでろ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「それじゃあ行くぞ。一番奥だ」

 

「お、奥ですか?! もう暗くて何も見えませんよ?!」

 

明石の言う通り、提督が行こうとしている行き先は暗闇に閉ざされており、窓もない事もあってかなり不気味な雰囲気だった。

 

「手前のだと和式なんだ。この基地は古い施設を一部改装したものだから、トイレとかまだ一部、新しくできてない所あってな」

 

「でもだからってなにもわざわざ一番奥になんて……」

 

「一番奥にはお前が独自に設備したバッテリーで駆動するウォシュレットがあっただろう?」

 

「あっ」

 

「まだ停電して時間が間もないから、今なら使えると思うが」

 

提督の言葉で明石は何かを思い出したらしく小さな声を漏らす。

基地のトイレはごく一部を除き、殆ど様式で、ウォシュレットタイプになっているのだが、その唯一つだけ、明石自身の趣味も兼ねてバッテリーでも駆動する様に改造したものがあるのだ。

勿論防水加工もバッチリ、それに暗所でも便座の位置と周囲が判る様に小型の点灯パネルまで設けてある。

自動感知式なので無駄に電気を使う事は無いが、それでも機能維持の為に電気は常に消費されている。

早く利用した方が良いと示唆する提督の判断は間違いではなかった。

 

「怖いだろうが、あそこまで辿り着ければ何とかなるだろう。お前だって男が近くにいる状態で和式を使うのは流石に嫌だろう?」

 

提督の言う事はもっともである。

だがしかし……。

 

「……」

 

明石は再び奥が全く見えない暗闇を見た。

 

「……!」

 

やはりダメだった。

いくらウォシュレットがバッテリーで動くと言っても、それを使う為にああそこまで行くとなると、かなりの勇気の必要を迫られた。

距離にして僅か10メートル足らずだったのだが、それでも彼女には奥に続く暗闇が暗黒の世界と同じに見えたのだ。

故に彼女は決断した。

羞恥で真っ赤な顔をしながらも信頼している提督だからこそ頼めるのだと自分を納得させて。

 

「わ、和式……で、いいです」

 

蚊の鳴くようなか細い声で明石はぽつりと言った。

声は小さかったが、薄闇に包まれた静かな場所にいた事もあってその言葉ははっきりと提督に聞こえた。

流石に提督は困った顔をしていた。

 

「だが、それだと服は持てないぞ」

 

「え、ええ、だから……し、シてもらえ……ますか?」

 

「……おい、まさか」

 

「お願いします……もう結構我慢してて……」

 

「いや、それは流石にな……」

 

「大佐だからお願いして……るんです。ほん……と、おね……がい……」

 

羞恥に震えながら懇願する明石の様子は確かに真に迫ったものが感じられた。

内股になり、耐える様に太ももを擦り合わせている様から察するに、今見せている震えは羞恥以外のもあるだろう。

提督は観念した。

これ以上彼女に負担を掛けて最悪の事態を避けるのを優先する為に。

 

「……分った。後悔するなとは言わない。だが耐えてくれよ?」

 

「は……はいっ」

 

提督の承諾に明石は窮地を救われたような顔を見せた。

提督もその顔を見て彼女が本当に限界が近かった事を悟った。

 

「脱いでいる間は後ろを向いている。脱ぎ終わったら合図を」

 

「はい……」

 

ゴソゴソ、パサ……

 

静かな薄闇の中で、ドアこそ半開きだが空間が狭い事もあって明石がその準備をしている音が明確に響いた。

 

「お願いします……」

 

「わかった」

 

明石の合図を受けて提督は振り向くと、後ろから明石の膝の裏に手を射し込んで持ち上げた。

親が子にアレを促す格好であった。

 

「悪いが音が聞こえるのだけは我慢してくれ。あと、位置はこれでいいか?」

 

「はい、分かってます……。あ、もうちょっと低く、そう……それで少し前へ……。あ、それでいいです」

 

「大丈夫か? よし……」

 

「……くっ……」

 

提督の合図で明石は我慢していたものを解放した。




中途半端に終わった感じは、R18版で描写の追加と続きを加える事で補完するつもりです。

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